それは、ウォーゲーム参加前のテストでの事。異空間にてポーンをあっさり倒したアルヴィスの前に―――
―――それが現れた。
「ファン、トム・・・・・・」
「やあ、アルヴィスくん」
運命 vs 宿命
¤ | * |
「なんで、お前がここに・・・・・・」
問うアルヴィスの声が震えた。6年前―――忌まわしき記憶と変わらぬファントムの姿。当たり前だ。生ける屍たるこの男に、変化など求めるだけ無駄な事。
胸に刻まれた刻印・ゾンビタトゥーが痛む。共鳴でもしているのか? 同じ呪い[もの]を持つ『仲間』と。自分にそれを刻んだ『主』と。
「久しぶりだねアルヴィスくん。
どうしたんだい? そんなに硬くなって」
わかっていないワケでもあるまいに。
悠々と歩み寄るファントムを睨みつけ、アルヴィスは己の唇を噛み切った。流れる血の苦さと錆臭さ。『生きている』何よりもの証拠。
迷いは消えた。恐れも消えた。自分と彼は違う存在だ。決して同じにはならない。
腰に下げているアームを掴み、
不敵に微笑む。
「別に、大した事じゃないさ。やっとお前に逢えた。喜んだだけだ」
「暫く逢わない間に、随分強くなったね。力も―――心も」
ファントムの目が僅かに細まった。笑っている。自分のような、多分にヤケクソを含んだそれではなく、本当の笑み―――本当に喜んで。
「でも―――」
「13トーテムポール!!」
「―――僕に歯向かうには、まだ少し早すぎるかな?」
ざっ―――!!
「なっ―――!?」
囁きと同時、空間が歪んだ。感覚で感じる、他の空間への移動。そして―――
「くっ・・・!!」
取り囲む闇が、アルヴィスの手足を拘束した。武器も同じく。
見た目は先ほどまでと変わりないが、これは・・・
「賢くなった君ならわかるかな? 少し場所を移動させてもらったよ。僕が造った世界へ」
ファントムが、穏やかな笑みで言った。この『世界』の創造主が。
「何の、つもりだ・・・?」
無力な存在に成り下がり、そう問うアルヴィスの声には再び恐怖が滲み出始めていた。こめかみを汗が伝う。
「さあ、何のつもりだろう。君は何だと思う?」
愉しそうに笑う。吐き気がこみ上げて来た。
向こうが少し望むだけでこちらは死ぬ。求めているのはきっと――――――服従。
(呪いで縛って・・・・・・まだ足りないというのか・・・!!)
ふざけるな。抗ってやる。絶対に負けるものか。あの時、アランやガイラに助けられた時誓ったのだ。自分は絶対屈しはしないと。呪いにより滅ぶのが定めだというのならば、自分は絶対こんな運命変えてみせる、と。
叫べるなら、叫びたかった。叫べなかったのは、別のものに疎外されたから。
びっ―――と、襟を掴まれ引っ張られた。動けない体の代わりに服が裂ける。見たくなかったものが現れた。
「―――!」
「へえ・・・・・・」
胸元に刻まれたゾンビタトゥー。服で隠し誤魔化してはいたものの、もう随分と広がってしまった。
が、
「まだ、これだけなんだね。本当に君は強くなったみたいだ」
ファントムが感心したのは逆の意味でだった。あの子どもが、まさか自分にここまで立ち向かう力を身につけたとは想像もしなかったらしい。
タトゥーを撫で賞賛を示すファントムに、アルヴィスはそれこそヤケクソで笑ってみせた。
「生憎と、大人しく従うには俺はまだガキでね」
「ふふ・・・。ガキだから逆らってはいけない相手の区別がつかない? 君は6年前と何も変わらないね。だから気に入ったんだよ」
「・・・・・・?」
何が言いたいのか何がやりたいのか、今度こそ意図が取れなかった。今だタトゥーを撫で続けるファントムを怪訝な顔で見下ろす。と、
それこそ何を思ったか、ファントムはタトゥーに顔を寄せるとぺろりと舐めた。刻まれたアルヴィスの肌ごと。
「ヒッ―――!」
声は、反応は押さえられなかった。眉を寄せ瞳を閉じ歯を食いしばり。体中に力を込め顔を背けるアルヴィスの耳に、ファントムの笑い声が聞こえてきた。
きっ、と睨みつける。ファントムは無視してひとしきり笑った後、
「けど僕も復活したからね。そろそろ君には僕の仲間になってもらおうか」
―――タトゥーに置いた手から、魔力を流し込んだ。
タトゥーが活性化される。刻まれて6年間、押さえ込む事に全てを費やしたアルヴィスでも止められないほどに。
「う、あ、ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アルヴィスの悲鳴が、閉ざされた空間に木霊する。
体中のタトゥーが、まるで喜びを示すかの如く熱く踊り狂う。自分はただ操り人形と成り下がり振るえるしかなくて。これで意識を失ったら、本当の操り人形となるのかもしれない。生きた屍。肉体が死なないのなら、代わりに死ぬのは心なのだろう。
涙の滲む目で見下ろす。目の前にいるのが、そうなってしまった哀れな男。
「――――――何だい?」
視線に気付いたのだろう。あるいは表情にか。ファントムが力を止め見上げてきた。きょとんとした、本当の子どものような様。そういえばで思う。彼はなぜ己に呪いをかけたのだろう・・・と。
そして思い出す。『本当の子ども』―――ギンタを。
ふっ・・・と、アルヴィスは笑った。恐怖も消えてしまった。あの底抜けに馬鹿くさい笑顔を思い出すだけで。
(まったく・・・、何なんだろうなアイツは・・・・・・)
いきなり異世界に飛ばされ争いに巻き込まれ。ちょっとは焦ったり怯えたりすればいいのに、なのにはしゃいで喜んでばかり。
戦争なんて経験した事もないクセに。関係ない世界での事なんだから逃げればいいだろうに。なのに正義感など振りかざし、こんなゲームにまで自ら首を突っ込む。
ずっと彼についていっているが、今だにその答えはわからない。ただ、これだけは言える。
――――――彼は、強い。
実際の強さじゃない。戦闘能力じゃまだまだだ。
だが強い。ファントムの言い方を借りれば、『心』が。決して何者にも縛られず、何者にも囚われず。自分のするべき事、したい事。見極め突き進む強さを持っている。・・・なんか強すぎてヘンな方向に暴走していきそうだが。
思った以上に、自分はギンタを頼りにしている。彼がいれば、きっと大丈夫だ。チェスの撒き散らす絶望を打ち払う強さ―――希望を持っている。与えてくれる。
そしてそれは、自分だけでなくきっと・・・・・・・・・・・・
アルヴィスを包む魔力の形が変わった。ファントムも察したのだろう。一転して、鋭い目を向けてくる。
「何だい? 今更、まだ何か仕掛けるつもりかな?」
「ああ」
力強く微笑み、アルヴィスは持っていたアームに全ての魔力を込めた。アーム発動。同時に今までせき止めていたタトゥーの侵攻が始まる。だがそれももう構わない。
ファントムをまっすぐ見つめ、
「メルは―――ギンタは必ず勝つ。必ずお前達チェスの駒を滅ぼす。そのためにも―――
―――俺はこの場でお前を倒す!!」
「ははははは! 面白い! なら来てごらんよ! 倒してごらんよこの僕を!!」
「言われなくても!」
アルヴィスを拘束する闇が解けた。2人の魔力が、アームが、正面からぶつかり合い――――――
がくりと崩れ落ちたアルヴィスを支えながら、ファントムもまた荒く息をついた。
「本当に、随分力を上げたね・・・アルヴィスくん・・・・・・」
まだ自分には敵わないと思っていたが、意外ともう互角だったのかもしれない。彼につけたゾンビタトゥーが適度な負荷となり、良かれ悪かれ彼の魔力を飛躍的に上げていた。タトゥーの活性化で最初に消耗させていなければ、こちらと相討ちになっていたかもしれない。
ちらっと見下ろす。魔力を使い尽くし眠りに就く、アルヴィスのあどけない寝顔を。
見下ろし、
ファントムは、ふっ・・・と笑った。先ほど、アルヴィスがギンタを思い浮かべたのと同じ笑みを。希望を乗せた、優しい笑みを。
そっと手をタトゥーに置く。少しだけ光り、拡大していたタトゥーは今までと同じ大きさに収束した。
「頑張った君へのご褒美だ。本当にメルが―――ギンタが勝つと思うなら、彼らと来てごらんここまで。僕の元まで。
それまでに君に『死』なれちゃつまらない。君は僕専用の重要な駒なんだから。倒しておくれよ、僕の事を」
* ¤ ¤ *
「よっし戻った〜!」
「楽勝〜♪」
試験クリアで元の会場に戻ってきたギンタ・ジャック・ドロシー・スノウ・ナナシ。手を叩き喜び合う中、ギンタがふと首を傾げた。
「・・・アルヴィスは?」
「え?」
「ああ、アイツ・・・・・・?」
ほとんどの者にとってアルヴィスは今さっき会ったばかりの他人。ジャックはギンタと共に以前一度会ったが・・・その時の印象は最悪の一言に尽きる。そりゃ会っていきなり人を鳥に変えたりするようなヤツを良く思えという方に無理があるが。
「そういや、他にもクロスガードの人がみんな帰ってこないわね」
「負けたんとちゃう?」
ナナシの、極めて的確な指摘。テストをし帰ってこないとなれば普通はそうなるだろう。彼の実力を知らなければ尚更そう思うところだ。が、
「アルヴィスがポーン程度に負けるワケねーよ!! アイツは強ええんだよ!!」
ギンタは反射的に怒鳴りつけていた。
彼と戦ったのは1度きり。一応自分が勝った事になったが、戦いのイも知らなかったあの頃ならともかく今ならわかる。彼は強い。本気で対戦したとしたら、今でもまだ勝つどころかまともに勝負する事すら出来ないだろう。
そんな彼が、自分が楽勝で倒したポーンに負けるとはとても思えなかった。
と、
フッ―――
誰かが傍に現れた。
きょとんと振り向く。そこにいたのは・・・
「アルヴィス!!」
ギンタの顔から血が引いた。ズタボロの恰好で倒れているアルヴィスを見て。
慌ててそちらに駆け寄り、
「アルヴィス! おいアルヴィス大丈夫か!?
みんな手伝ってくれよ! どっか運んで寝かせて!! でもって悪りい! スノウ回復!!
アルヴィス目ぇ覚ませよ!!」
抱え上げようとし――――――ようやくギンタも気付いた。誰も寄ってこない。
「おいみんな! 何やってんだよ!! 確かにコイツは今さっき会ったばっかのヤツだけど、もう俺たち仲間じゃ―――!!」
振り向き促そうとして、その台詞もまた止まる。全員の様子がおかしかった。
「みんな・・・・・・?」
全員、こちらを見ている。驚きと恐怖の表情で。
何を見ている? 何が怖い? 自分か? アルヴィスか? それとも・・・・・・
はたと気がついた。アルヴィスは倒れている。意識はない。ならなぜ立っている自分と同じ高さにいる?
もう一度彼を見てみる。彼・・・を抱き上げる手を。自分のではない。ではこの持ち主は・・・・・・
焦点を変えてみる。アルヴィスを抱き上げていた人へと。何だか仮面をつけてはいるが、何となく誰だかわかった。
「あ、お前こないだの幽霊船の・・・・・・」
ぼんやり呟くギンタの声は、
後ろからかけられた誰かの声に掻き消された。
「ファン・・・トム・・・・・・・・・・・・」
「え・・・・・・?」
意味がわからずぱちくりと瞬きをする。
(ファントム、って確か・・・・・・)
心の中の疑問に答えてくれたつもりはないだろうが、怯えた呟きはまだまだ続いた。
「なんで・・・チェスの司令塔が・・・・・・?」
「こんなトコに・・・? まさか・・・・・・」
「テストからもう、加わってたのか・・・・・・?」
「徹底的に叩くため・・・・・・?」
恐怖が伝染する。逃げようと背中を向ける一同の中、
大体の事態を理解したギンタの行動は、コレ1つに尽きた。
「アルヴィス返せえ!!!」
大声で吠え、今だ抱き上げられたままだったアルヴィスを無理やりぶん取る。尤も、別に返さないつもりはなかったらしい。あっさり奪わせてくれた。
アルヴィスを抱き締めたまま(というかのしかかられて動けないまま)ファントムを燃える目で睨みつけ、
「お前コイツに何やった!? 何でボロボロなんだよコイツ!!」
「ちょ、ちょっとギンタ!!」
「そりゃ敵なんだから戦うのが当たり前で!!」
スノウとジャックが両側から止めに入る。打倒チェスの兵隊を掲げる彼らにとって確かにファントムは一番の敵ともいえるが、分相応というものがある。自分たちではまだ彼には勝てない。
わかっているからこそ止めに入る周り。わかっていてもなおギンタは止まらなかった。
ギンタの中で、強いとか弱いとか勝てるとか勝てないとかは些細な事に過ぎなくて、ただ大事なのは友達が傷つけられた事。だから自分は絶対コイツを許さない。
睨み付けられ、ファントムは特に怒るでも、ましてやいきなり攻撃を仕掛けてくる事もなく、ふいと顔を背けた。審判の方を向き、
「彼はテストをパスした。今はこんな状態だけれど、ウォーゲームの参加資格は充分ある」
「は、はいわかりました」
「へ・・・・・・?」
ますます混乱した。ファントムは自ら(だろう)アルヴィスにこれだけの事をして、なのにウォーゲームには参加していいという。てっきり実力者潰しをしたのだと思ったのに。
目を見開くギンタに、ファントムが視線を戻した。
「君に会うのは2度目だね、ギンタ。目覚めてからずっと見てたけど、君は凄い勢いで強くなってる」
「あ・・・そう、か? そりゃ、サンキューな・・・」
対応の仕方としてもの凄く間違っているような気もするが、いきなり敵の大将に世間話されて適切に返せる人も少ないだろう。なまじ普通に知り合った上での再会のため、ここで仕掛けるとこちらが悪者のようにも思える。
―――そんな風に考えるギンタが、『アルヴィスの敵討ち(注:アルヴィスまだ死んでません)』という名目が立派に存在していた事を思いつく前に、ファントムは話題を進めた。
「態度に表してないだろうけど、アルヴィスくんも君の事は実に信頼してるらしいよ。君が必ず僕たちチェスの駒を滅ぼすと信じている」
「ったりめーだろ!? 俺たちは絶対お前らを倒す!!」
「随分と、意気がいいんだね。
けど知ってるかな? 君の前にこの世界に来た人―――ダンナって人は、失敗したんだよ? 僕を倒すのを」
『―――っ!!』
そこここで、無音の悲鳴が上がる。6年前の、第一次メルヘヴン大戦。ダンナとファントムが相討ちとなり、戦争は終結を迎えた。
周りはクロスガードが勝ったと歓喜に沸いたが、
―――これによりダンナは死亡し、ファントムは封印された。倒されてはいない。
誰しもがギンタに求めるのは、6年前のダンナと同じになる事。だがそれでは足りないのだ。今ここにファントムがいる事が、それを証明している。
「6年前の戦争でね、僕らに歯向かった人には呪いをかけた。ダンナの右腕だったアランには・・・犬と一緒になってもらったっけ」
「ぐ・・・」
アランと一緒になった犬―――エドが呻く。
「そしてアルヴィスくんには―――」
ファントムはゆっくりとギンタに近付き、ゆっくりとその腕からアルヴィスを取り上げた。あまりに静か過ぎる動作に、ギンタも反応のし様がなかった。
片腕に抱えたアルヴィスの、胸元を示す。誰もが初めて見る、奇妙なタトゥーを。
「それ・・・・・・」
「ゾンビタトゥー。僕についているのと同じものさ。タトゥーが全身に回った時、呪いにより彼もまた生ける屍となる。
自分の魔力で押さえ込んではいるみたいだけど、随分広がったね。後1年? 半年? 過酷な戦いが続けば続くほど、彼のタイムリミットはどんどん減っていくよ。
ふふ・・・。楽しみだなあ・・・。仲間が増えるのは・・・・・・。
ねえアルヴィスくん・・・。君はいつ、僕の元へ来てくれるのかな?」
耳元に、呼びかけるよう囁く。アルヴィスはまだ目覚めない。
改めてギンタを見下ろし、
「だから、彼は自分を犠牲にして僕を倒そうとした。ダンナには出来なかったから。ギンタの負担を減らすため」
「アルヴィス・・・・・・」
彼がボロボロな理由を理解した。そして・・・だが・・・、ファントムはまだ生きている。多少こちらもボロボロになってはいるが、生霊[ファントム]たるこの男はアルヴィスでもまた殺せなかった。
ギンタの目に、哀しみと絶望が浮かぶ。ファントムは、それもまたじっと見つめ・・・
「けど失敗した。彼はもう、僕の仲間になるのを待つしかないんだよ・・・・・・」
「コイツはそんなヤツじゃねえ!!」
再び吠え、アルヴィスを奪い返す。涙の浮かぶ目で、それでも炎はその奥に灯したまま、
「お前がコイツをどれだけ知ってるかなんて知らんねーけど! コイツはンな弱ええヤツじゃねえ!!
コイツは!! 確かに態度は何かムカつくしクール過ぎて盛り上がんねーヤツだけど!! けどこの世界に来たばっかでまだ何の力もなかった俺を!! それでも助けて信じてくれたんだぞ!? お前知んねーだろ!? 『信じる』っつーのがどれだけ大変で! でもってどれだけ強ええか!!
コイツは俺を信じて一緒に戦うって誓ったんだ!! 俺たちはもうメルっつーグループなんだ!! 仲間なんだ!! そのコイツが!! 俺たち裏切ってお前なんかと一緒になるワケねーだろ!? 俺たち見捨てて先死んだりするワケねーだろ!?
呪いが何だ!! 仲間侮辱すんじゃねえ!! 次俺の仲間馬鹿にしやがったらお前ぶっ飛ばすからな!!!!!」
「ギン、タ・・・・・・」
豪快な啖呵に、周り―――メルのメンバーが各々呟いた。初めて考える、“メル”という一団の意味。自分たちはチェスの兵隊を倒すために集まったグループで、その目的としてはクロスガードと同じとも言える。それでも自分たちはメルなんだ。たった7人(前後)の極小チーム。それでも属したみんなは仲間で、かけがえのない友達だ。
ファントムは確かに怖い。その強さは、6年前存分に味わった。だがだからといって、それを前に仲間を見捨てるのか? 犠牲にするのか? 敵が倒せればそれでいいのか?
――――――違うだろう? この国を、みんなを、仲間を、護りたいんだろう?
アルヴィスだって同じだから動いたんだろう?
「ウォーゲームのルールとち〜っとばっかしずれおるけど」
「ついでに私はそもそも参加権がありませんが」
「私たちは仲間だもんね!」
「そ、そーっスよ! 仲間なら一緒に戦うモンっスよ!!」
「ま、それならアタシも参加してあげるわ」
「うむ。それが紳士というものじゃ」
「みんな・・・・・・」
傷ついたアルヴィスと、彼を抱え動けないギンタを護るように、ナナシ・エド・スノウ・ジャック・ドロシーそしてバッポが間に立ち塞がった。
ファントムを睨みつけ、
「来るなら来いやファントム」
「ギンタたちには、指一本触れさせないっスよ!!」
「スノウちゃん! そのいけ好かないヤツの治療よろしくね!」
「え・・・? でもそれならドロシーさんの方が魔力も強いし・・・」
「アタシがいなかったら誰がコイツらのサポートすんの? そこの老けてる犬も邪魔よ。お姫様のお守りしてあげてなさい」
「ふ、老けてる・・・!?」
「お守り・・・!?」
「・・・いけ好かない・・・・・・・・・・・・?」
なにやらショックを受けてるエドとスノウ。さりげにギンタの雄叫びに耳をやられて意識を取り戻したアルヴィスもまた、動かない体でしっかり突っ込みだけは入れた。
全てを綺麗にスルーして、
「でもってギンタ!」
「俺か!?」
「アンタよリーダー!! 作戦は!?」
「り、リーダー? 俺が? 何かカッコいいけどいいのか!?」
「アンタ以外の誰がやるのよメル発案者! で!? 策は!?」
「ない!」
『はあ!?』
「よくよく考えたら俺コイツの事な〜んも知んねーし。策なんて立て様ねーじゃん」
「あ、あんさんなあ・・・」
「すげーっスギンタ・・・。それでよくあれだけの啖呵切れたっスね・・・・・・」
「まあ、とりあえず様子見て、行けそうだったら行くって感じで」
「ア・ン・タ・ねえええ・・・!!」
とことん戦い舐めきったギンタのお気楽発言。戦いそっちのけでファントムにくるりと背を向けたドロシーは、ギンタの襟を掴みがくがく振り回した。
「それで一体どーしろってのよ!? 敵の手の内わかんないのは仕方ないとしても、もーちょっと何か考えなさいよ! 仲間が先死ぬのは嫌なんでしょ!? そのアンタがまず殺してどーすんのよ!!」
「お・・・落ち着けってドロシー!! 俺はまずお前のキンキン声で死にそう・・・・・・!!」
「悪かったわねうるさくって!!」
わざわざ耳を掴み寄せ一字一字怒鳴りつけ、ドロシーはギンタをはたき倒した。
「ったく・・・!!」
「怖いっスドロシー姉さん・・・」
「女は怒らせたらあかんなあ・・・・・・」
言い分は合ってはいるものの、どちらかというと彼女のパフォーマンスに誰もが引いていった。
早くもヒットポイントの残り少なげな(気分的に)ギンタ。なんとかよろよろと立ち上がり、
親指を立て、ウインクなどしてみせた。
「だ〜いじょうぶだって! 俺たちは勝つ! 勝つっつったら勝つんだ! みんなで生きて勝って、でもって平和な世界で笑うんだ!!」
「まためちゃくちゃな・・・・・・」
「言いたい事はわかったっスけど・・・・・・」
「コレ・・・、『策』って言えるの・・・・・・?」
「主として恥ずかしい限りじゃ・・・」
「大丈夫なん・・・? コレがリーダーで・・・・・・」
「すみません・・・。私、ウォーゲームに参加出来なくてよかったな〜・・・とか思ってしまいました・・・・・・」
最早ため息をつくしかない。ギンタをこの世界に召喚したのは今倒れているアルヴィスだという事だそうだが・・・
・・・・・・全員思うことは同じだった。わざわざ召喚したのがコレだった。さぞかしアルヴィスはショックを受けただろう・・・と。
だが―――
―――『お前知んねーだろ!? 「信じる」っつーのがどれだけ大変で! でもってどれだけ強ええか!!』
チェスが撒き散らすのが絶望ならば、ギンタが広げるのは希望だろう。アルヴィスもそれを感じ取ったから、彼を信じたのだろう。
今この戦いで重要なのは何だ? 魔力を上げる事か? 強力なアームを手に入れる事か? 違う。希望を捨てない事だ。
絶望に全てが飲み込まれた時、戦争は本当の終結を迎え、世界はチェスのものとなる。絶望の中では、どんなに魔力が強かろうが強力なアームがあろうが関係ない。立ち向かう勇気も持てないまま、ただ流されるしかなくなる。
絶望を打ち払う希望の灯。にっと笑うギンタに、他の者も指を立て笑った。
「んじゃメル行くぞ!!」
『おー!!』
全員で掛け声を上げ、ファントムに向き直る。なぜか彼は、攻撃するでもなくのんびりとこちらを見ていた。それこそ、洞窟でギンタが遭遇した時のように。不思議な目で、面白そうに。
そして―――
「これが・・・、“メル”だ・・・・・・」
「アルヴィス!!」
横たえられながら、アルヴィスが口を開いた。ファントムをまっすぐ見つめ、胸を張り、笑みを湛え。
6年前には決して見られなかった表情。恐怖と怒りばかりだったあの頃には。
彼を変えたのは何なのだろう。彼に誇りを与えたのは誰なのだろう。
アルヴィスを、ギンタを、まっすぐに見つめ、
ファントムは、両手を軽く上げた。こちらもまた、静かな笑みを浮かべ。
「今日は止めておくよ。これは確かにウォーゲームのルール違反だからね。僕が今君たち全員を倒しても仕方ない。
少し予定がずれるけど、勝負は明日からにしようか。今のままだと、アルヴィスくんと、治療してる彼女が出場出来なくなる。それじゃ君たちに不公平だろ? ちゃんと公平にしないとね、ゲームなんだから。
じゃあ、健闘を祈るよ。ぜひ頑張って、楽しませてくれ」
踵を返すファントム。本当に今日は退散するらしい。それを追える者は誰も―――いや。
「待てよ!!」
『ギンタ!?』
2・3歩歩いていたファントムに、ギンタが駆け寄った。腕を掴み、振り向かせ。
「何かな?」
「お前、何でアルヴィス返してくれた?」
「つまり?」
「それだけ動けるんなら、動けねえアイツにとどめ刺せただろ? 実際戦ったっつーんなら、アイツの実力見くびってるワケでもねえだろうし。
呪いがかかってるってんなら、尚更俺らのトコは返さねえモンだろ? こっちには魔女だっていんだぞ? 解き方考えちまうかもしんねーんだぞ? お前なら、効くまでの間アイツどっかに閉じ込めるとか出来んだろ?」
じっと、真剣な面持ちで見上げてくるギンタ。ファントムもまた、仮面越しにじっと見下ろし、
「呪いに苦しみ怯える彼が見たい。
―――それだけじゃ、理由にならないかな?」
正真正銘ゲスの台詞。周りに怒りが膨らむ中、ギンタはさらにじっと見て。
「それだけか? 本当に」
「他に何が必要だい?」
再度沈黙が下りる。じ〜っとしつこく見続け、ギンタはふと視線を下ろした。掴んだ腕の先にある、アルヴィスと同じタトゥーを見つめ、
ぱっと手を放した。
「んじゃいーや。
ありがとな、アルヴィス返してくれて」
にっと笑う。いつもと同じ、絶望を打ち砕き希望を植え付ける力強い笑みを、ギンタはファントムに向けた。
「え・・・?」
呆気に取られる一同。ファントムもまた、きょとんとして、
ふっ・・・と、笑った。先ほどアルヴィスに見せた笑み。
「礼をくれるなら、ウォーゲームはぜひとも勝ち進んでくれ。楽しみにしてるよ、君たちと戦えるのを」
「おう! 任せとけ!!」
ギンタの頷きを背に、今度こそファントムは立ち去っていった。
* ¤ ¤ *
いつもの席についたファントム。手に描かれたタトゥーを、そっと逆の手で撫でた。
心の中で、呟く。
(楽しみにしてるよ、ギンタ、アルヴィスくん。
ダンナにも出来なかった事を君たちがやる日を。チェスを滅ぼし、呪いを解いてくれるその日を・・・・・・)
―――Fin
* | ¤ |
* ¤ ¤ *
―――どうでもいい叫び。名前が打ち込みにくい!! 日々日本語ばっか打ち続けてるおかげで、めったに使われない『ウォ』とか『ヴィ』とか『ファ』とかすっげーやりにくッ!! なんか開始12行程度でぶち切れたので雄叫び上げてみました。
さて初☆MAR−メルへヴン−! 長いので以下メルヘヴンとだけ記しますが、烈火の炎は好きでしたので、同じ作者の話だ〜v とアニメを観てみて・・・・・・1回目でアルヴィスFanになってました。ギンタとの対戦でギンタ×アルはいいなあ・・・とか思ってたらわ〜い17話〜!! ファントムが〜!! アルヴィスアルヴィスすっげー気にかけられノックアウトされたさ! アンタは子の成長を喜ぶ親馬鹿ですか!? しかもさりげにギンタに取られてムカついてますか!?
そんなワケで、ファントム→アルヴィス→ギンタがいいなと思いました! アルヴィスにとってファントムが闇、ギンタが光といった感じで! 闇に取り込まれつつ光を求め手を伸ばしているような彼が好きです! ファントム片想いか!? 結局堕ちたらそれはそれでいいような気もしますが。ちなみに今回の話、読まれてわかるようか〜な〜り捏造です。原作読んでないモンで、この話書くに当たって公式サイトとか調べるまで、そもそもファントムがチェスのトップじゃなかった事すらまず知りませんでした(アニメでしっかり言ってましたね『No.1ナイト ファントム』と・・・。ずっと『キング=ファントム』だと思い込んでました)。じゃないんならむしろいろいろ作り放題!? 何でファントムがアルヴィスにそこまで拘るのかな〜とか考えたらいろいろ出来てしまいました! かつてキング(むしろクイーン?)に呪いをかけられ、永遠に彼らのナイトとして仕えるハメとなったファントム。ちっちゃいのに無力なのに歯向かうアルヴィスの根性に敬服した6年前。彼は呪いと、そして希望をアルにかけた。彼ならコレに打ち勝てるんじゃないかと・・・!! そしてあわよくば自分のも解いてくれないかと(爆)!! ・・・・・・無責任にンなモン託されたアルヴィスはひたすらに迷惑ですな。しかも解けなければ解けないで「わ〜い仲間が出来た〜vv」と・・・。
――――――ファントムがメルヘヴン1どす黒い性格だったという結論でOKですか?
なお、当たり前の話でンなアーム(というかマジックストーンか?)は存在しません。けど修練の門の設定があれだけ細かいしなあ・・・。発動させたアームを自在に操るノリで、好きなように造り変えるとか・・・・・・。もちろん無理な話でしょうが。
そしてタイトル。結局どっちもほぼ同じ意味なのですが、何となく運命の方が前向きっぽい? そんなノリだけでつけられてます。アルヴィスにとってのギンタとファントムのつもりだったのですが・・・・・・ファントムにとってのギンタ・アルヴィスとチェスの事でも良さそうだ。
2005.8.7