ウォーゲーム1stバトル第一試合、アルヴィスvsレノ。
「頑張ってアルヴィスさ〜ん!」
「ま、お手並み拝見やな」
「せいぜい頑張りなさいな」
「負けたら承知しないっスよ!!」
「そんな心配もいらないでしょう」
「うむ。たとえ負けてもわしが後に控えておる」
「アルヴィスは負けねーって!」
「そうだね。アルヴィスくんはちゃんと勝つよ」
『!!??』
『うぉ〜』ゲーム
1人多い応援の声。ばっと振り向くメル一同(アルヴィス含む)。その先で、いつの間にかそこにいた第8の男は、にこにこ笑って自由な右手を振った。
「ファントム・・・!!」
「こいつが!?」
スノウの悲鳴にギンタが慄く。そういえばギンタはまだ直接姿を見た事がなかった。全く無害な、『洞窟でばったり知り合った人その1』としか。
「・・・・・・こいつが?」
一応さらに確認。今日は仮面もつけていないため、本当に最初のイメージ通りにしか見えない。
とりあえずそれに答えてくれたのはスノウではなかった。
アルヴィスがどすどすと音を立ててこちらに戻ってくる。
飛び下りるなり男―――ファントムらしい―――の襟首を掴み上げ、
「何お前は何の脈絡も盛り上がりもなく現れてる!?」
「やあアルヴィスくん久しぶり。ついつい君の姿を見たら会いたくなって」
「俺はずっとお前を探してたんだぞ!? 探したその成果がコレなのか!? 大将なら最後に来い!!」
「いやあ、本当はそうしようかと思ってたんだけど、上で見ててもヒマだったから」
「そっちが本音なのか!?」
「あわわわわ!! ファントム様!!」
がくがく振り回すアルヴィスと振り回されなお笑みを崩さないファントム(本物らしい。チェス一同がまさか司令塔を見間違えるワケはないだろう)。何をやっても効果なし―――というかこの男の説得は無理だと判断したらしく、は〜〜〜!!とため息をついてアルヴィスはステージへ戻っていった。もちろんファントムは放り捨て。
「えっと・・・・・・」
非常にきまずい沈黙が襲う。普通敵の大将が現れたら戦闘だろう。しかしながらこれからやるのは彼が開催したゲーム。しかも本当に戦闘をやるつもりなら、せめて手下の傍に現れるべきだろう、こんな敵ど真ん中ではなく。
しかし・・・・・・
「頑張ってねアルヴィスくんvv」
・・・・・・敵陣ど真ん中に現れ、手下を無視して相手の応援をする大将。本当に彼は何をやりたいんだろう?
「・・・せめて向こうの応援しろよ。お前の手下だろ?」
極めて論理的に突っ込むアルヴィス。言葉は論理的だが、口元は引きつり既に怒りのマークをしこたまこさえている。
そんな彼に、ファントムもまた理論的に返した。
「だって君らが1stなんかで負けたらつまらないだろ?」
「なら他のヤツが出た時も応援するんだな?」
「まさか。なんでわざわざ?」
「5秒前の言葉はどうなった!?」
「そんなに怒らないでくれよアルヴィスくん。感情を昂ぶらせて魔力の制御を怠るとタトゥーの進行が早まるよ?」
「―――!? まさかそんな・・・!!」
「・・・ワケないじゃないか。それだったらとっくに広がりきっているだろう?」
「お・ま・え・なああああ!!!」
血涙を流してアルヴィスが振り向き―――
その先でみんなが呆気に取られているのを見て我に返った。
(そうだ違う・・・。俺はこんなキャラじゃない・・・。もっとクールで落ち着き払ったキャラなんだ・・・・・・)
後1歩でイメージ総崩れとなるところだった。
自分で自分に不思議な暗示をかけ落ち着くアルヴィス。ステージ下では、ファントム除く一同がぼそぼそこんなやり取りをしていた。
「(あの、さ・・・ギンタ・・・。
アイツって、こんなヤツなの・・・・・・?)」
「(なんか・・・・・・、さっきまで話してた時と全然違うような気が・・・・・・)」
「(っかしーなあ・・・。俺ももっと・・・憎たらしいくらい落ち着いてるヤツだと・・・・・・)」
・・・・・・既に存分にイメージは崩されていたらしい。
当事者のみそんな真実を知らないまま、1stバトルは始まった。
第一試合―――アルヴィスvsレノ
(見せてもらうぞアルヴィス。私の元から離れてから、どれだけ成長したかを・・・・・・)
感慨に耽る、アルヴィス育ての親(誤)ガイラ。彼の期待を背負ってなのか他所になのか、さっそくアルヴィスは13トーテムロッドでレノを遊び始めた。
攻撃するレノ、ひたすら防御するアルヴィス。普通に見ればレノが有利だろう。
「アイツ、大丈夫っスか・・・?」
「アルヴィスー! 無理すんなよー!」
応援席で掛け声をかけるギンタを、隣にいたファントムがふっと笑った。微笑ましいといった類のものではない。心底相手を馬鹿にし、逆上させる類の笑い。
「・・・・・・なんだよ」
鼻で笑われ面白い人間もいない。ムッと険悪な眼差しを送るギンタに、ファントムは懇切丁寧に解説を加えてあげた。
「君は一体何を見ているんだい? 少し見れば、アルヴィスくんが遊んでる事くらいわかるだろう?」
「遊んで・・・?」
言われ、ギンタも視点を変えて見てみた。一見防戦一方のアルヴィス。だがその顔には、全く焦りは窺えなかった。むしろ薄く笑っているほどだ。
「確かに〜・・・・・・」
頷きかけ、
「お・・・オメーに言われねーでもわかってたんだよ!!」
敵に指摘された(しかも馬鹿にされた)のが悔しいらしく、ギンタは口を尖らせ文句をつけた。
そんな彼に、ファントムは尚更わかりやすく嘲笑し、
「やれやれ、こんなのがリーダーか。前回のダンナの時はクロスガードも凄かったけど、今回はあんまり期待できないね」
「馬鹿にすんなよ!? ダンナってのがオメーと相討ちだったんなら俺はオメーを倒す!! それに俺らはクロスガードじゃねえ!! メルだ!!」
「口で言うのは簡単だね。じゃあ実際やるのは?」
「今やってんだろ!?」
「1stバトルの第一試合でね。僕のところまで来るのかな?
アルヴィスくんも可哀想に。あれだけの力を持ってるのに、これじゃ振るう前に負けそうだ。やっぱり僕のところに来ればいいのに。僕なら充分に歓迎してあげるよアルヴィスくんvv」
「アルヴィスは渡さねえよ!!」
そんな、熱烈告白が平然となされるステージ脇。今や注目はステージ上の2人ではなく脇の2人に集まっていた。
(あの馬鹿2人が・・・・・・!)
ステージ上に遊びながら、もちろんしっかり聞こえていたアルヴィス。どんよりとした半眼の顔が僅かに赤いのは、戦闘で息が上がっているから、恥さらし2人が嫌なのかそれとも・・・・・・。
と―――
「ちっ! ちょこまか避けやがって!! だがこれならどうだ!!
ネイチャーアーム“フレイムボール”!!」
叫びと共に、レノの周りに炎の球が出現した。確認し、アルヴィスが動き出す! 斜め後ろで五月蝿い2人に向かって!!
「だからアルヴィスは俺のだ!!」
「何を言ってるんだ。アルヴィスくんは僕のものだって6年前から決まっているんだよ」
「何言ってんのよアンタたち2人!! アルヴィスはアタシのものよ!!」
「逃がすか待てえええ!!!」
「どこがだよ!! 勝手にしたクセに!!」
「彼はウォーゲームに参加してなかったにも関わらず僕のところに来てくれたんだよ? その時点で僕らの将来は決まっているようなものだろ?」
「だったらアタシだって運命的な出会いで一緒になったんだからね!!」
ゴッ―――!!
「運命言うんだったら俺が一番だろ!? アイツに呼ばれて俺はこの世界に来たんだぞ!?」
「つまりその時点までは知りもしなかった。問題外だね」
「そーよそーよ!! アタシなんてもうアルヴィスと何年もいると思ってんの!?」
タタタタタタタ!!
「ハッ! 時間!? ンなモン何だってんだ!! 多く時間過ごしてりゃいいってモンでもねーだろーが!! オメーなんて出会い頭に怒鳴りつけられて、挙句オメーなんか完全無視されてんじゃねーか!!」
「わかってないなあ。あれはアルヴィスくん流の愛情の示し方だよ」
「完全無視ですってえ!? そんな事ないもん!! 確かにアルヴィスは普段あんまり感情示さないけど、だから代わりにアタシがいっぱい喜んだりしてあげてるだけなんだからね!!」
「うっせー!! いいか!? 俺とアルヴィスはもう額だってくっつけあった仲なんだぞ!?」
「何よアンタ図々しい!! それはただ頭突きしただけでしょ!?」
「なっ・・・! それでアルヴィスくん怪我させたのかい? だったら生かして返すワケにはいかないな」
「そーよそーよやっちゃいなさいよファントム!! 肌をくっつけさせあったっていうのはアタシみたいなのを言うのよ!! アルヴィスと頬擦りだってしたんだからね!!」
「へええええええ・・・・・・。じゃあ君も生かしてはおけないなあ」
「ゔ・・・・・・」
「何にしても、じゃあ君ら2人はせいぜい顔止まり。僕は彼の体も見たけど?」
「何いいいいいい!!?? アイツ俺には裸なんて見せてくんねーぞ!?」
「ハッ! だから何よ!! アタシなんかアルヴィスの水浴びシーンしょっちゅう見てるわよ!?」
「甘いなあ。そんなの色気0じゃないか。僕は服を引き裂いて無理やり見たけど?」
「なっ・・・////!!」
「―――って犯罪じゃねーかそりゃ!!」
「関係ないな。世界は僕らが造り返るんだから。ちゃんとその辺りは除外しておくし、そもそも法律第一条には『アルヴィスくんを僕のものにする事』って作るさ。これで何をしても問題はなしだ」
「きったねーオメー!! だったら俺だってチェスなりてえよ!!」
「残念だねギンタ、それにそこのちみっこいの」
「ちみっこいのって何よ!? アタシにはちゃんとベルっていう名前があんのよ!?」
「名前なんてどうでもいいさ、どうせ僕がこの場で殺すからね」
「喰らえええええええ!!!!!」
「なっ! やっぱオメーケンカ売りに来たってか!?」
「だって君らがチェスに入ると僕がアルヴィスくん独り占め出来なくなるからね」
「そんな理由で殺されるの!?」
「他に何が必要なんだい?」
ひょいひょい、ひょい。
「だったらこの場で俺がオメーを倒―――おああああああ!?」
「うわっ!?」
「きゃああああああ!!!!!」
どごおおおおおん!!!
「ギンタ!?」
「ファントム様!!??」
「えっとあの妖精なんだっけ!?」
手の振りと共に投げ出された球は、予定通りギンタとファントム、さらに途中から言い争いに加わっていたベルに向かって突き進んでいった。
2人を巻き込み爆発した炎。放ったレノもまた、過失とはいえ司令塔に攻撃してしまった事により、真っ青な顔でへたり込んだ。
一方、それらを仕組んだ裏の仕掛け人は・・・
「ふっ・・・。
よし、片付いた」
『何がだああああああ!!!!!!???』
パンパン手をはたき額の汗を拭うアルヴィスに、全員揃って突っ込んだ。もちろん事態は何の解決もしていない。
立ち上がる(むしろ立ち直る)レノに、アルヴィスが改めて向き直る。ようやくこれでまともな試合が行えると内心安堵する彼ではあったが・・・。
ぼこっ
「あっぶねーなあ!! 何しやがるアルヴィス!!」
「痛たた・・・」
「アルヴィスぅぅぅ〜〜〜・・・けほっ」
崩れた岩下から無傷で立ち上がり指を突きつけてくるギンタ。
同じ場所からちょっと頭を擦りつつ出てくるファントム。ただし血も流れていないし、極めて軽症だろう。
爆風で吹っ飛ばされたらしく遠くから飛んでくるベル。涙目の妖精は、ちょっと羽根が焦げていた。
そんな3人を、心底嫌そ〜〜〜〜〜〜に振り返り、
あえて何も言わずにレノへと視線を戻す。肩越しにびしりと3人を指差し、
「なんで当てなかったんだ!!」
「テメーだターゲットはああああ!!!」
「だからちゃんと誘導しただろう!?」
「他のヤツはともかくファントム様に当てたら大問題だろーが!!」
「だったら直撃させずに避けた辺りでステージに頭ぶつけるくらいの角度に当てれば問題なしだろ!?」
「問題しかねーよ!!」
「ひでーアルヴィス!! 俺ら狙って撃ってたってか!?」
「けどちゃんと僕には当てないようにしたんだね。僕が愛されてる証拠さ」
「撃ったヤツがチェスの駒だからだろ!? じゃなかったらオメーにだって普通に当ててたぜ!!」
「ほ〜らだったらアタシが一番マシじゃない!! アンタたち2人岩に巻き込まれちゃってさ!!」
「・・・見たところお前が一番重症っぽいぜ? 大丈夫か? スノウに回復してもらうか?」
「挙句に話題に掠られすらしない。どうやら君に関してはギンタの言い分が正しいみたいだね。わざわざこの僕が相手にするまでもないか」
「何を〜〜〜〜〜〜!!!???
あるゔぃすぅぅぅ〜〜〜〜ぐすぐす」
「泣き落としだと!? きたねーぞお前!! 見損なったぞ!!」
「ふふ〜ん♪ 何とでも言いなさい。持って生まれたものは何でも使うのが恋愛バトルの基本よ!! アンタたちは所詮負け犬! 何吠えようと関係ないわ!! そんな事もわかんないお子様たちは今すぐ帰って寝なさい!!」
「お子様? この僕が一体何年生きてると思うんだい? 僕から見れば、君の方がよっぽどのひよっこだよ」
「ガキならガキの強みがある!! 涙が女だけの武器だと思うなよ!?
え〜んアルヴィス〜〜〜!!!」
「アルヴィスくんにそんな子ども騙しが通用すると思ってるのかな君達? 永年生き続け様々な芸を身に付けたこの僕こそが彼に相応しいんだよ。
アルヴィスく・・・・・・」
「やかましい」
ごすごすごす
13トーテムロッドのフルスイング。3人は仲良く横倒しになった。
「隙ありいいいいい!!!」
後ろから、(すっかり忘れていた)レノの攻撃。かろうじて体を捻って避けたアルヴィスの頬を、一筋の血が染め上げた。
「俺を無視して遊んでるからだぜいろおと―――!!」
『っあああああああああ!!!!!!!!』
調子に乗ったレノの決め台詞は、脇からのブーイングにあっさり掻き消された。もちろんギンタ・ベルそしてファントムの。
「オメーアルヴィスに何やりやがった!!」
「ひどーいさいてー!!」
「せっかくの彼の綺麗な顔を・・・。もちろん覚悟はいいよね?」
「え・・・? あ、あの・・・・・・」
なぜかファントムにまで据わった目で滅殺宣言をされ、思い切りたじろぐレノ。
ベルはともかく他の2人の魔力が異常なまでに膨大なものとなっているのを感じ、アルヴィスは本来言うべき言葉を変えた。
鋭く早口に囁く。
「痛みを伴う敗北かいっそ伴わない死か、独断と偏見によりまだ敗北の方がマシだと思うからそっちを選ばせてもらう。
13トーテムポール!!」
「は? え?
―――うわああああああ!!!???」
急いで発動させたアームによりレノが上空高く舞い上げられるのと、
「バッポバージョン3!! 出て来いガーゴイル!! フルパワーで行けえええええええ!!!!!!!!」
「ふふふ・・・。久しぶりだなあこのアーム使うの・・・。確か以前は街1個が全部壊れたっけ・・・。今回はどこまで行こっか・・・・・・」
「うわああああ!!!!!!!」
「ギンタスト〜〜〜〜〜ップ!!!」
「ファントム様お気を確かに!! 今ここでそれを使われては味方も全滅します!!!」
地上が大混乱に包まれるのとは同時だった。
× × × × ×
かくて、
「第一試合! 勝者アルヴィス!!」
引っ込めた13トーテムロッドを今度は縦に振り下ろし、勝負は2人を気絶させたアルヴィスの勝利となった。
「凄いわアルヴィス!!」
ステージから下りたアルヴィスは、駆け寄った―――いや、飛び寄ったベルを優しく掴まえ倒れる2人の傍に置き、
「ダークネスアーム“カゴの鳥”」
シュッ―――
光と共にアーム発動。かつてジャックを閉じ込めたカゴは、今度はギンタ・ファントム・ベルを捕らえた。
ビー!! ビビー!! ピキーーー!!!
ベルの雄叫びに、ようやくギンタとファントムも目覚め・・・・・・やはり騒ぎ出した。
半眼でそれを見下ろし、
アルヴィスはとっても冷たく言い放った。
「暫く反省してろ」
第二試合―――ジャックvsパノ
「やれやれ、酷い目に遭ったなあ」
「やいアルヴィス!! いきなり閉じ込める事ねーだろ!?」
「お前達が五月蝿いからだ」
“カゴの鳥”は、ダークネスアームの中でもかなり弱い部類に属する。かつてのジャックならともかく、今のギンタ、何よりファントムなら容易に脱出出来る。出来ないベルは今だ藻掻いているが、邪魔が減る事に対し何の異論もないギンタ・ファントムそしてアルヴィスは、それを遠〜くの方にそーっと片付けた。
さて第二試合。アルヴィス以外の試合である。考える点はもう少し違った方がいいようにも思われるが、2人にとってまず重要なのはここだった。
―――観戦する彼の隣はどちらが死守するか。
という事で、さっそく両隣をキープ。逆側の相手を蹴落とすべく、見苦しい争いを開始する。
「オメー敵チームの大将だろ!? こっち来んなよな!!」
「君こそ次試合だろ? のんびり観戦なんてしていないで、準備運動でもしてたらどうだい?」
「うわ、また始まった・・・」
「懲りんやっちゃなああんさんら2人・・・・・・」
「アルヴィスさん、凄く機嫌悪そう・・・・・・」
「『キレる』のも、時間の問題ですな」
本当に時間の問題だった。
一応エドの言葉の終りを待って、アルヴィスは無言で別のアームを発動させた。毎度恒例13トーテムポール。発動場所は、もちろん自分の両脇。
ズモモモモモモ!!!
「何だあ!?」
「これは・・・!!」
両側の2人が持ち上げられていく。みんなは額に手を翳し、首が痛くなるまで見上げた。
「こらー! アルヴィスー! 今度はどういうつもりだあ!?」
「そこで見てろ」
「これじゃ君のそばにいられないじゃないかアルヴィスくん」
「いなくていい」
『しくしくしくしく・・・』
この上なく冷たい暴言の数々に、上から身を乗り出す2人が顔を覆った。ご丁寧にぱたぱた雫が垂れてくる。これが鼻水だったら、アルヴィスは即座にアームを解除するだろう。
2人を無視して試合観戦に戻るアルヴィス。しかしながら、試合は全く始まる気配を見せなかった。試合を行うジャックとパノ、さらに審判のポズンもまた、遥か上空に上げられた2人がどうなるか気になってたまらなくて。
アルヴィス以外のみんなに見守られる中―――
事態はさっさと進展した。
ひゅるるるるるるるる〜〜〜〜〜〜
「―――っ!?」
2つの塔に挟まれ立っていたアルヴィスが、身の危険を感じ跳び退る。それと同時!
どごおおおん!!!
落ちてきた何か―――確認するまでもなくギンタとファントムが、石畳を破壊し地面を抉り込み落下してきた。アームに何も指示は出していない。2人は自らの意思で飛び下りてきたらしい。それも・・・・・・わざわざ殴り合いながら。
驚いて尻餅をついたアルヴィスの前で、影がゆっくりと形を取っていった。
砂煙が晴れていく。立っていたのは、ファントムだった。今度こそ完全に気絶したらしいギンタを踏みつけ、優雅に手を差し出す。
「やあアルヴィスくん。僕らの愛の前にはどんな障害も立ち塞がる事は出来ないって証明してみたよ。僕が無傷でここに立っているのも、僕の愛情の成せる技だよ」
「いや・・・。多分お前が無傷だったのは下敷きにしたギンタの成した技だと思うけどな」
喉の奥から何とか声を絞り出す。指摘されようやく気付いたのか、ファントムもギンタに向き直った。今は亡き彼に黙祷を捧げるように跪き、
「君の事は忘れないよギンタ・・・。僕からアルヴィスくんを奪おうとした愚かなる1人として、墓石にはしっかりそう刻んでおくからね」
「刻むな」
ごすっ・・・。
砂代わりに崩れた地面で埋葬しようとしたファントムの後ろ頭を、もうアームを発動させるのも面倒になったのかアルヴィスの直接攻撃が襲った。
踵落としに数歩たたらを踏み、それでもしっかりギンタを埋め終わったファントムが立ち上がる。アルヴィスへ振り向き(ついでに埋めた場所をしっかり踏み固め)、
「これで邪魔者はいなくなったよアル―――」
「うがあああああ!!!!!!」
ごしゃあっ!!
・・・駆け寄ろうとしたファントムは、地の底から突如復活したギンタに跳ね飛ばされた。
「あのなあお前!! 今マジで死ぬトコだったぞ窒息して!?」
「何だまだ生きていたのか。心置きなく死んでくれていいのに」
「良くねえよ!! アルヴィス闇の手から守るんだ!!」
「そういう君が、アルヴィスくんにとっては一番の闇―――邪魔なんじゃないかい?
どうかなアルヴィスくん? 僕と来ればゾンビタトゥーの解除法を教えるよ?」
「騙されんなアルヴィス!! お前は俺らとそれ考えるんだよな!?」
詰め寄る2名に、
アルヴィスはにっこりと笑った。
『?』
怪訝な顔をする周り。構わず2人に歩み寄り、ぽんぽんと肩を叩いて。
「ダークネスアーム“スィーリングスカル”」
キン―――!!
低い囁き声と同時、2人の体は一切動かなくなった。動きを止めるアームによって。
「な、何だ!? 体が―――!!」
初めて喰らうため何をされたかわからないギンタ。一方、
「これで僕を止められると思ってるのかなアルヴィスくん。精神力なら僕の方がまだ高いと思うけど?」
アームについて熟知しているファントムは、落ち着いてそれの欠点を挙げてみせた。ダークネスアーム全体の特徴。精神力の高い相手には通用しない。
指摘され、アルヴィスも顔色を変え・・・・・・・・・・・・なかった。
よりにっこりと笑い、
「まさか解かないよな? 解いたら俺とお前の関係もそこで終りだな」
「もちろん解くワケないじゃないかアルヴィスくんvv」
「うわ・・・。出た最強ダークネスアーム“別れの一言”」
「凄いわアルヴィスさん・・・。ファントムにまで有効なんて・・・!!」
「あの姫・・・。本気に取らないで下さいアーム全く関係ありません・・・・・・」
× × × × ×
こうしてようやく始まった試合は、ジャックの敗北で終わった。
「ってそれだけっスか!!??」
第三試合―――ギンタvsガロン
「これで邪魔はなくなったね。楽しもうねアルヴィスくんvv」
「こらあああああ!!! てめーファントム!! 俺がいねーからってアルヴィスにべたべたすんなあ!!
バッポバージョン3!! アイツに全力攻撃だ!!」
「落ち着けギンタ!! 敵は向こうじゃ!!」
第三試合はいきなり混乱を極めていた。まだ今まではステージ脇で行われていた争い。ついにそれが、中心であるステージにまで持ち込まれた!!
喚くギンタ。バッポに殴られようやく落ち着き、今度こそ攻撃を開始する。バージョン1のハンマーアームで仕掛けるギンタが、アームを両指に10個はめたガロンに襲い掛かり―――
「うげえっ!?」
「むっ・・・!!」
ゴッ―――!!
かろうじて避けた2人の脇を、アームで放ったらしい何らかの攻撃が通過していった。当たった城壁が爆裂四散している。
攻撃発信源を見やる。ほぼ真後ろ。そこにいたのはもちろんファントム。
「テメー今何しやがった!?」
「何の事だい?」
「今のはテメーの攻撃だろーが!! いーのかよ場外のヤツが攻撃し掛けて!! ルール違反だろ!?」
「さて何の事だか。ガロンがやったんじゃないのかい?」
「明らかにテメーがやったんだろ!? ガロン悲鳴上げて避けたじゃねーか!!」
「自分の攻撃で自爆するヤツも稀にいるからね」
「そーいうアーム持ってねーじゃねえか!!」
「隠し持ってるかもしれない」
「だったらみんなに訊いてみようぜ!? ファントムがやったと思う人ー!!」
し〜ん・・・
「何でだよ!?」
「いやだって・・・」
「手ぇ挙げたら、後で怖いじゃんかよ・・・・・・」
ギンタに睨まれ、一般市民らは瞳を逸らして呟いた。
睨む方向が、さらに移動する。
「オメーらは!?」
「え・・・? あたし・・・たち・・・?」
「そんな話題、振んないでくれっスよ・・・」
「せやなあ・・・」
「まあ、どっちかって言うとファントム―――」
「じゃ、ないよね?」
『・・・・・・はい』
「見たぞ聞いたぞ今のは立派な脅しだったぞ!?」
「だから?」
「開き直んのかよ!?」
「勝手に騒いでいるのは君。わざわざ開き直るまでもないね」
「コノ・・・!!
そーだアルヴィス!! オメーなら公平な判断出来るよな!?」
最後の希望を乗せ、アルヴィスに視線を送る。期待の眼差しの中、アルヴィスは一瞬も悩まず答えた。
「場外の者が中へ攻撃を仕掛けるのは反則だ」
「ホラ―――!!」
「―――が、同時に場内の者が外へ攻撃を仕掛けるのも反則だ。つまりファントム・ギンタ両方反則だ。ファントムの攻撃を認めると同時にお前の負けが決まるが、どうする? “メル”リーダー」
「俺はまだ攻撃仕掛けてねーよ!!」
「それはバッポに止められたからだろう? お前だけなら間違いなく仕掛けていた」
「ならそもそも第一試合はどーなんだよ!? 俺らお前に攻撃されたぜ!?」
「ふっ・・・。甘いなギンタ。直接攻撃を仕掛けたのはレノだ。失格なのはアイツだ。俺じゃない。そして失格だろうが何だろうが俺が勝ったから問題はない」
「うあ・・・。お前そこまで狙ってやったってのか・・・!?」
「負けたくなければさっさと試合に戻れ」
「じゃあ僕の無実が証明されたね」
「くっそおおおおおおお!!!!!!!!」
× × × × ×
怒りによりパワーアップしたギンタ。彼はもちろん、その怒りをガロンにぶつけた。
こうして、チーム“メル”は1stバトルを楽々勝ち上がったのだった。
2ndバトル以降、試合進行に差し支えるという理由でアルヴィスとギンタは出場禁止となった。3人のために用意された特別会場では―――
「アルヴィスは俺のモンだああ!!!」
「君は僕のものだよねえアルヴィスくん」
「少しは静かに試合を観ろ!」
どごおおおん!!
ずごおおおん!!
どごくしゃあああん!!!
その後毎日、主張と実現に向けての実力行使が、実際のバトルフィールド以上に派手に激しく繰り広げられる事となった。
そしてついにFinalバトル。ダイスにより、1対1の大将対決となった。メルはもちろんギンタ、チェスの兵隊はNo.1ナイトのファントム。
「へへっ。ついに決着の時が来たなファントム」
「ふふ・・・。今日のこの試合、君への勝利を僕はアルヴィスくんに捧げるよ」
向かい合って、毎度恒例の牽制と睨み合い。
ポズンが手を挙げ合図する。
「それでは、Finalバトル開始!!」
「行くぜバッポ!!」
「うむ」
「さって、どんな風に楽しませてくれるんだろうね」
接近、接触する2人。最初に仕掛けたのは―――
「13トーテムポール!!」
―――アルヴィスだった。
「うぎゃっ!!」
「わっ!?」
地面から上がってくるトーテムポール。それも今回はいっぱい。
今度は上に上げられないよう、2人は飛び退ってさらに避けて・・・・・・
「ギンタ・ファントム、場外につき失格! この勝負、引き分け!!」
『はい・・・?』
× × × × ×
「今まで散々やってくれた礼は返したぜ・・・」
『だからアルヴィス(くん)は―――!!』
「聞けお前ら2人!!」
がんごん!!
アルヴィスに負け(誤)なおも五月蝿い2人を、もう何度目だかのアルヴィスの鈍器攻撃が襲った。
倒れた2人に指をびしびし突きつけ、
「いいか!? 俺はお前らのモンにはならない!! どっちのもだ!!」
「じゃあアルヴィス!! やっぱアタシの―――!!」
「誰のもだ!!!」
「そ〜〜〜んな〜〜〜〜〜!!! アルヴィス〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
ようやくカゴの鳥から抜け出せたらしいベルにも言い放つ。
ベルの泣き声が、暮れ掛けた空にどこまでも響き渡った・・・・・・・・・・・・。
× × × × ×
そしてそんな彼らを見て・・・
「アルヴィス・・・。随分逞しく成長したな・・・。いい友に恵まれた・・・・・・・・・・・・」
ガイラは、そう感慨深げに頷いていた。
―――Fin
× × × × ×
ファントムが・・・・・・。なぜこんなギャクキャラに成り下がったんだろう・・・? 何かだんだんこんなイメージが・・・・・・。
なおアーム。ファントムのは今だに欠片も出てこないので出しませんでしたが、アルヴィスの、あのギンタたちと遭遇する際盗賊の動きを止めたアレ。アニメでは今だに名前が出て来ず、省略すると何だか語呂が悪かったので仕方なく名前のわかっている“ネグゼロ”を使っていたのですが、この度親切な方のご指摘より“スィーリングスカル”だと判明いたしました(ぱちぱち)!!。教えてくださった方ありがとうございますvv そしてやっぱさすがアル。アームの名前も可愛いなあ・・・vv
愉しいなあこんな話。こんなヤツがトップだったら、戦争はさぞかし平和に進められるだろうなあ・・・・・・。
2005.8.10