今回のウォーゲームは、3人対戦だった。







馬鹿トリオ






 「いでよ! チェスの兵隊!!」
 ポズンの声に反応し、チェスの兵隊が現れた。
 「1人目―――ナイト、ロラン!」
 「あ、アイツ・・・!!」
 「えへへ・・・。また会いましたね。よろしくお願いします」
 メル+観客一同の驚きを受け、ロランが照れ臭そうに挨拶する。
 「2人目―――ナイト、キャンディス!」
 「フン。アンタたち全員倒してあげるわよ」
 「うっは〜何やえろうべっぴんさんっぽいおねーさんが〜〜〜vvv」
 うはうはしながらそうナナシが評するのも無理はない。2人目に現れた美女(仮定)は、露出過剰気味な体に反しチェスらしく仮面で顔を隠していた。
 「3人目―――ナイト、ペタ!」
 「ってナイトばっかかよ!?」
 「これはこれはメルの皆様。今だ全員顔を揃えているとはさすがです。それに免じ、全員仲良く殺して差し上げましょう」
 ファントムの1番の側近にして、彼に次いでよく顔を見かける男。チェスが―――少なくともナイト以下が実力社会だと考えれば、この男はファントムに次ぐ実力だと考えられる。
 自然と全員の気が引き締められる。特に、ルベリアの仲間の敵討ちにようやく合い見えられたナナシは。
 対峙して押し黙る事・・・・・・数秒。周りがさらにざわめきだした。
 「見ろ!! 城の上!!」
 「あ、あれは・・・!!」
 『ファントムだあ!!』
 ―――どこのヒーロー参上だよと突っ込ませる騒ぎを引き起こし、かの人物が現れた。
 そして、
 「きゃああああああああ!!!!!!!!! ファントム〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜vvvvvvvvvvv」
 「わ〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!!! ファントム〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜vvvvvvvvvvv」
 同時になぜかいきなり騒ぎ出したチェス2人により、全ての騒ぎはあっさり掻き消された。
 「えっと・・・、オメーら・・・・・・」
 「何・・・、やりたいワケ? アンタたち・・・・・・」
 騒ぎ出した2名。わざわざ名を上げるまでもないだろう。一応残る1名の名誉保護のため、ペタではなかったと言っておく。
 仮面を放り捨てぴょんぴょん跳ねるキャンディスに、両手を上げその場駆け足でぐるぐる回りだすロラン。
 「何かまた、クセのあるヤツ出てきたっスね・・・・・・」
 「いや『クセ』っつーか・・・・・・」
 「あああああ・・・。出会い5秒で失恋かいな・・・・・・」
 「うむ。あそこまで激しくイってしまった者に今更違う道を教えるのは不可能に近い」
 様々な者の様々な思惑交差する顔合わせ。さらには、
 「ああ!! ファントムってば僕の戦いを見に来てくれたんですね!! そんなあなたの期待は裏切らないよう頑張ります!!」
 「ちょっとロラン!! 何勝手にでしゃばってんのよ!! ファントムはわたしを見に来たに決まってるでしょ!?」
 「そんな! ファントムが僕以外を見にこんなところまで来るなんて〜・・・・・・。
  ―――とても思えませんね」
 「何よその首振り!! わざわざ2文節に切って嫌味!? ため息とかつくんじゃないわよムカつくわねえ!!」
 「では僭越ながらここは私も名乗りを上げましょうか」
 「いーじゃないですかペタは別に!! いつも一緒にいられるんですから!!」
 「キ〜〜〜!! くやし〜〜〜!! なんでファントムはわたしを傍に置いてくれないの!?」
 「そうですよ僕だって
24時間ファントムの傍にいたいですよ!!」
 「・・・・・・多分、貴方方が傍にいると何も出来ないからではないかと」
 「まあ! わたしがそばにいたらファントムが見惚れちゃうって? やだも〜ペタってば〜vvv」
 「・・・・・・・・・・・・。
  いえ、まあそれで貴方が満足するのなら構いませんが」
 「なるほど。キャンディスが傍にいたのでは五月蝿くて何も出来ないはっきりきっぱり邪魔だ
  そういう事ですねペタ?」
 「なあああんですってえペタ・・・!!??」
 「なぜ私に話を振るのですかロラン・・・!! というか私は貴方も指して言ったのですが・・・」
 なぜか勝手に身内で争い出すナイト3人終もといナイト3人衆。もうウォーゲームはどうでもいいのだろうか・・・?
 そちらには目を向けず、城の上部にいるファントムを見上げる。その中で・・・
 ・・・アルヴィスはこっそりと腰を屈めた。
 全員の注目を浴び―――
 ファントムが口を開いた。










 「頑張ってアルヴィスくんvv 君の応援に来たよvvv」
 「帰れお前は」
 ごっ!!










 拾い上げたものを即座に投げつけるアルヴィス。角張った拳大の石は、狙い違わずファントムの額にぶち当たった。
 プシュッ☆と青い血を噴出し、ファントムが視界から消える。ディメンションアームを使ったのではなく・・・・・・単純に後ろに倒れて。
 『っああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!』
 大絶叫が辺りに木霊する。上げたのはもちろん、ファントム
Loverの3名。
 「アンタ何すんのよわたしのファントムに!!」
 「今のキャンディスの発言には賛同しませんがそうですよ!! アルヴィス君! 君今何しました!?」
 「五月蝿いヤツ黙らせた」
 「即答ですか!? 反省0ですか!?」
 「おのれファントム様を傷物に!! お嫁に行けなかったらどうなさるおつもりですかアルヴィス殿!!」
 「いや傷があろうがなかろうが嫁には行き様なくないか? 俺が婿だったら絶対嫌だぞあんな嫁。なんかヒステリーで街ごと壊されそうだし」
 「え? アルヴィス・・・。自分反論するトコそこでええんか・・・?」
 「ファントム様になんたる無礼を!! これでもちゃんと嫁に行けるように片手で炊事洗濯はばっちりなんですよ!?」
 「行く気満々だし・・・」
 「こ、これはもしやファン×アルじゃなくってアル×ファン・・・!?」
 「どーいう意味っスかドロシー姐さん?」
 「い、いえいえお子様はまだ知らなくていいのよをほほほほ!」
 無邪気に尋ねてくるジャックに引き攣った笑みを浮かべるドロシー。隣で戦慄いているギンタにはなぜか意味が通じたらしい。あるいは単純に『ファントムがアルヴィスと結婚するつもりだ』という認識での戦慄きか。
 そしてギンタ以上に戦慄いているのがかの3名である。燃える視線をアルヴィスに投げつけ、
 「許さないわよそこの坊や!! 相手してあげるから来な!!」
 「アルヴィス君を倒すのは僕ですよ!! 抜け駆けしないで下さい!!」
 「こうなったら実力行使あるのみ!! 何としてでも責任取ってファントム様は引き取ってもらいますよ!!」
 「・・・・・・お〜いアルちゃ〜ん。指名たっぷりやで?」
 「それは別にいいが―――





  ――――――ウォーゲームは1対1だろ?」





 『・・・・・・・・・・・・』
 アルヴィスの適切な指摘―――ルール説明に、3人は揃って無言になった。
 互いに目配せする。誰も異議を申し立てない。それはそうだろう。このウォーゲームのルールは
ファントムが決めたのだから。
 「じゃあ公平にじゃんけんで行くよ」
 「ずるっこなしですよ? 後出しとか指3本立てて無敵とか」
 「もちろん負けたからといって『3回勝負だ』とか駄々を捏ねるのも無しですよ2人とも」
 「じゃあ―――」
 『じゃ〜んけ〜ん』
 小声で成されるそれらのやり取り。非常に情けないそれを遠くから見守り、
 「ところで俺はまだ出るとは言ってないんだけどな」
 「出てやりぃよアルちゃん!! 向こう泣くで!?」
 台詞の中に隠されもしないアルヴィスの『本気』を感じ取り、ポズンに近付こうとした彼をナナシは後ろから羽交い絞めにした―――
 ―――途端に上から何かをぶつけられた。石。青い液体の付着する。
 いつの間に復活したのか、うつ伏せに寝転び無傷でにこにこ笑うファントムを半眼で見上げた後・・・
 アルヴィスはため息をついた。
 「・・・・・・・・・・・・。
  仕方ないなあ」
 いろいろやっている間に向こうも片付いたらしい。ロランとキャンディスが手首を押さえ崩れ落ちていた。
 一見2人が手に攻撃を受けたかのようだが・・・
 「やはりロランもキャンディスもパーでしたか」
 勝ち誇るペタの手の形はチョキ。どうやら2人はパーだった己を心底悔いているらしい。
 かつて同じ手でファントムに負けてあげたペタ。しかしながら、同僚かつライバル(様々な意味で)の2人相手では遠慮する筋合いもないようだ。
 「では、アルヴィス殿の相手は私が務めるという事でよろしいですな?」
 「くっ・・・!!」
 「まだまだぁ!! 僕のファントムへの愛をその程度で打ち砕けるとは思わないで下さいね!!
  審判!! ルールの一部変更を提案します!!」
 「ロラン!! アンタファントムに逆らう気!?」
 普段のなよなよさはどこへやら、びしりと挙手するロランにキャンディスが悲鳴を上げた。ライバルとはいえファントムへの崇拝と親愛は認めた相手―――いや認めたからこそのライバルだというのに、彼は己のためにファントムに反旗を翻すというのか!?
 だが、ロランが浮かべているのは笑みだった。普段はなかなか見せない獰猛な笑み。彼がナイトクラスだと誰もに実感させるそんな笑み。
 「まさか。ファントムの決めた事に僕が逆らうわけはないでしょう?」
 「じゃあ―――」
 「大前提には触発しないように少し変えればいいだけです。
  1対1の勝ち抜き戦にしませんか?」
 勝ち抜き戦―――勝った側はそのまま次の試合に出場。
 確かにこれなら2人以上がアルヴィスの相手をする事も可能である。アルヴィスが勝ち残れば
 一見意味のない提案。だがこれが有効になる場合もある。そう、例えば・・・
 「そうか! あくまでファントムを応援する立場である以上、ペタがアルヴィスに勝つワケにはいかない!! 必然的に第2試合にまで勝ち残ってくる!!」
 パチンと指を鳴らすキャンディス。ロランも薄笑いをペタに向け、
 「ファントムの前にアルヴィス君に泥をつけてしまえば、さぞかしファントムに受けは悪くなるでしょうねえ。僕の場合は、まあ実力アップのきっかけになったという事で免除されましたが」
 「汚・・・・・・。
  ですが、たとえアルヴィス殿が負けたとしてもチームとして勝ち上がれば必然的に彼も上がれる。まあ私も彼の実力向上に貢献するという事で」
 「『チームとして勝ち上がれば』。
  僕ら相手にアルヴィス君以外で勝てる人って誰ですかね? ドロシーさんか、ナナシさんか、アランさんか・・・・・・。
  ―――きつくないですか? それともあえて賭けに挑みますか?」
 「負けた仲間の敵討ちなら、来るのはリーダーかしら?
  ―――あ〜わたしすっごいギンタ殺したい気分〜vv 負けちゃったら終わりだっけ? ごめんなさ〜い。手加減出来そうにないの今vv」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
  わかりました!! 負けます! 途中経過はともかく結果としては彼に負けると誓います!!
  それで?」
 『え・・・?』
 「ですから、第2試合。どちらが出られるのですか? 今度は負ける筋合いもないでしょうし、2人ともアルヴィス殿を殺したいのでしょう? たとえ生きていたとしても、とても戦える状態ではないでしょう。
  第3試合は確実に別の相手が来ると念頭に置き、順番をお決め下さい」
 『・・・・・・・・・・・・』
 今度黙り込んだのは2人だった。
 互いに目配せし、
 魔力を練り、
 アームに手を伸ばし・・・・・・
 「
13トーテムポール!!」
 どごどごん!!
 「うぎゃあ!!」
 「きゃっ―――!!」
 ―――アルヴィスの放った1撃で、2人仲良く気絶した。
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 会場中が沈黙に包まれる。
 「え、っと・・・・・・」
 呆然とした表情(とはいってもいつもとあまり変わりはない)で首を動かすポズン。
 回答を求められ、アルヴィスは一片の曇りもない笑顔で肯いた。
 「勝ち抜き戦だろ? 2人倒したぞ?」
 「いやあの、まだ試合始まってないような気が・・・・・・」
 「そうだったか? じゃあ今から始まりっていう事で。すぐ終わるけどな」
 「場所も、移動してませんが・・・・・・」
 「どこだっていいだろ? やる事に変わりはないんだから」
 「そんな平たい意見を言われましても。これは一応『ゲーム』ですし」
 「なら今から移動して対戦開始な。こっちのメンバーは俺とドロシーとアランさん。敵殺す事に対して何にも思わないから、気絶してるヤツでも平気で止めさすぞ?」
 「笑顔で言わないで下さい・・・。貴方チェスより怖いですよ・・・・・・」
 「ありがとう」
 「いっそ入りませんかチェス? ここまで卑怯な手を平気で使い、挙句屁理屈ゴリ押しをかける貴方は敵に回したくないのですが・・・」
 「ファントムが俺の奴隷となりタトゥーの呪いを解き戦争を放棄するというのならいいぞ?」
 「・・・楽勝と見せかけ随分高いハードルですね・・・。戦争放棄した時点でチェスの意味なくなると思うんですが・・・」
 「ちっ。楽なところから攻めたのに」
 ため息と首振りで会話を終わらせ、アルヴィスが前へと向き直った。唯一残った対戦相手―――ペタへと。
 「順番は少し変わったようだが、第3試合といくか」
 「そうですね。貴方も全くの無傷のようですし」
 「じゃあ第3試合。
  負けろ今すぐ」
 「はい・・・?」
 再び襲い掛かる、アルヴィスの不条理攻撃。何の疑いもなく命令され、ペタが目をぱちぱちとさせた。
 アルヴィスは例の笑顔のまま、
 「負けるんだろ? 俺に」
 「確かに結果としては負けると言いましたが、最終的に負ければいいだけでしょう?
 それに貴方が2人を倒したおかげで点数上は既にメルチームの勝ち。仮に貴方を負かしても、次の対戦時に棄権を申し出れば何の問題もありません」
 「つまり引く気はない、と?」
 「もちろん。貴方にファントム様を引き取ってもらうため、今日私はここへ来たのですから」
 「うわもーお互いめっちゃくちゃですな・・・」
 エドがさりげなく突っ込む。同意した者は、なぜか次の瞬間には地に這いつくばっていた。
 アルヴィスは笑顔のまま僅かに眉を顰め、
 ふいに横を向いた。
 口に片手を当て、叫ぶ。
 「お〜いファントム〜! お前の部下が俺を傷物にしようと目論んでるぞ!? 傷物にされたらとてもお前とは吊り合わなくなるなあ!」
 『なっ・・・!!』
 「ペタ!! どういうつもりかなあ! 僕のアルヴィスくんを傷物にするなんて!!
  君のおかげで、せっかくアルヴィスくんが僕のところに来てくれるって気になってたっていうのに!!」
 「いえファントム様そのような気配は全くありませんでしたが・・・。
  誤解です!! まさか私がそのような事を目論むわけがないでしょう!? 私は忠実なる貴方の僕です!!」
 「ほんっと〜〜〜〜〜〜に?」
 「もちろんです!! わかりました負けます!! 今すぐ棄権します!!」
 疑わしげなファントムの目には勝てなかったらしい。屈辱まみれの敗北宣言をするペタ。
 ファントムが花のような笑みを浮かべた。ペタが崩れ落ちた。
 勝負の結果が出―――
 「よし。3人勝ち抜いた。メルの勝ちだな」
 「ちょちょちょっと待ってくださいよ!!
  私はまだそれでオーケーだとは言っていませんよ!?」
 勝手に幕引きをしようとするアルヴィスにポズンが待ったをかける。
 「大体ルールの変更権はファントム様にあって――――――!!」
 まくし立て・・・
 「ファントムに?」
 「ファントムに〜・・・・・・、ファントムで〜・・・・・・・・・・・・、
  ファントムだから〜〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 言いながら、ポズンは挫けていった。
 一応念のためちらりとファントムを見上げ、
 「もちろん僕はアルヴィスくんの言う事だったら何でも従うよvv だって僕、アルヴィスくんの愛の奴隷だものvv」
 「決まりだな」
 戯言はさらっと無視してアルヴィスが肯く。この瞬間、誰もがチェスの真なる支配者の存在を知った・・・・・・。







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 「じゃ〜ね〜アルヴィスくんvv 次も頑張ってね〜vv」
 「お前に応援されるまでもないけどな」
 こうして、本当に本日の対戦は終わった。





 「結局これでわたしたち出番終わり!?」
 「ウォーゲーム上の『ルール』では確かに」
 「そんな!! まだアルヴィス君に全然ぎゃふんと言わせてないですよ!?」
 「異議申し立てますか?」
 『ぐ・・・・・・』



―――Fin


















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 夢をありがとうキャンディス。前回からどきどきしながら見ていましたが、そんな期待を120%以上の形で応えてくれるなんて、なんて貴女はいい人なんだ!! もう公式サイトのキャラクター紹介の欄ですら《「愛しのファントム」のために戦う》と書かれているのですね。
 という事で今回の話。キャンディスも加わり、もう爆走に歯止めがかかりませんチェス陣営。彼らと比べるとメルチームがえらくまともに見えます。もう誰を指して『3馬鹿トリオ』にすればいいのかよくわかりませんが、そんな彼らでも温かく見守ってくださると嬉しいです。
 そんなこんなでこれからは、彼女も交えて進めるかもしれません。『烈火の炎』の紅麗・音遠・雷覇・ジョーカーチームとはまた違った面白味が(こっちだと紅麗×音遠に雷覇とジョーカーの茶々出し隊というチーム編成が好きなのですよ)vv 今まではアルヴィスの奪い合いでしたが、これからはファントムの奪い合いも出来そうですねvv

2006.1.8