メルヘヴン、心の底から誤った鑑賞法
〜こんな展開だったらイヤだ〜





 



1・2人目―――シャトンとロコ 〜馬に蹴られて死んじまえ?〜


 前回伝説のアームを盗みに行っていたロコが戻ってきた!!
 「ロコ、どうしたのだその格好」
 「ズタボロにゃ〜! 一体何があったにゃ〜!?」
 顔こそ無表情だがふらふらのロコを心配するハロウィンとシャトン。特にシャトンの心配振りは尋常ではなかった。
 猫という気質だからか、誰にでも懐くようで自分の興味ない事は本当〜にどーでも良さげな彼女が、他人を気遣った。しかも明らかに反応の面白くなさそうな相手を。
 それだけで異常な事。ではあるのだが・・・・・・。
 近寄り尋ねるシャトンを完全に無視して、ロコはハロウィンに言葉をかけた。
 「最終バトル、せいぜい頑張って下さいねハロウィン。一応エールは送ります」
 「あ―――」
 「どーして無視するにゃー! あちしはロコの事大好きなのに〜〜〜!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 何か言いかけたハロウィン。それを遮り、シャトンがロコの肩を掴みがくがく振り回した。つくづく人の事情に構わない2人である。そういう意味では似た者同士か。
 がくがくと、それこそ首の骨が折れそうな位激しく振り回され、表情のないロコの顔にしかしながら明らかな変化が現れてきた。
 ―――額に山ほど青筋をこさえている。
 見て、ハロウィンがカツカツカツと3歩ほど引いた。
 (シャトン・・・。頼むから止めてくれ・・・・・・)
 この場において、最もチェス内の位が低いのはロコである。ポーンよりは上といった程度のルーク。しかもここまで上がってこれたのも呪いの力。戦闘兵として、ロコは全く使い物にならないと言ってもいい。
 対してシャトンはビショップ最強。自分に至ってはナイトの中でも十三星座。
 ・・・なのになぜだろう。このメンバーで一番怖いのがロコなのは。
 (いや・・・)
 あるいは一番怖いのはシャトンかもしれない。ロコの無言の圧力に、全く堪える様子がない。自分など彼女の周りに、絶対魔力とは違う暗黒のオーラが、それもガイコツの形で現れているようなそんな幻影まで見えるというのに。
 まぶたのない目を、瞬きする代わりにごりごり柱にこすり付ける。もう一回2人を見てみると―――やはりロコはとっても怒っていたし、シャトンはそれに気付く様子もなかった。
 (もしかしなくてもこの状況は、俺が変えてやらないと駄目なのか・・・・・・?)
 こほんと咳払いをし、
 ハロウィンは重々しく話を変えた。
 「そういやお前、あれからウォーゲームに出られなかった事随分怒っているらしいな」
 「ロコ怒ってません」
 「いや怒ってんじゃねーかめちゃくちゃ。その気持ちはしかと受け止めたから『てへv ワラ人形と間違えちったv』的ノリで俺に直接スパイクぶち込むの止めてくれ。それは呪いじゃなくってどこぞのメルのヤツの十八番『鈍器攻撃』っつーんだからな? アームリングをメリケン代わりにしてぶん殴んのとおんなじ位タチ悪りい攻撃なんだからな?」
 「ちっ」
 舌打ちし、シャトンを張り付かせたままロコが引いた。
 ちょっぴり欠けた頭をやはり柱でこしこし綺麗に磨ぐ。その間にもシャトンが1人で暴走し続ける。
 うっとりとロコを見つめ、
 「怒ってるロコも可愛いにゃ〜vv」
 「しかし今のお前には、もうアイツらの相手は無理―――」
 「それは宣戦布告と受け止めていいんですね?」
 「・・・なあ、聞いてくれよお前ら俺の話」
 ちゅっv
 「だから――――――って、えええええええええええ!!!!????」
 シャトンがロコの頬にキスをした。
 嬉しそうに微笑むシャトン。
 一声上げた後硬直するハロウィン。
 そして・・・



 ――――――怒りが頂点を越したロコ。



 「ダークネスアーム“ネグゼロ”」
 「ぎに゙ゃ!?」
 ピキーン・・・・・・
 抱き締めたままシャトンが固まった。
 完全に据わった目(いつも通りという指摘は却下)のロコが、呪われたシャトンの手をぺりぺり引っぺがす。
 「ロ・・・ロコずるいにゃ〜・・・・・・!!」
 瞳からだ〜っと涙を流すシャトンに、ロコから容赦のない攻撃が放たれた。
 冷めた目で見下ろし、
 「ロコはシャトン嫌いです」
 「――――――っ!!!!!!???」
 があああああああああん・・・・・・!!!!!!
 シャトン、失・恋!!
 この場から去り行くロコの背後で、軽くこの世から去りかけたシャトン。
 涙が枯れ、心が枯れ・・・・・・。
 「いいにゃいいにゃ!! ロコがその気ならもういいにゃ!!
  手に入らないものなら無理矢理奪う!! それがあちし達チェスのやり方!! ファントムそうやってるにゃ!!」
 「・・・・・・そうやってる結果ファントムは全敗中っぽいけどいいのか?」
 愛しさ溢れて憎さ倍増。怒れるパワーでロコの呪いを破ったシャトンは、ロコに指を突きつけそう宣言した。もちろんハロウィンの適切な忠告は無視して。
 突きつけた手から、奇術のようにアームを取り出す。金属製のものが多いアームの中で異質の、ピンクのふさふさを。
 「ネイチャーアーム“ネコジャラシ”!!」
 「―――っ!!」
 今度はロコの動きが止まった。顔には常にない程の焦りと屈辱を浮かべ。
 ネイチャーアーム“ネコジャラシ”。これは別にロコの持つ“ネグゼロ”のように動きを止めたりするものではない。ダークネスでもない。が、
 ・・・・・・それより遥かにタチの悪いものだった。
 「ほ〜らほ〜らこっち来るにゃ〜・・・♪」
 「くっ・・・!」
 シャトンが手招きをするように、ネコジャラシをゆっくり振る。
 合わせ、去ろうとしていた筈のロコがじわじわとそちらに近付き始めた。
 「いい子にゃね〜ロコvv」
 それこそネコのように舌なめずりするシャトン。ロコも奥歯を噛み締め必死に足を踏ん張ろうとするが、もちろんそれで止まりはしない。
 これがまだダークネスならホーリーアームで解呪出来るし、呪いに精通したロコならそれなりに解決法を編み出せるだろう。しかしながらこれはネイチャーだ。破ろうとすれば力技しかない・・・のだが、かのアームはアランですら破れなかった。猫アレルギーというのを差っ引いても、ロコの力では破れそうにない。特に今のシャトンは、本気で怒りモードだ。
 (ならば・・・)
 どん!!
 「おいちょっと待てロコ!! 何でつかえ棒代わりに俺使うんだよ!?」
 「こうなったら死ならばもろともです。一緒に死んで下さいハロウィン」
 「嫌に決まってんだろ!?」
 「だったらシャトンの術を破って下さい」
 「うあ汚ねえそう来たか・・・!!」
 自分では破れないので他人に頼るらしい。素晴らしいまでの卑怯振りだ。しかもハロウィンが1人だけ逃げないよう、ネグゼロで行動不能にするという念の入れ様。
 2人団子状態でずりずり引き寄せられる。いっそロコが自分自身に呪いをかけて止まった方が早いんじゃ・・・とも思ったが、
 それを指摘するチャンスは与えられなかった。
 「にゃ〜〜〜〜〜〜〜!!! ハロウィン何自分だけロコと抱き合ってるにゃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
 「何をどう誤解したらそう見える!? 俺は被害者だぞ!?」
 ネコジャラシをぶんぶん振り回しながら、シャトンが悲鳴を上げた。彼女に比べればとても弱いハロウィンの反論(むしろこちらが悲鳴)とは裏腹に、おかげでますます2人がひっついた。
 怒り狂い泣き喚くシャトン。全てを終え、
 ・・・・・・行き着く先は笑みだった。
 「許さないにゃ・・・。絶対許さないにゃ・・・」
 俯いた顔に昏い笑みを浮かべ、地の底から這い出たような声を出し・・・。
 「ウェポンアーム“パラ・クロー”!!
  死なばもろともならあちしが殺す!! 天国で一緒に幸せになろうにゃロコ!!」
 ネコジャラシに次いで、爪を突きつけ吠え猛る。かつて涙の流れていた目は瞳孔が完全に開ききり、今やその笑みは全身に広がり各所を引き攣らせていた。
 壊れたシャトンを(ハロウィンの陰から)睨め上げるロコは、
 ―――それでもやはり冷たかった。
 「絶対嫌です。
  あなたがそのつもりならこちらも容赦はしません。1人で死んで下さいシャトン。
  ダークネスアーム“呪いのハンマーとスパイクだけ”」
 互いに『必殺』ともなり得る武器を構える。間にハロウィンを挟んだまま。
 パラ・クローに全力を注ぐためだろう。ネコジャラシはもう発動していない。それでも小さな武器しか持たず敏捷性もないロコは、初撃が決まるよう慎重に間合いを詰めていった。ハロウィンを盾にし。
 わかっていてシャトンもまたじわじわ近付く。この爪は鋭く切り裂く代わりに破壊力は小さい。接近戦に縺れ込めば、ハンマーなりスパイクなり持ったロコの方が攻撃力が上がる。なら突き出しエネルギーを存分に使える1撃目で全てを無効化しなければならない。呪いのセットとハロウィンを。
 「行くにゃ!!」
 「来なさい!!」
 「ちょっと待てちょっと待て!! お前ら絶対ターゲット間違ってるだろ!!??
  ――――――うぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 カーンカーンカーンザクザクザクカンザクカンザクカンザクグサバシュガンジュパアッ―――――――――!!!!





・     ・     ・     ・     ・






 「ごめんにゃーロコ。いろんな事して」
 「わかればいいんです」
 「―――あ! でもキスしたのは謝らないにゃよ?
  だって本当にしたかったからしたんだもん! あちしロコ大好きだもん!!」
 「・・・・・・っ////。
  だから・・・
  ―――そういうのを、平然と言ったりやったりするのを止めて下さい・・・って、言ってるんです・・・・・・(ぼそぼそ)」
 「あ〜♪ ロコ赤いにゃ〜vv」
 「赤くないです・・・」
 「赤いにゃよ〜v 可愛い〜〜(ぷにぷに)vvv」
 「怒りますよ?」
 「ごめんなさい」
 死闘を経て、関係を取り戻した2人。ぐちゃぐちゃになったテラスから屋根に上り、思う存分いちゃついていた。
 ふいに、抱き締めていた腕を緩めシャトンは間を空けた。
 隙間風の冷たさを感じつつ、ロコがそちらを見やる。
 真正面で眼差しを受け止め、
 シャトンが尋ねた。



 「ロコ。あちしの事、どう思ってるにゃ?」



 「え・・・・・・?」
 問われ、ロコは軽く目を見開いた。見つめるシャトンの顔からは、いつものコロコロ変わる表情が抜け落ちている。
 平坦な声音で、平坦な表情で。
 ・・・・・・尋ねるは、本気の問い掛け。
 何も言わないロコに、シャトンは決して先を促す言葉を告げなかった。じっくり考えて欲しいからなのか・・・・・・それとも出される答えを聞きたくないからか。
 止まる時間の中で、見つめ合う。
 根負けしたのは、
 ――――――ロコだった。
 俯き、言う。再び目元を朱に染めて。



 「ロコは、シャトンの事・・・。
  ――――――嫌い・・・じゃ、ないです」



 それが彼女の精一杯だった。そして、
 ・・・それは、彼女をいつも見続けていたシャトンにはしっかりと伝わった。
 「嬉しいにゃ〜ロコ!!!」
 「わっ」
 いつもベタベタされているが、真正面から抱き締められたのは初めてだった。
 驚くロコから今度は少しだけ離れ、シャトンは片手で彼女の頬を撫でた。
 鼻先を触れ合わせながら、笑みを零す。嬉しそうに、幸せそうに。
 「大好きにゃ、ロコ」
 「・・・・・・//。
  ・・・ロコも、です」
 頷くロコもまた、幸せそうに微笑んでいた。





・     ・     ・     ・     ・






 ・・・・・・上からのラブラブオーラを感じながら、
 「なあ、何か俺が巻き込まれた意味・・・・・・あんのか?」
 かろうじて生きてはいたが起き上がれそうにないハロウィンは、うつ伏せのままただただ涙を流すしかなかった。



―――Fin

 









 ―――アニメが何を一番推奨していたのかが判明しましたね(誤)。まさかこの2人とは・・・・・・。
 びっくりどっきりでしたが、なにせへたれファントムと素で冷めすぎのアルヴィスが大好きな管理人。当然のようにこれもまた好きになってしまいました!! もう今回のロコは可愛すぎるよ!!
 という事で、実は正真正銘初めてのユリ。メルヘヴンサーチのCP人気投票にも入ってませんし、素直なロコなんて弱気なファントムと並んで需要の低そうなキワモノですが、ですが・・・・・・ですが〜・・・・・・・・・・・・、ですか。
 ・・・・・・しっかしハロウィンってこんなキャラでしたっけね(そりゃ違うでしょう)? 怖いのでアニメでハロウィンメインになる前に上げてみました。

2006.7.238.26