×月●日 アルヴィス殿の記憶を変えよう 2
「へえ。記憶を奪うアームかあ・・・」
「記憶を奪う? それならさして珍しいものではないのでは? ガリアンも持っているでしょうに」
・・・そして前回は失敗した。いくらファントムでも、あれはさすがに1度で懲りるだろう。
実際ファントムは尋ねるペタへと悠然と微笑み、
「いいや? これは単に記憶を失くすだけじゃなくて、望むがままの記憶を植え付けられるらしい」
「つまり・・・」
何となく言いたい事を察した。
肯定するように、ファントムも大きく頷く。
「そう! これを使って初めから『アルヴィスくんは僕の事が大好きv』って教え込ませればオールオッケーだ!!」
「ファントム様・・・。さすがにそれは、やってはいけない最後の手段では・・・・・・」
「ん? 何か言ったかな?」
「いえ何も・・・」
花を飛ばし笑うファントム。最早誰にも止められない。
明後日の方を向き否定し、
ふとペタは戻ってきた。
今度は誰からぶん取ってきたんだか、ピアス―――それが記憶を奪うアームらしい。正確にはその媒体―――を天に翳すファントムに、首を傾げる。
「して、それをアルヴィス殿にどうやって付けるのですか?」
「え・・・・・・?」
¤ ¤ ¤ ¤ ¤
「アルヴィスく〜んv ピアスつけて〜〜〜vv」
「断る」
どごっ!!
あからさまに怪しいピアスを手に迫るファントムを、アルヴィスは13トーテムロッドで容赦なく突き飛ばした。
鳩尾に入ったらしくファントムが地面にへたり込む。見下ろす事もせず歩きかけ・・・
「なんでそんなに嫌がるんだい!? アルヴィスくんは僕の気持ちを受け取れないっていうのかい!?」
「当たり前だろ?」
しーん・・・・・・。
今度は精神攻撃だった。
果てるファントムを再び無視しアルヴィスは歩き出し・・・
「どうして!! 僕はこんなに本気なのに!!」
「ちなみにその『本気』とやらの成果として、
―――ピアスをつけるとどうなるんだ?」
「あのねv 君が僕を好きになるんだってvv」
「ふざけた妄想だ」
「即行否定!?
けどこれは本当にそうなるんだv 君の記憶をそうやって書き換えるからvv」
「ほう・・・?」
アルヴィスの目つきが変わった。
にっこり笑って、
「俺の記憶を書き換える? つまりそのピアスは、そんな事も出来るアームだと?」
「うんv」
「それで? お前はそんな風に俺を作り変えて満足だと?」
「うんv」
「ファントムv」
「うん?」
「今日限りでさようなら」
どごおおおおおおおおん・・・・・・・・・・・・!!!
13トーテムポールで天高く突き上げられ、ファントムは遠い空の星となった。
アルヴィスはファントムの落としたピアスを拾い、
「ファントムの事を〜、
―――忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる忘れる・・・・・・!!」
「申し訳ありませんでしたアルヴィス殿またファントム様が勝手に暴走して!! 2度とされないようきつく言いつけておきますからどお〜〜〜〜かそのような事はご勘弁を―――!!」
「放せペタ!! 俺はあの、人生最大の汚点を拭い去る事で平穏まっとうな暮らしをするんだ!!」
「そうしたいお気持ちはわかりますが、ここは1つ大人になって我慢なされるというのは如何でしょうか!? ファントム様も少々思考回路に問題があるだけで決して悪意はありませんから!!」
血涙を流して訴えるアルヴィスを、それ以上の切羽詰り振りで押さえ込むペタ。
なおもじたばたじたばた取っ組み合って、ようやくアルヴィスが大人しくなった。
「・・・・・・わかった。俺も大人になろう」
「そうですか!? じゃあ―――!!」
「ああ」
喜ぶペタに、ピアスとその大元である指輪のアームを渡し、
「代わりにファントムに付けといてくれ。もちろん記憶から俺を抹消して」
「は・・・?」
「二者択一だ。好きな方を選べ。
―――俺がアイツを忘れるか、アイツが俺を忘れるか」
¤ ¤ ¤ ¤ ¤
じゃあ頼んだぞと手を振るアルヴィスを見送り、
ペタは手に押し付けられたものを見つめ思った。
「・・・・・・いっそ私が付けたい」
―――了
―――名称不明の記憶を奪うアーム。こんなもの、ファントムなら絶対見逃さないと思うのですが。それともアンフェアな勝負は嫌って使いませんかね?
2006.6.22〜24