「偶然」 Whats “Chance”!?−







本編   「ことがら」The “Happening





 シズが運転席、キノが助手席、エルメスと陸が並んで後ろに座ったバギーは、その後何事もなく最も近い国へと辿り着いた。
 入国審査官を待つ間、エンジンを止めたシズが振り返り尋ねた。
 「ところでキノさん、エルメス君。キミたちはどのくらい滞在するんだい?」
 「3日―――といきたいところですが」
 「ちゃんと治してね」
 「はいはい。
  そんなワケでエルメスが治るまで、ですね」
 「そうか・・・・・・」
 「シズ様。シズ様は―――」
 「どうしようか。特に私たちに予定はない。さっさと出発するもいいし、ここで少し休むのもいい。休むと洩れなくヒマを持て余したキノさんから貴重な旅の話を聞かせてもらえる」
 「高くつきますよ?」
 茶化して言うシズに、さらに茶化してキノが笑う。なんとなく話の流れ上どちらに傾くか、陸にもおおむねの予想がつけられたところで。
 「今日は。我が国へようこそ」
 入国審査官らしき少女がにっこりと笑いかけてきた。
 気持ちの良いもてなしに、人間2人も笑顔でそちらを向く。
 向いて―――、
 「突然のことですが、あなた達はご夫婦でしょうか?」
  「「は・・・・・・?」」
 笑顔のまま、固まった。







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 「ええっと・・・・・・」
 「なんで、いきなり、夫婦・・・・・・?」
 なんとか立ち直ったらしい前の2人がオズオズと訊いた。後ろの1台と1匹は今だ固まったままである。
 そんな彼らの反応に、少女がきょとんと首を傾げる。
 「あれ? 違いましたか? それは申し訳ありません」
 「いや、それはいいのですが・・・・・・」
 「何でいきなりそんな事を訊いてきたんですか?」
 どう答えるべきかためらうシズを遮り、さらにキノが質問を重ねた。
 少女の笑みが、戻る。それもさらに華やかに。よくぞ訊いてくれました! と言いたげに。
 「この国では夫婦というものはとても神聖なものなんです。
  2人で完全なものとなり、本来神にしか為し得ない新たなる生命の創造という奇蹟を、神の代行として行う。これ以上に尊いものなどありますか!?」
 「結婚してなくても出来るんじゃ・・・・・・」
 言いかけたエルメスを、キノが後ろも見ず振った手でぶっ叩く。一応黙ったエルメス。幸い熱弁していた少女は一連のやり取りに気付かなかったようだ。
 「というわけで、この国では夫婦は最高にもてなすべき存在なんです」
 「最高に・・・・・・」
 「もてなす・・・・・・?」
 呟いたのは相棒と僕だった。当事者たちはもちろん、
  「「夫婦です」」
 口をそろえ―――それこそ夫婦のように―――頷いた。







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 「いい国ですね。料理もおいしいし見どころも多い。店は品揃えも豊富でしかも全部タダ
 ラスト7文字を殊更強調するキノ。
 「そうだな。いっそこの国にこのまま住み着くのも悪くないと思う」
 大きく頷き同意するシズ。
 「で・・・・・・」
 爽やかな笑顔を上―――天井に振り撒く2人にエルメスが尋ねた。
 「どうするの? コレ」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 言葉がぶっちりと途切れる。コレ・・・・・・宿に1部屋しか用意されなかった挙句その理由の象徴たる大きなベッドを見下ろし。
 「・・・・・・これはさすがに予想していなかったなあ」
 「よくよくあの審査官の言葉思い出せばこうなるのは当然だったか」
 「どうしましょうか?」
 「困ったな」
 先ほどまでとは一転、2人で重々しいため息をつく。
 「いっそもう1部屋取ったらいかがでしょう」
 「ダメだ陸。そんな事をすれば夫婦ではないとバレる」
 「いいじゃん。違うんだから」
 「エルメス、お前治して欲しくないのかい?」
 「さ〜張り切って夫婦を演じよう!」
 「バカ犬。あっさり乗せられんな」
 「何を〜!? 大体僕がこうなったのは一重にキノのせいなんだからキノが責任取ってどうにかするのが人としての正しい道ってもんだろ!?」
 「その理屈だったらシズ様に何も関係ないだろ!?」
 「『タダ』!! こんっっっな! いい言葉につられない人間なんているわけない!!
  という事はその理由を提供するキノは感謝されるべきであってつまりはお前のご主人様も付き合うのが当然だ!!」
 「エルメス・・・・・・。お前もしかしてボクの相棒になった事壮大に後悔してないか・・・・・・?」
 「何を〜〜〜!? シズ様がそんながめつくて卑しいみたいな言い方すんな!! シズ様に謝れ!!」
 「陸・・・・・・。お前の言葉が1番痛い私はもしかしなくともお前の主人失格か・・・・・・?」
 なおも当事者を無視し続けられる言い争いに、2人は改めて肺に入れた空気でため息をついた。
 「もう止めな。エルメス。それに陸君も」
 「そんなに騒いでいたらそれこそこれが偽装だとバレる」
 「む〜・・・・・・」
 「申し訳ありませんでした」
 項垂れる1台と1匹をぽんぽんと撫で、
 「まあ、さすがに部屋の中まで監視があるわけじゃないし、これだけ広いんだ。どうにかなるよ」
 「そうだな。ソファもあるし。キノさんはベッドで、そして私はソファで寝ればなんの問題もない」
 「それは悪いですよシズさん。ボクの方が体も小さいんだからソファで寝ますよ」
 「レディーファースト、だろ? それにせっかくタダでこんな豪勢な思いが出来るんだ。今の内に満喫しておかないと」
 「なるほど」
 あっさり納得するキノに、エルメスがぼそりと呟く。
 「キノはがめつい」
 ごん!
 何があったかはともかくとして、1度は納得しかけたキノが再び不満を露にした。
 「それならシズさんもでしょう?」
 強情なキノに、
 シズが頬を掻いて苦笑した。
 「ならこうしよう。以前私はキミに助けられた。そのお礼としてベッド占有権を受け取ってくれ」
 「助けた気はありませんよ? ボクはボクがしたい事をしただけですから」
 「如何なる動機であれ、結果的にキミは私がしたいと思っていた事をしてくれた。なら礼をするのは当然だろう?」
 「む〜・・・・・・」
 先程の相棒のように呻く。もしもエルメスに表情があったとしたらこのようにしていたのだろう。
 眉を寄せ、口を尖らせ暫し悩み―――
 「わかりました。ただし1日交代にしましょう。その理屈なら明日はボクがベッドに寝かせてもらったお礼。明後日はシズさんが―――というように」
 「なるほど。それは面白い提案だね」
 「でしょう?」
 「ならそれでいこうか。どちらの『礼』で終わるかはわからないけれど」
 「まあ余った側はまた次回返せばいいワケですし」
 一件落着。微笑み合う2人に。
 「2人とも強情すぎ。どっちでもいいじゃんそんなの」
 「お前だからそういうのは言うなよな!!」
 「何だよ! お前だって今そう思ってたんじゃないのか!?」
 「思うわけないだろ!? お前と一緒にすんな!!」
 「こっちだってお断りだ!!」
 「だからさエルメス―――」
 「陸、お前も―――」







・     ・     ・     ・     ・








 この国に滞在して何日経ったか。そろそろエルメスの修理も終わった辺りでそれは起こった。
 「―――ん?」
 深夜、部屋を取り囲む気配にシズはソファに寝転んだまま目を開けた。
 「シズ様・・・・・・」
 「わかってる」
 呟き、ソファ下―――陸のすぐ隣に寝かせておいた刀を手に取る。
 主人がいつ起きても邪魔にならないよう音もなく脇に移動する陸を見送り、
 「今日がソファでよかった。ベッドなら少し足場が悪い」
 「感謝がひとつ増えましたね」
 「全くだ」
 「明日もソファですか」
 「まあ仕方ないさ」







 「キノ、気付いてると思うけど」
 「気付いてるから言わなくていいよ」
 ベッド内で、キノが寝返りを打つ振りをして布団を一度軽く上げた。体には絡まっていない。これでいつでも転がり落ちれる。
 握っていた『カノン』。最小限の動作で弾の有無を確認する。昨日整備をしもちろん弾丸も入れたが、それが即座に確認出来ないならば自分は相当に寝ぼけていると言える。
 「起きてる?」
 「すっかりね。残念。せっかくベッドの日だったのに」
 「ケチがついたって文句言って明日もベッドにしてもらったら?」
 「あははっ。それは無理だね。どころか明日はちゃんと代わらなきゃ」
 「なんで?」
 「ソファだったら反動で体が痛かった」
 「さいで」







・     ・     ・     ・     ・








 扉を壊して入ってくる者。窓を蹴破り入ってくる者。
 一斉にベッドへ向かいかけ、しかし同時にソファにもある布団に怪訝な顔をして。
 一瞬遅れる反応。リーダーらしい最初に飛び込んできた者が、窓から来た者たちへ手でベッドを指し示す。そして自分たちドアから来た側はソファへ向かった。
 一瞬以上空いた時間。その間も―――特に何もされなかった。
 ベッドへ、ソファへ向かう男達。その手には武器と・・・・・・ロープと大きな布袋とさらには手の平サイズの綿を持っていた。
 合図で同時に布団を剥ぐ。現れた顔に綿を近づけ―――
  「「動かないで下さい」」
 キノとシズは持っていたものを額と喉元へ当て、同時に脅迫した。
 「何の、御用でしょうか?」
 「見たところ、私たちを殺しに来たようではないようですが」
 自分に迫る死の恐怖に、綿を持つ手が2人の顔
10cmで止まる。そこから流れるクロロホルムの臭い。寝かせてから殺すような嗜虐的思考があるならともかく、それ以外ならとりあえずは殺さないのだろう。
 息を、吐く事だけに費やす。長く続ければ窒息死か、そんな全く緊張感のない事を考えるのも2人同時だった。
 沈黙は意外と短く。
 「やれ!!」
 リーダーの言葉に、命も惜しまず襲撃者が動き出した。額に大穴を開けながらキノの顔へ、喉に刃を貫かせながらシズの顔へ、綿を届ける。
 が、それは目的地に届く事無く。
 一撃を加えた後、2人は布団にくるまり直していた。綿が布団に当たる。
 妙な行動に戸惑う一同を他所に、
 くるまったままキノはベッドから、シズはソファから転がり落ちた。
 「『もてなし』にはこんなものも入ってるのか?」
 立ち上がりつつシズのからかいの一言。している間にキノはエルメスのエンジンをかけた。
 「乗ってください!」
  「「いやさすがに無理だから」」
 手を差し出すキノへと、エルメスとシズが冷静に突っ込む。
 「・・・・・・・・・・・・」
 周り全てを無視して黙りこくるキノ。どう対応したらいいのか困る襲撃者たち。
 一瞬空いた時間に。
 「キノさんとエルメス君は撹乱させつつドアから出てくれ。私たちは窓から出る」
 「はい!」
 「りょーかい」
 前と後ろを指差し、シズが的確な指示を出す。対応法を見つけドアと窓に集中する襲撃者たちを見て、
 追われる2人と1台と1匹は横にあった隣の部屋へと向かった。
 「何っ!?」
 「しまった! 騙された!!」
 「追え追えー!!」
 などとしている間にも隣の部屋のドアと窓から出る彼ら。キノはエルメスを、シズは荷物を適当な場所に隠し、再び合流する。
 「どういう事でしょうね?」
 「『夫婦は神聖なもの』。ならそれを狙うのは悪魔の仕業さ」
 茶化すシズに、クレームがかけられた。
 「違います!」
 「あれ?」
 「あなたは・・・・・・」
 見覚えのある顔に、2人が瞬きする。入国時にいた審査官の少女。ただしその時持っていたのは入国用の書類でありパースエイダーなどではなかったが。
 「なら、なんなのかな。殺される前にぜひとも自分がそうされる理由を知りたい」
 「殺されるんじゃありません。捧げられるんです」
 シズの言葉に少女があっさり乗る。挑発に乗ったようでもあり、時間稼ぎでもあり。
 自分達の周りを取り巻こうとする気配を感じながら、シズは悠々と会話を促した。キノも止めない。
 「言ったでしょう? 『夫婦は神聖なものだ』って。
  私たちの国の神は、民に恵みをもたらす代わりに最も恵まれた存在―――夫婦を求めます」
 「なるほど。たとえ神とはいえ一方的に尽くしてはくれない。当然の反応だな」
 「神を愚弄しないで下さい」
 「愚弄なんてしてないさ。むしろ同意してる。
  私が愚弄しているのはここの民だ。恵をもたらされているのならなぜ自分達の中から生贄を差し出さない?
  それこそ一方的じゃないか? 神は一方的に民に恵みを与え、そして旅人は一方的に生贄として差し出される」
 「『最高にもてなす』と言ったじゃないですか、旅人さん。この国では神に差し出される事が最高の事なんです」
 「残念だけど、この国の民じゃない私たちにはその思想はわからない」
 「だからわかりやすい形で尽くしたでしょ? あなたの言い方を返すなら、尽くしたんだからそれなりのものを返して下さい」
 「なるほど。ならひとつ訊いていいかい?
  『この国では神に差し出される事が最高の事だ』。なら旅人などにその栄誉を与えず自分達でやればいいんじゃないのか? せっかくの『最高の事』だろう? 勿体無い」
 シズの痛烈な皮肉に、しかしながら少女は笑みで答えた。最初に見た気持ちのよい笑みではない。何よりもそれを見て、シズが顔をしかめた。
 「私たちは神のお創りになられた存在です。自分の作ったものを返されたら不快でしょ?」
 「確かに。理屈は合うな」
 「同意してくれました? なら―――」
 「納得はした。ただし賛成はしていない。
  ―――キノさんは?」
 「ボクも同じく」
 言いながら『森の人』を撃つ。割と遠くから現れようとしていた人を撃った。
 「このっ・・・・・・!!」
 さらになだれ込もうとした数人を撃つ。キノの背中を狙った少女の弾丸はシズが刀で弾いた。
 キノと少女、弾切れは少女の方が遥かに早かった。
 急いで弾倉を替えようとする―――より早く、詰め寄ったシズが少女の眉間に刃を突きつけた。殺せはしない場所。ただし圧迫感を与えるには丁度いい場所。
 だが、顔数ミリ前に刃先のある状態で少女はむしろ冷静になった。極限状態での冷静さ。あまりいい兆候ではない。
 「殺しますか、私を?
  ムダですよ。たとえ盾として取ったとしてもみんなの動きは止まりません。あなた達は神に捧げられ、それで終わりです」
 「だろうな。さっきそれはよくわかった」
 勝ち誇って言う少女に、シズがひとつ頷く。
 「でしたら降参なさってください。捧げものは傷付けたくありません。なるべくならば」
 「最後の一言が本音だと受け取っておくよ。悲しいけれど」
 「殺しはしません。これは約束します。神が欲しいのは―――」
 「命だから、か。確かに死体なら夫婦だろうとそうだろうと構わないだろうな。
  ところで取り囲んだ割に攻めるのが遅いな」
 淡々と続けられていた言葉が、僅かに浮く。からかいの口調へ。
 少女は気付かない。
 「そんなに焦らないで下さい。どうせあなた達は袋のネズミです。上手く逃げたつもりでしょうが、この先は行き止まりです」
 「なるほど。
  ところで・・・・・・『袋のネズミ』って、別の言い方知ってるか?」
 「なんのタワゴトを―――」
 「『篭城』っていうのさ」
 言う最中にも、キノが一発撃つ。狭い裏通りへ、それでも無理矢理入って来ようとした者がまた撃たれた。
 「入って来た時の様子といい、どうやら多少は慣れているようだったけど―――あくまで油断をした相手を襲うことにだけだったらしいな」
 肩を竦めるシズへ、少女が怒りで黒くなった顔を向けた。
 「ハッ! だからといっていつまでもは持たないでしょ? たった2人。しかも見たところあなたは銃を持っていないようだし。
  荷物もないんじゃ弾切れも時間の問題でしょ!?」
 唾と共に吐き散らされる理論。息を吐いたのはシズだけではなくキノもだった。呆れたから、ではない。単純に感心した。その感嘆のため息。
 「意外と状況をよく見てる」
 「彼女が審査官な理由がよくわかったよ」
 「なら―――!!」
 「ところでキミに―――キミらに一言言っておく事がある。正確には謝る事が。
  ―――キノさん、いいかな?」
 憤る少女をまたも遮る。問われ、キノが一瞬だけ目を細めた。
 物欲しげな、凄く惜しげな目を、それでも逸らし呟く。
 「仕方ないですよ。この状況じゃ。
  ―――ああ、費用は割り勘ですよね?」
 この場にエルメスがいたならば間違いなくまたキノはがめつい、と呟いていただろう。
 「襲われた迷惑料として払わないで済まないかな」
 「シズ様、それはさすがに無理ではないかと」
 こちらはしっかりと突っ込まれた。
 「仕方ないか。罪で言うならまずこちらが詐欺罪だ。裁く法律がこの国にあるかはともかくとして」
 「何の、話を・・・・・・」
 一応訊きつつも、少女も悟ったのだろう。顔に初めて動揺が浮かぶ。
 「先に訊いておきたいんだが、今日いきなり襲ってきたからには今日何かがあるのか?」
 「今日が―――今夜が、供物を捧げる日よ。出来なければ今年1年恵はなくなりこの国は災いに見舞われる。だからみんな必死であなた達を捕らえようとしているのよ」
 「それでこの有様、ですか」
 キノが弾倉を交換しつつ会話に乱入してくる。
10人撃った計算。最初に2人が殺した分を入れるとこれで12人か。
 それでもまだ諦めようとしない人たちにも聞こえるよう、シズが大声を張り上げた。刀を捨て片手を自分の胸元へ、片手でキノを指し示し。
 「全員よく聞け! 私とキノさんは夫婦じゃない。赤の他人だ」
 さらにキノが一発。
 「何を今更見え透いたウソを・・・・・・」
 呟く少女は無視し、襲撃者らのいる方へと呼びかける。
 「直接宿へと攻めてきた者なら見ただろう? 私とキノさんはソファとベッド、と離れて寝ていた。夫婦でない最大の証拠だ。
  その状態でどうやって『新たなる生命の創造』などという現象を起こす?」
 銃声が、止まった。
 ざわめきが広がる。
 「さあ、どうする? まだ私たちを無駄に狙うか?
  今夜中が期限なら、そんな不毛な事をしている間にもっと建設的な案を出したらどうだ?」
 シズの言葉に―――
 2人を捕らえようとしていた者は、一斉にそのための武器を互いへと向けた。







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 「お帰り、キノ」
 「ただいまエルメス」
 「五体満足だね。ノシも付けられてないね。その様子じゃ捧げられ損ねた?」
 「まあ、ね」
 そこかしこに散乱した死体を踏み越え隠しておいたエルメスと合流。やはりこちらも荷物を見つけ、バギーに乗ってシズと陸がやってくる。
 「供物を捧げられなければ今年1年恵はなくなりこの国は災いに見舞われる、か・・・・・・。
  どうやらこの言い伝えは本当のようだね。『今年1年』で済むかはともかくとして」
 バギーを取りに行きがてらいろいろ見てきたらしい。国中の惨事を、シズは皮肉も何も込めずに評価した。
 「だからこそ信じたんじゃないですか?」
 「信仰するもののない私にはやはりよくわからない」
 「奇遇ですね。ボクもです」
 言い、生存者2名が顔を見合わせ笑った。
 「でも、本当に夫婦だったら大変だったね」
 「2人手を取り壮絶に戦死などしてみました? それとも壮大に崇められて供物とでもなってみました?」
 「どちらも断りたいところだね。手を取ると刀が使い辛い。人に注目されるのはあまり好きじゃない」
 「そうですね。ボクもです」
 やはり笑う。その隣では、
 「あ〜キノがこんなバカ犬のご主人様となんて結婚しなくてよかった。ホントにすんじゃないかってハラハラしてたよ」
 「ふん。こっちこそこんなポンコツと一緒にならずにすんだってホッとしてるさ」
 「お前こそよかったな。結婚してたら捨てられてたぞ」
 「捨てられてたのはお前だろ? そんなポンコツぶり発揮するモトラドじゃ安心して新婚生活も送れやしない」
 「姑かぶりのバカ犬にきゃんきゃん吠えられるよりはマシだね」
 「まともに働けもしない乗り物如きにぶーぶー文句垂れられる方が遥かに嫌だな」
 「何だと・・・・・・!?」
 「やるか・・・・・・!?」
 「お止め、陸」
 「お前もだよ、エルメス」
 「申し訳ありませんでした」
 「だからキノぉ―――!!」
 ごん!



 今日もまた、その地にはモトラドとバギーの走る音、それとその他諸々が響き渡った。



















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 はい。なんだかプロローグから時間かかりすぎです。キノとシズの(エセ)結婚。春日嬢にこのネタを一足先に口で言ったところ、「結婚? 2人が? するの?」と当然の反応を返されてみました。エセですのでおっけーです(暴言)。そんなエセ結婚ネタのみはあったのですが、それでなぜ殺されかけるのかその辺りの話題設定が出来ていませんでした。いやあ、勢いのみの話というのは恐ろしい・・・・・・(口語訳:話は一度まとめてから書け)。
 では残すはエピローグ。プロローグ同様ちょびっとしかないのでひとつにまとめて全く差し支えありませんが、やはりキノの旅というとプロローグとエピローグがついてなんぼのモンかと。本気でそんな理由で分かれています。


2004.3.44.7