〜1月7日は七草粥〜
梅干し争奪 白鍋Battle!
あらすじ
お正月いろいろと疲れた(であろう)一同をねぎらう意味で、七草粥(既製品。ご飯と混ぜるだけ)を作ってきた管理人。
ところが梅干しを補充し忘れたおかげで梅干しは残り1つ。
梅干1個。お粥は21人分。
21等分すれば間違いなくお粥の味に負ける――というか梅干の味は全く感じられないまま終わる。
さあ、どうする!?
不二:「じゃあこういうのでどうかなあ?」
いつもの笑みとともに放たれた不二の提案。それが全員の運命を変えたのだった・・・・・・。
● ● ● ● ●
「で、どんなの・・・?」
心底嫌そうに英二が尋ねた。なんとなく不二の案で―――というか不二といて良い思いをしたことがないような・・・・・・。
「闇鍋の応用でさ、最初に分配せず1つの鍋から全員が順番にとっていくの。梅干しは中にあらかじめ入れておいて取った人がラッキー、という事で。
そしたら当たった人は1つ丸ごと食べられるし、これなら公平でしょ?」
「確かに。それなら文句はつけられねーよなー」
八神太一が頷き、
「そうだね。それにお粥は白色だからわざわざ暗くしなくても見えないし。
じゃあ1人お玉1杯ずつ。1回鍋の中に入れたらかき回すのは禁止でそのまま掬い上げる。1杯全部食べられなければ次取るのは禁止。また本人自らの辞退及び意識喪失によって失格とする。
こんなんでどう?」
烈もまた不思議な同意をした。
「なんだよその妙なルール?」
さすがに聞いていた豪が首をかしげた。
そんな彼に烈は朗らかに笑い、
「やだなあ。このメンツで普通に事態が進行するわけないだろ?」
「そうそうv」
『はい・・・・・・?』
さらに笑顔の提案者不二。つまりはそれを前提に提案したというわけか・・・!
硬直するみんなの耳に2人がハモりが届いた。それはそれは聞くことを永遠に拒否したかった素敵な言葉が。
「「もちろん妨害はおっけー、ということでv」」
『・・・・・・・・・・・・』
「へえ。面白そう(Byミハエル)」
「あ、俺別に梅干なくていいや(By豪。冷や汗を流して)」
「え? 豪、お前いつも梅干し入れてるだろ? そんな遠慮するなよv(By烈)」
「いやだああああああ!!!(By豪。ずるずるという音を響かせつつ)」
「俺も別にいいか・・・(Byヤマト)」
「太一さん、これで決着つけようか・・・?(Byタケル)」
「うっしゃ。その勝負乗った!!(By太一)」
「? ま、まあ頑張れよ・・・・・・(Byヤマト。2人の間に飛び散る火花に眉を寄せつつ)」
「俺は別に梅干しがなくても構わないが(By手塚)」
「ああ、俺も・・・・・・(By大石。微妙な空白をつくりつつ)」
「俺も別にいいっスよ(By桃。視線を逸らして)」
「梅干し欲しい・・・・・・(Byリョーマ)」
「梅干しは別にいいが、この勝負はぜひデータに取るべきだな(By乾。当然のごとノート片手に)」
「お、俺、やっぱいいや・・・(By英二。そそくさと立ち去ろうとして)」
「やだなあ英二v 君梅干しあるって聞いて喜んでじゃないvv(By不二。英二の襟首をがっしと掴んで)」
「にゃあああああああ・・・!!!(By英二)」
「お、俺なんか嫌な予感するから帰る・・・・・・(By神尾)」
「アキラ梅干し好きじゃない。それにせっかくの休みにわざわざ呼び出されたんだから食事ぐらいしなきゃ損でしょ?(By深司。逃げようとする神尾にぼやきつつラリアットをかける)」
「ぐはっ!!!(By神尾)」
「俺もなんか調子悪くなったみたいなので早退させて―――(By裕太)」
「裕太君。せっかくの招待を辞退したのでは相手の方に失礼ですよ(By観月)」
「そうそう裕太v せっかく呼ばれたんだからvvv(By不二)」
「ぐ・・・!!(By裕太。木更津の方を目で伺って)」
「一応その2人の言い分も合ってるんじゃないかな?(By木更津)」
「・・・木更津さんもそういうなら・・・(By裕太。かなり悩んで)」
「ああ、僕は別に梅干しいらないから(By木更津。あっさりそういうと輪から離れていく)」
「え? ちょ・・・!!!(By裕太)」
「じゃあ裕太v 一緒に食べようかvv(By不二。がっしりと裕太の左腕を組んで)」
「一度言った以上もちろん食べますよね?」(By観月。負けずと裕太の右腕を掴んで)」
「木更津さ〜〜〜ん・・・!!!(By裕太。恨みがましい声がいつまでも続く・・・)」
「う〜ん梅干し。ちょっと欲しいな〜(By千石)」
「『取った人がラッキー』につられたんじゃないっスか? ちなみに俺はもちろん普通にしか食べませんけど(By室町)」
「ええ〜!! 室町先輩、そんな事言わないで一緒に食べましょうよ〜!!(By太一)」
「断る(By室町)」
そんなこんなで・・・・・・
参加者:烈・豪・ミハエル・太一・タケル・リョーマ・不二・英二・神尾・深司・裕太・観月・千石・壇太一の14名
傍観者(梅干しなし):ヤマト・手塚・大石・桃・乾・木更津・室町の7名
彼らによる果てないバトルの火蓋はいよいよ切って落とされたのだった!
● ● ● ● ●
1番手―――(じゃんけんの結果)千石
ルールどおりじゃぽんとお玉を土鍋の中に(雰囲気作りのため土鍋に変更)漬け込みそのまま持ち上げる。中にあるのは真っ白なご飯。ところどころに緑色の七草がある。
はくっ!
「―――あ、おいしい」
『何!?』
その言葉に座ったまま後ずさりしたのは前々回、大晦日に手伝わされた内の不二除く9人。
「あの管理人が・・・・・・!」
「おいしい料理を作った・・・・・・!?」
すかこけーん!
驚愕した全員の頭をどこかから飛来したお玉が直撃する。
「・・・・・・。とりあえずそっちの問題はおいておくとして」
いち早く立ち直った烈が頭をさすりつつ千石のほうを見る。ちなみに他のみんなは、今だにこの謎の事態に首を傾げていたりするが。
「で、梅干しは?」
「う〜ん残念。入ってなかったよ」
「残念無念また来週〜♪」
踊りながら喜ぶ英二。たとえ不可抗力で無理やり参加させられていようとやるからにはぜひ梅干しが欲しい! 彼含め最早この場にいた全員がそう思っていた。
2番手―――八神太一
どきどきどきどき・・・・・・
ごくっ・・・
とりあえずこのお粥が普通の味であることは証明された。が、だからといって安心材料にはならない。なにせ妨害OK。ならばタケルはいつ仕掛けてくるのか!?
そんな緊張感を身に纏わせ、無駄とは知りつつも太一は細心の注意を払ってお玉を鍋に入れた。
掬い上がったものを自分の碗に入れ、一気にかっ込む!
「辛〜〜〜〜〜!!!!!!!」
どたばたどたばた!!!
叫ぶなり立ち上がり洗面所へ駆け込む。咳き込む音が暫しして―――
「―――てめータケル!! よくもやりやがったな!!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ太一さん! 1ターン目は様子見にしようと思って僕まだ何もしてないよ!?」
「信じられるか!!」
「大体僕太一さんのすぐ後なんだよ!? そんな事やって僕が当たったらどうするのさ!! 第一僕はまだ鍋に触れてすらいないんだよ!?」
その言葉に―――はっと2人で気付いた。
「どうやら―――」
「妨害しあってるのは僕たちだけじゃない・・・・・・」
不信気な眼差しで辺りを見回す。火花を飛ばす者、今の様子を見て青褪める者、そして―――
「どうやら大丈夫みたいだね」
「じゃあ続けよっか」
そして―――笑顔を全く崩さない者達。
『・・・・・・・・・・・・』
緊迫感が辺りを包み込む。そんな中で―――
「次はタケル君だよ」
はい、と笑ってお玉を差し出すミハエル。彼の言葉でバトルは再開された。
3番手―――タケル
(つまりは潰し合いはもう始まってるわけだね。じゃあこの1ターン目で全員を潰せば必然的にラストに残った僕の勝ちになるわけか・・・・・・)
などと計算するタケル。彼の頭にはもちろんもう梅干しのことなど残ってはいなかった。
全員の死角になるよう袖口から謎の液体を取り出し、注ぎ込もうとして―――
「早くv 早くv」
横から飛んだ不二のクレーム(?)に、入れることを断念した。
(ま、いっか。食べ終わってからの方が安全だし)
と、そう考え1杯目を口にし―――
「ぐ・・・・・・!!!?」
そのまま意識喪失にてリタイアとなった。
「あ〜あ。1口で倒れちゃったみたいだけど、誰か薬とか入れてないよね?」
(お前が一番入れそうなんじゃねーか・・・)
倒れたタケルを見下ろし苦笑する烈に、傍観者含めその他全員(ただしお正月百人一首騒ぎを知らない不動峰の2人は除く)が心の中でツッ込んだ。こういったことにおいて、最も危険な人物は烈と不二である―――前回の暴動よりそれが全員の心に刻まれた教訓だった。
「じゃあ次行こっか」
もう1人の要注意人物、不二の言葉によりますます緊迫感は高まった・・・。
4番手―――ミハエル
「いただきま〜すv」
初経験の七草粥に、笑顔でレンゲを手にするミハエル。そのままためらいなく口にして―――・・・・・・
「ねえ・・・」
「ん?」
「一応訊いておくけど―――これを日本ではみんな食べてるなんて事、ないよねえ・・・?」
「ああ。もちろん違うよ。というかこのメンツでされた事が一般で通用するとは絶対に思わないほうがいいよ」
「そう、よかった・・・・・・」
烈の言葉に安心し―――ミハエルはレンゲを落とすとその場に横に倒れた。
「よかったねミハエル君。間違った常識身に付けずに済んでv」
((鬼だ・・・・・・))
5番手―――英二
(ゔゔゔゔゔ〜!!! どっか安全なトコってにゃいの!? てゆ〜かいついろいろ入れられたワケ?)
嘆く英二の言葉は最もであった。管理人が鍋を持ってきて以来常に全員の目が鍋を向いていた。不二の提案はその途中から。第一梅干しがなかったことなど管理人以外が知るわけがない。
(――ってことはまさか、管理人が!?)
考えていけば自然とたどり着く結論だが、英二は即座に却下した。理由はそんなことをする理由がないから―――ではなく・・・
(だったらわざわざヘンなモン入れるわけないか。そのまま作れば全員倒れるし)
それは前々回で証明済みだ。全員を倒したいのなら七草粥の素など使わず実際作ればいいのだから。なにせそばをゆでて汁を味付けするだけで不二除く全員を倒した強者なのだから。ここの管理人は!
(じゃあ、やっぱ不二の黒魔術とか・・・・・・!!!)
十二分―――いや乾風に言うならば100%か―――有り得る事だ。
涙混じりにお玉を握る。参加してしまった以上もう抜け出せはしない。
(そんなことしたら不二が不二が不二が〜〜〜!!!)
はくっ! とヤケクソ気味にレンゲを口の中へ入れ―――
「不二のばかやろーーー!!!!!!!」
叫んでそのまま退場となった。
6番手―――豪
(兄貴か? 不二か? 誰だ、一番の敵は・・・・・・)
他の人が次々リタイアする中周りを探っていた彼だが、ついにそんな彼にも番が来てしまった。
(落ち着け。自分の勘を信じろ。今までそうやって来たじゃねーか・・・!!!)
豪にとって勘というのは最早、ただの当てにならない代物ではない。自分とともに在り、そして何度も自分を助けてくれた大切な感覚である―――事によっては他の五感よりも重視されるほどの。
(おし! ここだ!!)
見極め、お玉で勢いよく掬い入れ―――
「ぐがふぅっ!!!」
一気にかっ込むと妙な声と共に口を抑え、そのまま洗面所へと全力疾走していった。どうやらさすがの彼の勘も、更に強力な力の前には全くもって役に立たないらしい。
―――いや、まだ洗面所へ走り込む余裕が残されていただけ、彼の勘は働いていたのかもしれないが。
「アイツでも駄目か・・・・・・」
走り去っていった豪を見送り、ぼそりと呟く烈。その言葉に、
((つまりは完全運任せ・・・・・・?))
今までで唯一無事だった千石―――『ラッキー千石』を、全員が羨ましげに眺めた・・・・・・。
7番手――深司
「なんかいろいろ騒いでるけどさあ・・・・・・そんな事やってないで早く回して欲しいよね・・・・・・。ただでさえ無理矢理つれて来られたんだしその上食事も待たされるってどういう事・・・? 大体これも全部やらせじゃないの・・・? みんなでグルになってさあ・・・・・・」
などといつもの如くボヤきつつためらいなく碗にお粥を注ぎ込む深司。彼の突然のボヤキに周りがあっけに取られている間にも淀みない動作でレンゲを取る。
さすがに食べる最中は静かだったが・・・・・・。
「―――ホラやっぱやらせだったじゃん。だから言ったでしょ―――」
『えええええええ!!?』
平然としている深司に全員が詰めよる。そんな中で、神尾はふと思い出した。
(待てよ、そういや深司って・・・・・・)
青学に不二のような存在が、そしてルドルフに木更津のような存在がいるように、ここ不動峰にもやはりそんな存在がいた。即ち―――味覚異常者。
「意外と当たり率が高い・・・・・・?」
「じゃあもしかしたら―――!!」
―――などと希望を持つ他の人々には絶対言えない事だが。
8番手―――神尾
今の深司の言葉でこのお粥はまずいと証明された。それが妨害の成果なのかなんなのかはわからないが、もしかしたら先程やはりおいしいと言った千石もまた味覚異常者なのかもしれない。
出来ることなら思いっきり拒否したいが隣に座る深司の目が怖い。後々の深司の『仕返し』を考えればどんなにマズかろうと食べた方が遥かにマシ、といったものである。
「よし! いくぜ!!」
かなりヤケクソで気合を入れて、一気にかっ込みそのまま何も言えずに倒れこむ!
ぴくぴくと痙攣しつつ、とりあえずこれで深司の『仕返し』は免れた、とほっとする神尾であった・・・・・・。
9番手―――裕太
(ついに来ちまったか・・・・・・)
深く深くため息をついて裕太がお玉を手に取った。安全な所はどこか―――そんな事を考えるのはあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。
(何せ相手は観月さんに烈、それになんと言っても兄貴・・・・・・!!!)
観月の計算高さについてはもちろん知っている。烈とはこの正月会ったばかりだが、恐ろしく自分の兄を彷彿とさせる性格の持ち主である彼の事だ。やる事も間違いなく兄と同じ。
そしてこの兄。兄の手にかかって今まで自分が無事だった試しは、記憶する限り1度たりともない。
この3人が一緒なのだ。どんな陰険・陰惨な罠が待ち受けているのか! なんにしても自分には絶対勝機はない!!
―――そんな後ろ向きな悟りを開くと、裕太は決心してお粥を掬い取った。見た目は普通の七草粥だ。真っ白なとろとろご飯。所々に緑の七草。
レンゲにはふはふと息を吹きかけ、口に流し入れる。
「ぐ!!!」
攻撃は実に鮮やかだった。僅か1口。しかもまだ口を閉じてすらいない。
(さ、さすが・・・・・・)
誰への賞賛なのかわけがわからなかったが、とりあえず悟りを開いた成果として静かにその不条理な事実を受け止め―――
裕太はそのまま机に突っ伏した。
10番手―――観月
(んふっ。これで効果は実証されましたね・・・・・・)
倒れた裕太を見下ろし、観月は僅かに口の端を上げた。次にお粥を食べる不二用に、ちょっとしたものを入れておいたのだが・・・・・・。七草そっくりのそれに裕太は全く気付かなかった。不二が気付かない可能性もこれで高まったと言うわけだ。
「では僕は―――」
と、何事もないように入れたお玉の上に―――
どぼどぼどぼどぼ
白い、一見牛乳状の液体が注ぎ込まれた。
「―――何をするんですか貴方は!!」
一瞬あっけに取られつつも、即座に犯人を察しお玉を鍋の中に残し立ち上がる観月。その隣では・・・。
「あ、コレ? 乾から。滋養強壮にいいんだってvv」
そう言い不二がにっこりと笑った。右手は今だコップを鍋の上に(正確にはお玉の上に)逆さまにした状態で。
「そんなあからさまな妨害をして許されると思ってるんですか!?」
「妨害? やだなあ。僕は正月も君は何かと疲れただろうなあって思って入れただけだけど?」
((嘘だ・・・。ぜったい、嘘だ・・・・・・))
意識喪失者を除きその場にいた者全員の心が今1つになった。
「ところで―――」
笑みのままお玉を指差す不二。当然の事ながらお玉はまだ鍋の中にあり・・・・・・。
「ルールでは確か『1回鍋の中に入れたらかき回すのは禁止でそのまま掬い上げる』だよね?」
「ぐ・・・!」
その言葉に観月が詰まった。確かに最初のルール決めではそういった事も含まれていた。
鍋を見る。不二によって入れられた真っ白な液体は完全にお粥と混ざってしまったようだが、それでもお玉の上に大量に残っているであろう事は容易に想像がつく。
「じゃあ頑張ってねvv」
歯軋りをしてお玉の中身を碗に取り―――
「憶えていてくださいね、不二周助。この敵は必ず取りますよ・・・・・・!!」
そんな言葉とともに観月は没した。
「負け犬の遠吠えだね」
「やはりお粥に混ぜたのが悪かったのか・・・?」
そんな観月を見下ろし―――
不二はくす、と笑い、そして彼の後ろでは傍観者であった乾がノート片手にぶつぶつ呟いていた・・・・・・。
11番手――不二・・・?
「あ、ちょっとゴメン」
『?』
「お手洗い行きたくなっちゃった。僕飛ばして先やっててくれない?」
『・・・・・・・・・・・・』
そんな言葉を残し本当に部屋を出て行ってしまった不二を、残った6人が眺め―――
「―――じゃあ不二君は飛ばして、次のリョーマ君行こっか?」
「続けるワケ? 戻ってくるまで待った方がいいんじゃないの?」
「そーだそーだ。じゃないと不公平になるだろうが」
あっさり続けようとした烈にリョーマと太一が反対した。普通に考えればそうなるのだが・・・・・・
「1ターン目での生き残りが複数いる以上絶対2ターン目に突入するわけでしょ? だったら1ターン目が終わったところで止めておいて、最後に不二君が食べれば不公平じゃないんじゃないかな?」
「で、それまでに戻ってこなかったら?」
千石も尋ねる。1ターン目は不二除いてあと3人で終わる。それまでに不二が戻って来ない場合も充分考えられるわけで。
「それだったらもう失格にして次に行くしかないでしょ。それくらいは不二君もわかってると思うよ」
「なら、仕方ねーか」
「じゃあ次はリョーマ君ね」
繰り上げ11番手―――リョーマ
(梅干し梅干し梅干し・・・・・・・・・)
和食好きの彼にとって今回の企画―――白鍋バトルではなく七草粥ご馳走の方―――は魅力的なものだった。なにせ母親は洋食好き。今朝もお粥こそ食べてきたもののそれは日本の七草粥ではなく、(これはイタリア風だが)ミルクリゾットだった。
七草粥に梅干し。日本食のど真ん中を貫くようなこのメニューを彼が見逃すわけはなかった。
変なバトルは無視して、握り拳でお粥を掬い入れるリョーマ。裕太同様レンゲに息を吹きかけ―――
「ゔ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
洗面所に駆け込みながら、少し和食が嫌いになるリョーマであった・・・・・・。
繰り上げ12番手―――壇太一
「行きますです!!!」
「てお〜い壇君。そこまで気合入れることなくない?」
気合満タンで目を見開く太一に、気の抜けるような千石の声がかかる。が、
「何言ってるんですか千石先輩! 気合は大事です!!」
((それはそうだろう・・・・・・))
と賛成する傍観者一同。自分達はアレを食べてはいないが、最早気合でも入れなければ食べられそうにない代物であることは容易に想像がついた。
「では!!!」
その気合いのまま碗の中のお粥を一気に喉に流し込み―――
「熱〜〜〜〜〜〜〜!!!」
喉をかきむしって洗面所へやはり走っていく太一。
「―――まあいくら火から下ろしたとはいえ、土鍋のど真ん中に入ってればまだ熱いだろうね」
入れ違いに戻ってきた不二が、目を点にする一同に親切に解説した。
これで残るは烈・八神太一・不二・深司・千石の5人。
「いよいよこれから、だね・・・・・・」
誰が言ったかわからないが、その言葉に全員が唾を呑み込んだ。
● ● ● ● ●
2ターン目、3ターン目、4ターン目と続く勝負にて。
1ターン目はかろうじて難を免れた太一も2ターン目で引っかかり、運で災難を避けていた千石もさすがに3ターン目にはぶち当たり、そして深司は4杯食べたところでお腹いっぱいだからと帰ってしまった。
5ターン目を迎え、残るは根性とプライドだけで手の震えを押さえ込んでいる烈と、笑顔ながら1口食べる度眉間に皺が寄るのを何とか隠そうとする不二のみとなった。
「―――ねえ」
「何?」
不二が残り少なくなった鍋からお粥を1杯取ったところで、烈が声をかけた。
「思ったんだけど―――訊いていい?」
「いいけど・・・?」
「最初に気付くべきだったって思うんだけど―――」
そう前置きして尋ねる。出来れば知りたくなかった事実について。
「君・・・何か入れた?」
「さっきの乾汁以外は何も」
「うん。僕も何も入れてないんだよね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
笑顔のまま、数分が過ぎた。
よくよく考えてみれば当り前なのだが、七草粥を出されたのはついさっき。それまで『な』の字すら聞いていなかった。その上梅干しがないと知ったのはもっと後だし、さらにこんなバトルをやるなどと想像できるわけがない。
―――つまりこの時点で妨害できる『何か』を持っている方がおかしいのだ。
「乾―――はまあいつものことだからいいとして」
「観月君は・・・・・・もしかしたらこの案がなかったら自分で出すつもりだったのかな? 七草粥」
「あとはタケル君か・・・・・・」
「そういえば彼なんで持ってたんだろう・・・・・・?」
実はこの2人、妨害そのものこそしていないとはいえ、他人の行為については目を光らせていた。そこからして『何か』を持っていたのはこの3人。そして実際入れたのは内2人(ただし1人は本人以外が入れたが)。
「つまり裕太君が食べるまで誰も何もいれてなかった、っていう事だよね?」
「それまでに食べたのは8人。倒れたのは6人だけど八神太一君も何かに引っかかった」
「「と、いう事は・・・・・・・・・・・・」」
ふと、周りを見回す。倒れた参加者たち。そして同じく倒れた傍観者たち。
『・・・・・・・・・・・・』
笑顔のまま、固まる。もちろん傍観者たちは普通に七草粥を食べた。これに何かが加えられたわけがない。
だとすれば可能性は1つ。
「つまりは管理人の料理ベタは筋金入り、と・・・・・・」
「越前君以上だね。ここまで凄い人は見た事がないよ」
混ぜるだけだ。既製品なのだから―――いや、厳密には違うが、ご飯と混ぜて火にかけるだけならばそう呼んでも誤りではない筈だ。味付けすらしなくていいのだから。
「くす・・・。みんなどうしたんだろうね・・・・・・」
「だがこれはこれで極めて珍しい事態だ。ぜひデータに取らなければ」
不二・伊武同様味覚異常者の木更津と、データ取りに夢中になってまだ1口も食べていない乾のみ残ったのだ。間違いはないだろう。
「・・・・・・あ」
「どうしたの?」
「梅干し、入ってた・・・・・・」
レンゲに赤いものを乗せ呟く不二。そういえばそもそもこのバトルは梅干し争奪戦だった。
クス・・・・・・
「半分いる?」
「いいの?」
「1/2なら充分楽しめるでしょ? けっこう大きめだし」
「じゃあお言葉に甘えて」
死屍累々と横たわる犠牲者たちの中、なぜかこたつで鍋を囲むその近辺のみ穏やかな空気が流れていた・・・・・・。
―――(誰がなんと言おうと)fin
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
ふ〜。よ〜やっくUpされました七草粥話。遅くなってしまって申し訳ありません!!!
しっかしなんだかなあ・・・。自分でまいた種とはいえ知らない間に相当の料理オンチになってるよ私。あ、3人の(どの、とは言いませんが)味覚異常者については不二中心の【5色デンジャー 不二汁PANIC!!】より。またリョーマの料理オンチは様々な話より(笑)。もー設定メッチャクチャになってます。
2003.1.7〜10