テニプリJr.選抜編


 かくていろいろあった日米
Jr.選抜テニス大会も終わりを告げ、
 ―――今度はなぜか、文化大会が行われることになった。





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 「ハァ〜ッハッハ! てめぇら俺様の美技に酔いなあ!!」
 「にゃ〜!! コレだったら負けにゃいからなー!!」
 「最速ラップは俺が叩き出す!!」
 「要は小さく切ればいいんでしょ? 簡単じゃん」
 などなど好き勝手言いながら・・・・・・ひたすらキャベツをみじん切りにしていく日本
Jr.選抜チーム。彼らは出し物として、お好み焼きの屋台をやることになった。ちなみにコレに決定された理由は・・・・・・・・・・・・件のラッキー男がくじ引きで勝利したからだったりする。
 まあそんな、『・・・』抜きでは解説出来ないような事情はいいとして。
 「ふふふ。君たちもまだ甘いなあ。じゃあ・・・・・・そろそろ行くよ。
  ―――断ち切る!!」
 『なっ・・・!?』
 不二の宣言とともに、本当に投げ上げられたキャベツ丸ごと1個が手品のように木っ端微塵になる。
 「・・・・・・ちゅーか『断ち切る』やったら真っ二つにするんが正しいんとちゃう?」
 忍足の突っ込みは、今回残念ながらあっさりながされた。
 ザルにぼとぼと落ちていくキャベツの向こうでは、
 「僕に勝つのはまだ早いよ」
 『くっ・・・!!』





 そんな、ワケのわからない内輪勝負が繰り広げられる一方で、





 (絶対今度こそ越前リョーマに勝つ!!)
 クレープ生地を焼きながら、ケビンはひたすらににっくき相手を思い描いていた。
 「ていうかケビン、お前まだ引きずってんのかよ・・・」
 「いい加減諦めろよ」
 などといった周りの声は無視して、ケビンは憎悪のあまり思わずリョーマの似顔絵など描いてしまったクレープ生地を、引っくり返しプレートへと叩きつけた。





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 「
Welcome! (ようこそいらっしゃい。安いよ〜!)」
 「何の何の! 安さならこっちも負けてないぜ!」
 いよいよ始まった文化祭という名目での実質売上バトル。お好み焼きの方が単価が高いため一見有利そうだが、代わりにクレープならば1人2個3個と買う人もいる。総じて差し引き0の勝負。これを左右するのはもちろん売り子の手腕だ!
 というわけで、さっそく日本チームは苦戦を強いられていた。
 「どういう理由でだ!!」
 「仕方ないじゃんアメリカチームは事前に散々宣伝してたんだから!!」
 怒鳴る跡部に至極尤もな意見を返す千石。それはそうだろう。事前から大々的に記者会見だのなんだのまでし、ばりばり有名だったアメリカチームに比べ、特に何もしていなかった日本チームはせいぜい耳聡い雑誌いくつかにちょっと載る程度。大会にてある程度は有名になっただろうが、それでも今日来られた客候補の方々の大多数はアメリカチームを見に来たのだ。
 大会にも用いられた会場で、向かい合わせで出来た2つの屋台。こちらもまあ遊んでいると怒られる程度には忙しいが、向こうなど作るのが間に合わないほどの大盛況だ(客を待たせる時点で、これはこれでマイナスポイントだろうが)。
 「―――ハハッ。苦戦してんじゃねえのお前ら」
 「みんな?」
 のんびりと歩み寄ってきたのは、選手にこそ落ちたものの
Jr.選抜合宿参加者らだった。
 「ども。遊びに来ましたよ」
 「へえ。神尾か。丁度いいな。1個買ってけよ」
 「つーか何だよ切原その話題振りは。もうちょっと脈絡持たせろよ。それじゃ恐喝だっつーの」
 「いいじゃねえか知り合いのよしみだろ?」
 「はあ・・・・・・。買えばいいんだろ買えば」
 「へへっ。毎度〜♪」
 「じゃあ裕太もどう?」
 「・・・・・・・・・・・・。普通の味だったら」
 「てめぇ裕太! 俺様の舌が信じられねえってか!?」
 「でしたらお願いですから跡部さんが作ったの下さい兄貴が一切タッチしてないヤツ!!」
 「よしよしそれでいいんだよ」
 「・・・・・・それはそれで悪質な商法やなあ」
 「疑問なのだが、そこまで不二が作ったものは問題なのか?」
 「死線彷徨いたくなかったら食うな、って感じっスね」
 「てゆーか不二の食ったら彷徨う以前に即死だろ」
 そんなこんな、これまた微妙にわからない盛り上がりっぷりを見せる最中、ちょっと離れたところでは・・・・・・





 「なんか苦戦してんな」
 「まあ仕方ないっしょ。今はとりあえず、ってトコ?」
 「今は? 打開策あんのか? 腹いっぱいになったらますます買わないだろ?」
 「ハッ! そういえば!!」
 「ってお前なあ・・・・・・。
  まあいいや。んじゃ代わりにこんなんどう?」
 「へえ、面白そうだねえ。でもそれ上手くいく?」
 「大丈夫だって保障する。なにせ文化祭の毎年売上2トップは男テニと俺のいるクラスだ。それに体育祭じゃ俺が団長務めるチームは確実に優勝するって好評だぜ?」
 「あ〜。なんっとな〜くよく理由わかるなあ・・・」
 「ならそれで決まりな」
 「おっけー。んじゃまずは、サクラ集めだね」





 「あ、あの〜みなさん・・・」
 「大丈夫ですかあ?」
 「何か手伝います?」
 「お〜桜乃ちゃんに朋香ちゃん杏ちゃんまで! ちょ〜どいいトコ来たね〜」
 『?』





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 「何だあ?」
 「何か、急に〜・・・」
 「客増えた・・・・・・みたいな」
 口々に呟く日本チーム。決してその呟きが嘘ではないほどに、こちらに並ぶ客数は上昇の一途を辿っていた。
 同じであり逆の事はアメリカチームにも言えるわけで。
 「(ど、どういう事だ!?)」
 「(何で客があっちにばかり!?)」
 離れていく客らに必死に手を伸ばす。その先で聞こえてきたのは謎の会話。
 「ねえねえ、どの子が好み?」
 「う〜んどうだろ? 顔で言ったらあの灰色の髪の子? でも話してて楽しそうなのはオレンジ色の子かな?」
 「私はバンソウコウの子かなあ? けどあっちの笑顔の子も捨てがたい〜vv」
 このような会話は日本チームにも届いていた。
 「ハッ! やはりこの俺様が選ばれるのは当然だろ?」
 「いや注意すべき点はそこじゃないんじゃないかな・・・?」
 「俺が選ばれなかった・・・・・・」
 「お前も聞いているでない! 全くたるんどる」
 「さりげに真田副部長も入ってなかったの気にしてるんでしょ」
 「このたわけ者が!」
 真田が切原を殴りつけようとした―――その先(カウンター越し)で。
 瞳を異様にキラキラ輝かせた者たちが、異口同音にこう言った。
 『お好み焼き下さい!!』





 混乱する―――そりゃお好み焼きの屋台なのだから、その前で『クレープ下さいv』とかホザいてきたらその場でぶっ飛ばしていたが、この雰囲気というか迫力からするとそれだけの意味ではないような気がする―――一同の前に、拡声器を持った千石がゆっくりと歩み出た。
 「は〜いみなさ〜ん!! ではルールの説明をします!」
 「るーる?」
 きょとんとする。もちろん流された。
 「ここにまだ焼いていないお好み焼きのタネがあります。もちろん当り前ですけど。
  んでもって―――」
 なにやらごそごそ取り出す千石。広げられた両手に―――ではない。伸ばされたそれぞれの指に挟まれていたのは・・・
 「ここに8つの
BB弾があります。それぞれの色がそれぞれを表しています。灰色が跡部くん、群青色が真田くん。黒が忍足くんで、緑が菊丸くん。山吹色が俺千石で、赤が切原くん。名前通り藤色が不二くんで、ラストに青が越前くん。
  今からそれぞれのボールの中に弾を入れていきま〜す」
 『っああああああ!!!???』
 千石の立派な異物混入に、残り7人がクレームを上げた。今こういうのが世間一般でどれだけ騒がれていると思っているのか!?
 が、それらを前に千石は―――
 「クレームは無視して掻き混ぜていきま〜す」
 お玉を手に、思いっきり掻き混ぜてくれた。小さな
BB弾。しかもキャベツのみじん切りに始まりその他いろいろ入っているお好み焼きの具材の中からそれを探し出すのはほぼ不可能。全て捨て作り直すには材料も時間もない。
 燃える目つきで千石を見やる。『残りは全部コイツに売らせる!!』と如実に物語る瞳を受け、
 「さて、今1つのボールに1つずつ弾が入りました。1つのボールから出来るお好み焼きは推定
100枚。確率1/100BB弾を引き当てます。そして―――
  ―――
引き当てた人にはその色の指し示す人が1日奉仕します!!」
 『きゃああああああああ!!!!!!!!!』
 千石の言葉を聞き、場内が一気に騒がしくなった。今までそれでもクレープの方に行っていた客までこちらへとなだれ込んでくる。
 「な、何でもですか!!??」
 腐女子を代表して―――かと思いきや意外にも男からの質問。それでも千石は笑顔でうんうんと頷き、
 「『私に赤ちゃんを授けてください』とかそういった今後の人生に禍根を残す類のものでない限り何でもやります! 映画館に食事・ショッピングと普通のデートコースを楽しんでもよし、せっかくテニスプレイヤーなんだから個人指導を受けてもよし。もちろん要望によっては手取り足取り教えます!」
 『
っぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
 悲鳴さらにヒートアップ。鼻血を噴いて倒れる者も続出。
 「はいはい早い者勝ちです!! 急いで並んで並んで!!」
 千石の言葉に踊らされるまま列を作る客ら。その並びっぷりはまるで夏や冬に行われる某イベントの大手サークル前のようで・・・・・・。
 事態についていけない日本チームの前で、それでも容赦なく客は「早く早く!!」と言い出す。
 「おい千石! どういう事だ!!」
 「アンタ何勝手に俺ら売ってんスか!?」
 「え〜。そうつっかかんないでよ。いいじゃん客来たんだから」
 「よくねーに決まってんだろ!?」
 「それに・・・・・・企画したの俺じゃないし?」
 「佐伯か!!!」
 「うわ跡部くん理解早ッ!」
 「―――確かにその通りだけどさ」
 加わる、もうひとつの声。もちろん発信源はこの人、全ての企画者・佐伯であった。
 「結構いい案だと思わないか? お好み焼きのオプションに1日奉仕。運がよければ
400円でお前らが買えるんだ。例え外れてもお好み焼きは普通に食べられるし、それに買う時上手くいけば2言3言話せる。いずれにせよ客側に損はないワケだ」
 「俺らに思いっきり損があるじゃないっスか!?」
 「1日ぐらいいいじゃん。負けるよりは
 佐伯の煽り立てに―――
 ―――大体全員の目の色が変わった。
 「佐伯も相変わらず人乗せるの上手いね」
 「ちゅーかあっさり乗せられるなやお前ら」
 「まあいんじゃん? 一応言い分合ってるし」
 特に勝敗にこだわりのない不二・忍足・千石。彼ら消極派の意見は、
 当然のように無視された。
 「では問題も解決したところでどうぞ〜!!」
 千石の言葉をかわきりに、尋常でないペース(生焼きの心配をしたくなるほどのペース)でお好み焼きが作られ、そしてばこばこ売られていった。
 あくまで『お好み焼きを売っている』ためルール違反ではないが、限りなくそれに近いこんな売り方に対し、
 もちろんクレームは飛ばされるワケで。
 「(卑怯だぞテメエら!! 正々堂々売りやがれ!!)」
 「卑怯? どこが? 普通に売ってんじゃん」
 「(ンなヘンな景品つけんじゃねえよ!! 純粋に売り物で勝負しろ!!)」
 「『お好み焼き屋』で勝負するとは言ったけど『お好み焼きで』とは誰も言ってないし? だったら『お好み焼き屋店員』だって立派な『売り物』っしょ?」
 などと言い争うアメリカチームと千石。なんとなく話の流れ上彼が交渉役―――というか何というか―――になったが、店提案者にして一番焼くのが上手い彼が抜けてどうするというのがひとつ。そして・・・・・・
 「凄げえな千石・・・。会話通じてんよ・・・・・・」
 「は? そんなの当然じゃないの?」
 「でもね越前君。千石君・・・・・・英語出来ないよ」
 「は?」
 「ついでに思うんやけど・・・・・・
  ―――アメリカチームも日本語出来るワケあらへんよなあ。さっきっからず〜っと英語やし」
 「え・・・?」
 きょとんとするリョーマ。その向こうではさらに首を傾げる英二・切原・・・・・・と真田。間違いなくここ3人は千石と同じレベルでこの会話というか英語の意味がわかっていない。
 「『ラッキー千石』の運はこういうトコでも有効ってか・・・?」
 「どちらかというと―――お互い話聞かずに自分の言いたい事だけ言ってるような・・・・・・」
 「たまたまそれで合う辺りやっぱ『ラッキー』なんとちゃうん?」
 「本気でコワいっスね、千石さん・・・・・・」
 と誰もが評する通り、会話という名の勝負は千石の勝利に終わった。
 「(くそっ・・・! 話わかんねえ!! ケビン代われ!!)」
 「(は? 何で俺が?)」
 「(お前だけだろこん中で日本語わかんの!!)」
 「(・・・・・・ったくメンドくせーなあ)」
 和訳するとこんな感じで、アメリカチームの会話役はビリーからケビンへと変更された。ちなみにケビンは諸事情により日本語が使える。まあこれは今までの彼の言動を考えれば当然だろう。でなければ各校へと越前リョーマ探しなどしに行けたワケがない。『伝えておけ』と言われた言葉が誰もわからないのではどうしようもない。
 「へえ、そっちは選手交代? じゃあこっちもしていいか?」
 「んじゃ後よろしく。俺お好み焼き焼かないとね」
 ハイタッチで去っていく千石。代わりに出てきた佐伯に対し、アメリカチームは全員露骨に眉を顰めた。
 「誰だアイツ・・・?」
 と囁き合う中で、
 「お前この間の・・・・・・!!」
 「よっ。ケビン。久しぶり。でもって越前と念願の試合果たせてよかったな」
 「お前が横槍入れなきゃもっと早く出来たってのにな」
 「ははっ。そりゃご愁傷様」
 「―――アンタ達知り合いだったの?」
 「まあ以前ちょっとな。たまたま会ったんだよ。それで『俺に勝ったら越前のトコに案内してやる』って事にして」
 「で、負けたの? サエが?」
 リョーマに続き、不二まで話に加わってくる。
 「だって勝っちゃったら『案内』出来ないじゃん」
 「・・・・・・・・・・・・つーか最初に訊くべきだったんだろうがよお、
  ―――てめぇどこに案内したんだ?」
 跡部もまた眉を顰める。佐伯がリョーマの家を知っていたとはとても思えない。青学なら知っているだろうがケビンの学校荒し話を聞く限りそこはケビン自身も知っているし、その後噂で聞いたリョーマとの接触話を考えて、時間的にリョーマが青学にいるわけはない。
 「合宿所」
 「あん?」
 しれっと答える佐伯。しれっと・・・・・・極めて納得しがたい答えをしてくる。
 合宿所ならそりゃ佐伯も知っているだろうが・・・・・・、
 「お前どっかで抜け出したのか?」
 「まさか。そんな事するわけないだろ? 一応『品行方正』で通してるんだから」
 「・・・・・・・・・・・・いつそいつにゃ遭遇したんだ?」
 「合宿終了後の帰り道で」
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 つまり・・・・・・
 「合宿終わってんなら最初っからそう言えよな!! まともについてっちまったおかげでリョーマに会うのは遅くなるわそのせいで邪魔入るわしただろーが!!」
 「いい教訓が出来たじゃん。『人の言う事は真に受けるな』って。
  お前さりげに素直だよな。話聞くと親父さんの暴言にもちゃんと付き合ってやったみたいだし。ただしその親父さんの言い分からすると、恨むのはむしろ越前よりサムライ南次郎の方じゃないのかとか思うけど」
 「違う!! 親父のことなんてどうでもいいんだ!! 俺がリョーマを倒したいのはなあ―――!!」
 「―――そろそろ1勝くらいはしないと情けないから?」
 「そういう言い方すんなああああああ!!!!!!」
 「どう言おうと事実でしょ。全敗ケビン」
 「『全敗』? 越前君、ケビン君と他にも試合した事あるの?」
 「公式戦ならアメリカの
Jr.大会で4回。非公式ならもう数忘れたくらいしたっスよ」
 「何でそんなに?」
 「言ってなかったっスか? ケビンと俺、アメリカで通ってた小学校一緒なんスよ。テニスもずっと一緒にやってたし」
 ちなみにこの話、南次郎はともかくスミスは知らなかった。まさかあのサムライ南次郎の息子が自分の息子と同じ学校でしかも友人だったなど。知っていたならそれを利用して南次郎にいくらでも再戦を申し込めただろうに。
 そしてもう一つ、ケビンがリョーマの試合に関してやたらと詳しかった理由。ここまでくれば簡単だろう。直接リョーマに聞いたのだ。日本でどんな事をやっているのか、と。だからこそリョーマが
Jr.選抜代表候補に選ばれていたことまで知っていたのだ。
 ・・・・・・一方リョーマが知らなかった理由。彼は人の事を気にかける性格ではないからだ。以上。
 「で、話題戻すけどさ。
  俺は千石の意見に賛成だけど、お前どうする? どっちの言い分に賛成する?」
 「どっちでもいいんじゃねーの? 要は売りゃいいんだろ? 俺もお前らの言い分に賛成するぜ。でもって―――
  ―――つまり俺達が同じ手に出ても文句はねえ、ってことだよな?」
 にやりと笑うケビンに、日本チーム一同の表情に僅かながら焦りが入った。もしアメリカチームも同じ策を取り入れたならば・・・・・・
 が、受ける佐伯の余裕は全く変わらなかった。
 「別にいいけど・・・・・・・・・・・・客減るぞ?」
 「何だと・・・・・・?」
 笑って端的に言われる結論。わからなかったのはケビンだけではなかった。
 「どういう事だ?」
 「さあ・・・・・・」
 「佐伯の考える事はようわからんわ・・・・・・」
 「アノ人の出任せじゃん?」
 首を傾げる跡部・不二・忍足・リョーマ。顕著に現れた傾向に、佐伯はさらに笑みを深くした。
 ケビンの方へと向き直る。
 「お前の言い分だと、アメリカチームの一同もやっぱ1日付き合う、と?」
 「ま、そんな感じだろーな。ちょっと何かやるだけでこれだけ群がるんだぜ? 1日付き合うとなりゃ破産するまで買うだろーよ」
 「2人っきりで?」
 「? 普通そういうモンじゃねえのか? 『デート』っつったら」
 「じゃあやっぱ減るよ?」
 「だからなんでだよ!」
 怒鳴り返すケビンに―――ではなく、他のアメリカチームと客らに目をやる佐伯。同じようで違う2グループ。互いに目配せし、時々首を振ったりするアメリカチームと、興味津々にこちらの話に耳を立てる客と。アメリカチームはともかく、客の反応は先ほど―――千石とビリーが言い合いしている時とは異なっていた。
 確認し―――
 佐伯はさらに日本語で話し掛けた。
 「お前日本語出来るんだよなあ?」
 「お前何聞いてんだよ? だから日本語で話してんじゃねえか」
 「ちなみにさっきの話聞くと、お前以外のアメリカチームって日本語出来ないのか?」
 「バカにしてんのか? 今回日本来たのなんて初めてだしンな国の言葉わざわざ習って覚えるワケねーだろ?」
 ムッとするケビン。ちなみに彼が日本語を使えるのはもちろんリョーマと知り合いだからだ。学校では2人とも全て英語で習った外国語もドイツ語だが、日常会話は英語・ドイツ語に日本語までごちゃごちゃに混ぜて行っていたのだ。
 「で―――
  お前気付いてるか? さっきっから俺らお前らが何語で話してるかによって客の反応が変わってる」
 「・・・・・・はあ?」
 「だから、ここにいる客っていうのはお前除くアメリカチーム、もしくは日本チームなら千石・菊丸・切原それに真田と同じなんだよ。自分と同じ言葉で話してくれないとわからない
 「それがどうした?」
 「言葉がわからなきゃ会話のしようがないだろ? さっき何も気にしなかった千石はともかく、お前のトコのは途中で降参しただろうが。そういう状況で1日デートだぜ? しかも『2人きり』な時点で通訳なし。とても怖くて出来ないだろ」
 佐伯の言葉に、とりあえず割と常識人であるらしい英二と切原、さらに客の大部分がぶんぶんと首を縦に振った。千石が振らないのはそれこそ気にしていないから、そして真田が賛成しないのはそれを認めたくないからだろう。
 逆にわからず首を傾げたのがリョーマ・跡部・不二・忍足といった先ほどのメンツとケビン。この辺りは両方使えるため一切不便しないから実感が出来ないのか。実のところそういう佐伯もまた両方使えるため全く何の不便も感じていないのだが。
 「けど普通に俺らのトコに客来るじゃねえか」
 「ただ買いに、だろ? それだけなら会話は最低限。それに思い出してみろよ。買う時『頑張ってください』とか一言もらわなかったか? その時英語で言ってくれた人何人いた? お前除いたアメリカチームはそんな励ましの意味理解してたか?」
 「ンなの雰囲気でわかんだろ?」
 「まあこういう状況ならそれが励ましであるって理解するのは簡単だよな。じゃあそれが1日中だったら?」
 「え・・・・・・?」
 「1日デートだろ? しかも何をしてもオッケー。つまりは予測不能。これでどうやって互いに意思表示する? ああ、ジェスチャーとかそういう手もあるけどそれで1日頑張るってけっこーツラいぞ。その上チャンスは1日こっきり。ようやっと伝わるようになった途端お別れとかいったらさぞかし虚しいだろうなあ。
  さてそれに引き換え日本チーム。全員日本語使ってんのは聞いたとおり。これならアメリカから来た客以外には即座に会話通じるな。客層をよ〜く見てみようか。どっちの方が多い?」
 「ぐっ・・・・・・!!」
 佐伯の言いたい事を理解し歯軋りするケビン。どんなに
Fanとして想っている相手だとしても。その人と2人っきりで1日デートvv などという夢のような事態が目の前にぶら下がっていたとしても・・・・・・!!
 ―――一切会話が通じないまま1日過ごす重圧、それが当たる可能性のあるクレープなど、余程図太い神経の持ち主でもない限り買えはしないだろう。
 「なら―――!!」
 「おっとお前も最初に言ったな? 『俺もお前らの言い分に賛成するぜ』って。
  ―――今更意見翻さないよなあ?」
 「くそっ・・・!!」
 完全敗北。
 舌打ちし、ケビンがリョーマに指を突きつけた。
 「おいリョーマ!! お前友人知人はもうちょっと選べよな!!」
 「・・・・・・どういう負け惜しみだよ」
 「っていうか俺とこの人がいつから友人知人になったワケ」
 「なんつーか、アイツに初めて共感したくなったな・・・・・・」
 「ん? どういう意味かな跡部」
 「何でもねえよ」
 こうして、日米
Jr.選抜大会は文化の部でもまた日本チームが勝利を収め―――
 ―――るにはまだ早かった。





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 改めて勝負再開。混み合う日本チーム側の誘導のため、千石が客席の方へと上り上から声をかけていく。
 弾はなかなか出てこない。掻き混ぜつつ下から掬い上げているからなのか、それとも当たった人が間違って食べてしまったからか。
 ・・・・・・なんて事もないだろう。と誰にも思わせるほど必死に、購入者たちは買ったお好み焼きの解体にいそしんでいた。後であのボロボロを食べるのかと思うと、むしろ作り手にして傍観者の食欲を減退させる。
 とりあえず順調に売上を伸ばしていく中で―――
 それは起こった。





 「俺たちは革命派だ!!」
 「この会場は俺達が制圧した!! 大人しく全員手を上げろ!!」
 『うわあ・・・・・・』
 いきなり武装して乗り込んできた一団を前に、選抜合宿メンバーらは一斉にそんな声を上げていた。
 「なんつーお約束な・・・・・・」
 「っていうか、ここ制圧して何か意味あるんスかね?」
 「あるんじゃない? 特にアメリカ側には。
  人数が多いのもあるけど、スポンサー候補の金持ちが多い。しかもマスコミが多くていろんなメディアに流れやすい。むしろああいう人たちにとっては格好のターゲットだったんじゃないかな?」
 宍戸・鳳の言葉に淳が呟く。いつも通りクスクス笑いながらのため説得力はともかく緊張感は欠片もない。
 「お前もうちょっと焦れよ・・・」
 「何で?」
 「何でって・・・・・・」
 きょとんとする双子の弟に亮が頭を抱えた。双子、しかも一卵性双生児ならば気持ちとか考えとかも通じるのかと周りによく尋ねられるが・・・・・・絶対それはないと断言しておく。
 「だって・・・・・・
  ――――――安全じゃない、僕たち」
 『は・・・・・・?』





 『そういう可能性もあるが万全の警備を敷いたから大丈夫だ』、と宣言されていたのに実際そうなってしまった事に対し焦るアメリカチーム。一方―――
 「勝負の邪魔すんじゃねえ!!」
 どごがんげしっ!!
 何も聞かされずいきなり巻き込まれた日本チームは何もお構いなしに動き出していた。
 最初に飛び出し、銃を手にのこのこ近付いて来た1人目を勢いのままふっ飛ばし2人目を奪った銃で殴り3人目の顔面を踏みつけた跡部。いきなりの反抗に、反射的に革命家らの銃口が跡部の方へと向く。それが決定的な隙を生んだ事も知らず。
 跡部を左側から狙っていた3人がこれまた吹っ飛ぶ。突っ込んできた1人目を猫騙しで注意を引きつつ飛び越え2人目3人目を着地がてら蹴りつけ振り向きつつ1人目をバックハンドでのした英二が、振り向きにやりと笑う。
 「さ〜っすが跡べー。手ぇ出すのも早ええじゃん」
 「てめぇにゃ言われたかねーよ」
 右から狙っていた3人は、
 「うぜえんだよテメーら」
 赤目モードとなった切原に揃って横から殴り倒され挙句にヤクザ蹴りを何発も喰らう。完全に気絶した者たちへと、切原は唾と言葉を吐き捨てていた。
 「そのような武器を用い一般市民を制圧するとは、貴様ら全員たるんどる!!」
 お馴染みの言葉と共に、真田が鉄棒(屋台の屋根解体)を手に走り出した。さすが普段からいろいろと振り回し慣れているだけある。こちらもまた見えないスイングで次々と相手をのしていく。
 「やるじゃねえの」
 「この程度の輩に遅れは取らん」
 「ま、そりゃそーだよな」
 「取ったら王者立海大の恥っスよね」
 薄く笑い合いそんな物騒な―――ついでによくよく聞かずとも意味不明な―――会話をする4人。『最強4人衆』といった感じの様に革命家らが戸惑いたたらを踏む。が、
 「―――これだけやっといて、今更引くなんて言わないよねえ?」
 「なっ・・・!?」
 後ろから声をかけられる。と同時に、後じさりかけていた足に払いをかけられた。
 「わっ・・・!!」
 「これでも喰らいな!!」
 後ろに倒れかけた相手に、両手を組んだケビンの一撃が決まる。足払いをかけたリョーマは既に次の1人へと向かい、身長の低さを生かして鳩尾を思い切り殴りつけていた。
 「ちゃんと1人で倒しなよ?」
 「お前が手出してなきゃ倒してるっつーの!!」
 返しながらそれを証明するかのように、ケビンが軽く助走し飛び上がりざま3人目の顎を蹴り上げていた。普通に蹴らないのは身長が足りないため・・・・・・とは言ってはいけない。
 「このガキどもがあっ!!」
 今度は2人へと銃が向けられる。向けたのはこれまた3人。助けに行ける位置には誰もいない。
 「避けろおチビ! ケビン!」
 反射的に叫んだ英二に対し、
 「どこに?」
 「どうやって?」
 答える2人はむしろ冷静なものだった。自分達が今避ければ後ろにいる客に当たるからというのが1つ。そして―――
 「死ねえええ―――え゙!?」
 猟奇的な笑みを浮べ狂声を上げ、トリガーを引こうとした3人―――の動きが止まった。それぞれの手に、金属製の鉄板返しが刺さっている。
 「駄目だよ、僕をフリーにしちゃ」
 くすりと笑って囁く不二。今だ屋台から動かないながら、彼の手にはさらに数本の鉄板返しが握られていた。
 「このっ・・・!!」
 これから制圧しようと思っていたか、屋台の後ろに回っていた3人が一気に詰め寄る。気付き、振り向く不二。だが既に遅かった。屋台から出て直接戦わないのは体術に自信がないからだろう。逃げようにも鉄板を初めとした各種道具に材料が散乱している。
 ようやっと1人目と喜ぶ革命家らは―――
 ―――さらに1人の存在を忘れていた。
 「不二くん!?」
 客席から指示を飛ばしていた千石が、一気に縁を飛び越し場内へ落下する。
 「あーさ〜っすが『ラッキー千石』だな」
 「え? 今のって狙って落ちたんじゃないっスか?」
 「だから『ラッキー千石』だっつってんだろ? 丁度いいタイミングで不二も狙われたモンだな」
 千石が飛び降りた瞬間、客席側から入り込んでいた革命家らの銃が火を噴いた。千石を狙って放たれたそれらはというかそれらの使い手は、いきなりその場からいなくなった彼を完全に見失っていた。
 それがわかっていたのだろう。だからこそ千石は周りに対して一切警戒は見せなかった。
 完全に周りを欺き、それこそ『フリー』になった千石は1人目を踏み潰し、起き上がりざま2人目の鳩尾へ強烈な一打。後ろから迫る3人目を振り向きもせず後ろ回し蹴りで倒し、その場を離脱し不二の元へと向かった。
 「不二くん大丈夫?」
 「うん。ありがとう千石君」
 「ちゅーかな千石・・・。俺の活躍はどこ行ったんや・・・・・・?」
 忘れ去られていた1人・忍足が不二の隣でボヤいた。ちなみに彼は、最初飛び出した跡部に「不二とお好み焼きは頼んだぞ!」と言い残されていたのだ。このままでは自分はただお好み焼きを引っ繰り返すためだけにこの場に残っていた事になってしまう・・・!!
 「大丈夫だよ忍足君。
  ―――ハイ」
 笑顔の不二に、手渡される『それ』。
 ―――革命家の1人が持っていたライフルを手に、
 「・・・・・・何せえっちゅうん?」
 「頑張ってvv」
 「・・・・・・・・・・・・ええけどな」
 何を言いたいかというか何をやらせたいか。正確に悟り、忍足は半眼をさらに細めた。
 銃を目の高さに構える。狙うは混乱している場内ではなく客席の方。
 「コレまともに弾飛ぶんか?」
 「そこは運次第だよ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・千石に撃たせた方がええんとちゃう?」
 「千石君もう行っちゃったもの」
 こちらは自分達2人に任せれば安全だと考えたのだろうか。千石は一言声をかけるとさっさと次へと行ってしまった。まあ戦闘要員は多いに越した事はない。こんなところで悠長に話していても仕方ないか。
 「ま、当たりおったら拍手してや」
 軽く肩を竦め、ついでに肩の力を抜いてまず1発。体育の授業でやった射撃よりは楽か。この獲物はあまり動かない。
 連続する不二の拍手に合わせこちらも3人倒す。それで弾切れとなったライフルを捨てる忍足に、
 「へえ・・・。やるじゃねえの忍足」
 呟き、跡部もまた自分の倒した相手から銃を奪い取った。こちらはサブマシンガンを。
 きらりと目を輝かせ―――
 「ピンポイントショットなら俺様の十八番だぜ!? オラオラてめぇら喰らってみな!!」
 宣言と共に、混乱する場内に向け銃が乱射された。
 『どおうああああああああ!!!???』
 逃げ惑う革命家ら。もちろんそれ以上に逃げ惑う客とそれぞれのチーム員。跡部の台詞、『ピンポイントショットなら俺様の十八番だぜ』は本気でその通りだったらしい。本当に敵にばかり面白いように当たっていく。が、だからといって次の弾もそうなるとは限らない。そんなこんなで誰もが蜘蛛の子を散らすように逃げる中、
 「止めんか馬鹿者!!」
 「痛っつ!!」
 後ろから真田に鉄棒で殴られ、ようやく跡部の暴動が止まる。ついでに弾みなのか恨みなのか、『ピンポイント』で最後の一発は真田へ向け撃たれたりもしたが。
 振り下ろした鉄棒により何とか弾き飛ばした真田。それも含めてさらに跡部を怒鳴りつけようとし―――
 「動くなテメエらあ!!」
 「きゃあああああ!!!」
 これまたお約束な展開に、一応付き合って全員の動きが止まった。
 客の頭に拳銃を突きつける男――――――の後ろにいた者を生温かい目で見守る。
 「いいか!? 全員今すぐ降伏―――」
 どごげっ!!
 彼は彼で一応そこまでは親切に聞いたらしい。そこで飽きたようだが。
 後ろから踵落としで黙らせ、ついでに人質を救った佐伯は崩れる男の手から安全のため拳銃を奪い、
 「せっかくの『祭り』なんだからそういう興ざめな事やるなよな」
 そんな感想を洩らしていた。果たしてこれが関係ない一般人(自分らもそうだが)を巻き込んだことに対してなのか、つまらない台詞に対してなのか、そもそもこんな事態そのものに対してなのか―――それとも正当防衛を盾にせっかく好き放題やっていたのを邪魔された事に対してなのか。まず間違いなくこれが正解なのだろうが。
 その証拠として―――
 「ありがとう・・・ございます・・・・・・//」
 「いえいえ」
 頬を染め礼を言う女性に軽く手を振りながら―――突っ込んできた2人目の顔を靴で受け止め、倒れたそれを3人目へと蹴り飛ばしている。さらに拳銃を持った手で4人目を殴り倒し、投げて(拳銃の方)5人目を牽制とそれこそやりたい放題。明らかにそちらを楽しんでいるというのに視線すら向けられない、倒されるザコどもについつい同情したくなる。
 また例を上げればきりはないが他の合宿メンバーも健闘しているようだった。宍戸・桃・神尾などはこちらも相手を直接叩き伏せ、裕太はライセンスこそ持っていないものの家族で何度も射撃場へ通った腕を生かし兄と共に上の敵を一掃し、データマンらは作戦を指示していって。
 突然起こった革命騒ぎは、そんな彼らの手によってあっさり潰されたのだった。





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 かくて行われた日米
Jr.選抜大会文化の部は、
 こうして、またしても日本チームの勝利により終わりを告げた。
 問題を上げるならば―――
 「あの! 人質助けてた銀髪の人の下さい!!」
 「私は黒髪の短い子の!!」
 「・・・・・・・・・・・・入ってねえよアイツらの弾なんぞ」
 「てゆーか合計何色あったらいいのさそれって・・・・・・・・・・・・?」



―――テニプリJr.選抜編 Fin








 ―――ケビン役の木内さんというと、私の中ではデジアド
02の大輔の印象がやったら強いです。なので平気で怒鳴りまくってたりします。ケビンってそういうキャラだったっけ・・・・・・?
 そんなワケで結局書きました
Jr.選抜編。各校合同アメリカまで来たので敵もちょっぴりスケールアップしております。人数多いとやりたい放題だ!
 そしてついにリョーマとケビン幼馴染み説をこのサイト内では決定となりました。ケビンが南次郎ではなくリョーマに対して執着するのはこのような事情で。さらに同じアメリカ
Jr.大会で女子4連続優勝している少女と3人で幼馴染みだったりすると面白いなあ。その子も優勝してはリョーマにつっかかっていってボロクソに負かされたりして。あ、ちなみにその子は同じ年か1コ上くらいが希望です。で、その子がサエのお姉さんと同じスクールだったりすると本気で大爆笑。なおこの辺りの裏設定の補足は、『Jr.選抜合宿日誌』をどうぞ。ゆくゆくはちゃんと設定としてまとめんとなあ・・・・・・。

2004.9.2223