伝勇伝編


 それは、とある深夜のこと。久々に宿に泊まりベッドにてぬくぬくしていたライナの元へ・・・・・・
 シュパッ!
 「大変だぞライナ!」
 扉を斬り破り、本来ありえない光景がやってき―――
 ごん!!
 「いや冗談だからさあ・・・」
 いきなりやってきた異常光景ことベッドへと突進してきたフェリスに剣で殴られ、ライナは痛む頭をさすって弁解した。
 「つーかお前読心術出来たのかよ・・・。よく俺の考えわかったな」
 問うライナだった。が、
 「何をわけのわからない事を言っている。さあ行くぞ」
 「いや・・・、俺にはお前の方こそワケがわからねえ・・・・・・」





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 というわけで来たのは、小さな小さな村だった。
 「クオレット村・・・?」
 入り口に立てられている―――のが奇跡としか思えないほどに朽ち、今にも倒れそうな看板を読み上げ、ライナは首を大きく傾げた。聞いた事のない名だ。連れて来られなければ寄る事どころか知る事もなかっただろう。
 「で? この村がどうした?」
 隣にいた相方に尋ねる。彼女はいつも通りの無表情で、手に持っていたものをひたすらチェックしていた。
 横から覗き込む。薄っぺらい本のようなそれは―――
 「『クオレット村だんごフェスティバル完全攻略マップ』・・・・・・?
  ―――あ〜だんっだん薄皮が剥けるように展開が明らかになっていくな〜・・・・・・」
 「そうか。ならば行くぞ」
 「よくねえよ!! つまりアレだろ!? どーせお前毎度恒例だんごを食おうとか言うんだろ!?」
 「それだけではない。我々は運が良かった」
 「・・・・・・つまり?」
 「うむ。ここクオレット村というのはだんごを愛する者のメッカとして有名だ。村を上げてだんごを推奨する『だんご村』としてだんごマガジンを初めとした各情報網ではかかせない存在だ。
  そしてここでは年に1回、3日間限りでこのような祭りが開催される。村民のみならずこの日は誰でも出店が可能であり、国内国外を問わず多くの者が店を出し、それを目当てに来、そしてさらにだんごを繁栄させる。
  この祭りに参加する事はだんごファンにとって1つのステータスだ。特に出店した店はそれだけで客が数倍に上る。私もぜひ一度訪れてみたかった」
 「あ〜はいはいそうですか・・・・・・」
 かように語るフェリス。他人が見たら淡々とレポートを読み上げているような口調だが―――
 (ンなに嬉しそうにしなくっても・・・・・・)
 聞いていて、ライナはわずかに苦笑した。今のフェリス、もし内面をそのまま表に出したとしたら・・・・・・握り拳でその場駆け足。きょときょと左右に首を振り、「どこから行こう? ねえ、どこから行こうか?」などと言っていたりするに違いない。
 (ま、しゃーないか)
 今までずっと家に縛られ続けていたフェリス。外に出るのは『訓練』と名が付くものの一貫としてのみだったらしい。そして彼女のだんご好きは、
 ―――たまたま訓練途中に遭遇したウィニットだんご店の店主に、助けた御礼として1つプレゼントしてもらったからだそうだ。
 一切甘やかされずに育った彼女にそれはとてもとても甘くておいしくて。まるで刷り込みのように、それ以来彼女はだんごにのめりこんでいったという。
 そんな彼女がついにだんごファンのメッカに到達。ローランドではないここに、彼女自身まさか自分が行けるとはとても思っていなかったのだろう。
 ライナはフェリスの頭をぽんぽんと叩いて、
 「んじゃ、今日の案内は任せるぞフェリス隊長」
 「うむ。任せろ隊員。この日のための準備はばっちりだ。コースも完璧に練られているし、王からの送金により資金面の心配もない」
 「はあ!? ちょっと待て!! 以前もう送金はないとか言ってただろーが!!」
 「それはお前の夜遊び対策だろう? 私のだんごを愛する心は王もまた共感している」
 「シオン〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」





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 「あ、ここのだんご何かうめえ」
 「粉はセールズ地方のものだが水が違うのだろう。なるほど。この組み合わせならばこのだんご粉も悪くない」
 「おお? こっちも上手い」
 「こちらはクォルス地方のだんご粉のようだ。水加減も上々。よく研究されている」
 「これは何か初めて食う味だな」
 「なるほど。さらに違う地方のだんご粉を使ったものだろう。だんごの世界は実に広い。日々勉学を怠ってはいけない」
 「お。こっちのだんごはよく伸び―――ぐふっ!?」
 「だんごは粘りと伸びが命だ。いいものに当たったなライナ」
 「頼むフェリス・・・。だんごと一緒に俺の命も助けてくれ・・・!!」
 そんなやりとりをしつつもそれなりに楽しむ2人。だんごを買いながら店主といろいろ話し込み、またすれ違うこれまただんご好きの輩とやはりだんご片手にいろいろ討論して。
 などといった平和な時は・・・・・・
 毎度おなじみ悪魔の再来により、あっさり終わりを告げたのだった。





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 「ラ〜イ〜ナ〜・・・・・・!!」
 「うげ・・・。この声は・・・・・・」
 「む・・・?」
 地の底から蘇ったかのような声に、呻くライナ・・・・・・とだんごに口をつけたまま目線を上げるフェリス。
 彼らの目の前で、本当に地からそれは噴き出した。
 「ライナってばもー許せない!! そんな美人なだけが取り得の女とお祭りなんか来ちゃって!! 誘ってくれたら私だって行ったのに!!」
 「しかし隊長! 今がチャンスです!! 奴らがお祭りだと浮れている今の内に捕らえましょう!!」
 「お前らなあ・・・・・・」
 毎度毎度本当にご苦労さんとしか言いようのない連中の登場に、ライナが顔に手を当てげんなりと呟いた。隣ではフェリスもまたどうこの機会を利用して自分をからかおうか考えて・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・いなかった。
 「げ・・・・・・」
 呻きの延長。しかしその重さは先程までの比ではない。
 「あ、あのフェリス・・・・・・」
 そっと話し掛ける。手を伸ばしかけ―――
 ―――彼女の体から噴出す闘気を前に、触れる前に止められた。
 見た目ではわかりにくいが完全に据わった目で、ブツブツと呟いている。
 「よくも・・・・・・私の壮大なる計画を・・・・・・」
 「フェ、フェリス・・・。お前の気持ちはよ〜くわかる。だから、な? とりあえずちょっと落ち着けって・・・・・・」
 ぼたぼたと冷や汗を流し、必死に説得を試みるライナ。この先の展開はそれこそよ〜くわかっていた。
 はっきりとヤバい。フェリスは本気だ。
 が、警告声は、
 「一気に攻撃よ! 求めるは雷鳴>>>・稲光!!」
 呪文とそれどおりの雷鳴により、あっさり掻き消された。
 「ちょっと待てお前!!」
 焦って手を伸ばすライナ。止めようとしたのはもちろんミルク―――ではなく。
 伸ばされた手の前で掻き消えるフェリス。魔法を無視して一気にミルクを斬り伏せたのかと思いきや、
 ドォ―――ン!!
 バリバリバリ!!
 自分達より遥か上空にて雷が放電する。どうやらフェリスが剣で稲光の向きを変えたらしい。掻き消えたのは彼女が動いたためでなく光に目を焼かれていたからのようだ。
 そんな事をした理由はもちろんただ一つ。
 突然の戦争もどきにあちこちから上がる悲鳴。被害0の周り
360度から注目を浴び、
 「貴様ら、よくも私のだんごパーティーを邪魔してくれたな。その罪、死んでとくと反省してもらおうか」
 フェリスはちゃき、と剣を構え直した。
 圧倒的な闘気―――を通り越して殺気が広がる。『忌破り』追撃部隊の面々もむせかえるそれらを前に微動だに出来ずに。
 「これ・・・・・・マジで死人出るかもな」
 ライナが声に絶望を篭めて呻いた。もちろんそれをただ傍観するつもりはない。ない、が・・・・・・
 「やべえな・・・。こりゃ俺でも止められねえかも・・・・・・」
 かろうじて言葉は紡ぎ出せるが、気圧され心臓がどくどく脈打っている。これでもライナ自身は直接向けられているわけではないのだ。もしもこれを真正面から喰らえば、自分もまた動けなくなるかもしれない。
 思い描かれる、最悪の場面。このまま交戦すれば―――いや、普通に戦ったとしても、フェリスと彼らでは
10回中10回フェリスが勝つ。それだけの実力差がある。それでも彼らが何ともないのは、フェリスが殺すつもりで戦ってはいないからだ。だが・・・・・・
 フェリスの体の重心が僅かに前に傾く。攻撃姿勢。次の瞬間にはあの神速でミルクらの首を―――
 ―――刎ね飛ばす(予定)寸前で、さらなる邪魔者が現れた。





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 「おらおら!! 俺達ぁ伝説の強盗団、『峠の釜破り』だ!!」
 「ひゃはははは!! テメエら覚悟しな!!」
 「殺されたくなかったらあるだんご全部出すんだなあ!!」
 「うあ・・・。また微妙な軍団が・・・・・・」
 遠くから聞こえる、蹄の音と悲鳴と『微妙な軍団』―――もとい『峠の釜破り』なる強盗団の声に、ライナはそれこそ微妙な感想を入れた。入れられた理由は一つ。フェリスの殺気が霧散したからだった。
 後ろに倒れこんだミルクの首5
mm手前で止められた刃。突きの姿勢のままぴたりと止まったフェリスは・・・・・・
 「だんごを全部よこせ、だと・・・?」
 くわっ! と目を見開きぐるりと首を回した。そちらに向かい、先程に数倍する殺気が放たれる。
 「この私を差し置いてそのような事をするなど・・・・・・!!」
 「いや違げえからフェリス。そういう意味で対抗すんなよお前も・・・・・・」
 「許せん!!」
 「だから話聞けよ!!」
 ライナの突っ込みを完全無視し、フェリスの姿は完全に掻き消えた・・・・・・。
 「お〜いフェリスってば〜・・・・・・。どーすんだよコレ・・・・・・」
 残された一同。まずは最初に立ち直ったライナがため息をつく。
 コレ―――と指された先では、
 「あ、うあ・・・。あっ、あっ、あっ・・・・・・」
 尻餅をついたまま、あまりの恐怖にがたがた震えるミルク。
 「み、ミルク隊長!!」
 「大丈夫ですか!?」
 「今のうちです。さっさと引き上げましょう。今日の彼らはいつもと違います。このまま交戦すれば間違いなく殺されるでしょう」
 「そうだなリーレ。じゃあ、ムー、ラッハ、隊長を担いで今すぐ退却。いつ戻って来るかわからない。周りもよく警戒するんだ」
 『はい!!』
 彼女を担いで一目散に退散する一同。
 それらを見送り・・・・・・
 「・・・・・・・・・・・・ま、いっか」





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 「よかったなフェリス。お礼にエターナルフリーパスチケット(つまりは一生この村でだんご無料券)もらったんだって?」
 「うむ。これも一重に私の日々の行いの賜物だな。神は私のような真の美を持つ者に味方する」
 「日々の行い関係ないじゃん・・・」
 全身血まみれで虫の音の強盗団を踏みしめながらそんなやり取りをする2人。その姿は先程以上に楽しそうだ。
 さっそくチケットを見せもらっただんごに2人揃ってかぶりつき、
 「やはり運動の後のだんごはまた格別だな」
 「ああ。なんかお前のさっきの様子見てたらマジで盗賊団殺すのかと思ったけどそれもなかったし」
 「当然だ。だんごフェスティバルの最中に殺人事件が発生したとなれば、いくら相手が何者であろうと祭りが即刻中止となる可能性がある」
 「もういいよ・・・」
 ため息を
BGMに、もう一口噛み付く。口の中でもぐもぐとやって、
 「安心したトコに甘いモンっていいよ―――ぐがっ!?」
 安心が油断を生んだのか、またもライナがだんごを喉に詰まらせた。
 酸欠でまず赤くなった顔で声を絞り出す。
 「フェ・・・フェリス・・・! 頼む・・・!! 茶・・・くれ・・・・・・!!」
 「茶をくれ、か。お前もよくだんごの道をわかってきたようだな。そう。だんごには茶だ」
 「ンなの・・・どうでもいいから・・・・・・早くくれ・・・・・・!!」
 「だが喉に詰まらせるとは。お前のだんごを愛する心もまだまだだな」
 「うあ・・・何かムダに悔しい・・・・・・!!
  ・・・・・・ってだから茶早くくれっ・・・!!」
 「茶か。了解した。ではこのフリーパス券で・・・・・・む?」
 「な、何だよその『む?』って・・・・・・!!」
 今度は真っ青になった顔でばんばん胸を叩いて喉を掻き毟るライナ。それでありながらしっかり会話を続ける根性は賞賛に値するような気もするが、どうやら根性だけでは喉に詰まっただんごは飲み込めないらしい。
 「困ったぞライナ。このチケットはあくまでだんご専用だ。茶を飲もうと思ったら別口で金を払わなければならない」
 「ちょ・・・待て・・・!! 普通だんごっつったら茶じゃねえのか・・・!? だったらチケットも両方セットにしろよ・・・・・・!!」
 「ああ。全くだな。私も迂闊だったようだ。もらった際確認をしておけばよかった。
  というわけだ。茶が欲しければ金を払え」
 「はあ!? 待てよフェリス!! 俺のどこに金があるんだよ!?」
 「つまりお前は私にたかる、と?」
 「シオンからもらった金は2人の共同財産だろうが!! だったら俺だって使う権利あるんだろ!?」
 「そのような理屈を盾に私を脅すか。そうやってお前は日々か弱い少女を無理矢理働かせ、なけなしの金を巻き上げ骨の髄まで貪り食うのか」
 「どっちかと言うと最近俺の方がお前に日々無理矢理働かせられてなけなしの金巻き上げられて骨の髄まで貪り食われてるような気がするんだけどな・・・・・・」
 「情けない」
 「お前の今の台詞はどれに対してかけられた!?」
 「もちろんお前の人生そのものに対してだ。だめだめ君」
 「あーもー我慢出来ねえ!! 勝負だフェリス!! 今日こそ勝って茶を飲む!!」
 「望むところだ」





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 こうして、今日も負かされたライナ。実は怒鳴り合い(一方的)をしている間にどうやら本気で根性によりだんごは取れていたらしい。気付かぬまま勝負を行い・・・
 ―――倒されたはずみにて取れかけていたものを再び詰め、危うくだんごフェスティバル開催以来初のだんごによる窒息死者となるところだった。
 助かったのは一重にフェリスのおかげである。だんご祭りの存亡がかかった状態の彼女に不可能はなかった。
 だんごを取り除くためにマウストゥマウス――――――ではなく倒れたライナの口を開け、中に剣を突っ込みだんごを切り裂くというお医者さんもびっくりの手法にてライナを助け出す。
 このお礼として、今度は茶のエターナルフリーパスチケットをもらったフェリス。2枚の券を手に、相方兼茶飲み友達と共に村を隅から隅まで探索する彼女は、



 ・・・・・・とても楽しそうだった。



―――伝勇伝編 Fin








 ―――惜しい! 後一歩でライ×フェリ(あるいは逆)だったのに!?
 というわけでお礼
SSに伝勇伝まで乱入。あ〜最近書いてて楽しいなあ伝勇伝。しかしテーマである『文化祭』はやりようがないため祭りに参加という形式になりました。実はさらに別ジャンルも入れようかと思っているのですが、そちらでも直接文化祭はやりようがないため(そっちはやろうと思ったらやれるのかな・・・?)、こんな感じで祭りに参加といったようになりそうですが。
 そして初! ミルクら『忌破り』追撃部隊というかミルクを書きました。絶対書く事はないと思っていたのに・・・。う〜みゅ。好きな
CPが出来上がるとそれに絡む存在ってのは非常にウザく感じるものですなあ。それでありながら私のイチオシCPがライ×フェリではないというのはどうかと思いますが。この2人はCPとかそういう分類超えた漫才コンビとして永遠に在り続けて欲しい・・・・・・。

2004.10.19