デジレツ(高校生)編


 今日はここでもまた文化祭だった。一般公開を前に、生徒と教師で簡単な開会式を開く。簡単な挨拶に簡単な諸注意―――
 「―――といったように、各団体は来客数と売上をポイントとして高さを競い合う。最も高かった団体から3つは後夜祭にて表彰され、ささやかな副賞が与えられる」
 生徒会長である間宮の説明に、特に1年がふむふむと頷く。2・3年は―――きらりと目を輝かせた。
 「そしてもう一つ、1年は馴染みがないであろうが、我が校ではこの競争に特別ルールを設けている。通称『パーティー』と呼ばれるもので、このような祭りごとでは必ずといっていい割合で問題が発生する。それを抑制するためのシステムだ。
  問題を起こした者を捕らえた者は、所属する全ての団体に1人につき20ポイント加算しよう。なお『パーティー』の合図は放送で流す。ポイントが欲しい者は指示を聞き次第指定場所まで来るように」
 「つーかそれってかなり危険だろ・・・・・・」
 「進んで行くヤツいねえよなあ・・・・・・」
 隣同士に位置していた豪と太一がぼそぼそと囁き合う。普通ならそうだろう。たかが売上トップのため、誰が暴徒鎮圧などという危険極まりないことをやるのか。
 そう思う―――のだが。
 「その割には周りノリ気だよな・・・・・・」
 さらに隣にいたヤマトが怪訝な顔で呟く。周り、というと厳密には語弊だろう。正確には―――2・3年が。
 そんな彼ら文化祭初経験の1年の疑問は、
 次の間宮の言動であっさり吹き飛んだ。
 間宮が懐から何かを取り出す。掲げてみせたそれは―――
 『札束ぁ!!??』
 『うおおおおおお!!!!!!』
 札束―――それも諭吉さんの束に、全員が一気にヒートアップする。その中でも冷静な声で、
 「副賞である賞金の額は去年と同じ。トップの団体には
100万、以下2位は50万、3位は25万円だ。何に使用するかは自由。生徒会へ報告する必要もない。
  諸注意は以上だ。では諸君、『祭り』を存分に楽しんでくれたまえ」





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 「すげえよすげえ!! 
100万だってよ!!」
 「うっわ〜! この学校、何かと違うって思ってたけど、まさかこんな気前良い事してくれるなんてね〜」
 「
100万だぜ100万! もらったらどうするよ!?」
 「落ち着きなさいってみんな。まだウチのクラスがもらえるなんて決まってないでしょ?」
 「そういうのを『獲らぬ狸の皮算用』って言うんだよ」
 1年A組にて。出し物準備のため集まった豪・ジュン・太一・空・ヤマトはそれぞれ大なり小なり初めての文化祭・・・・・・という理由だけではないもの・・・・・・に胸を躍らせていた。
 「勝利のためには―――」
 キュピーンと一同の目が輝く。がっしと互いの手を取り合い、
 「『パーティー』は俺らが完全に製する! 行くぜ!」
 『おう!!』





 同時刻。生徒会室にて。
 「甘いなあ、1年は」
 「ま、仕方ないだろ。まだ1年なんだし」
 「そうね。これからじっくり学ぶでしょう」
 「ま、最初は泣いてもらおうか」
 生徒会役員主催の出し物―――カジノクラブの最終点検に入っていた2年4人、烈・佐久許・せな・マリナが一体どこから何を聞きつけたかくつくつ笑う。
 それをもまた、見やり。
 「随分慣れたな、アイツらも」
 「そうですね。微笑ましいことですわ」
 「彼らのみならずここの生徒は覚えが早い。1度痛い目を味わっただけですぐに適応する。実に素晴らしい能力だな」
 「・・・・・・そりゃこれだけやられりゃ一発で身に付くだろうよ」
 3年は3年で、妙に成長する子どもを見守る親的発言をする美樹原と間宮に、レイが半眼で突っ込みを入れていた。
 果てさて問題の『パーティー』の行方はどうなるか!?





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 ―――などとやっていると、あっさりパーティー材料こと問題のありそうな人物が押し寄せてきた。
 「ああ? 何だよココは。飾り物だけってか? しけてんなあ」
 書道部の展示室へ押し入り、なかなか笑える発言をしてくれる男女適当。年齢の若さからすると、どっか他校の不良グループといったところだろう。格好の恥ずかしさからすると、とも言えそうだが。
 展示のみならば受付と補佐でせいぜい2人いればいい。それに対し入ってきたのは軽く10人。見た目からして大人しげな2人は、あっさりと降参のサインを出した。全ての教室になぜか取り付けられている、押すだけで生徒会長の持つ携帯へと連絡の行く非常ボタンを作動させる。
 押してから、
30秒待たず待ち人がやってきた。ごく平然と、知らせが来たことなど微塵も感じさせない仕草で中へ入ってくる。
 中へ入り―――
 「ふむ・・・・・・」
 一言だけ頷き、団体さんの方へと近寄っていく。
 「何だあ? アンタ」
 胡乱げな眼差しと言葉を浴び、それでも全く動じない。
 折り目正しい姿勢で立ち、
 「この学校の生徒会代表の者だ。書道展示室にて怪しい一団が迷惑極まりない横行に出ていて邪魔だという苦情が入ったのでこちらへ馳せ参じた」
 「ああ!?」
 『はあ!?』
 ドスのきいた声を上げる一団―――と書道部員。半分程度はそのまま間宮に詰め寄り、残り半分程度が書道部員を睨みつけた。苦情が来たとなれば、もちろんした一番可能性の高いのは今ここにいる2人。
 的確な推察に、間宮の中での彼らの評価が1ランク上昇する。助けを求め、余計ピンチにさせられた書道部員らの中ではそんな彼のランクは1つ下がっただろうが。
 全て気にせず続ける。
 「どうやらその態度では君らがその『迷惑な一団』のようだな」
 「ざけんな! なんで俺らが―――!!」
 「そうやって私の襟を掴み怒鳴り散らす事が何よりもの証明であろう? それでも君たちはまだ『自分達は誰にも迷惑はかけない紳士・淑女的一団です』と言い張るつもりかな?」
 「てめえがやらせてんだろーが!!」
 「と、そのように手を上げればますます『迷惑な一団』だと強調する事になるが、いいのか?」
 「・・・・・・・・・・・・けっ」
 暫しの逡巡の後、間宮の襟を掴んでいた男が手を放した。どうやら彼が頭らしい。他の者もまた、静まる。
 「ふむ。なかなかいい判断だ」
 襟を直しつつ再び頷く。さらに評価が1段階上昇する。
 「だったらもういいだろ? 俺らは何もやってねえ―――」
 男の声を遮り、
 「―――が、もう遅い」
 言葉を完成させると同時、間宮は胸ポケットに入れていた携帯を手に取った。携帯―――ではあるが同時に各種改良を施したもの。非常信号を即座に受け取りまた・・・、
 「諸君。『パーティー』の開始だ」
 呟く間宮の声が、放送という形で学校中を流れる。
 「な・・・?」
 「何だあ!?」
 「場所は特別棟4階の書道室。対象の人数は
12人。人質は私を抜き2名。彼らを保護した場合もポイントを加算しよう。では諸君、健闘を祈る」





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 「おっしゃ来たあ!!」
 「場所どこだって!?」
 「4階の書道室! 階は同じだけど連絡通路通っていかなきゃいけないから遠回りね。一度3階まで下りないと」
 「ンな事やってられっかっての!!」
 「あ! ちょっと待ちなさいよ!! アンタ達何するつもり―――!!」
 制止の声も遅く、廊下へ飛び出した豪・太一とそれを追うヤマトはあえて階段と逆方向へと走り出した。連絡通路の真上へ到着すると―――
 「まさか―――!?」
 何をやろうとしているのか察した周りの制止を振り切り、開け放った窓から一気に外へと飛び出した!
 「ちょっとアンタ達死ぬ気!?」
 ジュンの声をバックに、透明なプラスチック製の屋根へ何とか着地。さほど強く作られてもいないそれ(少なくともガタイのいい男子高校生が上を走って壊れないほどの強度は設計者たちも目指していなかったであろう)の上を、まだ強度はあると予想される鉄骨部分に沿って器用に走っていく。
 「一番乗りだあああ!!!」
 と意気込む彼らであったが・・・・・・





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 放送終了からこれまた
30秒経たず。
 『
100万もらったあああ!!!』
 そんな叫びと共に、中へと何人かがなだれ込んでくる。もちろん生徒会メンバーが。
 トップで入ってきたのは烈と佐久許。生徒会室はこの真下にある。汗ダラダラの様子を見れば、全力で廊下を走り階段を駆け上がってきたのだろう。叫びが切れる前に勢いそのままに2人と激突。もちろんふっ飛ばして戦闘不能に陥れる。これで
40ポイント。
 「お前ら何モンだ!?」
 『貧乏人だ!!』
 いきなりの事態に慄く男らに即答で返す。果たしてこれは意表をつく作戦なのかそれとも本気なのか特に烈。
 「ていうかアンタたち普通に行きなよ・・・・・・」
 息を切らせ、ボヤきながらそれでもかなりの速さで到達した3番手マリナが、2人が暴れている間に混乱地帯の脇をすり抜け人質救助に向かった。人質2名確保。
40ポイント追加。
 そうこうしている間にも、金に目の眩んだ2人に敵はなかった。さらに4名倒され
80ポイント。
 「逃げろおおお!!!」
 掛け声と共に、残っていた6名が一斉に走り出す。2人が入ってきたのとは逆側へと。
 「なるほど。展示室はいわば迷路。確かにそちらに逃げれば追手2人に追いつかれる可能性は減る。しかも彼らが学校の生徒である以上展示物を傷付ける真似はしない。実に素晴らしい思考能力だ」
 戦闘の様を見守り、ポイントのカウントを行っていた間宮が眼鏡の鼻縁を上げつつ解説する。
 解説して―――
 「―――が、やはり遅すぎる」
 やはりこう結論付けた。
 気付かず出て行く6人。正確には―――出て行こうとした。
 『うどわああ!!!』
 ビリビリビリッ!!!
 開け放たれていた入り口をまたぎ越そうとした瞬間、足元に引っかかった鋼線からほとばしる電撃により3名が戦闘不能となった。あえて部屋に踏み込まず外で仕掛けていたせなと美樹原がにこりと笑う。
60ポイント加算。
 残り2人のところで―――
 「エモノはここかあああ!!!」
 雄叫びを上げ、1年グループこと先ほど連絡通路の上を爆走していた3人が辿り着いた。先頭に豪と太一、一歩遅れてヤマトが。
 ・・・・・・なぜここで順番を確認したのか、答えは次に起こる事態にあった。
 開け放たれた扉へと踏み込む2人。そこしか見ていなかった彼らには、向こうの扉にいたせなと美樹原の姿はもちろん見えていない。そして―――
 がん!!
 入る寸前で扉を閉めるため待機していたレイの姿もまた。
 顔面から扉に激突し倒れ込む2人。遅れたおかげで災害を免れたヤマトは、腕を組みふふんと笑うレイを睨み付けた。
 「何すんだよ」
 「別に? ただ扉を閉めただけだろ?」
 「お前は『パーティー』、参加しないのかよ?」
 「しないな。俺は金には興味ない」
 「そこどけよ。中入る」
 「勝手に開けて入ったらいいだろ?」
 邪魔するわりにやけにあっさり引き下がる。あまつさえ親切に扉を開けてくれたレイに、さらに目つきをきつくする。
 きつくして―――
 ―――中で待っていた光景に、思い切り目を見開いた。
 「やあ、ヤマト君」
 「意外と遅かったな。もっと早く来るかと思ったけどな」
 「こっちなら全部片付いたよ。さっさとクラス戻んな」
 中で待っていたのは、なぜか自分もよく関わる生徒会メンバーと後いろいろだった。床に倒れ込むのが12人。怯えているのが2人。前者が『対象』、後者が『人質』だろう。
 そして、それらを従え悠然と立つ烈・佐久許・マリナの3人。
 「まあ・・・・・・、指示した会長属する生徒会なら最初に辿り着くか」
 ヤマトの呟きに、全員が疑問げな眼差しを送った。
 「?」
 理由がわからず問い返す―――前に。
 「汚ねーぞ兄貴!!」
 復活した豪が、がばりと起き上がり様兄を指差す。
 「汚い? 何のことだ?」
 「お前ら!! 先に会長から情報もらってたんじゃないのか!?」
 同じく復活した太一が、豪の不足部分を埋めていった。太一はこれで頭のキレがいい。どうやら見た瞬間、自分と同じ答えに辿り着いたようだ。
 が、
 「だから何言ってんだよお前ら」
 「もしかしてアタシたちが会長に先に聞いたって思ってる?」
 「ンなワケないだろ? だったら時間削減のため窓伝って上に来るなんてやらずに普通に廊下歩いて階段上ってきたよ。生徒会室とココって丁度校舎両側の階段の中央だからな。そっち使うとかなり遠回りになるし」
 「やったワケ? アンタたちもそういう事やったワケ?」
 ようやっと到達したジュンが、なぜか妙に信じられないといった顔で驚いている。
 『そりゃもちろん金のために』
 実際やった2人、烈と佐久許が綺麗にハモる。どうやら佐久許のみならず烈もまた本気で金狙いらしい。
 「何なのこの学校・・・・・・」
 崩折れるジュン。問題は解決したとばかりに自分らが倒した『対象』らを引きずっていく生徒会役員ら。これ以上いても仕方ないためすごすご引き返す1年軍団。
 彼らを見送り、間宮が最後に呟いた。
 「つまるところこれが我が校におけるトラブル発生率の低さの理由だな。生徒全員が警備を担当すれば手が回らないところはない。大勢の警護を雇うことと比べれば合計
175万の賞金など安いものだ。考案した前生徒会長には全く脱帽する。しかし―――」
 僅かな苦笑。
 「―――出費を減らすために、ぜひとも生徒会メンバーには頑張ってもらわねばな」





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 そして終わった文化祭。売上トップは生徒会―――ではなく有志で行ったバンド、『
TEEN-AGE WOLVES』がかっさらっていった。
 「まあ、よくよく考えてみれば
Fanの多さにチケット1枚10001500円。勝って当然だよね」
 「むしろ太刀打ち出来る戦力が他にあるわけなかったんだよな。早く気付けばよかった」
 「でもまあ、私たちも2位じゃない。稼ぎだけではトップだし」
 「とりあえずこれで出費は
125万に減ったな」
 「みなさんの頑張りのおかげです。ありがとうございます。1位を取ってくれればもっとありがたかったのですけれど」
 「というか・・・・・・お前ら本気で
100万狙ってただろ?」
 「生憎だが勝ったところで分け前は0だぞ。そんな余裕はどこにもない」
 『えええええええ』
 会長直々の通達に、全員で不満声を上げる生徒会メンバー。
 今回の『副賞』。一体どこからそれだけの金を捻り出してるのかというと、もちろん文化祭の儲けからである。では文化祭ではそんなに稼ぎがあるのかというと―――答えは
No。厳密に全ての団体の儲けを集めれば充分あるのだろう。が、この学校では文化祭は各団体が独自に行うものであり、準備金として生徒会から借りた分の金+利子少々を返せば後の儲けは自由に使用可。つまり文化祭における生徒会側の儲けは、黒字を出した団体からの利子分と、後は生徒会自身が運営する何かの稼ぎのみである。だからこそ生徒会はカジノクラブなんぞというばりばり違法ものを取り入れ荒稼ぎし、さらに出来るだけ他団体に渡す賞金額を減らすため全力で動き回るのだ。『パーティー』を含めた文化祭システムの真の意味、それは生徒会役員を思い切り働かせるためにある―――というのが冗談抜きでの解釈である。つくづくこんなシステムを作り出した前生徒会長には脱帽する。
 「というわけで、
  借金
25万円分、裏会計から出しておくがその分はしっかり働いて返すように。以上」
 『はあああああ!!??』
 こうして、生徒会役員らの間に埋め様のない溝をざくざく深めていきながら、今年もまた文化祭は終わりを告げたのだった・・・・・・。



―――デジレツ編 Fin








 ―――はい。もの凄く久々、確認してみたら1年以上ぶりのデジレツ話でした。どれがレツゴキャラでどれがデジアドキャラで、さらにどれがオリジナルだか何も見ずに全て当てられた方拍手です。私自身も実は一部名前忘れた・・・・・・(爆)。
 しっかし書くと面白いなあ、高校生編。これからもタラタラ〜っと気が向いたら続いていったりするかもしれないですね。

2004.9.1920