レツゴ『M.Es』風輪2年へん


 「よく来たね、2人とも」
 「お言葉に甘えさせてもらって」
 「本気で来たんですね、2人とも・・・・・・」
 「まあそないに邪険すんなや直也」
 風輪にて。本日行われる文化祭の客人2名を前に、招いた側2名は全く逆の反応をしていた。
 「で、2人のクラスは何をやっているの?」
 「喫茶店だよ」
 せなの質問に烈が答え、
 「喫茶店? またえろう普通なモンやっとるなあ」
 「ウチのクラスで現在規格外は烈だけですから」
 茶化す不来に、直也がきっぱりと冷めた発言をする。
 ちなみにこの4人、不来とせなが引っ越す前の去年は全員同じクラスだった。同じクラスでやはり文化祭を行い・・・・・・出し物は『雰囲気だけイメクラ』だった。本物の男子女子中学生相手でデートのシミュレーション。怪しい事をやったら即退場。
 クラス全体に可愛い女の子が多かったというのもあり、さらに本性さえ現さなければ『可愛いボク』の烈、中性的な顔立ちで男女共に人気の不来、無表情で冷たい雰囲気がむしろミステリアスと評判の直也までいたりして、アブナい趣味のオヤジやお姉様方から、恋人いない歴年の数の若者まで幅広い層に支持され、大人気となった。ただしもちろん当日学校側にバレ、嘘八百の企画書を提出した罰として儲け全額没収の上文化祭の後片付け全部をやらされたという苦い思い出となった。
 「まあとりあえず立ち話もなんだし、入ってよ」





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 中へ入り、4人掛けの丸テーブルに落ち着いた4人(なお烈と直也は現在休憩時間である)。離れていた時間など忘れ盛り上がり、また前述通り不来とせなも元は風輪生。転校して1年たったというのに彼らを覚えている者も多い事から(理由は問うなかれ)、丁度働き途中だったり足を運んだりしていた生徒達も集まってくる。
 そして―――





 「随分お客様増えたわね」
 「まあ、賑わった店内はより人が入りやすくなりますからね」


 ―――おうおう随分繁盛してんじゃねえか
 ―――な、何ですかあなたたちは・・・!!



 「何や。俺ら客寄せパンダかいな」
 「あはは。去年の『雰囲気だけイメクラ』が懐かしいね」


 ―――ああ? 何だお前。俺らに文句言おうってか?
 ―――俺らはただの『お客様』だろ? ホラわかったらさっさと席用意しろよ。



 「せやなあ。目を閉じると今でも思い出すわ。知らんヤツらに尻尾振ってコビ売っとるお前の姿が」
 「うるさいよ不来v」
 笑顔でコップを投げつける烈。真正面からの攻撃を不来は余裕綽々であっさりかわし―――



 スコーン!!


 ―――うぎゃっ!?
 ―――だ、大丈夫か!?
 ―――っててて・・・! 誰だンな事しやがったヤツ!?



 「何やいきなり。俺はただ思い出話しただけやろ? そないにすぐ否定するっちゅーコトは、お前も実は恥ずかしかったっちゅーんのの裏返しとちゃうん?」
 「あっはっは。それはむしろ君の話じゃないかなあ?」
 「何の事や?」
 ギシギシギシィ・・・・・・と2人の間で空間が歪み・・・


 ―――おいそこのお前ら!! お前らか今コップなんぞ投げてきたのは!!
 ―――あ! ちょっとストップ兄貴!! そこの4人、見たところなかなかいい感じで・・・・・・
 ―――でへへ・・・。な〜るほどなあ。
    おいお前ら、今すぐ俺様に詫びて、その証として今日1日俺らに付き合ったら今の行為、許してやるよ。
 ―――お〜。さっすが頭。心広いッス!!



 「『何の事』? あれ? キミ人の思い出には浸るクセに自分の事はもう忘れちゃったのかな? それとも忌まわしき記憶は頭の奥底に封印しておくタイプなのかなあ?」
 「ほ〜。俺の忌まわしい記憶やと? 覚えとらんなあ。俺はお前と違ごて品行方正・明朗会計に生きとるからなあ」
 「品行方正・明朗会計に、ねえ・・・。
  なるほど。それであれだけおおっぴらにセーラー服着て客の前でストリップショーなんてやったんだ〜」
 「やっとらへんわ!!」
 怒鳴ると共に、不来は来るなりウエイターに置いてもらったフォークやらナイフやらの詰まったバスケットに手を突っ込み―――



 しゅばしゅばしゅばっ!!!
 ずだだだだ!!


 ―――うおわあああああ!!!???
 ―――ちょっと待て不来ぃ!! 店にまで被害与えるなよ!!
 ―――ていうか今の当たったら死んでるだろーが!!



 「ハッ。今更言い逃れるつもり? 証人はいっぱいいるんだよ?」
 「お前らが面白がって俺に女装しろだの言いおったんが始まりやろ!?」
 「客の前で脱いだクセに」
 「誤解招く言い方すなや!! お前らに無理矢理脱がされただけやろが!! しかも学ランだけやろ!?」


 ―――てめえら何しやがる!?
 ―――随分ナメた真似してくれんじゃねえか!!



 「その後お金巻き上げたでしょ?」
 「規定料もろただけや! それ以上の分はしっかり返したで!!」
 「・・・・・・本気でもらってたんだ」
 「万札出されおってホンマどないしよ思たわ。しかも
MAX10万出されて『今夜どう?』誘われたしなあ」


 ―――って人の話きけよおい!!
 ―――ガキだと思って下手に出りゃつけあがりやがって!! もう我慢なんねえ!!



 「うわあ。僕せいぜい5万くらいだったよ」
 「お前もしっかりもろたんか・・・・・・」
 「受け取ってないって。ちゃんと断ったよ」
 「ほお〜。勿体無いなあ。せっかくお前みたいなん買いたい言いおる奇特なヤツやったんやで? 逃したら一生チャンスあらへんっちゅーんに」
 「何のチャンスだよ・・・。っていうかだったらまずお前買われろよ」
 「イヤやであないなんに飼われんの」
 「奇遇だねえ。僕もそう思うよ」


 ―――やっちまえ!!
 ―――おう!!
 ―――あ、危ない4人とも!!



 「ほお〜。つまり何や? お前は俺だけにかわれたい、と?
  そないな事今更確認せえへんでも充分わかっとるさかい。安心しいよ」
 「ざけてろ不来」
 据わった眼差しで烈がテーブルクロスに手をかけた。クロス引き―――ではない。逆にテーブルに載る物全てを巻き込み跳ね上げさせる。
 さりげなく自分が食べていた分だけはしっかりと避難させたせなと直也の前をクロスその他が飛び―――



 がしゃがしゃーーーん!!


 ―――ぎゃあああああ!!!
 ―――熱ちい!! 熱ちいよ!!
 ―――痛って! 何か目に入りやがった!!



 「何や烈。お前俺に逆らう言うんか・・・?」
 「当り前だろ? 僕の存在全てをかけてお前を否定してあげるよ」
 「ハッ! 上等や」
 鼻で笑い、今度は不来が攻撃を仕掛ける。1本脚のテーブルを足で蹴り飛ばし(なお手はこちらも自分のものを避難させていたため両方埋まっている。烈ともども両手に皿とグラスを持ち、ストローを口につけたりしながらこれらの会話を繰り広げているため雰囲気は全く盛り上がらない)―――



 どごっ!!


 ―――ぐはっ・・・!!
 ―――あ、兄貴ぃ!!
 ―――お、俺はもうダメだ・・・。後は頼んだ・・・・・・
 ―――兄貴しっかりしろ正気を失うなーーー!!!
    くうう〜!! 兄貴〜〜〜!!!
 ―――ヤロー・・・!! あいつらぜって―許せねえ!!
    殲滅だ!! 血祭りに上げてやれ!!
 ―――おう!!!



 ゆらりと立ち上がった2人。背後にオーラを沸き立たせ、荒野で向かい合うガンマンの如く静かに向かい合う。
 2人の間を冷たい風が吹き抜け・・・・・・
 「勝敗は・・・・・・」
 「より多くを倒した方が勝ち、でどう?」
 「ええで」





 『ちょっと待て





 かくて、店中巻き込んで大乱闘が始まった・・・・・・。





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 飛び交う皿とフォーク、あちこちでテーブルクロスが踊り、それ以上に倒された存在が間抜けな踊りを踊っている。
 こうなればもう無関係な人間などいない。客・従業員全てが己の命を賭けサバイバルに挑んでいった。





 その中で、ちゃっかり店の端の安全圏に避難していたせなと直也は、飛んで来た食器を適当に拝借し、残りを優雅に食べていた。
 「・・・・・・来ない方がよかったかしら? 私たち」
 「いえ。来た時点で全員覚悟は出来ていたでしょうから平気ですよ」
 「・・・・・・・・・・・・やっぱり来ない方がよかったって思ってない?」
 苦笑するせなに、
 直也はゆっくりと首を振った。
 「いいえ」
 いつも無表情なその顔に、僅かながら笑みが零れる。
 「今日は『お祭り』ですから。この位騒がないと。
  それに―――」
 「それに?」


































 「――――――僕には何の被害もありませんから」
 「それもそうね」

































 この上なく薄情な2人は、
 それだけを確認し合い、残りの料理をのんびりと食べ続けた・・・・・・。



―――レツゴ『M.Es』風輪2年へん Fin








 ―――このシリーズそのものがそうではあるのですが、特に直也に対して『誰この人?』と思われた方多いかと思います。人物紹介にはありながら、まだ本編では全く登場していないような気がする彼(管理人自身登場したか否か忘れている時点で終わっている・・・)、フルネーム三村直也で三村の弟です。その他詳しい事は人物紹介の方をどうぞ。設定はしっかりありキャラとしては気にいっているのですが(この黒さが)、恐らく積極性がないためでしょうなかなか今まで登場出来ませんでした。ちなみに敬語でも同年齢ですよ。最初自分でも危うく1コ下だっけ? とか思いましたけど(爆)。
 ではわざわざ『風輪2年』と銘打った時点で最強メンツ属する3年編は来るのか否か? 出来るならばやりたいなあネタがあったら。しかしそれ以前に豪のいる1年は・・・・・・?
 そういえば、何気にこれは時期設定がおかしいような感じです。不来とせなが引っ越したのは1年の秋。都大会の5月時点で『8ヶ月ぶり』。・・・・・・風輪で文化祭はわりと早く行われているという事にしておいて下さい。

2004.9.20