テニプリ幼馴染+さらに1編


 今日は某住宅街を含む地域で、『産業祭』と呼ばれるお祭りがある。何を『産業』しているのかは謎だが、要は秋祭り―――昼やる夏祭りのようなものである。
 さてその住宅街、そこにはかのアトベッキンガム宮殿があり、裏には魔の巣窟こと不二家と佐伯家(母方の実家)があり、さらにご近所には千石家がある辺りである。そしてその祭りは地域住民総参加のため、このような事が起こる。



 「周助。ちょっとお店の方男手が必要なんだけど、手伝ってもらえるかしら?」
 「うん。いいよ。母さん」



 「景吾。今日部活ないんでしょ? じゃあお店の方手伝ってくれない?」
 「別にいいぜ。母さん」



 「キヨ! 姉ちゃん今日急にデート入っちゃったv 代わりに店番よろしく!」
 「ぅええ!? 俺が!?
  あ〜あ。今日はアンラッキー・・・・・・」



 「虎次郎。アンタ来たんなら丁度いいわ。店手伝ってくれたらお駄賃に売上の
0.2%」
 「・・・・・・何か少なくない? 電車賃にもなりそうにないんだけど」
 「5秒以内に返事しないと以降3秒ごとにさらに半額ずつに―――」
 「わかりましたやります。きっちりやらせていただきます」
 「それでこそ私の孫」
 「は〜あ。ホンットいい性格してるよばあちゃんは」
 「もちろん誉め言葉でしょ?」
 「取る人次第でね」





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 「―――という感じで」
 そんなこんなで『店』に来た4人。出し物自体は『つきたておもち売り場』と普通だったのだが(そうか?)、なぜか手伝いを要求したかの4名は全員同じ売り場担当だったらしい。
 当然のように出くわし、経緯を説明する不二・跡部・千石そして佐伯。ラストとなった佐伯の説明を聞き、3人で大きく頷いた。
 「なんっていうか・・・」
 「さすがサエの身内だけあるね」
 「つーかてめぇらは一族まとめて人生振り返った方がいいんじゃねえのか?」
 「まあこれが普通だから」
 しれっと答える佐伯。そして―――
 「あ、虎次郎君久しぶり」
 「お久しぶりです小母さん方」
 「周助君達もだけど、みんな暫く見ない間に大きくなったわねえ」
 「ホント、子どもの成長は早いわあ」
 「そうですか? 自分達じゃよくわからないですけどね。周りもこんなものだし」
 「そーそー。俺もこれで周りからさんっざんちっちゃいちっちゃい言われますから」
 「とんでもない! 大きいわよ充分に!! 小母さん達なんてあっという間に抜かれちゃったわ」
 「そうそう、そういえば周助君、君全国大会優勝したんだって? おめでとう!」
 「あはは、ありがとうございます」
 「え、凄いじゃない!」
 「そんな、運がよかっただけですよ。跡部に勝っていい弾みになりましたから」
 「てめぇ不二・・・。誤解を招く解説を・・・!!」
 「あらあどうしたの景吾君!!」
 「君が周助君に負けるなんて珍しいじゃないか!」
 「ほらやっぱ間違えられたじゃねえか・・・!!
  ・・・・・・いろいろありまして。まあ・・・」
 「油断と不運が招いた結果ですね」
 「ぐっ・・・!」
 「うわ・・・。間違ってないだけ言い返しにくいね・・・・・・」
 「うっせーぞ千石!!」
 どごっ!!
 「相変わらず景吾君は元気ねえ」
 「あんまり遊んでないでこっち手伝ってくれよ?」
 『はーい』
 そんな感じでご近所のおっちゃんおばちゃんに極めて自然に馴染みつつ、4人は準備に取り掛かったのだった。





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 特に問題もなく売り上げを伸ばしていく事暫し。ローテーションにより佐伯がもちつき、不二が合いの手、千石がもちの切り分け、跡部があんこ付けを担当していた時、
 「―――あれ?」
 「やあ」
 ふいに現れた存在に、最初に気付いたのは不二だった。
 声をかけられ、その他3人もそちらを向く。
 「幸村じゃねえか」
 「やっ。幸村くんお久しぶり♪」
 「珍しいな。どうしたんだ?」
 「久しぶりにこっちに来たんでね。丁度時期もよかったし、思い出に見て行こうかなって思って。
  ―――まさかお前たちがいるとは思わなかったよ」
 「不可抗力だ」
 「跡部くん・・・。今だにお母さんには逆らえないの?」
 「情けないなあ景吾」
 「駄賃につられたてめぇに言われたかねえよ!!」
 何だか盛り上がる3人は無視し、不二が話を続けていく。
 「母さん達に頼まれてね。『手伝ってくれない?』って。
  ああそうだ幸村、この後時間ある? あったら家寄ってかない? 久しぶりだし、歓迎されると思うよ。丁度サエも来るからって姉さんも準備してるし」
 「え? いいのかい?」
 「もちろん。せっかくなんだからみんなで盛り上がろうよ」
 小学校の頃こちらにいた幸村。学校は違ったが、テニスと関係あるようで微妙に関係ないそこらの公園で出会い、そのまま仲良くなった経緯を持つ。特にテニスコートのある跡部家と不二家によく呼んでいたため、家族とも充分知り合いである。
 盛り上がる2人に、さらに跡部が加わった。
 「でもってテニスやろうぜ。今日こそてめぇは倒してやるよ」
 「その根拠0の自信はどっから来るんだ・・・?」
 「今日こそぜってー勝つ!!」
 「はいはいもういいよ。とりあえずあんに唾は飛ばすなよ?」
 「え!? 跡部くんの唾つきあんだんご!? むしろ欲し―――!!」
 ずごっ!!
 「じゃあ祭り終わるまで俺は他のトコ見てるから」
 「うん。また後でね」
 再び盛り上がる3人を再び無視して進められる会話。
 手を振り去っていく幸村を、さらに暫し見送り・・・
 「結局試合の約束してもらえなかったな、景吾」
 「てめぇらが余計な茶々入れしたからだろーが!!」





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 さて今度こそ何事もなく売上を伸ばして――――――いけなかった。
 「・・・何だ?」
 「何か、騒がしいね」
 最前列(買い手から一番よく見える所)でもちつきをしていた跡部と千石。動きを止めた2人に合わせ、他の者も顔を上げた。
 と・・・
 「大変だー!! 売上金が盗まれた!!」
 『――――――!!!』
 その言葉に、目を見開く一同。現在午後1時。午後の売上はちゃんと箱に入っている。これまたローテーションにより売り場担当が佐伯になった以上、たとえ有名人が来ようが突発的暴風雨により祭りが中止になろうが金だけは守られるはずだ!! ならば―――
 「本部の金か!!」
 午前中の売上は本部に持っていった。そこで集計し、必要経費を差っ引いて差額を各団体に返還するのだ。盗まれたとすれば考えられるのはそちらの方。
 推理し、
 4人は一斉に凍りついた。
 (どうしよう・・・。売上金出して初めてちゃんと手伝った事になるのに・・・!!)
 (ヤバい・・・。このまんまじゃ『アンタは店番1つまともに出来ないのか!?』って姉ちゃんに怒られる・・・!!)
 
責任感の強いこの辺り2人はいいとして、
 (ヤベえ・・・。母さんがこっち見て笑ってる・・・。俺に取り返しに行って来いって事か・・・? 取り返せなきゃ殺されんのは俺か・・・!?)
 (マズい・・・! このままじゃ駄賃が減る!! せっかく
100円超したってのに!!)
 実際的問題に差し迫られていた2人の焦りは半端なものではなかった。
 「そっち行ったぞー!!」
 「誰かそいつら取り押さえてくれー!!」
  「「よっしゃあ!!」」
 徐々に近づいてくる声に、2人して握り拳を作る。
 さほど間をおかず現れた『そいつら』に、
 「てめぇら覚悟しやがれ!!」
 「ちょっとタイム跡部くん!!」
 まず跡部が持っていたものを投げつけた。これが杵だったりするとなかなかにカッコよかったのだが―――この時跡部は丁度合いの手こと捏ね担当だった。
 「をぶっ!?」
 つきたてアツアツもちが顔面を直撃し、突っ込んだ勢いそのままぶっ倒れる1人目。起き上がらないのはどこか打ったかそれとも窒息か、まあどちらであろうと大差はないだろう。
 「まだまだ次行くよ!!」
 「サエそれはさすがにマズいよ!!」
 次いで佐伯が釜戸の見張り役だった不二を押しのけ薪を投げつけた。
 「ぐはっ!!」
 火から取り出し3秒経過していない薪。当り前だがめたくそに熱い。しかも悪質―――もとい不運な事に、当たったのはどんぴしゃで火に突っ込まれていた部分だったらしい。倒れてなお悶絶する2人目。
 そして―――
 「ひ、ひいいいい・・・!!」
 何か金庫ちっくなバッグを持った3人目が、悲鳴を上げて逃げ出した。
 「てめぇ仲間見捨てて逃げ出すたあどういう了見だ!!」
 「いや
10人中10人逃げると思うな今の見せられたら・・・」
 「そういえば落とした金拾ったら1割謝礼か!! 待て謝礼ーーーーー!!!!!」
 「あの、最初狙ってたのお駄賃じゃないの・・・?」
 意外とまともな精神にてついていけない2人を他所に、盛り上がる2人は盛り上がったまま追いかけていった。おかげで余計に逃げる3人目のペースが上がる。
 と・・・・・・
 男が逃げる先から、丁度一通り見回り終わったらしい幸村が現れた。
 「幸村・・・・・・」
 「あっちゃ・・・。タイミング悪・・・・・・」
 不二と千石が顔を手で覆い呻いた。2人して考える。跡部・佐伯、そして幸村。誰に捕まるのがこの犯人にとって一番不幸なのだろう、と。
 「危ない!!」
 「逃げろそこの君!!」
 周りからそんな声が上がる。追いかける2人はどうでもいいのか・・・? と突っ込みたい応対だが、凶暴性滲み出るどころか溢れ返る鬼神の如き2名と、『病弱』を絵に書いた薄幸の美少年1名。どちらにどう呼びかけるかと問われれば、それこそ
10人中10人薄幸の美少年の方に逃げを促すだろう。
 が、そんな彼を前に違う反応をするのが2名。
 「幸村ナイスタイミング!!」
 「後は任せた!」
 「え・・・?」
 いきなり任せられ、何のこっちゃと首を傾げる幸村。首を傾げつつ――――――体は既に動いていた。
 肩から下げていたバッグを落とし、姿勢を整える。これで残るは片手に持つ、恐らくバザーで買ったのであろう1品だけ。
 左手で構え、さらに右手を添える。鯉口を切れば、そこから現れるのは白銀の輝き。
 現れた―――次の瞬間には収まっていた。元あるべき場所―――鞘へと。
 「居合抜き・・・・・・?」
 無言でばたりと倒れる男を見て、千石がぽつりと呟いた。動体視力にはもちろん自信がある。しかしながら今の幸村の刀捌きが完全に見切れなかったのは、決していきなりの出来事に対する驚きによる反応の遅れのみが原因ではないだろう。
 目の前で突如見せられた達人芸。大口を開けて驚く一同の前で、肝心の当事者は軽く口を開けて驚いた。
 「ああびっくりした。いきなり襲い掛かってくるから」
 「・・・・・・襲い掛かってたっけ?」
 「というか、驚いてあれだけやるんだ。どう聞いても幸村くん、本気だよね・・・」
 ぼそぼそ呟く2人は無視し、
 「よくやった幸村!!」
 「お前最高だ!!」
 走りついた佐伯と跡部は、そのまま幸村の両肩をぎゅ〜っと抱き締めた。2人にとってはどこも疑問の余地はなかったらしい。
 とりあえず残された2人も近寄り、
 「けど幸村、なんで日本刀なんて持ってるの?」
 「ああ、さっきバザーで見つけたんだ。安かったからいいかなって思って」
 「何がいいワケ? 何にいいワケ? 念のため訊いとくけど死んでないよね? その人」
 「大丈夫じゃないか? 刃は使ってないから」
 「刃が付いてたら銃刀法違反じゃないかな・・・?」
 「ちなみに幸村くん、君いつから日本刀なんて始めたの?」
 「退院してから真田に教わって。日本男児たるものまずは健康な心と体作りからだって」
 「健康な体作りはテニスだけで充分だと思うんだけど・・・・・・」
 「ついでに心もさ・・・。
  けど真田くんも不幸だね・・・」
 「え? 何が?」
 「言っちゃ悪いけどもうどう見たって幸村くんに実力抜かれてるよ? 退院してから教わったって事は、初めてまだ3ヶ月くらいしか経ってないんじゃないかな・・・」
 「・・・・・・。真田には言わないでおこうか」
 「そだね」
 こうして、一部除くほぼ全員の心にいろいろ禍根を残したまま、祭りは無事に・・・・・・





 ・・・・・・結局終わらなかった。





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 「景吾v」
 「虎次郎v」
 「な、なんだよ母さん・・・」
 「とりあえずちゃんと稼いだ分は出しただろ!? 駄賃の他に謝礼をもらうのは人として当然!」
 「けどね景吾、お店の売り物で遊んじゃ駄目よ?」
 「確かにアンタの言う事は正しいわ。でもね、顔中大火傷した犯人がこっちを傷害罪で訴えてるのよね。示談金、もちろん払うわよねえ?」
 「つ、つまり・・・・・・」
 「じゃあ・・・・・・」
 「お母さんあなたをそんな子に育てた覚えはないわ。責任持って躾し直さないと」
 「もちろん、本日の稼ぎは全額没収でいいわよね?」
 『うぎゃあああああああ!!!!!!!!』



―――幼馴染+1編 Fin








 ―――さていろいろと登場しました今回。とりあえず家族捏造しすぎです。不二の母親はもちろん淑子さん、跡部の母親及び千石の姉は
My設定で紹介していますが、さらに佐伯の祖母は現在46歳(祖母・母共に16歳で出産)。会話からわかる通り? その年齢以上に若い感じです。しっかしすげえなあこの家系。46歳の祖母に14歳の孫かあ。普通ならこれでようやっと親子だというのに・・・。というか金の亡者の佐伯家・・・。一歩間違えると『魔術士オーフェン』シリーズのオーフェンが入りそうだった・・・・・・。
 ちなみに『産業祭』。私の住む地元では実際ある祭りです。ノリは本文どおりの昼やる夏祭り。さらにバザーが加わったり、一応産業っぽく? 手作り何とか教室のようなものもあったりしますが。しっかし本気で何の『産業』なんだろう・・・・・・?

2004.11.1912.14