レツゴ高校生編


 星馬烈という人物を一言で表すと、
 ―――予想通りの事態に対し予想通りの思考の元予想通りの行動を起こし予想通りの展開に持っていき予想通りの結末で終わらせる存在である。
 「誰が言ったのよ、それ・・・」
 「誰でも言うだろ・・・・・・?」
 ため息をつくジュンに、豪もまた肩を落としてげんなりと呻いた。目の前に広がる光景から意識を切り離して。
 目の前では―――
 「星馬先輩、カッコいい・・・vvv」
 「今日から姐御と呼ばせて下さい!!」
 少年少女らが顔を赤らめうっとりとし、ヤーさんらが跪き感極まった眼差しで見上げている。
 そんな彼らの中心で、問題の人物は鷹揚に頷いた。
 「よし、じゃあ今日はめいいっぱいお祭りを楽しもう!」
 『おー!!』



 彼らに一体何が起こったのか。
 話を少し戻す・・・・・・。





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 文化祭にて、豪らのいる1年A組は食堂を営んでいた。文化祭が9時から3時とお昼を間に挟む時間帯であるため、閑古鳥になる事もなくごく普通に盛り上がっている。
 そんな盛り上がりが、
 「やあみんな、調子はどう?」
 『星馬先輩vv』
 のれんを掻き分け姿を現した、見回り組こと生徒会副会長かつ豪の兄でさらにこの様子でわかる通りこの学校のアイドル的存在で〜・・・・・・まあ前置きはこの程度にするとして、とにかく最短で称するに星馬烈は、のんびりと食堂へ入って来た。
 入り口そばに立っていたウエイトレス姿の女子へと、笑顔で首を傾げる。
 「席、1つ空いてる?」
 「え・・・? じゃあ―――」
 「お昼には少し早いけど、ずっと歩き回ってておなか空いちゃったからね。ちょっと食べて行こうかな」
 「はい! いくらでもどうぞ! こちらが空いております!!」
 飛び上がらんばかりに―――どころか実際飛び上がって喜ぶ少女。飛び上がる弾みにスカートが捲くれていたりしたのだが、誰も特にそちらを見ていたりはしない。現在彼らの注目ポイントは、突然来訪したこの先輩がそのまま去ってしまうのかそれとももう暫くここにいるのか、ただそれだけだった。
 小さくガッツポーズする一同の間をすり抜け、『空いていた』窓際の特等席へと案内される烈。周りの視線など全くお構いなしに、少女からメニューを紹介され(通常はメニュー表を渡して終わりの筈なのだが・・・)、笑顔のまま注文していく。
 カウンターに戻ってきた少女が、
 「し・・・、シーフードドリアとコーンスープですって・・・・・・」
 それだけ言い残し、その場でばったりと卒倒した。
 烈と直接会話したその羨ましい少女は特に介抱もされず。
 「シーフードドリアか・・・。きっとあの小さな口ではふはふやって・・・・・・」
 「コーンスープも啜ろうとして『熱っ・・・!!』とか・・・・・・」
 「いい・・・!! 良すぎるぜその光景・・・!!」
 「ああ・・・。鼻血が出そう・・・・・・」
 「星馬先輩最高・・・・・・!!」
 恐るべし妄想天国。
 「じゃあドリアもスープもあつあつにして持って行って・・・・・・!!」
 ここで、全員の動きが止まった。
 妄想天国が終わる。天国の後に待っていたのはもちろん現実地獄。
 「誰が、持って行く・・・・・・?」
 顰めた声が、それでも辺りに響く。それほどに静かになったカウンター内。誰もが互いを牽制し合うように、周りの人間を睨め上げた。
 張り巡らされる、緊張の糸。切れた瞬間に待っているのは血飛沫撒き散らされる大惨劇かそれとも平和的解決か。
 極限まで引き伸ばされたそれが―――
 ―――あっさりぶち切られた。
 「―――ねえ」
 『はい。何でしょうvv』
 特等席からかけられた声に、今までの険悪感を霧散させ全員でとっておきの笑顔を見せた。
 一方見せられた烈は申し訳なさそうに周りを指差し、
 「お客さん、放っておいていいの?」
 『あ・・・・・・』
 指摘され、気付く。誰もが同じ目的のためカウンター内に引っ込んでいた事に。
 全員で視線を交わし・・・
 「じゃあ、じゃんけんででも決めるか」





 というわけでじゃんけんで決められた。お約束のように豪に。
 「なんでお前になんだよ!?」
 「アンタいつも先輩に会ってんでしょ!?」
 「公平にじゃんけんで決めた結果だろーが! 今更文句言うんじゃねえよ!!」
 その他全員のブーイングを他所に、重要な場面で確実に役得をする主役としての素質
には溢れている豪は、出来上がったドリアとスープを盆に載せ、悠々と兄のいる座席へと向かっていった。
 「ほい烈兄貴、お待たせ」
 「ってそれが客に対する態度かよ?」
 「ま、いーじゃねえか。固い事言うなって」
 半眼でため息をつく烈。ふっ、と頬を緩め、
 「ま、ありがとな」
 「え・・・? 烈、兄貴・・・・・・//?」
 (普通に・・・礼、言った・・・・・・?)
 解釈せずとも恐ろしく失礼な物言い。しかしこのように豪が驚くのも無理はない。何かやった
100回の内1回あればいい方なのだから(ちなみに豪が『何かやった』100回の内90回は事態がより悪い方向へ流れていく。これを踏まえれば烈が礼を言わないのもあながち納得出来ない事ではないだろう)!!
 豪の照れ(と考え)は気にせず、頬杖をついていた烈は優しげな笑みのまま手前の空席をとんとんと指で叩いた。
 「座っていかないか?」
 「いい・・・の、か・・・・・・?」
 「当たり前だろ?
  ―――お前に逢うために来たんだから」
 妖艶な笑みを浮かべ、小さく囁く。聞き耳を立てていた周り全員から殺気が迸った。烈が去った途端集団リンチが確実に行われるだろう。
 全身に浴びながら、全く気付かず腰をかける豪。詰め寄りつつ(そしてさらに憎悪を集めつつ)問う。
 「ほ、ホントか・・・・・・?」
 「なワケないだろ?」
 即答。
 優しげな微笑はどこへやら、へっ、と馬鹿にするように(事実その通りなのだが)笑う兄に、
 「・・・・・・・・・・・・。だよな。そうだよな」
 ある種の安心を覚え、豪は何度も小さく頷いた。目の幅涙を流して。
 退場した弟は気にせず、烈は運ばれてきたものに口をつけた。用意した側の意図どおり、はふはふ熱っ! とやりつつ。
 話題は横に逸れるが、つくづく烈にはサクラがよく似合う。特に食べ物関連の。このような場所で出されるものなど、当たり前の話既製品をレンジで温めた程度だ。味などただの市販品と同じ。しかもわざわざこういったところで売るから少しお高い。それでありながら実においしそうに食べる。烈が食べ初めてからドリアとスープの注文が増えたのは、決して彼のFan達のみの成果だけではない。実際―――
 「ママー! 僕もアレ食べたい! お兄ちゃんとおんなじの!」
 「そうね。じゃあ店員さん、私たちも彼と同じものお願いします」
 「はい、かしこまりました」
 こんな感じで、近くの席に案内された母子も烈と同じものを注文した。こちらもまた、はふはふと食べる。
 「おいしいね」
 「うん!」
 烈の言葉に頷く子ども。えへへ〜と笑い合う2人。ほのぼのとした空気が流れ・・・・・・
 「(何アレ何アレ!? 誘拐したいグループ
No.1!?)」
 「(カワイイ!! カワイすぎる!!)」
 「(ヤベえよ! 何なんだこの店!!)」
 「(あ、鼻血が・・・・・・)」
 先ほどから騒いでいたカウンター内のみではなく、被害が店中―――どころか店外まで広がっていく。
 最早見せ物小屋と化した1年A組。だからこそ逆に誰も入れなくなった中へ・・・
 「おうおう邪魔だどけえ!!」
 「俺らを誰だと思ってんだ!? あ゙あ゙!?」
 突如ダミ声が響いた。それを引き連れ入って来たのは・・・・・・まあ予想通りの人物らだった。
 ハデなシャツと趣味の悪い金ピカアクセサリー。マニュアル通りのガン付けと、これだけ揃えば如何に管理人がここから推測される職業に偏見を持っているか・・・・・・ではなく彼らがどんな存在か想像がつくだろう。
 事実その通りの彼ら。まず店員にいちゃもんをつけようとして―――
 「あア? 何だこのガキ」
 「何見てやがる!」
 驚ききょときょとしていた子どもに向け、怒鳴りつけた。
 「う・・・あう・・・・・・」
 いきなりワケもわからず怒鳴られちょっぴり泣きが入った子ども。
 「す、すみませんすみません!! ホラ!! そっち見ない!!」
 「あう〜・・・・・・」
 母親にまで怒られさらに呻きがヒートアップする。先ほどの笑顔はどこへやら、あと一押しで確実に泣くだろう。
 じっと見守る―――ような愚行は犯さず。
 引っ込んでいた豪がその場に出かけた。かけて・・・・・・止まる。
 「ちょっと豪! 何やってんのよ!!」
 後ろから怒鳴りつけるジュンに、
 「いやだって・・・・・・」
 豪は小さく前を指差した。前・・・豪と同時に動き出した烈を。
 がたん。
 イスを引く、その音は小さかった。だがそれ以上に静まり返っていた周りには殊更大きく聞こえた。
 「な、なんだよ・・・」
 「テメエ、何か文句あるってか・・・・・・?」
 男らの声も自然と小さくなった。
 全ての中心で、周り全てに無言の圧力をかけつつ立ち上がった烈は・・・
 ―――男らを無視し、子どもの隣にしゃがみ込んだ。
 「う〜・・・・・・!」
 唸る子どもに目を合わせ、微笑む。
 「よしよし。大丈夫。もう怖くないよ」
 「ぐっ・・・、うっ・・・・・・」
 「大丈夫だよ。怖がらないで。ね?」
 「ひっ・・・! いぐっ・・・!」
 「そう。よく我慢できたね。えらいえらい」
 ふんわりと頭を撫でてやる。
 「お゙兄ぢゃ〜ん゙・・・!!」
 ぎゅっと泣きついてくる子ども。抱き締め、安心させるようにぽふぽふと背中を叩いた。
 感動の場面に誰もが見惚れる。―――訂正。おおむね誰もが。
 「おいテメエ!! 俺達無視してんじゃねえ!!」
 「俺達を誰だと思ってやがる!?」
 圧力がなくなり、男らが途端強気に戻った。烈の肩を掴み無理矢理起き上がらせる。
 なされるがまま立ち上がる烈。しがみ付く子どもはやんわりと離し、ゆっくりと振り向き・・・・・・
 『ひっ・・・・・・!?』
 なぜか怯える男ら。肩からずり落ちる手はそのまま放っておき、
 烈は静かに言葉を発した。




















































 「いい年こいた大人が子ども泣かせてんじゃねえよ、ゲスどもが。


  それともてめぇらが泣かされてえか? ああ?」
























































 「うわ・・・。兄貴マジモード・・・・・・」
 「ていうか烈・・・。キャラ違う・・・・・・」
 「ホラやっぱマジモードだぜ・・・。やる気なしモードなら普通に言うだけだろうし」
 「烈の真面目モードって・・・・・・」
 冷静に突っ込む豪とジュン。戦慄に身を震わせる一同。
 そして―――
 『あ、姐さん・・・・・・』
 幸か不幸かこの2人、己の職業バイブルとして某『極妻』シリーズを観ていたらしい。そんな彼らにとって、肝っ玉の据わりきった烈はまさしく『姐さん』だった(再び極度に間違えた偏見)。
 がくりと崩れ落ちる男ら。
 「わかればいいんだよ」
 見下ろし、烈はにっこりと微笑んだ。
 周りから飛ばされる拍手喝采。暴力を一切使わず言葉と迫力だけで説得してしまった烈に、惜しみない歓声が送られる。子どももまた泣き止み力いっぱい拍手していた。
 彼らを見回し、満足げに笑う烈。
 そして話は冒頭へ戻る。















































‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 「ところで疑問なんだけど・・・
  ・・・・・・向こうがそれでも歯向かってきたら―――烈、どうしたのかしら?」
 「俺に訊くなよ・・・。それこそ『予想通り』だろ・・・・・・?」
 「そうね・・・・・・」
 純粋に人がいなくなり静かになった1年A組に、豪とジュンのため息だけが広がった・・・・・・。



―――レツゴ高校生編 Fin








 ―――烈兄貴と絡むとヤーさんですら脇役扱い・・・。さすがだ烈兄貴・・・。そして同じく陰が薄い豪・・・。これでも一応豪烈要素は含んでいたハズ・・・・・・。
 ちなみにどうでもいい(特にレツゴ
Fanの方々には)話題。『キャラ違う』烈兄貴、台詞回しはあえて極妻風ではなくテニプリの跡部をそのままなぞってみました。確かにキャラが違う・・・・・・。

2004.10.3112.15