テニプリ六角編(地域住民→サエのサエアイドル状態)


 六角でももちろん行われる文化祭。様々な出し物(ただし一般の学校における出し物とは微妙に異なる)が目白押しの中で、六角男子テニス部は食堂を開いていた。名物・アサリの味噌汁や厚焼き卵、焼き魚などいわゆる『おふくろの味』は毎年かなりの好評である。そして今年―――厳密には一昨年から今年まで―――は、別の意味でまた好評だったりする。
 それとこれというのももちろん彼の存在より。去年のお花見会ではロミオ
&ジュリエットに主演し、その爽やかさにより女子だけと言わず男女両方に慕われている我等が六角のプリンス(言い過ぎ)・佐伯の人気は、学校の壁を超えむしろ地域全体のアイドル状態。彼のFanはもちろんこんなせっかくの機会逃すわけもなく。
 「サ〜エく〜んvv 味噌汁いっぱい〜vvv」
 「毎度〜」
 「佐伯〜! 今度デートしてくれたら仕入れた分全部食うぜ!」
 ごすばすごす!!
 「ははっ。ムリだっていっぱい仕入れたんだから。気持ちだけ受け取っておくよ、サンキュ」
 『きゃ〜vv』(←もちろん先程の台詞の主とは別人ら)
 などなどといった感じで盛り上がる佐伯近辺。遠くから見ながら、従業員こと部員一同は、つくづくサエがいてくれてよかった・・・・・・と思っていたりする。
 その真意は―――
 「(これで売上勝負トップ間違いなし・・・!!)」
 「(賞金って確か5万だよな・・・!!)」
 「(凄げえな5万だぜ・・・!? 何に使う・・・!?)」
 「(何でも買いたい放題なのね・・・!)」
 「(サエさんさすが! この調子で頑張ってくれたら・・・!!)」
 「(サエさんサエ高・・・!!)」
 ドゴッ!!
 何だかこちらでも何かがあったようだが、とりあえず小さな事は気にしないで。





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 事ほど左様に大盛り上がりな野外喫茶。・・・・・・いや最初は部室内でやろうという話ではあったのだが、この来客数の多さではとてもあの狭い部室では賄いきれないと、あちこちで借りたテーブルとイスを外へ持ち出しそこで食べる形式になっていたのだ。まあ自然と触れ合うのが普通の六角、むしろピクニック気分で好意的に受け入れてもらえた。これまた本音を言うと、外で佐伯が働いてくれるおかげで食べる時以外もそのお姿見放題撮り放題だからだろうが。
 と、ここで六角にもまたガラの悪い客らが入り込んできた。
 「ああ? ここは人様に物食わせるのに中にも入れてくれないってか?」
 「どういう貧乏っぷりなんでしょうかねえ?」
 見たところヤーさんの兄貴と子分。今時ありえないほどの趣味の悪い服装とテレビで見たとおりのガン飛ばしはさすが流行遅れが日々問題視されるだけあるこの地域(やはり暴言)。
 キャーとか騒ぐ客達の中で、名目雰囲気出し実質客用サービスのため着流し姿だった佐伯が、カタカタと下駄音を小さく鳴らし男達に近付いていく。
 危ないよサエくん!! という周りの声を無視し、伝票のついたミニクリップボードを片手に、
 「お客さん、ご注文何にします?」
 にっこりと、お得意の笑顔を見せた。
 「注文? 俺らはンなトコのモン食う気ねえよ。大体『何になさいます?』だろうが。今時の中坊は尊敬語1つまともに使えねえのか? 情けねえ」
 持っていたタバコを口に含み、ぷは〜っと紫煙を吹き出す。もちろん声をかけてきたこの生意気な店員に向け。
 煙を吹きかけられ、それでも一片足りとも揺るがない笑みにますます苛立ちを強める2人。
 煽るように、言葉が続けられた。
 「食べる気がないのなら『客』じゃない。客じゃない以上『店員』の俺が下手に接する理由はない。でもって今までの態度を見てると敬う気も起こらない。だから尊敬語は使わない。
  ――――――違いますか?」
 ますます綺麗に向けられる笑み。懇切丁寧に加えられた解説に、聞いていた他の者らも「そーだそーだ!!」と賛同する。
 いきなりの不利な立場に、頭の中身の足りない男らはあっさり言葉による脅しを取り止めた。
 「舐めんじゃねえよガキがあ!!」
 佐伯の襟を掴み、壁へと叩きつける。よほど勢いよくぶつけられたのだろう。反動で佐伯の体が一瞬壁から浮いた。手から抜けた伝票が男らを越え何処へと飛んでいく。
 『きゃあ!!』
 あまりの光景に、顔を手で覆う者まで出る。たとえ見ていたとしても、席にいる者たちからは佐伯の苦しげな表情は男たちの体に隠され見えない
 男らは―――佐伯に攻撃を仕掛けた兄貴分の方は今だに気付いていなかった。自分達を地獄へと突き落とす舞台を、自分達自身の手で作り上げてしまった事に。
 「早く! 先生呼ばないと!!」
 焦る客らを他所に、
 「あ〜サエまた何か巻き込まれてんな〜」
 「サエってホント、そういう星の元に生まれてるよな〜」
 「山吹の千石を『ラッキー千石』とするならサエは『トラブラー佐伯』だな。間違いなく」
 「言いにくいのね・・・・・・」
 店員こと部活仲間らは好き勝手言いまくっていた。これは当然だ。佐伯に何かやらせて平穏無事に行った事は今まで皆無! 何をやらそうと必ず何かに巻き込まれ―――というか何かを引き起こし・・・・・・そして全て独力で解決してきた、いろんな意味での強者である。今更チンピラの1人や2人に絡まれたところで、心配するだけ損だ。
 そう思う部員ら―――特に調理担当がいる位置は客とは少し違っていた。おかげで佐伯の顔がよく見える。好青年から一転、相手をとことん馬鹿にする酷薄な笑みを浮べた佐伯の顔が
 「このっ・・・!!」
 この状況で全く動じない佐伯を、男の1人がさらに殴りつけようとして―――
 「あ、兄貴〜・・・」
 情けないもう1人の言葉に止められた。
 「何だ!?」
 「お、お願いです〜・・・。逆らわないで下さい〜・・・・・・」
 「ああ!?」
 異常な様子に、男がようやくそちらを見やる。見やる先で、子分の方は・・・・・・
 「―――っ!?」
 「ああ悪いなあ。さっき飛ばした伝票、偶然当たったみたいだなあ」
 何か鈍いもので切ったらしい、抉れた頭の傷口からだらだら流れた血が、目を頬を唇を、真っ赤に染め上げていっていた。
 「でもって・・・・・・
  ―――お前に殴られたりして俺が驚いちゃったりすると、コイツの指2・3本折れるかもなあ」
 「なっ・・・!?」
 子分の手を片手で握る佐伯。一見握手をしているようにも見えるが違う。
 ―――佐伯は子分の手を、骨が折れるぎりぎりまで反り上げ握り込んでいた。言葉通り、後一歩力を篭めれば指の骨はあっけなく折れるだろう。そう、例えば殴られてビクッとして、とかで。
 「お前、何モンだ・・・・・・?」
 恐怖に後ずさろうとする男。もちろん逃してもらえるワケはない。
 子分を解放した佐伯の手が、今度は男の胸倉を掴み上げる。解放されながらも、子分にはもう逆らう気力はなかった。
 座り込み、失禁する子分。汚いものを見るような見下す佐伯の目に、さらにびくりと震え上がった。
 用無しの子分から、男の方へと視線を戻す。カタカタ震える男の手から、タバコがゆっくりと滑り落ちていった。
 空中で掴み取り、口元へと持って行く。決して吸い込むのではなく、逆に火のついた先端を口に近付け息を吹きかける。場合が場合ならば妖艶な様に見ていた者が倒れていたかもしれない。ただし今これを見られる人間の中で、それを堪能できる存在は皆無だが。
 体を撫でる吐息に鳥肌が立つ。震える男に、佐伯は笑みのままタバコを軽く持ち上げてみせた。
 「根性焼きって中坊の不良の間でもやるのかもしれないけどさ、
  ――――――目にやったらどうなるんだろうな?」
 語尾にて、視線が動く。はっきりとこちらの目を見据えられた事を感じ、全力で逃げ出そうとする男にさらに強い力がかけられた。
 「もしくは・・・刺青風にやるってどう? 背中一面とか腕丸ごととか。ちょっとフザけて額に『肉』とか。もちろん完成まで付き合ってくれるよな?」
 そこで、もう限界だった。
 「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 座り込んだままの子分を引っ掴み、男が叫びながら全速力で走り去って行く。
 のんびりと見送り、
 「さって、ズボンに入れたタバコに気付くのはいつの事かな〜?」
 佐伯は実に楽しそうに、歌うように呟いていた。あの様子ではズボンを焦がし火傷するまで気付かなさそうだ。
 そして―――
 「サエ君、大丈夫?」
 心配そうに近寄ってきた客達へと、最後の仕上げとばかりに元の人当たりのいい笑みを浮べる。
 「ああ、大丈夫だよ。別に何もされてないから」
 「そう・・・? でもさっきの人たち、すっごい恐い様子でサエ君の事殴ろうとしてたし・・・・・・」
 「態度ほど乱暴な人たちじゃなかったみたいだね。あっさり引いてくれたよ」
 (態度ほど・・・肝っ玉は大きくはない、か。ま、そうそう比例するヤツなんていないしな。跡部くらいだろそんなの)
 そんな事を考える佐伯は、むしろ逆に肝っ玉に反比例して態度が小さ過ぎると評される。実際のところその方が便利だからとか考えてる時点で態度も十二分にデカいのだが。
 「ホントに・・・・・・?」
 なおもしつこく尋ねてくる客。まあ男らの尋常でない去りっぷりを見れば当然かもしれないが。
 これ以上相手するのも面倒なので、佐伯はあっさり打ち切りのための手段に打って出た。客である少女の頭を撫で、ふんわりと微笑む。
 「大丈夫だよ。心配してくれてサンキュ」
 「サエ君・・・・・・////」
 「じゃ、俺まだ仕事あるから」
 「頑張ってね・・・//」
 頬を染める少女を残し去る。背後で彼女が集団リンチに遭っているようだが知ったことではない。
 血まみれの伝票は拾いついでにさりげなく血を拭き取り、
 「え〜っと、じゃあ注文あるお客さんいるかな?」
 『は〜い♪』
 こうして、六角の文化祭もまた平和に過ぎ去っていったのであった・・・・・・。





 余談として、売上トップを難なく獲得した男子テニス部。賞金の5万円(+チンピラから巻き上げた2万円)は―――
 ―――念願のコタツ購入資金にあてたらしい。



―――テニプリ六角編 Fin








 ―――いやあ。面白い面白い。もう初っ端のサエについて語るだけで顔がにやけて止まりませんでした。気分は子どもを自慢する親馬鹿状態ですか(おこがましい)!? そして今回のサエは黒いんだか白いんだか。黒全開と見せかけ初っ端読むと白さ
MAXだったり。使い分けが上手いという意味ではやはり黒さ100%ですか・・・。
 しかしサエ(いや六角だから)。なぜ彼が出てくると片っ端っからエグくなるんだろう・・・? もうちょっと爽やかに行くはずだったのになあ・・・・・・。そして客一同、お前ら色眼鏡かかりすぎだろ・・・・・・。
 そしてテニプリ
ver、肝心なものが抜けてましたね。Jr.選抜編。あ〜書こっかな〜。なんっかかなりキワモノ揃いだしなあ・・・。

2004.9.19