テニプリ六角+α編(一応キヨサエ?)


 文化祭2日目。今日もまた店には客が多く押し寄せた。
 「お〜いサエく〜んv 遊びに来ちったよ〜vv」
 昨日は予想以上の客数に危うく材料が足りなくなるところだったが、今日はその心配はない。ちゃんと足りなかった分は随時買い足しに出るよう手配済みだ(なお買い足し要員はそこらのヒマな生徒をタダで雇った。笑顔囁き手を握って肩でも叩いてやればまず間違いなく誰でも墜ちる。墜ちないヤツには用はない。おかげで余計な金はかけずに済んだ)。
 「サ〜エく〜んvv こっち来て〜〜〜vvv」
 一見大量購入しない分損ではないかと思われがちだがまだまだ甘い。販売するのは今日1日のみ。余ったからといって次の日には持ち越せない。出血大サービスのバーゲンなどをやれば結局赤字行きだ。ならばお徳用は買えずとも着実に売り切る量購入すべきだろう。
 「ね〜〜〜。サ〜エくんってば〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 そして2日目。昨日と同じ客もあり、どころか3年連続リピーターもあり。さらに口コミ(+写メール)で広がり初めての客もどっさり。特に今年はラストの年。
Fanも来ないワケには行くまい。もうチャンスはないのだから。
 「お〜〜〜い!! ちょっとは反応してよ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 全てが順調だ。
 (よし。これで売上トップはテニス部がもらったな。まあクラスの方には悪いけど、打ち上げパーティーとコタツだったらコタツ取るに決まってんだろ?)
 「サエく〜ん!! 愛してるから振り向いて―――!!」
 「さっきっからうるさいなあ千石」
 「わ〜いvv サエくんが振り向いてくれた〜〜vv」
 「・・・・・・それでいいのか千石?」
 「・・・・・・めちゃくちゃあっさりスルーされてたしなあ」
 「まあ・・・・・・感覚は人それぞれだ。とりあえず佐伯にまともに付き合おうって思ったらこの位神経図太くねえとやってけねーだろ」
 首を傾げる亮と首藤に、黒羽がは〜〜〜〜〜〜っと深いため息をついた。
 気を取り直して。
 「で? お前何しに来たんだよ?」
 「もちろんサエくん見に。サエくん凄いよ〜。山吹にまで噂広がってるもん。ウチの生徒けっこー来てると思うよ今日。もしかしたら氷帝の文化祭より多いかも」
 「よし。勝った跡部」
 「違うサエ」
 「そこじゃない勝負どころ」
 ぱたぱた手と首を振る六角メンバーを綺麗に無視し、
 「んじゃ勝手に見てろよ。ただしタダ見は駄目だからな。見るんならちゃんともの頼めよ?」
 「おっけー! んじゃいっぱい頼むから明日デートして―――!!」
 「あ、いらっしゃ〜い。2名様ですね?」
 「聞いてサエくんお願い・・・・・・」
 「あ、やっぱショックだったんだな」
 「弄ばれた!? 俺ってばサエくんに弄ばれた!?」
 「千石営業妨害につき退―――」
 「店員さ〜ん。ご飯とおみそ汁と焼き魚下さ〜いvv」
 「は〜い
お客さん。ご飯とおみそ汁と焼き魚ですね? ただ今お持ちします誰かが
 「サ〜エく〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!」





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 さて序盤はいろいろあったがその後は普通に進もうと・・・・・・していたところで。
 「おいテメエ!! 昨日はよくもやってくれたな!?」
 そんな怒声と共に乱入してくる男1人。『知っている』者は驚きの悲鳴を上げ、知らない者もまた服装から容易に職業の予想をつけ叫びかける。
 その中で・・・
 「ああ、昨日のお客さん。また来てくれてありがとうございます」
 佐伯がにっこりと極上の笑顔を見せた。それだけで騒ぎは別の方向へと向かっていく。これで警察沙汰などという興ざめな展開はなくなった。
 「ところでもう1人どうしました?」
 わかっていて、問う。今頃病院で精密検査をしているのだろう。もちろん取り返しのつかない傷は負わせていない。相手に付け入らせる理由を与えるほど自分は馬鹿ではない。
 この辺り―――今の言葉がからかいだという事すらわからないらしい。やはり頭の中身の足りない男は、佐伯に指を突きつけた。
 「テメエにやられた傷のせいで今大変な事になってんだよ!! この落とし前どうしてくれんだ!? オラ!!」
 「つまり―――『治療費』が欲しい、と?」
 「ったりめーだろーが!!」
 古今東西、このような形で治療費を請求される場合その相手が本当に怪我していたケースなどどれだけあるのだろう?
 考え・・・ちょっと噴出す。
 (コイツ本気で馬鹿だなあ)
 普通に家裁にでも訴えればいいだろうに。実際暴力を加えられたのだから。なのに普段このような脅しをやりすぎて思いつけないらしい。
 (まあ尤も、裁判で勝つ自信は充分あるけどな)
 だからこそ客の死角でやったのだ。六角部員らは見ていただろうが決して事実は話さない。話せば次は自分の番だ、とよ〜くわかっているのだから。その上万が一何か言われようが先に手を出してきたのは向こう。それは膨大な数の証人がいる。自分が与えた物理的ダメージが『弾みの一撃』のみであれば過剰防衛とも判断しにくかろう。しかもまさか脅すのの本場たるヤーさんが自ら脅されましたなど言えるワケがない。この手の輩はプライドだけは高い。ズタボロにする真似はしないだろう。
 「て、テメエ何笑ってやがる!?」
 佐伯がこれだけ考えている間に男はこれだけしか考えられなかったらしい。この時点で―――以前に端から勝負の行方など見えているというのに。
 健気に向かってくる男に、
 佐伯は一歩踏み出した。
 触れるほどに顔を近付け、
 「じゃあ、
  ―――そういう訴えもする気失くす位ボコボコにしちゃおっか?」
 「うっ・・・・・・!!」
 決して脅しではない脅し―――近未来予告に、男の顔がモロに引きつった。反撃されるとは思わなかったらしい。まさしく馬鹿万歳。
 一応確認し、
 再び佐伯はにっこりと笑った。
 「なら勝負しません?」
 「え・・・・・・?」
 「ここお店ですから。このように立ち話を延々と続けているとお客様が減ってしまいます。せっかくですから食事で対決などどうでしょう?」
 「つまり・・・早食い対決しろ、と?」
 「ええ。貴方が勝ったら治療費を払います。代わりに俺が勝ったら食べた代金を払い帰って下さい。互いに一切暴力はなし、という事でどうでしょう?」
 「よし乗った!!」
 あっさり頷く男。本当に馬鹿万歳だ。
 心配そうに見守られる(この細身の佐伯が早食いなど得意なのか? という意味で。そして得意だったらそれはそれでイメージ総崩れだという心配含め)中、男を席に案内し―――
 佐伯はそのまま立ち去った。
 「え・・・? お、おい・・・」
 「何か?」
 「お前が勝負すんじゃねえのか?」
 「俺は店員ですから。お客様をお持て成ししないと」
 「なら俺の相手は・・・・・・」
 「ああ、すぐ用意しますので」
 そして去る佐伯。去り・・・
 ・・・・・・近くのテーブルへと歩いていった。
 「や〜サエくん。またな〜んか厄介事巻き込まれてるねえ」
 目的テーブルにて千石が手を上げ声をかけてきた。肩にぽんと手を置き、
 「頑張れ千石v」
 「はあ!? 俺!?」
 「お前以外の誰がいるんだよvv」
 「いや、俺もあんま早食いは〜・・・」
 何か言いかける千石。無視し、耳元に口を寄せ、
 「お前が勝ったら明日デートしてやるよ」
 「オッケー!!!」
 鼻息荒く指を立てる千石の目に異常な光が灯った。特に何か覚えるでもなく佐伯はうんうんと頷き、
 「あ、ただし料理に何か仕込むのは不可。店の評判が落ちる。あと味がないからって下剤の類ももちろん禁止。食中毒騒ぎなんて起こせば大問題だからな」
 「うげっ・・・!!」
 ぴっと指を立てさらさら言ってくる佐伯と呻く千石。どうやら2人とも同じ考えの持ち主らしい。
 暫し考え込み・・・・・・
 「・・・・・・・・・・・・『突発的事態』ならおっけーだよね?」
 「そりゃもちろん。『事故』なら仕方ないさ」
 ・・・・・・どうやらこの2人、本当に思考回路は同じらしい。
 佐伯のお許し(肩竦め)を得、千石が元気はつらつ勝負場所へと移った。
 「んじゃ頑張りま〜す!!」
 「ああ。頑張れよ」





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 そして、勝負が終わり・・・・・
 「以上。見た目明らかに千石の勝利」
 「わ〜い勝った〜vv」
 静まり返った周りを他所に、千石が1人ガッツポーズをした。それを見て、誰も何も言えない。対戦相手の男含めて。
 男は死んでいた。いや、本当に死ぬとそれこそ警察沙汰になるため実際は違うが、男は限りなく死にかけていた。頭で瓦割りならぬ机割に挑んで。
 開始早々、料理の載った盆を持ってきた佐伯に対し、千石が仕掛けたのは足払いだった。
 『あ・・・』
 微妙に緊張感のない―――だからこそ現実味を帯びた佐伯の声が広がり、そして・・・
 どがん!!
 倒れかけた佐伯がとっさについたのが男の後頭部だった。それも手ではなく、オジイ特製木製盆を。
 さすが日々テニスボールをぶつけてもびくともしない(もちろん直接ぶつける事はしないが)ウッドラケットを作っているだけある。お盆もまた、それと同程度の硬さだったらしい。
 言い回し通り木っ端微塵となる木。それは盆ではなく・・・・・・男のいたテーブルだった。
 かくて―――
 『あっぶないな〜千石』
 『いっや〜メンゴメンゴ。引っかかっちゃった』
 『次からは気を付けろよ』
 『は〜いvv』
 ―――あからさまな計画的犯行は、ほのぼの空気と共に実にあっさり流されたのだった。
 「よっしサエくん俺勝ったよ!? 明日のデートよろしくね!!」
 「いいぜ?」
 「へ・・・?」
 「何驚いてんだ? 約束だろ?」
 「え・・・? いやあのまあそのそういえばそうなんだけど〜・・・
  ―――サエくんがそんな素直なのなんて珍しいな〜〜〜・・・と」
 「残念だったなあ千石。せっかく勝ったのに」
 「さりげなく約束破棄にしようとしてない!? 俺は一言足りとも断ってないよ!?」
 慌てて手を振る千石に、
 佐伯は極めて珍しい笑みを見せた。
 擬音語として(ではないが)現すなら『くすり』と。それこそ元六角生の木更津淳がやるものと類似した物件。
 佐伯は笑う時ははっきり笑う。嘲笑の時も同様。このような、どうにでも判断できる曖昧な笑みはまず浮べない。
 千石が首を傾げた。周りの者も然り。
 そんな彼らに―――いや千石だけに向き直り、
 佐伯は左手手の平を差し出した。
 「それはともかくとして、食った分はしっかり代金払っていけよ?」
 『はあ!?』
 慄く一同。今この人何と言いました?
 「えっとそれは〜・・・最初食ってた分だけじゃなくって?」
 「もちろん勝負中食べた物も含めてな。当り前だろ?」
 「でも・・・、俺はサエくんに頼まれて勝負したわけで〜・・・」
 「だから? あくまで食べたのはお前。なら金払うのもお前だろ?」
 「けど普通こういうのってタダじゃあ・・・・・・。特に出された分完食したし」
 「そんな規定どこにもなかったしな。『
勝ったらデート』なだけで」
 わざわざ強調する。この瞬間、周りの人間は全て千石の敵へと回った。
 「ちなみに今ここで払い倒ししたらお前は食い逃げ犯。ところであそこに何書いてあるか見えるか?」
 佐伯が指差したのはカウンター。上にデカデカとこんな言葉が書かれていた。
 「『食い逃げに対しては如何なる理由であろうと容赦しませんのであしからず。なお器物破損など店内に被害をもたらした場合、その代金も弁償して頂きます』」
 もちろん良く目立つようにだろう。黄色地に黒で書かれた(つまりは道路標識的色調)ものを一言一句間違えずに読み上げる。
 聞き終わり、佐伯が今度ははっきりにっこりと笑って、
 「つまりはそういう事だ。明日のデート、病院のベッドの上でやりたくなかったら金払えよ?」
 「・・・・・・払わせて下さい」
 ものすっっっごく!! 現実味を帯びた脅しにあっさり千石が屈した。
 財布を取り出し・・・・・・・・・・・・ふと気付く。
 「『器物破損など店内に被害をもたらした場合、その代金も弁償して頂きます』?」
 (えっと・・・んじゃさっき壊したテーブルって・・・・・・。あ、でも壊したのはあの人で原因はサエくんで・・・・・・。そもそも『不幸な事故』だし・・・・・・)
 「たとえ『不幸な事故』であろうと警察の方々は必死に誰が悪かったのか捜査するものなんだぞ? 確かに直接やったのはあの男だし押し倒したのは俺。けど俺はお前の足がなければ転ばなかったなあ
 「つまり・・・・・・俺に払え、と?」
 「デートコースは
MRIだのCTスキャンだの巡りにするか?」
 「・・・・・・・・・・・・喜んで払わせて頂きます」
 財布の中から明日のデート費たる万札を取り出し・・・・・・
 ・・・・・・再度、ふと気付いた。
 「別に俺が払わなくてもいいんじゃん」





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 かくて、奇跡的に蘇った男は千石の手によって再度三途の川まで送り返された。
 「ぼ、暴力は一切なし・・・じゃあ・・・・・・?」
 「ちゃんと説明はよく聞けよ。『互いに一切暴力はなし』だ。アイツは『互い』の中に入ってないだろ?」
 「じゃ、じゃあさっき・・・・・・のは・・・・・・・・・・・・?」
 「『不幸な事故』だったな。災難だな」
 「ひ・・・ひでえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 それだけ遺して逝った男。しっかり見届け、千石はズボンのポケットから財布を抜き取り、
 「はいサエくん。2人分の飲食代とテーブル代vv」
 「サンキュー」
 「いやいやお礼はこのおじさんに言ってよ。
  ありがと〜v 奢ってくれてvv」
 「頭悪いって思ってたけど、意外とものわかりいいじゃん。助かったよ」
 因縁をつけてきたヤーさんを逆に襲い金を奪う男子中学生2名。限りなく異常な光景だと思うのだが。
 「サエ君カッコいい・・・vv」
 「あの人も凄いいい・・・vv 誰なんだろ・・・・・・」
 「サエが『千石』って言ってたよな・・・。それにあの制服なら山吹か・・・・・・」
 「行ったら会えるかな・・・・・・vvvvvv」
 2日目にしてますます色ボケしてきた一同に、それを異常だと思うまともな精神は残っていなかった。
 かくて・・・





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 「んじゃサエくんまた明日〜vv」
 「あ、千石。場所どこにすんだ?」
 「どこでもオッケーだよ。お金いっぱい持ってるからね♪」
 「全額奢りか。んじゃ跡部の家でも」
 「奢る意味ないし!! しかも跡部くん家で出されるモンまではさすがに買えないし!!」
 「何だ意外と大した事ないな」
 「それだけあったらテーブル代ケチってないから!!」
 「んじゃ仕方ないな。いい場所思いついたら後でメールくれよ」
 「え? 俺決めていいの!?」
 「コレクトコールでいいんなら俺が決めて電話するけど?」
 「前から思ってたんだけど・・・・・・
  ――――――サエくん家って、実は金持ち?」
 「家は正真正銘貧乏だ。全員決められた最低金額しか提供しないからな」
 「ちなみにそれで提供しなかった分は?」
 「各自のポケットマネーとして自由に使用可。ちなみに電話代及び電車賃はこっちより」
 「・・・・・・サエくんが金にうるさい理由がすっげーよくわかった。
  んじゃサエくんまた後でね〜vvv」
 「ああ。じゃあな千石」
 そんなこんなで、ごく普通の1日は過ぎ去っていった・・・。





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 ―――なお、なぜその場でデートコースを決めないのか。それはこんな理由によりである。





 ぷるるるる・・・
 「あ、千石か」
 『やっほ〜サエくん。お昼ぶりv また会えて嬉しいよvv』
 「どうせ明日も会うじゃん」
 『でもやっぱ何回も会えると嬉しいっしょ?』
 「いやさっぱり」
 『サ〜エく〜〜〜ん!!!!!!』



―――テニプリ六角+α編 Fin








 ―――
Web拍手メッセージにて、キヨサエリク(こう書くとワケわかりません)があったので? さっそく書いてみましたv ・・・・・・だからどーしてこうひたすらからかうサエとからかわれる千石さんになってんだろう・・・? そして何でサエが金と絡むと非常に意地汚くなるんだろう・・・・・・?

2004.12.1722