テニプリ青学へんその1(読みようによってはケビン×リョーマ)


 「あっれ〜? おチビにケビン」
 「やあ。越前君。それに、久しぶりだね、ケビン君」
 「ども。英二先輩、不二先輩」
 「ああ・・・。アンタたちか」
 「2人でどったの?」
 突如現れた珍客らに尋ねる英二。ここは3年6組。今回の文化祭では喫茶店を営んでいたりする(なおメイツ2人は当然の如くウエイター)。
 さて、リョーマとケビン。もちろん彼ら2人―――ついでに英二・不二も含め―――は日米
Jr.選抜試合で知り合った同士である。親の因縁より突っかかってきたケビンを軽く倒したリョーマ。かつて、同じく南次郎のみをただ目指していた頃ならともかく、全ての呪縛から解き放たれたリョーマにとって、自分のみに縛られるケビンは敵ではなかった。そしてこの対戦により・・・・・・ケビンもまた、『越前リョーマを倒す』という呪縛から解き放たれた。
 それ以来何となく仲良くなったらしい。ケビンがたまに青学テニス部に遊びに来たり、部活のないヒマな日2人でストテニに行っていたりしたのはその筋(データマンとその近辺)では有名だ。
 で、今回。
 「もうすぐ青学で文化祭あるって言ったら来たがって」
 「だってリョーマにどんなモンか訊いたら『知らない』の一言だぜ? 気になんじゃんよ」
 「それはまあ・・・確かに」
 不二が苦笑する。リョーマが『知らない』のも無理はない。彼は1年。青学の文化祭に参加するのは今年がはじめてだ。それに帰国子女であり今まで6年アメリカにいたという。ならば日本の文化祭など見に行った事はないだろう。
 「でもおチビんトコだって何かやってんじゃないの? よく出られたね」
 「丁度休み時間?」
 「いえ・・・」
 言葉だけで否定するリョーマ。何を思い出したかその顔にはなんとも言えない表情が浮かんでいた。
 「ケビンが来た途端周りみんな騒ぎ出して、そしたら先生が『日米交流だ。越前、行って来い』なんてワケわかんない事言って追い出されました」
 隣ではその騒ぎの張本人がクックックと面白そうに笑っている。
 「日本人ってマジ面白れえよな。『
Excuse me』だけでパニくるしよ。バカだぜアイツら」
 「う〜わさっすがおチビと意気投合するだけあんね〜。口の悪さじゃ天下一品?」
 「あはは。英二、悪いよ。それに英二だって困るんじゃない? いきなり外国人然とした子に英語で話しかけられたら」
 「え〜? 俺は大丈夫」
 「・・・何で? 英二、英語苦手でしょ?」
 「だって不二いるし?」
 「・・・・・・僕もしかして英二の翻訳機代わり?」
 「まーまー細かいことは気にすんなって。
  んで、んじゃあ2人とも今見学中ってトコ?」
 「ま、そんなとこで」
 「ならウチのクラス寄ってかない? 軽いものしかないけど奢るよ?」
 「マジっスか?」
 「へ〜。話早いじゃん。なら寄ろうぜ、リョーマ」
 「ようこそ。3年6組経営喫茶店『
Noahs Ark』へ」
 「『ノアの方舟』?」
 「旧約聖書に出てくるアレか?」
 「そう。その名の通り、悪しき者は消え『正しき者』だけが生き残る喫茶店さ」
 「・・・・・・不二先輩が言うとシャレに聞こえないっスね」
 「本気だからね」
 『?』





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 「でも不二、いいのかよ? 『奢る』なんて言っちまって」
 2人を空席へと案内し、注文を取った帰り道。英二は不二の耳へとこそりと囁きかけた。まあ所詮文化祭の出し物しかも軽食。バブリー不二の財布を持ってすればさして痛い出費でもないのかもしれないが。
 それでも一応確認のため問う英二に対し、不二はいつも通りの笑顔で、
 「ああ、大丈夫だよ。売上から引いておくから」
 「はい・・・・・・?」
 今この人、さらりとすっげー事言いませんでした?
 聞き間違いかと思いもしたが、もう一度問い返すより不二の続きの方が早かった。
 目立たない程度の動作で(ただし自分らはここの看板娘的役割を果たしているため、客の注目は常にこちらに向いているのだが)、辺りを指し示し、
 「気付いた? あの2人が入ってから客の入りがさらに増えたよ」
 「・・・・・・つまり?」
 「女の子と見まがうばかりの可愛い男の子2人。しかも片や完全外国人。もう片方も日本人離れした容姿の持ち主。
  ―――いい客寄せパンダって事さ。彼らがいればいるほど売上が伸びる。アルバイト代の代わりに飲み食いし放題。いい条件だろ? 互いに損はない」
 「・・・・・・・・・・・・端っからそれ狙ってたワケ?」
 「当り前でしょ? じゃなかったら『奢る』なんて言うワケないじゃない」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。お前完璧策士だな」
 「ありがとう」
 「誉めてねえよ」
 ため息をつく。事実であり真実であるため反論のし様がない。それにこのペースで客が入れば確かに売上校内トップになれる。別にトップになったからといって何かあるという事もないが(クラス担任は景気よく『焼き肉食い放題』などと言っていたがどうせバイキングだろう。嫌いではないので構わないが)、それでも勝負となれば負けたくはない。
 かくて、全ては解決した―――ように見えた。が、





 ―――このような部外者も自由に入れる『お祭り』にて目立つ事、それは即ち別の問題の危険性をもまた、はらんでいるものである。





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 「きゃっ・・・!!」
 洋風のれんたるカーテンを掻き分け、いかにもガラの悪そうなあんちゃん数人が中へと入ってきた。
 「随分繁盛してんじゃねーか」
 「何だあ? 可愛い売り子さんでもいるってかあ?」
 「だったらぜひ俺らントコにも来てくれよお」
 口汚く言い、ぎゃはははは! と笑い。
 あまりにもワンパターンな様に呆れ返り、英二がため息をついた。あんなの自体はどうでもいいが、ここで騒ぎを起こされてはせっかくの売上
No.1の道が・・・!!
 リボンタイをむしり取り、男達へと近寄ろうとする。
 が―――
 「待ちなよ英二」
 出かけた足は、たった1本の手により止められた。
 「何だよ不二?」
 軽く手を上げ英二を制止させた不二。なぜか彼はこの状況で薄く微笑んでいた。いつもの穏やかな笑みではない。間違いなくこの状況を楽しんでいる。
 くすりと笑い、目線で指す。その先にいるのは当り前だろうがリョーマとケビン。そんな不二の動作が誘導したかのように、男らの注意もそちらへと集まっている。
 「もうちょっと様子見てみようよ」
 それはまるで、まだ部活に仮入部したばかりだったリョーマがボロラケットで荒井に勝負を挑んだ時のように。全ての結末を悟っているのだろう。2人にいちゃもんをつけようと近寄る男らを見ても、不二の余裕は微塵も揺らがなかった。
 「ほお。こりゃまた随分可愛いお客さんじゃねえの」
 ワンパターン攻撃再び発動。最早言葉も出ない。出せばこちらの批評まで『ワンパターン』となりそうだ。
 ワンパターンのマニュアル通りにやにや下品な笑みを浮べ、
 「なあなあ、こんなシケたトコいねえで俺らと一緒に行かねえ?」
 「キミたちみたいに可愛い子ならお兄さんたちいくらでもサービスしてあげちゃうよ」
 男らに話し掛けられようやっと事態に気付いたかのように、今まで下を向いてストローを口につけていた2人が顔を上げた。その前に一瞬、2人が視線を合わせた事に気付いたのはどれだけいるか。絡み合う視線の中に危険色―――からかいの色が浮かんでいた事に気付いた者は。
 (いい獲物発見)
 (さって、楽しませてもらうか)
 とりあえず気付いた者の1人として、英二の耳にはそんな幻聴まで聴こえてきていた。
 男達に向けられたつぶらな瞳。そう、顔を上げた2人の目にはからかいの色など欠片も浮かんではいなかった。英二の背中に寒気が疾る。
 きょとんと―――それこそ女の子顔負けの大きな瞳を、的確にポイントを掴み上目遣いとする事でより魅力をアピール。あまつさえ小首を傾げ、さらさらの髪を揺らしてみたりする。
 男らも伏せていた顔からそこまでは見えなかったのだろう。超上玉2人に思い切りたじろいでいる。さらに周りでは、運良くか悪くか、丁度男らの後ろに位置し彼らを見てしまった客・店員らが何人も鼻血を噴いて倒れていた。
 そんな男らに、
 まずケビンが『攻撃』を仕掛けた。
 小首を傾げたまま、問う―――問いているのだと、思う。
 「え・・・・・・?」
 英二の小さな呟きは、男達の同様の動揺によりあっさり掻き消された。
 ケビンが呟いた言葉、それは・・・
 「英語・・・・・・?」
 慄く男ら。あからさまに外国人たる金髪碧眼の彼が話すのだ、むしろそっちが普通だろうに面白いようにうろたえている。
 対応出来ない内に、ケビンは今度は同席しているリョーマに向け、言葉をかけた。やはり日本語ではなく。
 リョーマがケビンに視線を戻し、2・3言。くどいようだがこちらもまた―――
 「英語ばっか・・・?」
 「コイツら外人かよ・・・・・・!?」
 (気付けよさっさと・・・・・・)
 いやリョーマはハーフだというし、わりと日本人っぽい顔をしてはいるが。
 次いでリョーマが男達に話し掛ける。これまた当り前のように外国語で。
 「え、えっと英語英語・・・・・・って誰か出来るヤツいるか!?」
 「え!? 俺英語なんぞ赤点しか取ったことねえよ!!」
 「なんだよお前等情けねえぞ!! いいか!? 英語っつったって日常会話! ンなモン中学生レベルの知識がありゃ出来るんだよ!! 見てろよ!?
  あ、アイウォントトゥー―――」
 「希望言ってどうするよ!? じゃねえよ! 誘う時はこっちだ!!
  メイアイヘルプユー?」
 「それは『いらっしゃいませ』!! 中学生レベルの知識ねえじゃねえかお前ら!!」
 慌てふためく男らにさらに容赦のない攻撃が迫る。通じない言葉に2人もまた『混乱』しているらしい。さらに『心配げ』にまくし立てる。
 思いっきり高い言語という壁を前に―――
 「う、うわあああああ!!!」
 「覚えてろよーーーーーー!!!」
 支離滅裂な叫びを上げ、男達は尻尾を巻いて逃げていった。
 足音が聞こえなくなるまで『純粋無垢な少年2人』はそちらを眺め―――
 「ハッハッハァ! ほらやっぱバカばっかじゃねえか!」
 「よくあれでやってけるね。ていうか何語話してるか位わかりなよ」
 「無理無理。あんなのの脳みそ、タカが知れてるぜ」
 再びストローに口を付けるリョーマに、背もたれに仰け反っていたケビンがぱたぱたと手を振った。
 2人に近付きながら、英二は気になるワンセンテンスに首を傾げた。
 「『何語話してるか』?」
 「英二・・・。君も気付きなよ。2人が話してるの―――英語じゃなかったよ」
 『へ!?』
 驚きの声が、あちこちから広がる。どうやらわかっていたのは指摘した不二のみであったらしい。
 リョーマがにやりと笑う。
 「さっすが不二先輩。『英語』得意なだけあるっスね」
 「ありがとう。ついでに僕も一応話せるからね、それも」
 「つ、つまり・・・?」
 「2人が話してたの―――ドイツ語だよ」
 『はあ!!??』
 驚きの声が、さらに大きくなる。この少年らは英語のみならずドイツ語まで楽々使いこなすというのか・・・・・・!!
 ちょっぴり微妙に傷つけられた3年生としてのプライド。全く気にする事無くケビンがタネ明かしをしていく。
 「英語じゃもしかしたら1人くらいは出来るヤツがいるかと思って変えたけど―――全っ然意味なかったみてえだな」
 「でも2人とも、よくドイツ語まで出来るね」
 「こん位常識だろ?」
 「小学校ん時、外国語に日本語じゃなくってドイツ語取ってましたから。そういう不二先輩こそよく出来るっスね」
 「僕も小学校の時ドイツ語も取ってたからね。それに何かと使う機会多いし。
  けど―――」
 こらえきれないように、不二が噴き出した。
 「いくらわからないからってあの言い振りはどうかと思ったよ。もしバレたらただじゃ済まなかったんじゃない?」
 「いいじゃん。どうせバレないんだし」
 「それに『タダ』じゃ済ます気ないしな」
 「え? 2人とも何言ってたの?」
 もちろんこう質問した英二含め、彼らが何を話していたのかは全くわからなかった。雰囲気からすると話し掛けられて普通に対応していただけのように見えたが・・・・・・。
 「最初っから和訳すると、
  まず話し掛けられてケビン君が一言。『何? アンタら。逆ポン引き?』
  越前君と2人で、『「逆ポン引き」?』、『それっぽくねえ? ナンパ野郎って』、『金払ってくれんじゃん』、『だから「逆」なんだって。それ以外は同じだろ? 売春婦と』。
  越前君が彼らを見て、『へえ。じゃあいくらで買ってくれるってワケ?』
  焦る男達に、『ほらほら、いくら払ってくれるってんだよあんちゃんよお』、『無理無理。こんなヤツらがそんなに持ってるワケないじゃん』、『有り金全部搾り取ろうぜ。俺らはンなに安くないってな』、『んで代わりに何あげるってワケ? 俺ヤだよ。こんなんにコビ売んの』、『バーカ。俺らが一緒にいてあげてるだけでこいつらには勿体ねえ位の価値だろうよ』、『へえ。ならいいね』、『お? ノるか?』、『分け前6:4ね。もちろん俺が6』、『はあ!? 何で俺が4なんだよ。提案してんの俺なんだからお前が4だろーが』、『今日ずっと案内してあげてんじゃん。その手間賃?』、『・・・・・・わ〜かった! 6でいいぜ。ったく、お前もいい性格してんよ』、『そりゃどーも。まあ・・・ンなに分けられる位持ってたらの話だけどね』
  ・・・・・・まあこんな感じで」
 『うわあ・・・・・・』
 不二の正確な解説に目を点にする一同。思う事は全員一致していた。―――コイツらの方がよっぽど悪人だ、と。
 「でもまあいなくなっちまったし」
 「んじゃタカる方向変えるとして。
  ―――ねえ不二先輩、英二先輩」
 剣呑なリョーマの眼差しに、英二の背中に本日一番の寒気が走った。
 「何かな? 2人とも」
 視線のヤバさに気付いているのか否か、平然と問う不二にケビンもまた薄く笑った。
 「俺ら『穏便に』アイツら追い返してあげたんだけど?」
 「しかも今のでさらに客増えた、っスよねえ?」
 「もうちょっと・・・まあ午前中ずっと位? ここにいたいんだけど―――もちろん全部タダだよねえ?」
 「ついでに・・・・・・売上貢献してあげてるんだからもちろん午後はウチのクラス来てくれますよねえ? ああ、ウチのクラス食堂やってるんスけど、もちろん奢るっスよ? もちろん
 必要以上に繰り返される『もちろん』の言葉。拒否権はない、という事か。
 「やれやれ。確かに『タダ』じゃあ済まないみたいだねえ」
 「ええ!? じゃあウチのクラスの売上トップは!?」
 客寄せパンダの2人がいなくなる上、看板娘を務めていた自分達2人まで抜ける。
 決定的な敗北に焦りまくる英二に・・・
 「だから午前中ずっといてもらうんだよ。後2時間。今の内にどれだけいけるかが勝敗のカギだよ」
 「な〜るほど!」
 「2人とも快く協力してくれるよね、もちろん
 「そりゃしますよ。もちろん
 「日本の文化祭も楽しいな、リョーマ」
 「それもそうだね」
 「・・・・・・多分コレ、結構変わった趣旨だと思うけど」





 こうして、波乱万丈な文化祭・午前の部が着々と消化されていく・・・・・・。



―――テニプリ青学へんその1 Fin








 ―――書いててやべえ。ケビン×リョーマ(もどき)楽しすぎる。今までリョーマとの
CPでこういう『お子様』タイプ書いてなかったしなあ・・・。というかリョーマに対して下手に出ない相手。よくよく考えると実はコレ、跡リョでもやれそうですが(そしておかげでよくわからないケビンの口調、一部跡部が入っていたりしますが)。リョーマが敬語を使っていたら間違いなく跡リョですなコレ。しかし同年齢のケビンにするためむしろリョーマの私語が難しい・・・。
 では次はそんな2人のおかげで出番食われた元祖ヤンこと英二の活躍―――になるのか? おかげで1校1話のはずがなぜか青学は午前午後の2話になりました。次は1杯食わされたケビン曰くの『逆ポン』復讐劇かなあ・・・・・・。
 そういえば、サブタイ『〜へん』と平仮名になっているのは、普通に『編』でも捻って『変』でもさらに青学のみではないため『辺』でもどれでもいいかなあ、という意味だったりします。余談ですが。

2004.9.19