テニプリ青学へんその2


 さて午後。今度はリョーマ属する1年2組、食堂『憩いの間』・・・・・・
 「憩えてるか?」
 「さっきまでは」
 ここでもまた、似たような騒ぎが起こっていた。『逆ポン(しつこい)』ではなく、
 「(何々? あそこ4人・・・)」
 「(すっごいかわいかっこい〜vv)」
 「(携帯携帯っ。写真撮っとかなきゃ♪)」
 「(あ、アタシ友達に送っとこっ♪ 羨ましがらせちゃえ)」
 あちこちから小さな悲鳴が上がる。確かにその様は全く憩えてはいないであろう。
 料理を運んできた堀尾が、こちらへと話し掛けてくる。
 「不二先輩に菊丸先輩まで。よく来てくれましたね〜」
 「まあ、司法取引によりね」
 「は? 司法取引?」
 「正確にはもちろん違うけど、ま、そんなところだね。
  彼ら2人にいろいろ借りが出来たから、今日の午後くらいは君たちのために頑張ろうかな、って。ね? 英二」
 「ま、ンなトコ。
  ―――あ、そのカレーライス俺の」
 「あ、は、はい!」





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 堀尾がいなくなった後、周りの目はお構いなしに4人は盛り上がっていた。
 「―――んで去年は大変だったんだぜ? 不二と乾にメニュー考案なんてさせちまったからさあ」
 「ちょっと英二。それじゃまるで僕の味覚がおかしいみたいじゃない」
 「先輩本気でおかしいっスから」
 「もー越前君も」
 「へえ〜。アンタンなにおかしいの?」
 「マジマジ。もーコイツの味覚人類の―――つーか地球上の生物のモンじゃねえから」
 「・・・・・・何食ってんだよアンタ」
 「ほらケビン君まで本気に取っちゃったじゃないか。どうしてくれるのさ?」
 「実際そうなんだからどうしようもないでしょ」
 「おーおチビ上手い!」
 などなど、話が青学男テニ名物おやき屋の話―――それこそ正確にはそれを『名物』たらしめた去年・一昨年の不二と乾の奇行を語っていたところ、
 ばさっ!
 今度は本物ののれんを掻き分け、件のあんちゃんらがまたも乱入してきた。
 既視感。
 「あ〜・・・・・・、さっきそういえばこ〜んな感じの事なかったっけ?」
 「ありましたっけ?」
 「さっぱり覚えてねえな」
 「ってオイ!! 午前中会ったばっかだろーが!!」
 首を捻る英二・リョーマ・ケビンに男らが怒鳴りつける。づかづかと歩み寄り、
 「おい。そこガキ2人。さっきはよくも外人の振りして騙してくれたな・・・!!」
 「
Oh〜。ワ〜タシニホンゴワ〜カリマセンネ〜」
 「嘘つけえええ!! さっきっからめちゃくちゃ普通に日本語しゃべってんの聞こえてたぞ!!」
 「お、リョーマ。お前なんかやったら慣れてねえか?」
 「ああ。クソ親父がしょっちゅうこうやってはぐらかすからね。どこの東洋人だよアンタって感じで」
 「はあ? サムライ南次郎ってそういうヤツだったのかよ?」
 「テニス以外じゃただのオヤジだね。エロ本読み漁って母さんに怒られて」
 「は〜あ。その唯一のテニスに負けてるウチの親父もダメっぽいよな〜」
 「話聞けお前ら〜〜〜〜〜〜!!!」
 「ウルサイ。はいはい。話聞けばいいんでしょ? で、何だっけ?」
 「聞いてねえじゃねえか・・・・・・。だから! さっき外人のフリして俺ら騙してやがった話だ!!」
 「何だよ。ちょっとしたアメリカンジョークじゃねえか。ンなモン笑って軽く流せよ。心狭いなあ」
 「どれを軽く流しゃいいんだあああ!!!!!!」
 「そうすぐカッカしないでよ。まだまだだね」
 「ガキ相手に大人げねえなあ。ちっとは大人になれよあんちゃん」
 あっはっはっはっは!!! と周りから遠慮なしに届けられる笑い。当事者―――と同席していた者らも遠慮なく笑った。
 「あ〜っはっはっはっは!! おチビもケビンも最高!! ウケる!! 腹痛て〜〜〜!!!」
 「クックック。なるほどねえ。越前が2人集まるとこうなるって感じなんだね。よくわかったよ」
 「てめえらあああああああ!!!!!!」
 元々短い堪忍袋の尾ながら、それでも頑張って伸びついに切れたらしい。
 ブチ切れた男ら。怒りの矛先をリョーマとケビン、2人の方に―――
 ―――向けなかった。
 「笑ってんじゃねええええ!!!」
 怒りを乗せた拳が、一番近くで笑っていたメイツ2人の元へと振り下ろされる。完全な八つ当たり。ただし一度何かで徹底的に負かされると、たとえ他の手段に出たところで尻込みするのが大抵のパターンだ。特に相手は子ども。また負ければこの上ない屈辱だ。
 となると彼らの行動もあながち納得出来ないものでもない。ただし―――
 おかげでより悪い選択をしてしまった事に対して、同情も出来はしないが。
 振り下ろされた拳は、
 いともあっさり止められた。
 英二には素手で直接受け止められ。そして、
 ―――不二には丁度持っていたフォークを突き刺され。
 『うどわあああああ!!!!!!』
 悲鳴を上げたのは、
 不二を除く全員だった。
 「アンタ何やってんスか!?」
 「いきなり刺すなよ!! 正当防衛としても通用しねえよ!!」
 「てゆーかなんでフォーク貫通してんだよ!? お前どれだけ力入れてぶっ刺した!?」
 「ああ。向こうが力入れてきたからカウンターで必然的にそうなっただけだよ。それに大丈夫。腱や骨は避けておいたから、せいぜい全治2週間だよ」
 「長ッ!」
 「思いっきり笑い飛ばした挙句全治2週間って、アンタ極悪非道の悪人かよ・・・・・・」
 「そういう事ばっかやってるから先輩影で日なたで『魔王』なんて呼ばれるんスよ」
 「日なたで呼んだのは君が初めてだな、越前」
 「俺コソコソすんの嫌いだから」
 「いい心がけだね。ぜひ見習わなきゃ」
 血まみれのフォークを持ったまま平然と話す男。さらに間の悪い事に彼が今食べているのはスパゲティミートソース。赤い肉片までついていたりするのだからグロテスクさはますますアップする一方で。
 「てめえらざけんなあああああ!!!!!!」
 恐怖に打ち勝てなかったらしい男らが、限界を迎え暴走しだした。
 こうなると最早誰彼構わず。とはいっても元々野次馬的マナーというか何というかの成果として4人の座る席の周りはある一定距離誰一人としていなかったため、とりあえず攻撃対象に選ばれたのは4人だけのようだが。
 「ほいっ」
 台詞同様ワンパターンに殴りかかってくる男らの内、自分と不二に向かってくる拳2つを片手ずつで受け止める英二。立ち上がりながら、その勢いを利用し後ろへ転がす。倒れた相手を適当に蹴っておけばあっさり悶絶してくれた。
 「よっ、と」
 「ほらよっ!」
 ケビンとリョーマは互いにイスを引き拳をかわした。ケビンは勢いを無くしたところで後頭部を手で鷲掴みにしてテーブルへとぶつけ、リョーマはイスに座ったまま手を掴み足払いをかけ、自分から見て横向きに投げ飛ばす。走りこんできていた男はリョーマを飛び越えそのまま面白いように吹っ飛んでいった―――隣に座っていたケビンの方に。
 「うあっ!?」
 自分が倒した男を盾にして、かろうじて『攻撃』をいなすケビン。
 「危ねえな、リョーマ!!」
 「ああいたの? ごめんごめん」
 「今お前絶対ワザとやっただろ!?」
 「アンタも心狭いよ・・・・・・」
 「何を〜〜〜!!!???」
 「―――はいはい。2人ともそこまで。これ以上騒ぎ起こしちゃお客さん帰っちゃうよ」
 間に割って入った不二に、さすがに2人もぴたりと収まった。穏やかな顔をしてこの人が平然と何をするのか、先程見せられたばかりである以上当然だが。
 周りを見回す。声をかけてきたのは5人。今のであっさり全滅したようだ。
 不二がここでようやくがたりと席から立ち、
 「じゃあ僕と英二はコレ始末に行って来るね」
 「え? 始末って?」
 「このまんま放っておいちゃ営業妨害でしょ? 先生と生徒会の人が見回りしてるはずだから、運良く手塚辺りにでも会えたら預けてくればいいし」
 「な〜るほど。んじゃ、行くか」
 「そうだね。
  じゃあごちそうさま。料理おいしかったよ」
 「みんな〜。頑張れよ〜!」
 「ども・・・」
 挨拶し、5人を軽々引きずって出て行く2人。ずるずる鳴り響く音が完全に聞こえなくなってから、
 「そういえばよお、
  ―――都合よく逃げられたんじゃねえ? これって」
 「―――っ!!」
 ケビンの言葉に、リョーマが愕然とする。
 (そういえば『午後』って、
  ・・・・・・後2時間あんじゃん・・・!!)
 「やられたっ・・・!!」
 「どうやら向こうの方が1枚上手だったみてえだな」





 こうして終わった文化祭。結局売上競争は、
 ――――――初日の差を挽回することが出来ず、3年6組の圧勝となったのだった。



―――テニプリ青学へんその2 Fin








 ―――はい。以上文化祭青学へんでした。英二、結局微妙な活躍しか出来なかったなあ・・・。リョーマとケビンのちみっこコンビに取られたよ・・・。つーかむしろ敵は魔王ですか?
 では次は〜・・・・・・一応なんとなくの順番からすると山吹かなあ・・・。六角早く書きたいけど・・・。
 そういえば、ラストにちろっとだけ出てきた生徒会見回り。もちろん今後別の学校へのネタ前フリです。そう、あの人が会長やっている某金持ち学園の・・・!!

2004.9.19