テニプリパラ×2『帝王〜』編


 それは周吾のデビュー戦直後の事。
 「お父さんお父さん! お祭りだって!! 行こう行こう!!」
 「ああ? 祭りだあ? 何で俺がンなモン―――」
 「行こうよ行こうよ!!」
 「だから俺は―――」
 「行こー行こー!!」
 「あのなあ周吾。俺は行かねえって―――」
 「行こーよー行こーよー!!」
 「聞けよてめぇは人の話!!」
 「行こーよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」(←手足バタバタ必須装備)
 「だああああああ!!!!!!!!!!!!!!!
  ――――――行きゃいいんだろ行きゃ!!」
 「さっすがお父さんvv」
 「くそっ・・・!! マジでてめぇシメる・・・・・・!!」
 「わ〜いお父さんありがと〜〜〜vvvvvv」
 「・・・・・・・・・・・・。
  あーあーホンットてめぇは世渡り上手めえよな、周」
 「お父さんのおかげだよv」
 「俺がいつンなモン教えた!?」





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 さて、そんなこんなで急遽地元のお祭りに遊びに来ることになった跡部親子。
 「あ、お父さんお父さんあっちあっち!!」
 「はいはい・・・」
 「あそこ!! 何かおいしそうだよ!!」
 「ああそうかよ・・・」
 「買ってよ!!」
 「さっきっから食いすぎだろーがお前は!!」
 「だって僕せーちょーきだからいっぱい食べ物必要だもん!!」
 「だったら普通に飯食えよ!! 後で腹下しても知んねーぞ!!」
 「とかいって実はお金ないだけなんじゃないの!?」
 「あ゙あ゙!? てめぇこの俺様を誰だと思ってやがる!?」
 「実は貧乏人の跡部景吾様!!」
 「だったら何でも買ってやろーじゃねえか!! 代わりに腹下したらてめぇの責任だからな、周!!」
 「わ〜いお父さん太っ腹〜♪」
 「・・・ったく」
 こんな風に仲良く(?)祭りを堪能する2人。ところで当たり前の話だが跡部は元世界ランクトップのテニスプレイヤーとして有名である。また周吾もデビューしたてとはいえいきなりリョーマを倒したその実力かつ跡部の息子という親の七光り状態により、一気に世間に知れ渡る事となった。そんな2人がこんなところにいる。しかもあの跡部が己のとはいえ子どもに振り回され頭を掻き毟ってため息をついている。実は知り合いからみればあまり珍しい光景ではないのだが(普段から不二なり千石なりジローなりその他諸々なりの面倒を見続けているのだから当然だ)、ブラウン管越しに俺様たる姿しか見た事のない者らにとっては目を疑う『お父さん』振りだろう。
 周りからの驚きの視線など全く意に介さず、周吾はこの機会にと食えるものは何でも食い、跡部もカード対応ではない出店のため予め多めに卸しておいた自分に(どちらかというとどうせこんな事になるだろうと予め諦めていた自分にか)胸を撫で下ろした。
 そして・・・・・・





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 「あれ? お父さん疲れた?」
 「あん? ンな事ぁねえだろ?」
 「でもなんか疲れてるっぽいよ?」
 背伸びをし、周吾が跡部のおでこに手を伸ばした。迫り来る手に自然と跡部の目が細められる。
 ぴとりと小さく温かい手が当てられ、
 「やっぱ疲れてるよ?」
 「・・・・・・そーか?」
 「うん」
 首を傾げる跡部に即答する周吾。
 「じゃあ僕お父さんが元気になれるもの買ってくるから、お父さんはこの辺りにいてね!」
 「あ、おい・・・・・・」
 言うが早いか、周吾はくるりと身を翻して走っていってしまった。
 「・・・・・・ったく」
 軽く舌打ちする。周吾に対してというより、自分に対して。
 人込みは嫌いだ。試合会場などの自分と他人との間に明確な一線がある状況ならともかく、このように自分が人に埋もれるのは。
 周吾にせがまれなければ絶対来なかったであろうこんな祭り。先ほどまではひたすら周吾に引っ張られる形であったため気付かなかったが、こうして改めて1人になると息を吐いて力を抜く自分がいる。確かに疲れていたようだ。
 (まさか周吾に気付かれるとはな)
 ため息をつく一方で・・・・・・少し嬉しくなる。不二のクローンである周吾と自分の間にはもちろん何の繋がりもない。だがもしかしたら・・・
 (意外と繋がってんのかもな。それとも一緒に暮らしてて似てきたか)
 他者の弱点を見抜く眼力は自分の得意技だ。まさか息子に使われるとは。
 「んじゃ次は破滅への輪舞曲でも教えてみっか」
 そう呟き、
 跡部は実に楽しそうに笑った。





 さて一方跡部と分かれた周吾。『お父さんが元気になれるもの買ってくる』と言いつつ彼が買っているものは―――
 「すいませーん!」
 「あいよ。何だい? ボク」
 「それ下さい」
 「コレだね? 
サラダクレープサルサ・デス・ソースがけ
 「はい」
 ―――この時点で不二の味覚オンチは環境ではなく遺伝である事が判明した。それの最大の被害者である跡部がわざわざそうなるよう教育したワケはない。
 お金を払い、もらったクレープ(特記事項として真っ赤なソースがたっぷりかかっている)を両手ににっこり笑う。嬉しくてたまらない。楽しくてたまらない。
 無理矢理連れて来られながらも、決して跡部は「帰るぞ」とは言い出さない。誰かと肩が触れ合っただけで嫌そうに顔を顰めるのに。なのに言わず、ずっと自分に付き合ってくれている。
 本当にお祭りに来たかったワケじゃない。確かにほとんど外に出たことのない自分。身内だけでやるパーティーならともかく、こんなお祭りは初めてだ。それでも実際は・・・・・・
 (今日はいっぱい遊ぼうね、お父さん)
 と・・・
 どん―――!
 「お、っと・・・・・・」
 通りすがりの人にぶつかりかけ、周吾は落ち着いてよろけた。もちろん実際そうしたのではなく、よろける事で微妙な体捌きで避けたのだが。不二そっくりというと一見おっとりトロそうな感じだが、周吾は(そして実は不二も)護身術は当たり前のように一通りこなし、さらに心配性の跡部に必要以上に鍛えられている。この程度のアクシデントならば特に問題はない―――周吾本人にとっては。
 「おいテメエ!!」
 「待ちやがれそこのガキ!!」
 『すれ違った』男らが声をかけてくる。実際は・・・転ばせようとして失敗した男らが。
 「僕ですか?」
 全てわかっていた上で、何も気付かないフリをしきょとんと振り向く周吾。そんな様が、より男らの怒りを煽る。
 「『僕ですか?』じゃねえよ! おい! 今テメエ何しやがった!!」
 「何も」
 即答。
 両手を上げ、パタパタ振ってみせる。空の両手を
 とっさの事態に両手から離れたサラダクレープ長いので以下略は、たまたまそこにあった男らのズボンにびっしゃりとかかっていた。
 じっと見下ろし、
 「災難でしたね。ご愁傷様でした。お悔やみ申し上げます。
  じゃあ僕はこれで」
 「ちょっと待てえ!」
 「―――。だから何?」
 「『何?』じゃねえよ!! テメエだろーがやったの!!」
 「不幸な事故じゃないか。しっかり謝ったし、過去はやり直せない以上起こっちゃった事を今更検証してみたところで意味ないでしょ?」
 「ウルセエ!! テメエそんな理屈でまかり通るとでも思ってんのか!?」
 「いたいけな子どもを罠に陥れ難癖つけて、逃げられないのをいい事に物陰に連れ込み散々弄ぼうと画策中の人らには言われたくないな。ねえ、オニイサン?」
 「誰がやるかンな事!! しかもテメエみてえなクソガキ相手に!!
  俺らはテメエの持ってるその財布が目当てなだけだ!!」
 びしりと肩からさげられたバッグ(の中に入ったお父さんの財布。明らかに子どもが持つにふさわしくない高級感溢れる分厚いそれに、さぞかし中身も豪勢だと予想をつけたのだろう。実はお祭り対策で小銭が入って分厚いだけで、実際中身はもう
50ドルにも満たないのだが)に指を突きつけてくる男に、
 周吾は目を見開いて驚いた。
 わなわな震え、
 「こ、こんな子どもの財布狙うほどお金に困ってるの!? そんな!! 素直に3べん回って『アオーン!』と位言ってくれたら1ドル程度は貸してあげるのに利子はもちろんトイチで!!」
 『突っ込みどころ多すぎるわああああ!!!』
 実際言われた男らのみでなく様子を見守っていた者ら含め全員が異口同音に突っ込む。
 「なんで遠吠え!? 『アオーン!』って!? 普通『ワン』じゃないの!?」
 「負け犬ちっくに」
 「しかもそれだけやって1ドルって!? 安ッ!!」
 「
10秒一発芸で1ドルもらえれば相当に高いかと。換算すれば時給360ドル。売春以上の儲けだよ?」
 「つーか『貸す』って!? しかも利子つき!? 挙句トイチ!?」
 「もちろん
10分で1割アップね」
 『鬼かアンタ!?』
 指摘され、
 周吾はむー・・・っと呻いた。
 呟く。
 「難しいなあ世間一般の相場って」
 『どこが!?』
 3度目の突っ込み。おとなしくそれを聞き、
 「じゃあそういう事で」
 『何にも解決しとらんわああああああああ!!!!!!!!!!!!!』
 手を上げ立ち去りかけた周吾の背中に、本日最高潮の突っ込みが刺さった。
 「・・・・・・・・・・・・。だから僕にどうして欲しいのさ。希望あるんならさっさと言ってよ」
 「最初っから言ってんだろーがテメエがことごとくずらしてるだけで!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
  ――――――ああ。僕にお金を借りたい、と」
 「違あああああう!! 全然本題に戻ってねえじゃねーかしかも今テメエ本気[マジ]で考え込んだだろ!!??」
 「『人と接する際はどんな場合であろうと真剣に応対しなければならない』ってお父さんが言ってたから」
 「お父さ〜〜〜〜〜〜ん!!! 息子さんの教育力いっぱい間違ってますよ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 それは、男の魂からの訴えだった。周りの者も賛成する。―――当事者除いて
 「てめぇ俺様の教育に文句つけようってか!?」
 どすごっ!!
 「をぶっ!!??」
 どこから聞きつけたか、『お父さん』こともちろん跡部登場。いきなり現れいきなり男の頭を蹴り倒した跡部は、驚く周りを無視しこちらを見上げる周吾を片手で抱き上げた。
 「っててて・・・。
  テメエ何しやが――――――!!」
 わざと甘めに蹴ったため早々に復活した男がこちらに因縁をつけようとして・・・・・・
 「――――――あ、跡部選手ぅ!!??」
 クドいが跡部は有名人だ。例えポッと出の新人である周吾の事は知らずとも(いくら見た目は不二そっくりだろうがここまで性格による表情及び態度が違えば血の上った頭ではわかるまい)、長年マスコミを賑わせなおかつ1回1回のインパクトのやったら強い跡部はむしろ知らない者の方が少ない程だ。
 そして・・・
 ――――――当の跡部はそれを全くといえるほど意識していない。
 男をギンッ! と睨め下ろし、
 「俺の息子に何絡んでやがる。俺様に向かって喧嘩売ってんのか? ああ?
  だったらさっさとかかって来いオラあ!!」
 素晴らしいまでのガラの悪さでそんな事を言い出す。しかも並の野郎の脅しではない。
 息も出来ないほどの圧力―――殺気をみなぎらせた跡部に、男らは極めて情けない悲鳴を上げつつ、あっさり退場していった。
 「・・・・・・ったく」
 本日何度目かのため息で殺気を霧散させる跡部。周吾を下ろし、自分もしゃがみ込み、
 ぎゅうううううう〜〜〜〜〜〜!!
 「ひだだだだだだ!!!!!!」
 「で!? お前はわざわざな〜にやってたんだ? 周」
 「ひょ、ひょとーひゃんにはえおのあっへは〜」
 「それが何でンな騒ぎになってんだよ?」
 「・・・・・・通じるんだ」
 「・・・・・・さすが跡部選手は違う・・・・・・」
 周りでいろいろ言っているのはいいとして(なお周吾は『お、お父さんに食べ物買ってた〜』と言っていたのだが)。
 周吾はほっぺたをぎゅ〜っと引っ張られ、ちょっぴり泣きながらも健気に続けた。
 「いいあひはらまへたんひゃひょ〜(いきなり絡まれたんだよ〜)」
 「どこがだ。自分から絡んでやがったクセに」
 「ひょんなほほはひお〜。はっへうこーぎゃひおひおふぇひうえていたーはおう(そんな事ないよ〜。だって向こうがいろいろケチつけてきたんだもん)」
 「口答えばっかしてねえでちったあ反省しろ」
 「おうあーほあひゅうぃほほふぃえあひ〜!!(僕何も悪い事してない〜!!)」
 「・・・・・・」
 は〜っとため息をついて、
 跡部は周吾から手を離した。
 「・・・・・・もういい」
 「ひいほ?」
 「そのしゃべり方ももー止めろ。何言ってんのかワケわかんねえ」
 「・・・・・・・・・・・・わかってなかったんだ」
 「・・・・・・・・・・・・さすが跡部選手。いろんな意味ですげーよ・・・・・・」
 ふらたひ―――再び周りでいろいろ言われるのはいいとして(そして周吾語がうつってきた管理人もいいとして)。
 「はって・・・・・・、口ひりひりしてしゃえり辛い」
 真っ赤に腫れあがった頬をさすりさすり呟く周吾。その頬に、
 ぴとりと冷たいものが当てられた。
 「?」
 見上げる。当てられたのは跡部の大きな手で。ならばなぜそれが冷たいのかというとそれは・・・
 「買ってくんならこういうモンにしろよ」
 持たれた2つのコップを振り、にやりと笑う跡部。どうりでさっきっから片手しか使わないワケだ。もう片方でずっと持っていたようだ。
 「・・・買ってんじゃん」
 「どうせお前に任せるとロクなモン買ってこねえだろうなと思ってな」
 どうやら育成2人目となるとそろそろいろいろ学んできたらしい。
 べたりと落ちた真っ赤なソース・・・・・・のかかったクレープを見下ろし、跡部がため息をついた。
 見て、
 周吾がむ〜っとむくれる。
 「せっかくお父さんのために選んだのに・・・・・・」
 「・・・・・・その天然嫌がらせは一体どうやったら治るんだよ」
 無駄とわかっていつつも一応突っ込み、
 跡部は鼻から息を抜いた。もう何度もついているため息ではない。
 苦笑し、ぽんぽんと周吾の頭を叩いた。
 見上げる周吾に屈み込み、
 ぺろりと口端を舐めた。
 「?」
 再びきょとんとした目を向けられる。
 舌を薄く出してやる。先っちょに少し乗った真っ赤なソース。下に落ちているものと同じもの。
 「俺より先に食うんじゃねーよ」
 「ち、違うもん!! 投げた時飛んだだけだもん!!」
 投げたのか・・・と跡部含め誰もが突っ込む。とりあえずそこは軽く流し(蹴り飛ばした跡部に何か言う権利はないため)、
 「さあ。どうだかなあ?」
 「食べてない食べてない!! お父さんと一緒に食べようって思ってたんだから!!」
 「ほお・・・」
 軽く頷き、
 「なら・・・・・・次に証明してもらおうか」
 「え・・・?」
 本日で一番周吾がきょとんとする。差し出された跡部の手を前に。
 「おら次行くんだろ? さっさと来いよ」
 「――――――うん!!」
 そして、お騒がせ親子は仲良く手を繋ぎ去っていった。





‡     ‡     ‡     ‡     ‡






 余談だが、跡部の持ってきた飲み物の内彼の分はその後
30秒で空になった。理由は・・・
 (か、辛れえ・・・!! クソやっぱンな事すんじゃなかったぜ・・・!!)
 一瞬以上の長時間舌の上に乗せてしまった某物件。その辛さはとても飲み物一杯で洗い流せるレベルではなく。
 (ああくっそ周!! 何でもいいからさっさと口直し買え!!)





 さらに余談だが。





 「ああ!? お前財布落としたってか!?」
 「あ、あれ・・・? おかしいなあ・・・。確かにバッグの中に〜・・・・・・」
 「うがあああああ!!! だからなんでてめぇはそこまで俺に嫌がらせする!? そこまで俺が憎いか!?」
 「ちょ、ちょっとお父さん何そこ本気でキレてんのさ・・・・・・」
 「今すぐ帰るからな!!」
 「あああああああ!!!!!! お父さん待って〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」



―――テニプリ『帝王〜』編 Fin








 ―――なんで『天才〜』すら出来ていない状況でいきなり裏パラレルことパラ×2の『帝王〜』編で書いてるんでしょうね。正解は書こうと思ってからネタを即座に思いついたからなんですが(爆)。
 なんと
Web拍手のメッセージにてコレの続きを読みたいというお便りを頂いてしまいました。メッセージ以前にそもそもこの自己満足シリーズを自分以外で読んでいる方がいたというのが何よりも驚きですが(HPの存在意義を根底から否定する発言)、そんなこんなでなぜか続きではなく(時間的には一応続きですが)インターミッション的平和な2人を書いてみましたv 気に入って頂けたら幸いです。周吾×跡部にそのまま突っ込んでも良さげですが、とりあえずひたすら流されっぱなしになりそうな跡部に少しでもいいメを見させてあげよう! がコンセプトだったりするのですがこの話。
 ・・・それ以前の問題で、この話いきなりわかる方どれだけいらっしゃるんでしょうね。コレの元となっている『帝王の宴 魔王の降臨』は
Novel裏ちっくにあります。パラレル×2などつく通り、この話は表のパラレル『天才少年たちの祭典』のさらにパラレル話です。以上。解説終わりっ!
 しかしこの話、殴られそうな周吾を助けに颯爽と跡部登場! ・・・・・・なハズだったような・・・・・・。恐るべし周吾。不二では出来ないこのクソ生意気な態度が書いててかわうい・・・vv

2004.12.1521