電童編(北斗とスバル)



 「スバル!」
 「北斗」
 「おはよう! ねえ、君は何かお願い事ってある?」
 「・・・?」
 いきなりな切り出しに、スバルが首を傾げる。見て、北斗もそういえば何の説明もしていなかった事を思い出した。
 「あああのね、エリスが昨日話しててね―――」
 ―――話の内容は割愛する。
 し終え、聞き終え。
 「それは・・・・・・悲しい話だな」
 スバルがぽつりと洩らした感想は、昨日北斗がエリスに言ったものと同じだった。
 だから、
 「でもねスバル、確かに話は悲しいけどさ、でも神様は幸せだったんじゃないかな?」
 「そう・・・か?」
 「そうだよ。
  考えてみてよ。好きな人のために何かが出来たんだよ? 大事なのはそこなんじゃないかな?
  そりゃ想いは伝わらなかったけど・・・・・・けどそれでもさ、好きな人の幸せを考えて望みを叶えて。最後は違うけど最初は女の子だって喜んでたじゃない」
 だから―――昨日1日かけて考えた自分なりの答えを言ってみた。悲しいだけの話なら、今までずっと語り継がれていたわけはないから。この話は何が言いたいのか、それをずっと探してみた。
 「つまり、北斗もその『神様』と同じだ、と?」
 「うん。僕も神様みたいに好きな人に何でもしてあげたい」
 それが、答え。もちろん自分は万能の神様ではないけれど。それでも自分が出来る範囲で喜んでもらえる事をしたい。
 「それで、僕の望みを叶えたい・・・と?」
 「うん。スバルを幸せにしてあげたいんだ。スバルが大好きだから」
 「・・・・・・。そう、か」
 優しい笑みで放たれる言葉。それはスバルを頂点まで舞い上げる言葉・・・・・・だった。かつては。
 喉の奥に粘つきを感じながら、かろうじて頷くスバル。北斗の『大好き』を鵜呑みにしてはいけない。それが、スバルが彼と共に在るようになってさんっざんに思い知らされた事だった。
 間違ってはいない。確かに北斗はスバルが『大好き』なのだ。そして同時に、銀河を、エリスを、家族を、
GEARのみんなを、学校の友達を・・・・・・。
 放っておいたら同じノリで彼らみんなの望みを叶えようと頑張るだろう。この優しい笑みを浮べ。
 それはそれでいいのかもしれない。いやむしろいいのだろう。現実問題として可能か否かではなく、そう思う気持ちが何より大切だ。
 だが・・・・・・
 感じてしまう、自分達の違い。自分は北斗が他の者にもそうする事が不満で。自分だけにその笑みを向けてほしい。自分だけの望みを叶え続けてほしい。
 ・・・・・・それが、自分の望み。
 (僕は・・・・・・北斗に比べて醜い・・・・・・)
 「―――どうしたのスバル? 何か辛そうな顔してるよ?」
 「え・・・・・・?」
 ふいに呼びかけられ、顔を上げる。驚く程近くにあった北斗の顔は、
 ―――笑顔から一転、驚く程哀しそうで。
 「僕・・・、こんな事言って迷惑だった・・・・・・?」
 「そ、そんな事はない!」
 慌てて否定する。北斗が他の者に笑みを向けるのは嫌だが、それよりそんな顔を見るのはもっと嫌だった。
 「ホントに・・・?」
 「ああ。ただ、いきなり願いは何かと聞かれて混乱しただけだ。今までそんな事は考えた事がなかったから」
 「ないの?」
 哀しそうな顔が消える。
 きょとんとする北斗に、
 スバルは苦笑した。
 「今まで―――北斗やみんなに出会う前は、僕はただの操り人形みたいなものだったから。不自由はない生活を送っていたが、逆に願いもなかった」
 「そう・・・なんだ」
 頷き、俯き・・・
 顔を上げた北斗には、再び笑みが浮かんでいた。
 スバルの両手を握り締めて、
 「じゃあこれからはいっぱいお願いしていいよ。幸せになろう、一緒に!」
 「幸せに、か・・・・・・」
 繰り返し―――
 スバルもまた微笑んだ。
 「なら僕の願いはないな」
 「え・・・?」
 「僕の願いは北斗と幸せになる事、それだけだ」
 「スバル・・・・・・」
 呟き・・・・・・北斗はスバルをぎゅっと抱き締めた。
 「ほ、北斗・・・//!?」
 いきなりの事に顔を赤くするスバル。耳元に、囁く。
 「そういう君が大好きなんだ。
  ―――幸せになろうね。一緒に」
 「・・・・・・・・・・・・。
  ―――ああ」





 「―――というわけで、スバルは幸せにしたから次は銀河のところに行ってくるね!」
 「え・・・?」
 「でもって銀河も幸せにしたらいよいよエリスのところだ! あの話はバッドエンドだけじゃないって証明するんだから!!」
 「北、斗・・・・・・?」
 「じゃあそういう事で。スバル、ばいばい!」
 「ちょっと待・・・・・・」
 あっさり立ち去る北斗に手を伸ばしながら、
 ―――つくづく北斗の言い分は真に受けてはいけないと実感するスバルであった。



冗談・・・と誤魔化せるならば、いっそ全て言ってしまうのもまた手だったかもしれない―――Byスバル

2004.11.13