伝勇伝編1(ライナとフェリス)



 「よしフェリス! 今日から俺は神様になるぞ!!」
 「む?」
 ライナの起き抜けの言葉(宣言?)に、フェリスはだんごを食べる手を止め疑問の声を上げた。先程まで気持ち良さそうに昼寝していた筈がなぜいきなりそんな発想になったのか。
 無表情ながら、整った眉がぴくりと跳ね上がったのをライナは見逃さなかった。得意げにぽんと手を叩き、1人で拍子を取るとそのままの勢いで続けた。
 「思い出したんだよガキの頃の事ちろっとだけ。確かンな話があった。神様ってのは何でもやりたい放題なんだってよ。まあ名目上誰かの望み叶えるって感じなんだけどな。
  つーワケでフェリス、お前何か望みあるか? あ、もちろん俺のためになる事言ってくれていいぞいくらでも」
 「ふむ・・・」
 ライナの子どもの頃。そういえば訊いた事はなかった。自分の子どもの頃の事ならぽつりぽつりとは言った事があったが、ライナはいつも『覚えていない』の一言で質問を断ち切っていた。
 が、
 もちろん今重要なのはそこではない。
 「なるほど。私の望みを叶える、か」
 「いやだからそりゃもちろん建前としてはそうなるけど中身は出来れば俺のためになる事を―――」
 ライナの台詞はそこで消えた。きゅいん―――と鳴る聞き慣れた音により。
 きゅいん―――と聞き慣れた音で、フェリスが剣を抜き放った。
 「私の望み。今更言うまでもないだろう?」
 「つ、つまりまさか〜・・・・・・」
 「変態色情狂たるお前の毒牙にかけられるか弱き婦女子の代表として、私の望みは日夜お前に天の裁きを下す事だ」
 「だから毎度恒例ツッコミどころ多すぎだって・・・。俺は誰も毒牙にかけてないしむしろ最近俺のほうがかけられてるし、『か弱き婦女子』ってとりあえずお前はそのカテゴリーに含まれねえだろ。しかもお前が下した時点で『天の裁き』じゃないじゃん・・・。
  ―――いやそれよりな!!」
 くじけかけた心を一息で巻き返す。ここでくじけてはせっかくの野望が・・・!!
 剣を手に神速で迫りかけたフェリスに手を突き出す。
 「待てフェリス話の続きを聞け!!」
 「犯罪者の話など聞く者はいない」
 「だからお前そういう問題大爆発な台詞は止めろって・・・。
  じゃなくてな! さっきの説明はまだ続きがあったんだ!! なんとその神様ってのは世界そのものだったんだ!! 殺しちまったら世界も滅びるんだぞ!?」
 「何・・・!?」
 驚きの声を上げ、フェリスの動きが止まった。手の隙間をすり抜け首3ミリ手前で止まった剣は意識から外し、
 「ほら! そうなったらお前だって困るだろ!? だったら俺を殺すのは止め―――!!」
 またしてもライナの台詞は強制的に止められた。信じられないと目を見開き首を振るフェリスによって。
 「お前がこの世界そのものだと・・・!?」
 「あ、あら・・・? 何? お前まじで信じちゃってる・・・・・・?」
 何だか本気で動揺しているっぽいフェリス。さすがにちょっぴり罪悪感が芽生える。
 と―――
 「ならば余計に殺さなければならない」
 「なんでそうなる!?」
 無表情に戻り、ちゃきりと剣を構えなおすフェリスにライナは全力で突っ込んだ。
 それに対し、フェリスは鷹揚に頷き、
 「当然だ。お前のような者に作り出されたとなれば世界もまた滅ぼされる事を待ち望んでいるだろう」
 「どこが当然なんだよ! お前アルアは散々俺の子どもだとか言いながら守ってやったじゃねえか!!」
 「通常の子どもならばまだ母親がいるから更生の機会はある。
  しかしながらお前が単独で作り出したとなればもうその道はない。お前に作られたという恥を永遠にさらし存在し続けるのならば、いっそ今ここで滅ぼしてくれと願っているに違いない」
 「なんか・・・・・・俺メチャメチャスケールアップしてるっぽい?」
 あまりの言われっぷりに、それこそいっそ冷静に事態を受け入れ噛み砕くライナ。
 無視し、フェリスの演説がさらに続いた。
 「なお心配するな。お前を殺した暁には私が世界の創造主として君臨しよう」
 「そっちの方がよっぽど問題だろーが!!」
 「では、安心して死ね変態神」
 「びみょーに理解したフリして人ますますヘンな位付けすんじゃねえ!!」
 シュパ―――!!
 「うぎゃあああああああ!!!!!!!!」





 神として目覚めたライナ。彼の日課は―――とりあえず生き延びる事である。



冗談。それは後の展開を予想してから言うべきものである―――Byライナ

2004.11.13