魔術士オーフェン編(コギーとオーフェン)



 「オーフェ〜〜〜ンvvvvvv」
 今日も飽きずにバグアップズ・インに乗り込んで・・・・・・彼女(の関係者)から受ける損害を考えるとこの言い方もあながち間違いではないだろう・・・・・・きたコギーに、
 「・・・・・・・・・・・・」
 「ってちょっとは何か反応してよ!!」
 「ん〜・・・・・・。ああ、コギーか・・・・・・」
 オーフェンは、9割8分ほど閉じかけていた―――ついでに完全に閉じたならば二度と開く見込みもなかった―――瞳を一割ほどこじ開け返事した。これだけするのにどれだけのエネルギーを消耗したのだろう。
 どうやら事情は察してくれたらしい。まあ尤も水だけの入ったグラスを目の前に、カウンターに突っ伏していたりすればそこから想像する事態はおおむね1つだろうが。
 テンションを落ち着かせ、コギーは隣に腰掛けた。
 「で? 今度は何日なの?」
 「えっと今日で・・・・・・3日目」
 「最高記録更新中?」
 「だな・・・・・・・・・・・・」
 「あと何日いけそう?」
 「多分・・・・・・3時間くらい」
 「そう」
 何がどう、とは問わない。もう答えはわかりすぎるほどわかっていた。
 だからこそ、
 コギーは全てを無視して初っ端の目的を果たした。
 「ねえオーフェン、もしも神様がいるとして、何でも願い叶えてくれるっていったら、あなただったら何を望む?」
 「それは俺に対する嫌味か嫌がらせなんだなああそうだなたとえ何がその先にあったとしても俺は負けないぞちくしょう世の中なんか大っ嫌いだ!!」
 「・・・・・・ってそんな人格破壊して魂の叫び上げなくても。ちょっとした質問だったんだから」
 はふ・・・と憂い溢れるため息をついて、
 「そう。今のわたしはまさに神。そこらの道行く誰彼をも幸せにしてあげたいき・ぶ・ん」
 「・・・・・・・・・・・・。何あった? お前」
 大袈裟な手振り身振り付きでそんな・・・・・・どうとも言い様のない事を言う彼女。いつもとあからさまに違う様に、さすがにオーフェンも首を傾げ尋ねた。
 途端。
 「訊いてくれる!?」
 「うおわっ!?」
 バネでも入っているのかと疑いたくなる並のスピードで、コギーがぐるりとこちらを向いてきた。驚くオーフェンを無視し、
 「何と今日はね―――
  ボーナスの日なの〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 「っぬあにいいいいいいいい!!!???」





 事態を整理するのに7分かかった。





 「ボーナスってアレか? 年2回給料と別に入ってくるご褒美みたいなヤツ」
 「そう! それがついにわたしのところにも来たのよ!!」
 「何でだ!? 何でこんな無能警官にそんなものがわざわざ!? この世の中よっぽど金が有り余ってんのか!? インフレか!? バブル到来か!? 金の価値はパン以上に下落してしまったのか!?」
 「だからそうやって人格は壊さない。派遣警察はごくごく普通の組織なんだからごくごく普通にボーナス出して当り前でしょ?」
 「・・・今の台詞は1ポイント足りとも納得出来んかったぞ」
 「・・・・・・ちょっとわたしも自分で言いつつ思ったけど。
  でもこれは本当なのよ! 今日付けでトトカンタ中央銀行にあるわたしの口座にボーナスが振り込まれて―――!!」
 ばたん!
 「オーフェンさんコギーさん大変です! トトカンタ中央銀行が銀行強盗に襲われて大変な事に!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 扉をぶち壊す勢いで入って来た宿の息子・マジクの言葉に、
 コギーはこちらを指差し声高々に宣言したまま凍りついた。
 ため息をつき、
 「で、何だって?」





 トトカンタ中央銀行前。確かに何か騒ぎが起こっているらしい。市警が慌ただしく包囲網を築いていた。
 銀行を見上げ、警察官らを眺め。
 オーフェンはコギーの肩をぽんと叩いた。
 「災難だったなコギー。まああるかないかわからんが次の機会まで頑張れ」
 「何でよーーーーーー!!!!!!」
 頭を抱えて泣き叫ぶコギー。周囲にかなり迷惑がられていたが構う事なくぶんぶん頭を振る。
 一通り嘆き終え。
 「・・・・・・オーフェン」
 「謝礼はボーナスの9割な」
 「ぐっ・・・!!
  ふ、普通せめて半分なんじゃ・・・・・・」
 「何言ってるんだコギー。このまま強盗が成功しちまったらビタ1文戻って来ねえんだぞ? それ考えたら1割でも戻ってくるんならいいだろーが」
 「そ、それはそうだけど〜・・・・・・」
 「んじゃ決まりだな」





 最初の会話から3時間後。再びバグアップズ・インで。





 「いや〜。ホンットコギー、お前は俺の神様だよ」
 「しくしくしく・・・」
 「確かに俺を幸せにしてくれる。ああ、俺は今なんて幸せなんだ。これもお前のおかげだ」
 「しくしくしくしくしくしく・・・・・・」
 「本当に幸せだ。確かに幸せになると他のヤツにもおすそわけってモンをしてみたくなるもんだな」
 「だったら残りのボーナス返してよ〜〜〜〜〜〜!!!」
 「おうマジク、さっきのドリア、1皿追加な」
 「はい。わかりました」
 「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく・・・・・・・・・・・・」
 先程までの幸せいっぱい夢いっぱい状態はどこへやら、延々泣き声を上げ続けるコギーにオーフェンはにっこりと笑った。
 それこそ『神様』の笑みで言う。
 「コギー・・・。
  これが『納得できない世の中』ってモンだ」
 「さっきの仕返しなのそーなのねわたしがひとりっきりでボーナスもらったのが許せないのねでもこれは正当な稼ぎよどーしても取り上げるって言うんなら最後まで戦うわよわたしは!!」
 ごすっ・・・。
 「お前も人格崩れてるぞコギー」
 「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 立ち上がり熱弁しかけたコギーの頭に食べ終えたステーキ皿を立てて落とす。再び泣き声になったところでドリアがやってきた。
 「でもホント、コギーさんって神様ですよね」
 「ああそうだよなあマジク。お前もお願いすんなら今の内だぞ」
 「僕ですか? 僕はもう大丈夫ですよ」
 「もう?」
 不思議な台詞。繭を顰めるオーフェンの目の前で、
 マジクはそれこそ全ての者を幸せに導く笑みを浮べた。幸せに導く―――大前提として自分が幸せでなければならないというあの笑みを。
 言う。
 「だってオーフェンさんの今までの宿代や食事代、全部立て替えてくれたんですから」
 「・・・・・・・・・・・・何?」
 告げられた言葉の意味がわからない。
 問い返す。が、
 「というわけで、コギーさんのボーナスは全額こちらで回収させてもらいました。ああ、今オーフェンさんの食べてる分は払ってくれたお礼ですので、好きなだけ食べてくださいね」
 「え・・・・・・?」
 「は・・・・・・?」
 食堂内に、間の抜けた空気が広がる。
 たっぷりと、マジクが食べ終えた皿を全て片し終えるほどたっぷりと時間をかけて、
 「っなにいいいいいい!!!???」
 「えええええええ!!!???」
 「って事は何か!? 結局俺の儲けは0!?」
 「あなたは元々儲けてないでしょうが!! つまり何!? わたしのボーナスは9割どころか全額没収って事!?」
 「もちろん」
 今度の沈黙はさらに長かった。
 マジクが荷物をまとめ家から脱出したところで、
 『うああああああああああああ!!!!!!!!』
 『いやあああああああああああ!!!!!!!!』
 店から、完全に人格を壊した2人の魂の叫びが響き渡った。



冗談。それは引っ込みのつくレベルで済ませるべきであるらしい―――Byコギー

2004.11.14