レツゴ高校生編(豪と烈)
「烈兄貴烈兄貴!! 俺兄貴の願い何でも叶えるぜ!!」
「はあ?」
部屋に入ってくるなりそんな事を言ってくる弟に、烈が最初に確認したのはカレンダーだった。本日はエイプリールフールではない。4月ですらない。
「・・・・・・まあ、バカは春に限らず年がら年中生息してるしな」
「って違―――う!! 俺は本気だ!!」
「そう主張されてもなあ。根拠は?」
「訊いてくれるか!? なんと俺は何でも出来る神様だったんだ!! 好きなヤツの願い何でも叶えるぜ!!」
支離滅裂な台詞。コイツは一体何から影響を受けたのだろう?
(まあ、毎度恒例ゲームとかマンガとかからだろうなあ。夢と現実の区別のつかないヤツだし・・・)
兄の義務として『真実』を説こうとして、
烈はぽんと手を打った。
「お? 願い決まったか?」
嬉しそうに問うてくる豪に、(ため息はかろうじて喉元で堪え)近付いていった。
「豪・・・。俺、願いがあるんだ。どうしてもお前にしか叶えられない・・・・・・」
うるうると見上げる。あまつさえ手なんか握ってあげると、単純バカの代名詞たるこの弟は実にあっさり乗ってきた。
「おう! 何でも聞いてやるぜ!!」
「そうか・・・? だったら・・・・・・」
ぽんと肩に両手を置いて、
「―――次の試験、1教科足りとも79点以下は取るなよ?」
「へ・・・・・・?」
豪が間の抜けた声を上げた。それは無視して、拳と―――ついでに握ったままの肩に力を篭め、
烈はうるうるから一転、ケッ! と唾を吐き捨てる勢いで言葉を吐き出した。
「お前がヘンな点っていうか赤点取るたんびにみんなに言われるんだよな。『お前弟の世話ちゃんとしてるのかよ?』ってさあ。してるに決まってんだろこんなに丹精篭めて! 取れないのはどう考えたって俺の教えをちっとも生かさないバカのせいだってのに何で世間一般じゃお前の失敗は俺の失敗扱いになるんだ!? 俺の品行方正を絵に描いたような外面がお前のせいでどれっだけ! 傷付けられてると思ってんだよああ!?」
・・・・・・弟が弟なら兄も兄である。
こちらも理解不能の理屈を・・・・・・・・・・・・弟の襟首を捻り上げながら続ける。
そんな、『品行方正を絵に描いたような(外面限定)』烈は、正しくその通りににっこりと微笑んだ。窒息死まであと●秒の豪へと。
「というわけで、ぜひとも次は頑張ってもらいたいなあ、豪vv」
「は、はい・・・・・・。頑張らせて頂きます・・・・・・・・・・・・」
「―――といった感じなんだ」
「なるほどねえ」
「それで豪は今日はお前のところへ来ない、と」
「そうなんだよ佐久」
「だからお前その呼び方止めろって言ってんだろうが。犬呼んでるみたいに聞こえる」
「どこが?」
「だよねえ。
サク〜。サク〜♪」
「・・・・・・佐久許に賛成」
「だろ?」
次の日、いつもならヒマを見つけては兄のところへ遊びに来る弟がなぜか来ないのを疑問に思ったクラスメイト兼生徒会メイト(というのだろうか?)のマリナと佐久許に、烈は昨日の会話を一言一句間違える事なく説明した。これで伝聞とはいえ証人Get。豪が後々言い逃れしようが民主主義の法則に則り自分の勝ちだ。
全てを説明し終え、
感想はこの一言に尽きた。
「でもさあ、豪もホンット馬鹿だよなあ」
「・・・・・・一応努力してるんだからその努力は買ってあげたほうがいいんじゃないかしら?」
同じく話を聞いていたせなの言葉。彼女にしては珍しく頬に一筋汗など流している。
「でもねせなさん。『何でも出来る』んだよ本人曰く」
「・・・・・・・・・・・・つまり?」
「『何でも出来る』んだったらカンニングするなり事前に問題手に入れておくなりいっそ試験が行なわれなくなるよう学校消滅させるなりなんだって出来るじゃない。わざわざ一番面倒な方法取らなくったって」
苦笑しながら首を振る烈。どうやら本人は『そんなバカな弟が可愛くて仕方ない兄馬鹿な自分』を表現したいらしい。
そんな、『烈式理論』を聞かされた3人は・・・
「・・・・・・それこそ豪に賛成」
「それはまあ、さっきの烈君の話聞く限りあくまで『79点以下を取らない』のが望みであって別に『80点以上取る』必要性はないものね。ついでに正攻法で攻める必要性も」
「けど正常な思考の持ち主なら豪と同じ事するでしょ?」
「つくづく豪も不幸だな。異常なヤツの下に生まれて」
「何か言ったかな? 君達」
『別に何も』
―――全く豪のフォローをしようとしない辺り、結局烈と同類らしかった。
冗談。それはとりあえず自分よりレベルが下の相手に向けて言うべきものである―――By第三者
2004.11.13