テニプリ編4(跡部と手塚)



 「なあ手塚・・・。お前俺が願い叶えるっつったら何言う?」
 「つまり?」
 問い返す手塚に、
 跡部は合わせていた背中を外し、抱き込みながら囁いた。
 「お前の幸せが俺の幸せ、ってな。どうだ?」
 「ふむ・・・」
 頷き、
 「願いか。では俺の願いを言おう。
  ―――跡部、月をくれ」
 「・・・・・・あん?」
 「聞こえなかったか? 俺は本物の月が欲しいと、そう言ったんだが」
 「月・・・ねえ。また随分変わった要求だな」
 「何か問題があるか?」
 「いいや・・・・・・」





 この時の手塚は別に夢見る少女モードに壊れたわけではない。立派な理由があるのだ。彼がこれを欲しがったのには。
 普段の態度からわかるように、跡部は日々暴走するクセがある。特に自分絡みとなると本気で見境がなくなる。しかも得意の眼力はどうやら跡部自身に対しては働いてくれないらしい。自分でそれが異常だとわからない以上、いくら周りで何か言おうと全く効果は上がらない。
 だからこそ、絶対に不可能な願いを言った。これで叶えられなければ跡部も大人しくなるだろう、そう思って。





 数日後。
 「手塚! お前の願いは叶えたぜ!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何?」
 「アーン? 忘れたのかよ? こないだ『月をくれ』っつってたじゃねえか」
 「それは覚えているが・・・・・・」
 不可能なはずだ。月を個人の所有物にするなど。そう、たとえ目の前で自信満々に笑うコイツであろうと。
 眉間の皺を常にないほどに深める手塚に、
 跡部は両手を広げ実に恐ろしい事を言ってのけた。
 「月にある土地は全部俺様が買い占めた! それに各国の宇宙開発事業に対して家―――跡部財閥が多額の補助をしてる以上実質研究するもの全ては俺のものだ!」
 「な・・・・・・」
 開いた口が塞がらない。どうやら自分はコイツに対して思い違いをしていたようだ。
 (まさかここまでイった性格だったとは・・・・・・!!)
 むしろそれを助長した家族の方に一言物申したい・・・・・・。まさか家族も息子がこんな事をやるとは思ってもみなかったのだろうが。
 「しかし手塚、てめぇもなかなかロマンチストじゃねえの。2人っきりの世界を築きたいだあ? 準備は完璧だぜ。家はどういう構造にする? どんなんだろうと3ヶ月で建つぜ。でもって式はどこで挙げるよ? 俺としては月で地球を見ながらって言うのが理想だが、そうすると費用が足りねえで来れねえヤツらも出てくるからなあ。全部面倒見てやる義理はねえし。まあこっちは新婚旅行にでも取っておくか―――って新婚旅行で家に出かけても仕方ねえか。いっそ今すぐ行くか。婚約式って感じで。そうそう、当り前の話だが月にゃ役所がねえから届け出はしねえでいいだろ? 紙切れ1枚にサインしたところで別に何か変わるモンでもねえし。つーわけで法律もねえから今すぐ
OKだ。さあ支度しろ。さっそく婚約兼新居の下見に行くぞ」
 最早止める術のないマシンガントーク。さらにはずりずりと(恐らく打ち上げロケットのある場所へ)引きずられながら、
 手塚はは2度と跡部に頼み事はしないようにしようと心に固く誓った。



冗談。それはとりあえず通じる人間に言うべきである―――By手塚

2004.11.13