テニプリ編5(手塚と跡部)



 「ふいに尋ねるが跡部。お前は俺が願いを叶えると言ったら何と言う?」
 「何だよ手塚いきなり」
 問い返す跡部に、
 手塚は合わせていた背中を外し、じっと目を見つめ囁いた。
 「愛する者の幸せを望むのは自然な事だろう? どうだ?」
 「愛するって・・・・・・」
 跡部が苦笑する。その頬は僅かに赤く染まっていた。
 「そうだな〜・・・・・・」
 隠すように手で口元を覆い、
 にっと笑う。
 「よし、決めたぜ。
  ―――手塚、俺はお前の笑顔が見たい」
 「・・・・・・何?」
 「だから、俺はお前の笑顔が見たいっつってんだよ」
 跡部様、2度も言わされ機嫌がこがこ降下中。
 手塚もそれを悟ったのだろう。硬直から脱し、ふむと頷いた。
 「随分と変わった要求だな」
 「別にいいだろ?」
 「まあ、構わんが」





 この時の跡部はちょっぴり夢見る少女モードに壊れていた。
 誰でも知っているように、手塚は鉄仮面の男だ。感情もまた表情に合わせ希薄に感じられる。が、実際そうだというわけではない。今のように、ちょっとした場面で自分を喜ばせてくれる。
 しかしながらそれに素直に喜べないのが跡部である。だからこそ、こんな願いを言った。恥ずかしさを誤魔化す、ただそれだけのために。





 数日後。
 「手塚!? お前今日どうした!? 大丈夫か!?」
 「・・・何?」
 「だから!! お前今日熱とかあるんじゃねえのか!? さもなきゃ登山中にヘンなキノコ食わなかったか!? 顔面マヒしてんぞ!?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 念のため補足しておくが、別に手塚は体調不良でもなければ頭もおかしくしていない。
 青褪め本気で心配してくる跡部に、
 手塚は両手を広げ実に恐ろしい事を言ってのけた。
 「何を言っているんだ跡部? お前が望んだ通り、笑顔でいるよう努めているのだが」
 「は・・・・・・?」
 開いた口が塞がらない。どうやら自分はコイツを甘く見ていたようだ。
 (まさか本気で真に受けたとはなあ・・・・・・)
 周りからの視線が痛い。恐らく誰も彼もがこの異常事態を心配していたのだろう。『原因』として見なされ、跡部はなぜか周りに思い切り睨まれていた。
 「しかし跡部。お前もなかなか乙な願いを言ったものだな。訓練に数日を要したが、おかげで周りが俺を見る目も変わってきた。今日など普段の倍以上話し掛けられた」
 (そりゃンな異常なてめぇ見せられたら誰だって心配して声かけるだろうよ・・・・・・)
 最早どこに口を挟めばいいのかわからないモノローグ。周りの睨み以上に目の前の男の笑みに恐怖しながら、
 跡部は2度と手塚に頼み事はしないようにしようと心に固く誓った。



冗談。それはとりあえず通じる人間に言うべきである―――By跡部

2004.11.14