不二の場合
それは夢だった。紛れもない夢だった。絶対確実に100%疑いようのない程夢だった。
(まさか、あの越前が素直になってるなんてねえ・・・・・・)
心の中で苦笑する。表に現さない理由はもちろん自分の腕の中のコレ。
「不二先輩・・・。大好き・・・・・・」
(う〜ん・・・・・・)
腕の中で、こちらの胸にもたれかかり甘く囁くリョーマ。うるんだ瞳で見上げられ、一瞬で理性は吹っ飛んだ。
「越前君・・・・・・」
呼びかけ、頬を撫でる。嬉しそうに擦り寄ってきた。
「ねえ、キスしてよ・・・・・・」
超積極的な態度。だがもっと見てみたい。
「う〜ん。どうしよっかな」
「ねえ、ダメ・・・?」
小首を傾げられ、
「じゃあやってあげるv」
僕は互いの望み通り越前を押し倒した。
目覚める寸前の真っ白いまどろみの中で思う。
(ああ・・・、あんな越前が本当にいたらな・・・・・・)
z z z z z
次の日。
「・・・・・・それ、本当に?」
「ああ、本当だ」
乾の言葉に、不二は首を傾げた。
乾の説明はこうだった。人間の理性というものに対する脳のメカニズムを解明する最中長いので以下略。つまり『嘘をつけなくする薬』の開発に成功したらしい。
「さっそく試してみようと思うんだが――――――お前の周りに嘘つきはいないか?」
「つまりテスターとして相応しい人材が欲しい、と?」
「さすが不二。話が早いね」
「ありがとう」
一応誉められたようなので礼を言い―――
乾の向こうに見えた存在に、ぽんと手を叩く。
丁度良い『テスター』発見。
乾に手を差し出す。
「その薬貸して」
「いたか?」
「打って付けのがね」
というワケで・・・・・・
さっそく飲ませてみた。もちろんリョーマに。
「ぶぐはあっ!!!???」
そして結果は―――
z z z z z
それは夢だった。紛れもない夢だった。絶対確実に100%疑いようのない程夢だった。・・・・・・筈だった。
「不二先輩・・・。大好き・・・・・・」
腕の中で、こちらの胸にもたれかかり甘く囁くリョーマ。うるんだ瞳で見上げられ、
(う〜ん・・・・・・)
不二は心の中で首を傾げた。なんだろう。このもやもやは。リョーマは確かに自分の理想どおり動いているではないか。だというのに・・・・・・。
「越前君・・・・・・」
呼びかけ、頬を撫でる。リョーマは嬉しそうに擦り寄ってきて。
(何っかなあ・・・・・・)
いつもなら、こんな事をすればまず1発殴られるというのに。
「ねえ、キスしてよ・・・・・・」
超積極的な態度。それこそありえない感じで。
「ねえ、ダメ・・・?」
小首を傾げられ、
「駄目ってわけじゃあ、ないんだけど・・・・・・」
ためらう不二に、リョーマが哀しげな表情を浮かべた。
「なんで嫌なの?」
「嫌、とは言ってないよ・・・?」
「言ってんじゃん。口にはしてないけど、でも言ってる!! 言ってないんならキスしてよ!!」
「そりゃ・・・する、けど・・・・・・」
「何不二先輩その態度!! あーそう!! どーせ不二先輩の中での俺ってそんなモンだったってワケね!!」
「え・・・? いやそんな事な―――」
「そんな事なくない!! 遊びで気まぐれに構うけど自分が乗らない時は何にもやんないんでしょ!? サイテー!! アンタなんてもう―――!!」
そこが、限界だった。
「うわあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
何か言いかけたリョーマを突き飛ばす。
青い顔で指差し、
「こんなの僕の越前君じゃない!!」
不二は、そのまま走り去っていった・・・・・・。
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残され・・・・・・
「うっ・・・。うぐ・・・えぐっ・・・。何、だよ・・・・・・。こんなの俺じゃないって・・・。俺は、いつも俺なのに・・・・・・」
突き飛ばされたまましゃがみ込み、しゃくり声を上げるリョーマ。
物陰から見ていた一同は・・・
「おチビかわいそお〜!!!」
「いやでも・・・。あれは普段の越前とのギャップありすぎますし・・・」
「う〜ん・・・。俺も不二に一票、かな・・・・・・」
「そんなの酷すぎるじゃないか!! 越前はちゃんと素直に動いたんだぞ!? 越前に一票だ!!」
「俺も・・・、そう思います・・・・・・」
「ふむ。不二に2票、越前に3票か。ちなみに手塚、君はどちらに賛成する?」
「俺は、そうだな・・・・・・。
――――――こんな薬を作り部内に争いを巻き起こしたお前にマイナス500票ほど入れたいと思うんだがな乾。なおマイナス1票ごとにグラウンド1周だ」
「さて、練習に入ろうか」
「あの乾先輩・・・。しれっと練習に入る前に越前戻した方がよくありません・・・?」
「ああそうだな。ならさっそく解毒剤を―――む?」
『「む?」?』
「そういえば・・・・・・
―――薬の開発に夢中になり、解毒剤の開発を忘れていた」
『何いいいいいいい!!!!!?????』
「乾!! グラウンド1000周だ!!!」
z z z z z
そんなこんなで、この悪夢は、薬が自然解毒されるまで3日間続いたという。
そして3日後。
「あ、越前く〜―――!!」
どごっ!!
「何? 不二先輩。勝手に俺に抱きつかないでくれない?」
「うんそうそうvv それでこそ越前君vv」
「アンタ真性のマゾじゃん? そういうヤバい台詞止めてよ」
「ふふ。大好きだよ越前君vv」
「全っ然わかんないし。アンタ頭大丈夫?」
「おチビが元に戻った〜〜〜vvv」
「よかったなあ越前!!」
「えっと・・・、でも不二あれでいいのかな・・・・・・?」
「何言ってるんだタカさん! いいじゃないか2人とも幸せそうなんだから!!」
「幸せそう・・・、っスか?」
「ふむ。賛成3票、反対2票か。ちなみに手塚、君はどちらだい?」
「俺は、そうだな・・・・・・。
――――――そんな事ばかりを言い合いまともに練習をしないお前達全員にマイナス30票だ」
「えええええええ!!!!!?????」
「乾の馬鹿ああああああああ!!!!!!!!」
―――Fin
―――はい。乾PRESENTS『素直になる薬』その2でした。素直になったらなったでダメっぽい?
そしてコレ、実は菊リョ【『奇』跡】で同じような事やってます。そして同じく英二に嫌われ(?)ました。やっぱ素直なリョーマはダメなのか・・・・・・。
はい。どうでもいいネタ2。話内には入りませんでしたが、リョーマが飲まされたのは青酢です。やっぱ不二とリョーマといったら、ねえ・・・。
2005.1.15