乾の場合


 何もないただの空間。俺は今、その中にいる。
 現実としては存在し得ない光景だ。イメージとしては濃い霧に包まれたようなもの。ただし霧ならば俺の動きに合わせ乱れるものだ。だが、それは俺がどんなに体を動かそうと全く変化しない。
 (つまり夢の中、という事か)
 当たり前の結論を描く俺の前に、俺自身を除いてカウントすれば初めて『何か』が現れた。
 何かが形を作っていく。よく見知ったもの。
 「不二・・・」
 呟く。現れた何か―――こと不二は、いつもと同じ笑みで俺に話し掛けてきた。
 「ムカつく謎々出すね」
 「・・・・・・。何?」
 「第1問。とあるところにある体育館で男の子が逆立ちすると何でか死ぬんだって。何でだろう?」
 何でだろう。むしろこの疑問はそう言う不二自身にぶつけたい。なぜいきなり謎々など出すんだ?
 (・・・といったところで、答えてはくれないか)
 心の中で笑い、俺は肩を竦めた。不二に関するデータは0に等しい。だが0ではないその中に、『自分のやりたい事を何より優先させる』というものがある。謎々を出してきた以上、それに答えなければ―――正解不正解はともかく―――こちらの質問には答えてはくれないだろう。
 「体育館で男の子が逆立ちすると死ぬ・・・? キーワードは『体育館』、『男の子』、『逆立ち』、そして『死』。『死』は結果だから無視して構わないだろう。となると『体育館』か『男の子』か・・・。
  待て・・・。なぜ不二は『男の子』などと限定した? あくまで『男』でも『子ども』でもない以上、『男の子』そのものに意味がある―――つまりこれがキーワードか。さて『男の子』。こういう場合の常套手段は書き換えか言い換え。『おとこのこ』。『
OTOKONOKO』。あるいは『Boy』、『少年』、『男子』。
  ―――そうか『男子』だ。平仮名にすると『だんし』。これを逆さまから読むと『しんだ』・・・・・・『死んだ』だ。
  わかったぞ不二。『男子』が逆立ちするのだから『死んだ』になる。これが正解だ」
 「さすが乾。正解」
 「そうか。ではこちらも訊くがお前はなぜ―――」
 「第2問」
 こちらの言い分など全く聞かず、不二は次の問題を出し始めた。
 (つまり、不二が満足するまで付き合え、と・・・・・・)
 「ある小学生は『山』を5つ持ってるんだって。何でだろう?」
 「金持ちだから、では・・・」
 「もちろんないよ? それじゃ謎々の意味がないじゃないか」
 「だろうな」
 目線を下に落とし、俺は再び考え始めた。
 「『山』を5つ・・・。さて『山』・・・」
 「ヒント1。これは持ってて別に珍しいものじゃないよ? 人によっては0の場合もあるけど、大抵2つかそれ以上か、かな? ちなみに僕は近くに2つ、ちょっと離れてもう1つ持ってるな。乾なら・・・やっぱり2つだね。多分僕らの周りで一番多いのは英二じゃないかな? 8つだ」
 「つまりそれは誰でもいい、と?」
 「そうだね」
 「俺が2つ持ってる『山』・・・・・・?」
 「ああ。そのままは読まないでね」
 「『山』・・・。『やま』か、『さん』か・・・・・・。
  ―――!!」
 俺は鋭く息を吸った。
 「そうかわかった。『さん』―――年上の家族だ。その少年には上に4人の家族、例として『お父さん』『お母さん』『お兄さん』『お姉さん』がいるんだ。そうだろう? 不二」
 「またまた正解。今度はちょっとヒント出しすぎたかな?」
 「確かにな。英二の大家族は印象が強いからな」
 苦笑する不二に俺も苦笑を返す。不二にしては珍しいミスだ。
 が、
 (もしこのまま解いていけば・・・・・・最終的に解ける謎は不二自身となるのか・・・・・・?)
 裏付けるように、1問目と2問目における不二の態度は違った。3問目以降もまた違うのだとしたら・・・・・・
 (いくら不二でも無数の人格を操るわけではないだろう。その内他のものと被る。被らないもののみを集め解析すればついに・・・・・・!!)
 「不二、次だ」
 「え・・・?」
 「まだ他にもあるんだろう? 次の謎々を出してくれ」
 「いいの?」
 「もちろんだ」
 頷くと、不二は嬉しそうに笑った。
 「じゃあいくね。
  第3問―――」





 そこで、俺の意識は白んでいった・・・・・・。







z     z     z     z     z






 ぴぴぴ。ぴぴぴ。
 目覚ましの音で目が覚める。
 起き、眼鏡をかけ乾は呟いた。
 「残念だ。またしても不二のデータを取り損ねた・・・・・・」



 さて。





 「おはよう乾」
 「ああ、不二か」
 「どうしたんだい? 何か元気ないみたいだけど?」
 「いや・・・。特に何もないが・・・」
 曖昧に呟く乾。不二は暫く首を傾げ、
 「じゃあ君が元気になれるように、謎々出してあげるよ。頭リフレッシュさせてね」
 「本当か不二!?」
 それは夢にまで見た夢の続き。必要以上に意気込む乾に思い切り引き、
 不二は笑顔で指を立てた。
 「じゃあいくよ。バスで旅行中の学生たち。不幸にも途中で事故が起こる中、女子は怪我をしたのに男子はみんな無事でした。何ででしょう?」
 「ほう、なるほど。最初に確認しておくが『たまたま男子はバスに乗ってはいなかった』というような答えでは・・・」
 「もちろんないね。それじゃあ謎々の意味がないからね」
 「ふむ。さて・・・」
 (バスで事故。となると衝突か横転。あるいは転落か落石といったところか。無事なものがいる以上転落の可能性は低いな。その後炎上する場合も含め。
  衝突・横転・落石で検討するとなると、被害に遭うのは車両の一部。そこに女子が固まり、逆に男子はそこ以外にいたから助かったのか。
  さて男子と女子。となると席順はどうなる? 混合で座るケースもあるが、先程の理屈でいくと別々。前と後ろか? あるいは左右か?)
 「そうか、左右だ。自動車による事故で最も危険とされるのは助手席。『じょしゅ席』。少し言い換えれば『じょし席』となる。
  男子は運転席がある車体右側に固まり、女子は左側に固まった。そこで衝突か横転が起こり、左側のみ大破した。どうだ? 不二」
 得意げに指を指す乾。指された先で、不二は驚きを露にしていた。
 (やはり正解だったか・・・!)
 嬉しげにそう思う乾ではあったが・・・・・・。
 若干引きつった、それでいて心底気の毒そうな笑みを浮かべた不二に告げられた。
 「寒いダジャレだったよ乾。やっぱ君、今日調子悪いんじゃない?」
 「何!? 違うのか!?」
 「本気で正解だと思ってたの・・・・・・?」
 不二がさらに引いていく。引いていき―――
 「正解は―――『運が良かったから』。残念だったね、乾」
 「どういう謎々だそれは!!??」





 笑いながら去っていく不二。いつまでも見送り、
 ふいに思い出す。夢で最初に不二が言った言葉。


 ―――『ムカつく謎々出すね』



 「ああ、確かにムカつく謎々だったな・・・・・・」
 結局不二のデータは全く取れないらしい。乾はひとり、そんな結論を導き出していた・・・・・・。



―――Fin







 ―――本日思い出整理で昔家族で回していた交換日記など発掘されました。こんな謎々が載っていました。・・・・・・本気でやっててムカつく問題ですねラスト。家族で笑い飛ばし、「ぜひ
HPに載せてくれ」などと言われたので本気で載せたよお姉ちゃん!! しかも日記じゃなくてネタとして!!
 さて謎々。3/1のラジプリに合わせ不二とリョーマでやっても良かったのですが、このありえない話シリーズ、始めた当初からいくつかやりたいものを上げていた中で、『不二のデータが取れた乾』というのが今だに出来ていなかったのでこっちに回しました。これでやっと乾
Fanの友人に報いる事が出来る(これで?)・・・・・・。

2005.3.7