佐伯の場合


 いつのことだかはわからない。それでも日本を始めとする諸国の法律からすると間違いなく未来ではある話。
 姉が結婚した。厳密にはこれからする。
 バージンロードを歩く姉。隣に付き添うのはなぜか父さんではなく俺。間違いなく恥ずかしがったからだろう。家庭内で物理的権力は最も持たないが、だからこそ最高権力保持者の父さんの決めた事なら従うしかない。誰に言っても首を傾げられるが、これでも我が家は亭主関白父さん万歳だ。
 隣をしずしずと歩く姉を横目で見やる。双子である以上ヘタに誉めると自画自賛のようだが、馬子にも衣装という諺通り、純白のウエディングドレスに身を包んだ姉は普段のガキくささとは無縁で綺麗だった。
 この姉が誰かの妻になる。元々海外留学などずっとしているおかげで家にはいないようなものだし、別にだからこの家、ひいては自分と縁が切れるわけでもない。もしそうならのしをつけて旦那に送り届けたい位だ。ただしそうなると随分高い手切れ金を払わなければならないような気がするが。
 はて疑問。こんな姉を嫁にして構わないなどと思う酔狂な婿とは一体誰なのだろう? とても想像がつかない。それとも夫―――決めた時点ではまだ恋人か―――の前では超巨大な猫でも被っていたのだろうか。
 (ああマズいなあ・・・。だとしたら『返品不可』ってしっかり念押しとかなきゃ)
 自分がバージンロードを歩く立場でよかった。ついでに今更ながらこの姉には『バージン』は全く似合っていないような気もするが、まあこれは形式上仕方がない。この場でそれを突っ込むのも雰囲気をぶち壊しにするだけだろうので止める。
 超近未来の夫と向き合う。姉を差し出そうと(でもって念を押そうと)顔を上げ・・・





 「よぉ佐伯」
 「景吾ぉ!!??」





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 「――――――っ!!!???」
 飛び起きる佐伯。額といわず体中に嫌な汗を掻いていた。
 荒い息のまま、机に置いておいた携帯を手に取る。押すのはもちろん馴染の番号。
 ぷるるるる・・・、ぷるる―――
 がちゃ。
 『・・・ああ? 何だよ佐伯ンな時間に』
 「ああ、景吾・・・。いきなり訊くけどさ・・・・・・
  ―――お前近々真斗と結婚する予定とか・・・・・・・・・・・・ないよな? もちろん」
 沈黙。心臓を鷲掴みにする沈黙が暫し。
 やがて―――
 『――――――ああ!? なんで俺様がンな馬鹿と結婚しなきゃなんねえんだよ!? そこまで相手にゃ困ってねえしたとえアイツが人類最後の女だろうがぜってー結婚はしねえからな!!』
 「そうか・・・・・・。よかった・・・・・・。
  ・・・・・・んじゃおやすみ」
 『何なんだよだから―――』
 ぶつっ。
 なおも何か言おうとしていたのを強制的に切り、佐伯はようやっと平穏な眠りについた。
 つく前に、呟く。





 「俺も景吾を『お義兄さん』呼ばわりは絶対したくないしな・・・・・・」



―――Fin







 ―――サエ・・・。突っ込みどころはそこでいいのかアンタ・・・・・・。

2005.1.3