佐伯の場合2
それは夢だった。紛れもない夢だった。夢でなかったなら他に何がある?
(まあ、あの景吾が素直になってるなんてなあ・・・・・・)
表に表して苦笑する。問題の人物は自分の腕の中にいるが、別にバレたところでそれこそ問題はない。
「何だよ?」
「いや別に?」
「そっか?」
こんな感じであっさり流されるのだから。
改めて進める。
「佐伯・・・。愛してるぜ・・・・・・」
「うわあ・・・・・・」
腕の中で、こちらの胸にもたれかかり甘く囁く跡部。うるんだ瞳で見上げられ、感想は素直に声となった。
「だから何だよ・・・?」
「いや、別に・・・・・・」
「・・・・・・。ならいいけどよ」
三度話を戻し、
「景吾・・・・・・」
呼びかけ、頬を撫でる。嬉しそうに擦り寄ってきた。
「ありえねえ・・・・・・」
「どういう意味だ!!」
「ま、まあまあ気にせず続けろよ。な?」
「・・・・・・・・・・・・」
またまた逸れた話題。無理矢理元に戻してみれば・・・
「なあ、キスしろよ・・・・・・」
「はあ!?」
ありえない事象のオンパレードに叫ぶこちらを、今度は跡部の方が無視したようだ。言い終わる頃にはこっちの首に腕絡めて顔近づけてきたり。
「なあ、ダメか・・・?」
小首を傾げられ、
「ダメだな」
俺はあっさりと夢を打ち切った。
目覚める寸前の真っ白いまどろみの中で思う。
(やっぱ素直な景吾はおかしすぎるか・・・)
z z z z z
次の日。
「じゃあコレどうしよっかな・・・」
佐伯は、前日乾にもらった薬を手に悩みこんだ。瓶のラベルには《No Liar!!》―――《嘘つき禁止!!》と書かれていた。乾にしては珍しい(でもないか?)茶目っ気を出したらしい。
つまりはそんな効果だ。コレを飲むと嘘がつけなくなり、素直になるそうだ。いいテスターがいたら飲ませてくれと渡され、さっそく誰に飲ませようか悩んでいたのだが・・・。
「景吾は失敗。周ちゃんは乾が飲ませてるだろうし、千石か仁王辺りが面白そうかなあ・・・・・・・・・・・・ああそうだ」
ぽんと手を叩く。
「丁度いい『テスター』がいたな」
というワケで・・・・・・
さっそく飲んでみた。もちろん自分で。
そして結果は―――
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「なあ景吾―――愛してるよ」
「・・・・・・ああ? 何言ってんだ佐伯」
「だから、今の俺の気持ち」
「・・・・・・・・・・・・まあ、てめぇがいきなり突飛な事言い出すのはいつもの事だからいいけどな」
「キスしよ?」
「ああ!?」
「だから、キス」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・訊いていいか?」
「? ああ」
「お前・・・・・・
・・・・・・頭大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・」
どごごすごすがんげんごん!!!
z z z z z
「乾、悪いな。いいテスター見つからなかった」
「むう。まあ仕方ない」
そのすぐ後。佐伯は後をつけてきた乾にしれっと『結果』報告をした。
「それで薬は?」
「ああ、コレ」
渡す。空っぽになった瓶を。
「・・・・・・空なんだが」
「『使ってない』とは言ってないから」
「跡部に飲ませたのか?」
「いいや?」
「なら―――」
「実験は失敗だったな」
にっこりと微笑む。『これ以上の質問は死を覚悟してするように』という意味を含めた笑み。
見て・・・もちろん乾は質問を取り消した。
「じゃあな」
「ああ。協力ありがとうな」
立ち去る佐伯に礼を言う。暫しその背中を見やり、
「ふむ。『嘘のつけない薬』か。だが、だからといって真実を言う必要もない、か・・・・・・。してやられたよ、佐伯」
どうやらまだまだ改良の余地がありそうだ。
空の瓶を手に、乾は楽しそうに笑った。
―――Fin
―――いよいよ乾の不思議薬シリーズもその3。ついに掟破りの本人飲みです。そしてどうでもいいネタ3。乾が渡したので瓶です(大笑い)。なお薬の詳細は1や2をどうぞ。さすがにもし全部読まれる方がいらっしゃったならば、またも説明はクドかろうかと。
2005.1.15