周吾の場合(注:学校に行ったことのない周吾のあくまでイメージですので、実際とはかなり異なります)


 今日は授業参観。そわそわするみんなの中で、僕もどきどきしながらお父さんを待った。
 (お父さん、やっぱ遅いな〜)
 特にがっかりとかはしてない。予想通りの事だから。散々ごねるお父さんに駄々言ってようやっと了解してもらったんだから。きっと授業開始寸前に滑り込んでくるんだろう。
 キーン、コーン、カーン、コーン・・・・・・
 チャイムが鳴った。先生が号令をかけようとして、
 がらっ。
 「あ・・・・・・」
 遅刻寸前なのにもの凄く堂々と入って来たのは・・・・・・まあ例によってお父さんだった。後ろにはサエとキヨもいる。
 「サエ! キヨ!」
 「そっちかよ呼びかけんの・・・・・・」
 お父さんのため息が広がる。でもって次に広がるのはもちろん―――
 ざわっ!!
 「あ、跡部選手が・・・・・・!?」
 「何で・・・・・・!?」
 「え・・・? 別に今日って普通の授業参観ですよねえ・・・? 特別ゲストが講師するとかそんなんじゃなくて・・・・・・」
 ざわめきを引き連れて適当なところに陣取るお父さんたち。ざわめきは収まらなくって、生徒達も先生無視で後ろ向いたりしてて。
 それを隠れ蓑にして、僕も後ろを向いた。薄く笑ったままのお父さん。小さく唇を動かす。言葉としてはよく聞こえないけど、
 「(俺様に恥かかせんじゃねえぞ?)」
 多分こう言った。だから僕もこう返した。
 「(お父さんがね)」
 「(よく言うぜ)」
 楽しそうに目を細める。細めた目をそのまま閉じて、
 開く。その時見てたのは僕じゃなくて先生の方。甘さを全く含まず値踏みするように見下ろされ、先生が慌てて号令をかけた。さすがお父さん。





 1・2時間目は家庭科だった。親子で一緒に料理を作る。やっぱここでも注目を集めるのはお父さん。あの跡部選手が料理など出来るのか? って事で。
 みんなの注目を浴びて。でもってそれには全然気付かないで。
 お父さんはするするとじゃがいもの皮を剥いていった。もちろん芽もきちんと取って。
 『おおおおおおお!!!!』
 周りは驚くけどこれは実は当り前の事。お父さんは学校にいた頃、ずっとトップクラスの成績だったんだって。当たり前の話授業の中には家庭科も入ってて。(三角巾はどうかって思うけど)エプロンはよく似合ってる。
 さらにそのお父さんを抜いてトップだったサエも、家庭科ではずっと5だったっていうキヨもみんな料理は上手。でもってそんなみんなに教わってた僕ももちろん一通りは出来たりする。
 剥きながら、お父さんが首を傾げた。
 「にしても・・・なんでこういう時の料理っつーのはワンパターンでカレーなんだろーな」
 「そりゃ誰がやってもとりあえず失敗しないからだろ」
 即答するサエに、さらに首を傾げる。
 「ならそういう風に設定された上で失敗するヤツがいるってのはどういう事なんだ?」
 「それは永遠の謎だよね」
 「? つまり?」
 一体お父さんたちが何を言いたいのかわからなかったから僕も首を傾げた。と、
 ごん!
 「いた・・・・・・」
 「だからそういうヘンなモン突っ込むんじゃねえカレールーだけ入れりゃいいじゃねえか何でわざわざ失敗確実決定の事やりたがるんだよお前は!!」
 ・・・・・・やっぱカレーにタバスコ3瓶は駄目だったみたい。





 3時間目は英語だった。通訳なしにずっと海外飛び回ってたお父さんはもちろん楽勝。サエとキヨも英語は子どもの頃授業で散々やったから大丈夫。でもってそんなみんなに教わってた僕も英語は得意。
 授業内容は、割り振られた1場面を親子で会話するっていうもの。英語力と暗記力のテストだね。
 周りを見てみる。机を囲んで親子で悪戦苦闘。言っちゃ悪いけどみんなヘタだなあ。せめてアクセントくらいつけて読みなよ。棒読み以下。
 「よそ見してんな」
 「はいはい」
 お父さんに注意されて、舌を出して肩を竦める。目の前に座ってるのは―――でもって小さな机に長い脚を持て余してるのはお父さん。横座りになって脚組んでるけどね。斜め前にサエとキヨ。キヨは足後ろにやって座ってて、サエは普通に机の中に足入れてて。・・・実はお父さんが入れないのはサエが邪魔してるからだったりするんだよね。僕は迷惑じゃないし言うと僕にまでとばっちり来るから何にも言わないけど。
 改めてお父さんを見て。
 「お父さんこそ余所見してるじゃないか」
 そう。横座りしたお父さんはそのまま真正面を見てた。正確には膝の方。
 口を尖らせた僕の声に、お父さんはようやく膝に置いていた本から目線を上げた。・・・ところでその状態でなんで僕が余所見してたってわかったんだろう?
 僕の方を見て、訊いてくる。
 「別に何もやる事ねえだろ?」
 「あるじゃないか、授業中なんだから」
 「お前が、やる事だろ?」
 「お父さんも、でしょ?」
 「とっくに覚えた」
 「え・・・・・・?」
 きょとんとする僕の前で、お父さんは机に置いてあったプリントを裏返して言葉を紡ぎ出した。流暢に紡がれる言葉に、教室中がしんとなる。わかってはいたんだろうけど先生も大口を開けて呆然としちゃって。
 静まり返った中、一歩早いお父さんの『発表』が終わって・・・・・・
 ぱちぱち。
 「あーすごいすごい。完璧正解だ。だからとりあえず書いてある通り読めお前は」
 「いいじゃねえか。俺は英語よりギリシャ語の方が好きだ」
 「お前の好みなんてどうでもいいから。でもって今は英語の時間だから」
 「ついでに周くんのパートまで全部読んじゃってどうするのさ跡部くん」
 「さっさと周が覚えねえからだろ?」
 「英語では覚えたけど・・・・・・」
 「問題外だな」
 『えええええええええ!!!???』
 そんなワケで、英語の時間は一転、臨時講師跡部景吾先生によるギリシャ語講座になった。





 4時間目は音楽。これまたみんな得意科目・・・・・・と見せかけなんとお父さんの苦手科目! びっくりだよね? ピアノとか普通に弾きこなしちゃうし、しかもプロで活躍してる間ずっとコーチにつけてた榊監督は音楽の教師なんだよ? なんでこれで苦手なんだろ?
 だから訊いた僕に、サエは笑いながら答えてくれた。
 『景吾は小心者でぶっつけ本番ダメだからね。楽器ならまだしもいきなり歌えとか言われると確実に外すんだ。もちろん普通じゃわかんないくらいだけど、氷帝で音楽やるヤツは大抵絶対音感位は持ってるから。一発でバレて音楽の成績はいつも4』
 大爆笑したキヨをお父さんが殴ってさらにサエがからかってたところからすると本当らしい。まあ―――完璧主義で準備に余念がない、って・・・・・・言い換えれば予測不能の突発的事態に弱い事になるからね。
 そんなお父さんを気遣ってなのか何なのか、やったのは歌じゃなくてリコーダーだった。ぷぴぷぴ吹くのは子どもの僕ら。親はそれを微笑ましく見てればオッケー。なんだけど・・・
 ―――なんでかお父さんが興味津々に見てるのは僕じゃなくてリコーダーだった。ちょっとムカ。
 それは表には現さないで訊く。
 「どうしたの?」
 「なあなあ、リコーダーって――――――吹くの難しいのか?」
 「はあ?」
 訊くお父さんの目が輝いていた。いつもの症状。初めてのものは何でもやってみたがる。お父さんが多趣味なのはこういう背景があるから・・・・・・なんだけど。
 首を傾げる僕に、キヨが横から耳打ちしてくれた。
 「氷帝ではリコーダーも鍵盤ハーモニカもやんないんだよ。代わりにやんのがピアノとバイオリンだから」
 「俺も六角転校して初めて吹いたからね。多分景吾今だにないんじゃないかな?」
 「だね。俺も山吹中入ってやったから、アルトはあるけどソプラノはないんだよね吹いた事」
 「景吾の前でそれは言わない方がいいと思うぞ? 周ちゃんと間接キスがやりたいのかって曲解されるから」
 「ちょっとそれも惜しいけど――――――冗談です」
 「よし」
 いくら耳打ちだろうとお父さんは僕の隣にいるんだから聞こえて当たり前。首筋のツボに指立てられて、キヨは大人しく下がっていった。
 僕はリコーダーと付属品の帯状解説書をお父さんにはい、って渡した。
 「やってみたら?」
 「いいのか?」
 「だって僕この曲出来るもん。ヒマだから」
 「んじゃあ―――」
 「あーあ喜んでるよ。どっちが子どもなんだか」
 「っていうか授業参観モロに邪魔してない? コレって」
 スカンスカーン!!
 「・・・・・・リコーダー、ゆがむと思うな」
 「ああそうか。悪かったな」
 「お願い周くん。もうちょっと違う事心配して・・・・・・」
 痛そうに頭をさする2人を他所に、お父さんはさっそくリコーダーに口をつけた。やったね間接キスv ・・・普通にもやってるけど。
 解説書を見て律儀に指確認して・・・・・・ところでリコーダーだけじゃなくって管楽器―――まあ声もそうだと思うけど、とにかく音って一番出しやすいのは中間辺りの高さなんだよね。特に低いのは息の吹きかけ方が難しい。なのに解説書っていうのはご丁寧に一番低い音から指使いが書いてあるんだよね。でもって生真面目なお父さんはこういうマニュアルを端から試すんだよね。
 まあ起こったのは予想通りの事。
 ぷぴー。
 いきなり出た異音に、僕・キヨ・サエは声も出せずに笑い転げた。周りの人たちも必死に笑いを噛み殺してる。
 この上なく静かになった音楽室内で、
 「うっせえ//!!」
 ちょっと赤くなったお父さんの声が、うるさいけど静かに広がった。



 お父さんが音楽で4を取る過程がよくわかり、そして機嫌が最悪になったところで次は合唱。それこそもっと機嫌が悪くなりそうだけど、でも今回は大丈夫! なにせ歌うのは僕たち子どもだけだ!
 そんなワケで前に並んで歌う。伴奏は先生で、でもって親は精一杯歌った子どもたちを拍手で迎えて・・・・・・あ、やっぱお父さん拍手してくれない(泣)。
 「ね〜拍手してよ〜」
 席に戻る。お父さんたちが座る席に。
 机に手を乗せておねだりすると、肘を付いていたお父さんはようやく顔を上げてくれた。
 「・・・・・・ああ、終わったのか」
 「聴いてなかったの!?」
 悲しくなってくる。そりゃ確かに笑ったのは悪かったけど、でもリコーダーで失敗したのはお父さんでしょ? せっかく一生懸命歌ったのに・・・・・・!!
 がっくり項垂れる僕に、さらに厳しい指摘が下された。
 「サビに入る出だしが早すぎんだよ。お前1人浮いてたじゃねえか。しかも途中で2回もリズム間違っただろ。『合唱』ならちゃんと合わせろ。あれじゃただの『雑音』だ。途中で聴く気失せた」
 聞いて―――嬉しくなる。いくら少人数学級が普及してこようがこのクラスは
30人。一応バス・テノール・アルト・ソプラノの4つには分かれてるけど小学生がそこまで幅広い声出せるはずなくって、実際は男女混合でちょっとだけ違うっていう程度。その中でお父さんは僕の声を正確に聞き分けてたワケだ。そうじゃなかったらこんな指摘は出来ない。お父さんはどんなに機嫌悪かったりしても絶対理由0の八つ当たりで怒ったりしないからね(キヨとサエは自分で火に油注ぐから怒られてるんだし)。
 と―――
 「それに歌はまだいいとして何だあの伴奏。
87ヶ所間違ってたじゃねえか。教える側が間違えてどうするよ?」
 「あれ? お父さんこの歌知ってるの?」
 「そりゃ知ってんだろ。小学校で歌う歌なんぞそう多くねえしな。俺も歌った」
 「―――ちなみに指摘では出なかったけど、景吾は今の周ちゃんと同じところで音程間違ってたなあ。さすが親子」
 「うっせーぞ佐伯」
 会話しながら―――なんとなくピアノの方に近付く。ちなみに伴奏した先生は親の感想聞くために離れてて、でもって僕たちはピアノに一番近い左端の最前列にいたんだけどね。
 「ソプラノ[メイン]歌ってやるから今度はちゃんと合わせろよ?」
 「んじゃ俺テノールにしよ」
 「なら俺がバスか」
 お父さんがイスに座って、楽譜もなしに弾き始めた。先生の名誉保護のために言っておくと、今回の曲は合唱系では珍しいかなりハイテンポなもの。あんまりゆっくり過ぎだと普段慣れてない親たちは寝ちゃうかな? ってそんな配慮で(もちろん実際そうは言わなかったけどね)。僕もお父さんに倣ってピアノちょっとはかじってるからわかるけど、先生が間違えた―――っていうか難しいから省略したのは普通だと思う。むしろこれはちゃんと弾けた人の方が凄いんじゃないかな?
 と・・・
 お父さんはそれこそ普通な感じでちゃんと弾いた。ハイテンポだけど指はしっかりついていってるし、それに手が大きいからオクターブも楽々弾きこなす。
 合わせて出てくるソプラノ。普段のイメージとぜんぜんかけ離れるけど、実はお父さんはバスからソプラノまで3オクターブ出せる。小さい頃からしょっちゅう女装させられては声も合わせてた成果だそうだ。キヨとサエも問題なく出して、なんだかプチ合唱隊。
 聴き惚れてたらお父さんが目で歌えって合図出してきた。確かに綺麗だからこそアルトが抜けてると間抜けに聴こえるなあ・・・。
 僕も歌う。さっき歌ってたみんなも合わせて歌ってきた。ノリのいい曲っていうのはこういう時便利だ。先生と違って危なげが全然無いお父さんの伴奏もそれを後押ししてて、終わる頃には大合唱。
 さっきとは比べ物にならないくらい拍手が出て、お父さんも今度はちゃんと拍手してくれた。





 午後の授業は体育。体育となったらみんなの得意なテニス―――だったりするんだ本当に。本当はバスケの予定だったんだけど、何せあの『元世界ランクトップの跡部選手』が来てるんだ。変えない筈ないでしょ?
 一応社会人のみなさんがよくやっている(かもしれない)スポーツで、っていうのを名目に、今日だけ特別にテニスになった。
 最初から運動は予定されてたから動きやすい服装になって。灰色のフードつきのタンクトップと白いラインが入った黒ジャージになったお父さん。サエと違って袖まくりしないお父さんの肩出しは珍しい。見て奥様方がきゃーきゃー言ってた。もちろん僕はもちろんそんな事やったりしてないよ?
 代わりにこっそりサエに訊く。
 「お父さん、なんであんな格好なの?」
 「バスケっていったら肩丸出しだろ? 冗談で言ったら本気に受け取られてな。全く景吾は可愛いなあ」
 「確かにね」
 サエと一緒にくすくす笑う。今度は気付かれなかった。
 さてテニス。とはいっても実質遊び。だって元プロがいるんだからね、先生もヘタな事は教えられない。
 親子で自由に触れ合ってなさいっていうすっごいアバウトな指示で、僕らは思い思いにテニスを始めた。僕ら―――僕とお父さんだけ(ちなみにサエとキヨは後で代わるって事で待機)。
 後はみんな見物。やっぱ生で見られるっていったら、ねえ?
 でもって『見られる事』に対して鈍感なお父さんは周りに気付かないまま言われた通り僕と打ち合いを始めて・・・
 「んじゃ周行くぞ!」
 「いつでもオッケー!」
 「ハアッ!」
 ズパン!!
 ギュルルルルるるるるるる
るるるるるるるるる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぴた。
 「おし」
 「ちょっと待ってお父さん! なんでいきなり絶望への前奏曲!?」
 「何でもオッケーっつーから」
 「『いつでも』オッケー!! せめて打つならタンホイザーサーブにしてよ!!」
 「・・・そっちならいいのかよ?」
 「タンホイザーなら何か今日は返せそうな気がしたのに!!」
 「『何か』って・・・。しかも『気がした』かよ・・・」
 「ちなみに根拠は?」
 乱入してきたキヨに答える。
 「朝やってた占いで言ってたんだよね。『今日のあなたは絶好調☆ いつもは出来ない事も今日なら出来るかも♪』って」
 「誰が教え込んだかよくわかる根拠だったな・・・・・・」
 「あの跡部くん・・・。君が俺を見る目にとっても殺意が篭ってるような気がするのは俺の気のせい・・・かな?」
 「言ってたじゃねえか。『いつもは出来ない事も今日なら出来るかも』って。いつもなら9分で止まってたが今日なら
10分行けそうだぞ?」
 「いやそれ跡部くんには当てはまらないんじゃないかな・・・・・・?」
 「生憎だが俺はてめぇと違ってこの手の占いを頭から信じてるワケじゃねえ」
 「よけー関係ないじゃん・・・」
 「だがならこの手の占いってのは何であるんだ? しかもどの局でも似たような事やってるし、本だのネットだの入れりゃそれこそ無数にある。供給がそれだけあるからには需要もおおむね同じだけあるって事だろ? 誰も観なけりゃンなモンとっくになくなってる。だが観たヤツが片っ端っから全部それ信じんのか? てめぇみてえなヤツもいるだろうがそれはごく一部だろ。じゃなかったら毎日ラッキーカラーだのアイテムだの方角だの食べ物だのその他いろいろ考えなきゃなんなくなる。
  となるとこれらがある意味ってのはなんなのか。もう少し突き詰めりゃこれらを観る意味はなんなのか。
  ―――俺なりに答えを突き詰めた結果がこれだった。つまりは『きっかけ作り』」
 「とっても論理的に語ってくれてありがとう。とりあえず全ての前提として君周くんと同じ項目で
OKなの?」
 「いーじゃねえか星座や血液型がちっと違ってた位!! 親子なんだから十把一絡げに考えたって!!」
 「ダメだからそれはまず!! 多分今の君の発言が一番占いの意味失くしてたんじゃないかな?」
 「それはともかく!!
  大体返せそうな球打ったって意味ねえじゃねえか。だったら相手がぜってー返せねえ球打ってサービスエースにした方が早ええだろ?」
 脱線してた話題が戻ってきた。今度こそ論理的になるお父さんに、
 「そ、それはそうだけど手加減くらいちょっとは・・・・・・」
 「手加減? 何でだよ?」
 「だって、お父さんプロじゃん・・・」
 「『元』な。今じゃただのアマチュアだ」
 「それに、僕子どもだし・・・・・・」
 「俺は老若男女で差はつけねーんだよ。越前と初めて試合した時アイツは今のお前と1つしか違わなかったが手加減する必要は感じなかったからしなかったぞ。それに男より女の方が劣ってるっつーのは一面だけ見た場合だろ。佐伯の姉貴もテニスやってるがアイツとやる時も手加減してねえが大体互角だし―――」
 「まあ女子だけとはいえ世界ランク2位で手加減されたら屈辱だろうからな」
 「それにそもそも俺は本気でやって母さんにテニスで勝った経験はねえぞ? ほらな? 子どもだから女だから弱いってのはただのイイワケだ。差つけるんだったら個人個人に対応させるべきだろーが」
 「じゃあちゃんと僕に対応させてよ・・・。絶望への前奏曲なんて公式戦でもまず使わなかったじゃないか」
 「そりゃ対手塚用な時点で他のヤツに使っても意味ねえしな。一応公式戦じゃ不二と越前相手には何度か使わなかったか?」
 「返したところ見た事ないんだけど・・・!?」
 「そう易々返されたら意味ねえからだろ。でもって俺はちゃんとお前の実力に合わせたぞ? それで対抗出来ねえんだったらそりゃお前の怠惰だな、周」
 「あーもーだったらいいよ!! 絶対打ち返すからね!!」
 「―――前々から思ってたんだが、お前見た目はともかく中身はむしろ越前そっくりだよな。何かいがみ合ってると思ったら近親憎悪か」
 「うるさい!! ほら早く!!」
 「はいはい。ま、やる気出したヤツに水差すのも何だしな。んじゃ次行くぞ」
 そんなこんなで周り無視して2時間ひたすら打ち合う僕とお父さん。無視された周りの中にいたサエとキヨがこんな話をしていた。
 「あーあ。これで跡部家はスパルタ教育だって決定付けられたな」
 「でもやっぱで思うんだけど・・・・・・跡部くん、最初の球冗談で打ってたよね」
 「ヘタな冗談が致命傷になるって辺り、やっぱ周ちゃん不二にも似てるね」
 「あーあ跡部くん残念。せっかく『親子で自由に触れ合う』チャンスだったのに」





 授業が終わって
SHR。入ってきた担任の先生が、まず机の上でヘバってる僕を発見。
 「どうしたの? 周吾―――」
 言いかけて、
 「―――っ!!??」
 さらに後ろで同じく疲れているお父さんを発見した。
 「ど、どうしましたか・・・・・・?」
 「いえ、別に・・・・・・」
 言葉少なに答えるお父さんに代わって、
 「あ、心配ないですよ〜? 跡部くんってば周くん相手に大人気なくムキになっちゃっただけですから」
 「ほんっと、年も考えずにはしゃいだだけですから全っ然気になさらないでください」
 「うっせえ!!」
 どごす。
 ずっと見物したままだったキヨとサエが丁寧に解説していった。・・・あ、やっぱお父さん疲れてるんだなあ。殴りにもいつものキレがない。
 ちなみに他のみんなはぴんぴんしたまま。そりゃそうだよね。結局テニスやったの僕とお父さんだけだもの。周りはみんな見物したまま。どころか他の授業やってたクラスもそっちのけで教室から見てたり。おかげでどこのクラスも午後の授業は成り立ってなかったみたい。
 ああ最後に練習の結果を言っておくと、2時間の間に僕は3ポイントだけ取れた。・・・・・・お父さんが何ポイント取ったかは訊かないで欲しいな。





 そんなこんなで、授業参観は終了。今日は楽しかったよ。また来てね、お父さんvv





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 明くる朝。
 「お父さん! 僕学校行きたい!!」
 昨日見た夢を現実のものとすべくそんなお願いをしてくる周吾に、
 「―――っ!!??」
 跡部が感じたのは衝撃だった。
 わなわな震える体。見開かれた目の奥で、瞳孔がカタカタ揺れている。
 今まで見た事のない程の動揺を見せる跡部に、周吾がワケがわからず首を傾げた。
 「・・・・・・? お父さん?」
 「お、お前・・・・・・」
 その声もまた震えている。ますます首を傾げる周吾だったが・・・・・・
 疑問は次の瞬間に解決した。いきなりわめきだした跡部のおかげで。
 「そんなに俺といるのが嫌になったか!!!!!!」
 「え!? ちょ、お父さ―――」
 「あーもーだったら学校にでもどこにでも行きやがれ!! でもって2度と家には戻ってくんな!! 金輪際お前との縁を切る!!」
 「あ、あのお父さん落ち着いて・・・。なんだかだんだん台詞も怪しくなってきた・・・・・・」
 「うっせえ!! 今日でお前は勘当だ!!」
 「えええええ!!!??? お父さん!!」
 「2度と俺の事を『お父さん』とか呼ぶんじゃねえ!! 出てけねえっつーんなら俺が追い出すまでだ!!」
 「ちょっとお父さんってば!!!」
 どすどすどすずりずりずり
 ばん!!
 どばん!!
 がちゃ!!
 本当に家の外に引きずられ外に放り投げられ挙句鍵まで掛けられた。
 外ではびゅうびゅう冷たい1月の風。でもってそれ以上に冷たかった跡部の態度。その原因はもちろん・・・・・・
 「お父さ〜〜〜〜〜ん!!! 僕が悪かった〜〜〜〜〜〜〜!!!!!! 2度とそんな事考えないから〜〜〜〜〜〜!!!!!! お父さん大好きだから〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!! 入れて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
 扉をどんどん叩く音と、そんな―――まるで浮気がバレた夫のような台詞を並べる周吾の声は、
 今日もまた遊びに来た千石と佐伯が見つけるまで、延々3時間続いたという。





 なお千石が周吾を温めている間に佐伯により行われた跡部説得の場面での事。
 「お前も大人げないな〜。何も勘当する事はないだろ?」
 「うっ、せ・・・。ぐ・・・・・・。周吾にンな事言われた・・・俺の気持ちがわかるってのか・・・? ああ・・・・・・?」
 「うわ・・・。お前マジ泣き入ってる?」
 「うっせーつってんだろ!!??」
 ・・・・・・こうして、説得はさらに5時間ほどかかった。



―――Fin







 ―――夢だからこそありえる、学校に行く周吾の話。リクエストもありましたしせっかくなのでやってみましたv なお余談、音楽の時間に歌っていたのは『明日に渡れ』でした。中学で歌うものなんですけどね(そしてそれも
10年近く前に確認した事なので、現在も選曲に含まれているかは謎ですが)。なおこの伴奏については実話です。テンポ速いわオクターブばっかだわでまともに弾けません(爆)。なのにそういうのに限って『手が大きいから』という理由で伴奏やらされました。練習していて手首痛めました。本番テーピングしてやりましたv 先生みたいに弾けと周りに言われましたが先生は省略してるから弾けるんです。してオッケーですか? とつくづく訊きたかった・・・・・・!!
 まあそんな在りし日の恨み言はいいとして、こんな感じの1日丸ごと授業参観。技術系の授業がやったら多いのはその方が書きやすいから・・・・・・ではなく、その方が周吾がイメージしやすいからのようです。まあ『学校生活』をテレビの中でしか知らない周吾からしてみれば、国語だろうが算数だろうが机に座ってじっとしてる事に関してはそう変わりありませんからね。
 なお体育の授業はやっぱテニスにするかそれとも予定通りバスケにするか心底悩みました。先に全部完成した(一応オチがついた)のがテニスの方だったのでそっちにしましたが、バスケ編も上げられるといいなあ。そして千石と佐伯のいる意味がますますなくなりそうだなあというかいなくていいですか(爆)?

2005.1.123.3