周吾の場合おまけ編(注:今回授業参観に来たのは跡部のみ)


 午後の授業は体育。体育となったらお父さんの得意なテニス―――と思った人は甘いなあ。お父さんが来たのはあくまで『生徒の親』として。いくらそれで元世界ランクトップの選手が来たからって、今までやってた内容いきなり変えたりは出来なかったりするんだ。という事で体育の内容は今までどおりバスケになった。
 ・・・んだけどね。
 がっかりした保護者含むみんな、これも甘いんだな。確かにお父さんはテニスで有名だけど、有名じゃないだけで他のスポーツも大抵万能だったり。一応『集団競技は性に合わねえ』とか言ってめったにやらなかったけど、それでもバスケも一通り出来るみたい。
 そんなこんなで現在開始
20分。まずは親もボールに馴染もうっていう事で自由時間―――まあつまりは遊びだった。
 運動不足がたたるたたる。特に父親たちは
10分くらいでもうアウト。こういうのって母親の方が強いのかな? でもやっぱ20分ってなるとさすがにそっちもムリっぽい。もうはしゃいでるのは子どもだけ。
 さてお父さん。いくら引退したとはいえ少し前まで世界で活躍してたバリバリのスポーツマン。今でも僕に教えてたりキヨやサエと打ち合ってたりで体力は現役から全然落ちてない。むしろ移動とか試合に合わせて調整とかしなくていい分上がったかも。
 みんなと同じ
20分を経過したのに・・・
 ―――なんでかバテてるのは僕の方だった。
 「オラどうした周? 1本くらい取ってみろよ」
 「ちょ・・・、タ・・・お父さん・・・」
 「ああ? なっさけねえなあ。何やってんだよ?」
 「だって・・・、お願いだからちょっとは手加減して・・・・・・」
 
20分で何やってたのかっていうと、早い話がボールの奪い合い。お父さんがドリブルしてるボールを必死に取ろうとしてたんだけど・・・・・・
 ・・・・・・
20分経って1回も取れてない。あっちに周りこっちに飛び込みしてた僕はもうヘトヘト。逆に避けるだけなお父さんは息ひとつ乱してない。
 ドリブルしたまま訊いてくる。
 「手加減? 何でだよ?」
 「だって、お父さんプロじゃん・・・」
 「そりゃテニスの話だろーが。バスケに関しちゃお互い素人だろ? 手加減する理由なんぞねえな」
 「それに、僕子どもだし・・・・・・」
 「俺は老若男女で差はつけねーんだよ。差つけるんだったら個人個人に対応させるべきだろーが。
  ―――つーワケで『私か弱い女の子だからv』とかいうタワゴトも聞かねえからな」
 「ちっ・・・」
 「やっぱやるつもりだったか・・・・・・。てめぇはどう見ても男じゃねえか」
 「そーんな事ないよ! だって僕おじさんたちからもよく声かけられるもん!」
 「自慢して言う台詞じゃねえ!! しかもそりゃ男女どっちでもいいんじゃねえか!!」
 「ならお父さん逆に質問!! お父さんだったらすぐに奪えるワケ!?」
 「何・・・!?」
 びしりと突きつけた指の向こうで、お父さんは狙い通りうろたえた。このボールの奪い合い、避ける方は反射神経とボールの扱いの慣れさえあれば意外と簡単―――とは言わないけどやろうと思えば出来るんだよね。けど奪う側だったら? どういう風に奪うかちゃんと考えなきゃいけない。問題作る側と解く側どっちの方が大変か、って話だね。それに僕とお父さんの体の大きさの違い。お父さんの周り回るのに僕は何歩も費やしてくるくる動かないといけないけど、僕がボールつく側だったら背が低い分バウンドも早くなるし距離も短くなる。取りに来るお父さんが身を屈めないといけなくなるから相当不利!!
 お父さんもわかっていたからこっちにはしなかったんだ。つまり―――
 (こっちなら僕がもらった!!)
 喜ぶ僕に、
 お父さんはふっ、と笑った。
 「いいぜ。その勝負受けてやるよ」
 一見動揺を消した姿。けどわかってる。正面切って勝負挑まれて逃げられないお父さんの性格くらいは!!
 「じゃあ行くよ」
 ボールを受け取り、ドリブルを始める。お父さんも腕時計に内臓されてるストップウォッチのスイッチを入れ―――
 パン!!
 「―――7秒。話になんねーな」
 「くっ!! な、なんでこんなすぐ・・・!?」
 「バーカ。何年お前育ててきたと思ってんだ? 小せえ頃からちょこまか動くお前捕まえ慣れてっからな」
 「じゃあさっきのは―――!!」
 「この俺様が本気で動揺してたとでも思ってんのか? 甘いぜ周」
 「〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 完・全・敗・北!!
 崩れ落ちる僕を見下ろし、お父さんは奪い取りドリブルしていたボールを片手で掴み取った。肩より上に上げて、適当に投げる。どこへ投げたのかと思えば―――
 ―――隣のコートのゴールにすっぽり収まった。
 いきなり見せられた凄い技術―――とはいってもお父さんの事を知ってれば普通かな? ものに限らずピンポイントショットはお父さんの十八番だからね―――に、呆気にとられる周り。特に気にせずお父さんは落ちたボールを指差した。
 「奪えなかった罰な。取って来い」
 「僕犬じゃないんだけど・・・」
 「だから『罰』でもって『命令』なんだろ。犬なら何にも言わなくても取って来るぞ」
 「さりげにそれって・・・犬以下の扱い?」
 「さあなあ」
 しれっと言い切るお父さんにむくれつつも、取って来ないとどうしようもない。こんな無駄な言い争いでせっかくの時間潰したくないしね。
 ボールを取ってこようととてとて走り出した僕。その後ろで、見ていた何人かの子がお父さんに近付いていった。
 「周吾くんのお父さん凄い!!」
 「なんでテニスだけじゃなくってバスケまでそんなに上手なの!?」
 「そりゃ俺も授業でやったからな」
 「それだけで上手くなんの!?」
 「なるだろーよその気さえありゃ」
 「『その気』って!?」
 「『上手くなりたい』って気持ちだ。俺はやるからにゃ何でも出来ねえと気が済まねえタチだからな」
 「ねえねえ!! じゃあダンクシュートとか出来んの!?」
 「出来るぜもちろんな」
 『やってやって!!』
 「いいぜ?」
 はしゃぐ周りに調子に乗るお父さん。やっぱ子ども好きだけあるなあ。プロで(もちろんテニスの)活躍してた間も子どもに大人気だったからね。
 (む〜!! でもやっぱ面白くない!!)
 本気でむくれる僕に、
 「周! ボールよこせ!」
 「あ、う、うん!!」
 ・・・ちょっとびっくり。周りにもボール持ってた子いっぱいいるのにね。
 「行くよー!」
 両手で投げる。結構遠くからだったけど、ボールはちゃんとお父さんのところへ届いた。
 「ありがとよ」
 やっぱ片手で楽に受け止めて礼を言ってくるお父さん。僕も笑って戻っていった。
 僕が戻るのを待ってお父さんはゴール―――今度はちゃんと正面の―――に向き直った。
 「んじゃ、ただダンクやるだけっつーのもつまんねーから、ちっと変えてな」
 そう言うと、お父さんはいきなりボールを投げ出した。
 『あ〜!!』
 みんなの悲鳴が広がる。それはゴール板に当たって跳ね返っていた。と―――
 ボールを追って走り出していたお父さん。跳ね返ったボールをジャンプして受け取り、
 そのままゴールへと叩きつけていた。もちろんちゃんとダンクシュートで。小学校のゴールっていったら普通のより低めに作られてそうだけど、この学校のは邪魔なときは上に上げられるようなスクロール式になってて、今は普通の高さになってたりするんだよね。
2.53mってトコかな? 130cmしかない僕からみれば相当なものだ。
 2・3秒リングにぶら下がって揺れを抑え、お父さんがゆっくりと落ちてきた。別に凄い事やったぞ〜!って様子もなく、それこそ普通な感じで。
 「ま、破滅への輪舞曲バスケ
verってトコか」
 もう周りは拍手喝采。僕も一緒に拍手しちゃった。
 みんな駆け寄っていって。
 「凄−い!!」
 「そうかい? ありがとよ」
 「うん!! 先生より凄い!!」
 「『先生』?」
 如何にも臭わせぶりな―――な〜んて感じるのはもちろんお父さんだけだろうね。ホラ、負けず嫌いの触角がぴくぴく動いてる。とにかくそんな1フレーズに、お父さんは眉を顰めた。
 みんなで一方向を指差して、
 「体育の先生。元々学校でバスケやってて、でもって全国大会とか行ったんだって!!」
 「ダンクもちゃんと出来るんだよ!!」
 「でも周吾くんのお父さんの方が凄かった!」
 「そうそう!! あんなの先生でも出来なかったよ!!」
 「ほお・・・」
 ―――あ、お父さん嬉しそう。自分の方が上だなんて言われたんだからね。
 なんてやってると、その先生が近付いてきた。
 ちょっと間があるからここで説明させてもらうね。この先生っていうのは、男で体育大学出たての
23歳。学校内ではもちろん若手で、『体育教師』なんて肩書きもあるし実際身長も180cmちょいで爽やかだったりそんな条件でかなりの人気どころ。生徒にも教師にも―――今日来るような保護者たちにも。実際この先生が担任持ってるクラスじゃ家庭訪問とかのたんびに大変っぽいよ。親が。
 一言でまとめるとサエと同類? ただしサエに比べて底の浅さが見え見えだから僕はあんま好きじゃないな。もちろん表面じゃ他の生徒と同じようにコビ売ってるけどね。
 今近付いてきてんのもお父さんが生徒たちに懐かれてんのがムカつくっていうのが理由。あ〜あ。オーラ剥き出しでみっともない。止めときなって恥掻くだけだから。
 ・・・・・・とか忠告してあげる義理別にないから(体育の成績は普通に5取れるしね)、僕はどっちに対しても特に何も言わなかった。弱点探し[インサイト]が得意なお父さんが初めて会うからってそんな事に気付かないワケないし、ヘタに口出すと「余計な口出すんじゃねえ」とか言われちゃうしね。
 「やあ。随分楽しそうにやってますね」
 はい来ましたまずは先生の軽いジャブ。
 「そりゃ子どもと一緒にいんのは楽しいからな」
 お父さんもしれっと返す。てゆーか敬語じゃないし。さすが肩書きで相手は敬わないお父さん。あっさり相手の小物振りを見抜いたようだ!!
 ・・・・・・・・・・・・ただしあんま挑発しすぎると八つ当たりで僕の成績が下がるから控えめにやって欲しいかな・・・v
 先生、頬を引きつらせそれでも頑張る。
 「で、ですが貴方はあくまで周吾君のお父さんとして来てるんですよね? その辺り、もうちょっと考慮した方がよくないですか? 他のお父さんお母さん方に、ねえ・・・。今は貴方の試合中じゃないんですから」
 当の子どもと大人の間に微妙な空気が広がる。狙い目としてはいいところか。確かに今は『跡部様オンステージ』じゃない。
 (けど・・・・・・)
 僕は見抜いていた。この嫌味の致命的欠点を。そしてもちろんお父さんも。
 気付いてないのは多分先生だけ。周りを流れる微妙な空気がその証拠。
 「『他のお父さんお母さん方』なあ・・・」
 お父さんが、のんびり周りを見回した。へとへとになった『他のお父さんお母さん方』を。
 お父さんの目が先生に戻ってくる。馬鹿にするように笑って、
 「――――――出来んのか?」
 「―――っ!!??」
 ようやく先生も気付いたみたい。今の先生の台詞、動けない保護者達には拷問だって事を。今は、お父さんがそんな保護者に代わって子ども達の相手をしている状態だ。――――――本来そうするべき『教師』に代わって。
 歯軋りで敗北宣言をする先生。がっくり項垂れる先生に、
 「んで?」
 「え・・・?」
 「この次何やんだ? 最初言ってた
20分、とっくに終わってんだろ?」
 「えっと・・・、この後は予定では―――親子交えて試合・・・・・・」
 持ってたクリップボードで確認・・・する声が小さくなった。さっきから言ってる事情で親は一切動けない。いつも動いてる若い先生としては、この辺りを失念してたみたい。さってどうするのかな〜?
 面白くなってきた展開に、興味津々に見てみる。と―――
 お父さんは、今度は助け舟を出した。
 「その予定
30分ずらせ。30分ありゃある程度は回復すんだろ?」
 「じゃあその
30分は・・・」
 「まあ任せろ」
 さすが新米先生。予定外の事には対応出来ずにおろおろするのとは逆に、
 元々予定なんて立ててなかったお父さんは軽く肩を竦めた。
 子どもたちを見渡して、
 右手を軽く上げた。
 「俺様にバスケ教わりてえヤツぁいるか?」
 『はーーーい!!!』
 「・・・・・・」
 「な? 
30分」
 「は、はあ・・・」
 威勢良く―――いつもの授業でもないノリで手を挙げた全員に、先生はますます自信喪失したみたい。ほてほて退場しようとして・・・
 「おい。どこ行くんだよ?」
 「え・・・? いや・・・、僕はもう用無しみたいなんで・・・・・・」
 「オイオイ・・・」
 最初のケンカ腰はどこへやら、いきなり後ろ向きな先生に、お父さんは手を頭に当てて呻いた。ますます先生の元気がなくなっていく。
 ため息をついて、お父さんが言う。
 「だからさっきから言ってんだろ? 俺はバスケに関しちゃ素人だ。てめぇが教えねえでどうすんだよ元バスケ選手」
 「で、でもさっき生徒達に―――」
 「『一緒に教える』っつー手があんだろーが。何にしろ
30分こっきりで30人全員になんて手ぇ回んねえだろーが。だったらどっちかが全員まとめて教えてる間にもう1人が個別に教えてりゃいいじゃねえか」
 「なるほど・・・・・・。そうか・・・・・・」
 「それに俺が周吾除いてコイツらに会ったのは今日が初めて。1人1人の個性だの特徴だのはてめぇの方がよく知ってんだろ? なあ、『先生』?」
 「はい・・・!!」
 「いい返事だ」
 お父さんマジックで先生一気に上昇。くつくつ笑うお父さんにお辞儀しちゃったり。
 お父さんって気に食わないヤツはとことん落とすけど、困ってる人は見捨てられないタイプなんだよね。典型的ヒーローっていうか、とにかく悪を挫いて弱きを助ける! おかげで見た目とかとは別に、特に年下中心に大人気。そんなこんなで、ここにもまた新しいお父さん
Fan出来ちゃったよ。
 さて、そんなこんなで実際教えて・・・僕から見れば『教わって』か・・・みたり。
 当たり前だけど、いくらお父さんが教えんの上手だからってそれで
30分でみんな欠点が克服出来たりするワケはない。それじゃ体育の授業終わる頃にはみんなプロ入り出来ちゃうだろうからね(まあそれでも何人かは実際ちょっとしたコツ教わったりして上手くなったんだけどね)。
 そこで、今回は全く違う事を教わることになった。
 さっき出た通り、この後は親子入り乱れての試合。子どもたち同士での試合はよくやるけど、大人も入れては大抵の人が始めて。だから大人というか背の高い相手を想定して練習するようにした。
 ところでバスケといえば身長が多大な影響を及ぼすらしいスポーツ。第二性徴期初っ端とはいえまだまだ僕達はどんぐりの背比べ状態。そこへ『大人』を投入したらどうなるか。
 「取れない〜〜〜〜〜〜!!!!」
 「ズルい〜〜〜〜〜!!!!!」
 大人代表で入ったお父さんと先生に、ブーイングが雨嵐と降り注いだ。
 「ええっと、だから・・・」
 それを克服するための練習だ。そう諭そうとした先生を遮り、お父さんがガラも悪くクレーム返しをする。
 「ああ? 『ズルい』? どこがだよ?」
 「だって取れるワケないじゃんそんな背高くって!!」
 びっ!と全員に指差され、それでもお父さんは全然堪えない。どころか・・・
 「ハッ! 背が高いから? だからどうした? ンなに背丈が欲しかったらてめぇら全員竹馬にでも乗って来いよ」
 出ましたお父さんの・・・・・・ノリだけで勝負のはちゃめちゃ理論。冷静に聞くとけっこーツッコミどころ多いし、サエとかキヨとかだと『両手塞がってバスケ出来ないじゃん』とか普通に突っ込んでお父さんに殴られたりするけど、慣れない相手だと雰囲気に押し流される。こんな感じでね。
 『なっ・・・!?』
 挑発に乗る子ども。さらに重々しいため息までかけられた。
 「あのなあお前ら。いいか? 確かに身長ってのはバスケやる上じゃ重要だ。だがそれが全部じゃねえ。身長だけで決まるんだったらまず俺がコイツに負けてんだろーが」
 「その引き合いはちょっと酷いです・・・・・・」
 またも落ち込む先生を今度は無視して、お父さん節はまだまだ続く。
 「バスケからちっと離れてテニスの例で行くが、そもそもテニスにゃ完璧なプレイっつーモンは存在しねえ。当たり前だな。ンなモンがありゃ誰だってそれやるからな」
 おおっとこれは通じる人には通じる痛烈な皮肉。こう言うお父さんが『完璧なるオールラウンダー』って賞されてて実際それでずっと世界ランクトップ守り続けてたのにね。
 驚くみんなも無視して、お父さんは続けた。
 「攻撃的に攻めるヤツは粘りに弱い。じっくり攻めるヤツは相手に押されやすい。力のあるヤツはスピンがかけづらくってコントロールが悪い。ボールコントロールのいいヤツは大抵力技に弱い。前に出りゃ後ろに落とされる。後ろに張り付きゃ前に落とされる。広範囲カバーすりゃそれだけ早く力尽きる。最低限しか移動しなけりゃとっさに動けない。ノリで動くヤツは周りに呑まれやすい。慎重なヤツは機を逃しやすい。根性のあるヤツは一旦崩れるとそこで終わりやすい。きっちり計画を立てるヤツはとっさの事態でパニくる。主導権を握るタイプのヤツは自分が握れないと脆い。
  こんな感じで挙げりゃキリはねえ。だがな、どれも共通点がある。
  ―――長所は同時に欠点だ、っつー共通点がな」
 「じゃあ・・・」
 「身長が高い相手は確かに上に上げられたら取れねえ。だが下なら? さっき周は失敗したが気付いたぜ? 『下なら自分が有利になれる』ってな。
  ドリブルにパス、カット。シュート除きゃみんな下で出来んだろ? 下でやられりゃ背の高いヤツってのは屈んで取らなきゃならなくなる分不利だ」
 「でもそれじゃ点入んないよ?」
 「あるじゃねえかいい手が最低2つ。後はお前らで考えな。どうやったら点が入れられんのか。全部正解言っちまったらつまんねえからな。
  オラ残り5分! 早く考えねえと時間ねえぞ!! 思いついたモンから試してみろよ!」
 『わ〜!!』
 蜘蛛の子を散らすようにみんながバラバラになっていく。残ったのはお父さんと先生。離れながら、僕もちらちらそっちを見てみた。
 最初に口を開いたのは先生。
 「上手いですね、教えんの」
 「そりゃ氷帝いた時にゃ
200人の部員指導してたからな。プロになってからもよく指導頼まれてたし」
 「・・・・・・やっぱ1人で出来たんじゃないですか」
 「『出来ねえ』とは言ってねえからな」
 恨みがましい目を向ける先生ににやりと笑うお父さん。先生形無しだね。
 「それに―――」
 呟くお父さんと目が合った。というか合わせられた。
 にやりと笑ったまま、言ってくる。
 「一番手のかかるのずっと育ててるからな。他の子が随分可愛らしく見える。
  ―――オラ周。てめぇもちゃんと考えろよ」
 「は〜い」
 しっしと手を振られ、僕も『可愛らしく』返事した。





 試合開始―――の前に問題になるのはもちろんチーム分け。子ども基準で
30人、それに今まで中心として教えてたのがお父さんと先生の2人だから、まずはお父さんチームと先生チームに分けて、さらに5人かける親の分の10人対10人試合をする事になった。
 チームを分け・・・ようとして。
 「俺こっちのチームがいい!!」
 「周吾くんのお父さんのチームに入りたい!!」
 ・・・・・・
30対0でお父さんチームが圧勝どころか不戦勝になった。ってこれじゃホントに試合出来ないし。
 ダダを捏ねる子どもと困り果てる親及び先生。お父さんはみんなにしがみつかれしゃがみ込み―――
 「聞けお前ら」
 小声でぼそぼそ話し始めた。
 「弟子が師の技を覚える方法は2つ。教わるか、それとも盗むか。
  ―――俺様の美技、盗みたくねえか?」
 『先生チームに入りたいです!!』
 「これで解決だな」
 突如反旗を翻す子ども
15人。ついていけない大人を他所に、あっさり問題は片付いた。・・・ホンット、お父さん人乗せんの上手いな〜・・・。





 1試合目、2試合目は適当に人が選ばれて1勝1敗になった。いよいよ最終、お父さんともちろん僕、それに先生(親が来なかった子の親代わりにね)の直接対決になった。
 準備をして・・・
 コートに入ろうとしたところで、僕達お父さんチームの子どもはなんでかお父さんに呼び止められた。
 再び身を屈めぼそぼそ話すお父さん。面白そうに笑うお父さんに、僕らも面白そうに目を輝かせた。
 不思議がる親達と相手チーム。子どもが笑いながら「言わないよ〜♪」と言っている。それを見て・・・
 「ロコツな挑発だね」
 「勝負は試合開始前から始まってるからな」
 取り残された僕の呟きに、お父さんは肩を竦めて答えた。試合寸前の作戦会議。相手チームから見れば気になってたまらないだろうね。
 そんないきなりの心理戦に、
 僕は素直に感想を洩らした。
 「珍しいね。お父さんがそういうあくどい手に走るの」
 「うっせー」





 で、始まった試合。お父さんと先生のジャンプボールは、かなりいい勝負を繰り広げた。お父さんのジャンプ力はさっき見たとおり。先生もさすがバスケ選手だっただけあって高い。2人でボールに手を伸ばし―――
 勝ったのは先生だった。一見。
 「なっ・・・!?」
 先生の方が驚きの声を上げる。お父さんが手を引っ込めたんだから当然だね。
 驚きながら、それでも落とす。お父さんの後ろ、自分チームのゴール側に。
 落として―――
 「は・・・?」
 また先生の声が上がった。
 「先生ありがとうv」
 にっこり笑ってボールを受け取る僕を見て。
 お父さんをブラインドにして、ジャンプしてる間に後ろに移動してた僕。身長が低い事の使い道その1だね。尤も今回はいきなり手を引っ込めるなんてパフォーマンスしてくれたお父さんに気を取られたからでもあるんだけど。
 「速攻!!」
 着地しないまま即座に出るお父さんの指示。2人の下にボールを転がし、前へと送る。前でもしっかり受け取ってくれた。
 着地してゴールに向かうお父さん達。向かう寸前、一瞬だけお父さんがちらりと僕の方を振り向いた。小さく笑ってる。どうやら僕の作戦は見抜かれたみたい。
 みんなを見送り、僕はその場にとどまった。ゴール下ではやっぱ争いが起こってる。ごちゃごちゃしてる中へ、辿り着いたお父さんの声が響く。
 「こっち回せ!」
 反射的に、ボールを持ってた子(もちろんお父さんチームの子)がボールを回す。上に上げないのはさっきのお父さんのアドバイスを守ってだろう。おかげで大人が手持ちぶさたにしてるよ。
 ボールを受け取ったお父さん。そこから攻めるのかと思えば―――
 さらに後ろ、僕の方へ見もしないまま投げてきた。
 受け取る。僕がいるのはコートほぼ中央。ここにいるのは僕1人。こんなところまではディフェンスもさすがにいない。
 落ち着いて、僕はゴールへとシュートを放った。3ポイント狙いのフリースロー。
 あっさり決まるのはお約束。これでも僕はお父さんの子どもだからね。このくらい出来なきゃ。
 驚きと拍手の中で、
 「やっぱ狙ってやがったか」
 「さっきの答えの1つ。ガードされてなければいい、だよね? お父さん」
 「よくわかったな」
 「最初にお父さんが隣のゴールに入れたの見てね、結構遠くからでも入んのかなって練習したんだ」
 「5分でかよ・・・」
 呻くお父さんから顔を背け、ぺろりと舌を出す。実は僕、前に出ない代わりにフリースローは元々得意なんだよね。高得点ゲッターとして生徒だけで試合やるときはずっとマーク付き。今回はみんな、お父さんに注目してくれるおかげで助かったよ。





 その後もいろいろあってそろそろ試合終了。現在同点。さっきのもうひとつの答え、『確実に点を入れられる大人に回す』っていうのはみんなも気付いたみたいで、お父さんチームはみんなお父さんにボールを集めた。おかげで点の大半はお父さんが入れたもの。でもそんなお父さん、攻撃は得意でもさすが守りは苦手というかしたくないだけあって、守りは他の人に任せた結果先生中心に点を取られまくった。
 今はお父さんチームがオフェンス。残り時間考えて、これを決めれば僕らの勝ち。先生チームも全力で守りに入ってる。
 ネット下で、
 ついにお父さんと先生の直接対決になった。
 先生越しにゴールリングを見るお父さん。その目がちらっと右に動いた。これはフェイント。
 左足を動かした先生。今がチャンスと飛び上がるお父さんに、先生は完全に追いついていた。フェイントを見破った上であえて引っかかった振りをしたらしい。
 飛び上がり、2人揃ってすぐに着地した。1人時間差攻撃×2。どうでもいいけど2人で向かい合って一緒にやるとちょっと間抜け☆
 再びお父さんが飛び上がった。もうこれ以上フェイントをかけてる時間がないからか。
 ボールを上に掲げるお父さん。先生が手を伸ばし、それを叩き落とした。
 (いや・・・)
 最初のジャンプボールと同じように、先生の顔に浮かぶ動揺。叩き落される前にお父さんは後ろに落としていた。走ってきていた自分のチームの子にパスを回すため。
 敵味方関係なく周りはみんな2人に注目しすぎていた。攻撃手交代に誰も対応出来ず、その子―――僕と同様いつもそんなに目立たない子は綺麗なシュートを決めてみせた。
 バシュッ!!
 ピ―――!!
 ボールがゴールに入るのと、試合終了のホイッスルは同時だった・・・・・・。





 勝ちを喜ぶお父さんチーム。負けはしたけど勝ち負け関係なしに最後のプレイが凄かったってその子を褒める先生チーム。
 「周吾君ならともかく、なんで他の子まで・・・・・・?」
 汗だくで呆然とする先生に、
 僕は一応の親切心を出して解説してあげた。
 「さっきの『作戦会議』ね、別にただの挑発じゃなかったんですよ。本当にお父さん言ってたんですよね。『見かけに惑わされるな。サインを見逃すな』って。
  後ろに来いって他の子に指示してたんで、逆に僕は動きませんでした。僕がやると2度目でさすがに気付かれますからね」
 「はあ〜・・・・・・」
 先生が大口を開けて感嘆の声を出す。僕も実は驚いてたよ。まさかお父さんが即興でサインプレーするなんてね。『チームワーク要求されんのは嫌いだ』なんて言ってたけど、指導というか世話好きなトコ含めてさりげにお父さんってそういうのも合うんじゃないかな。もちろん自分の実力が出しにくいって欠点もあるんだろうけど。
 思っていると、ゴールを決めた子を褒めていたお父さんが戻ってきた。
 先生の目の前に立ち、面白そうな、魅力的な笑みで見上げる。
 触れそうなくらいに顔を寄せ、人差し指で先生の顎くいっと持ち上げ。
 キスでもしそうな様子。気付いた何人かが絶叫する中で、
 「バスケは集団競技だ。俺様だけに見惚れてんじゃねえよ。バーカ」
 それだけ言い放って、お父さんは再びいなくなった。こういう言動も自然に出来るのがさすがお父さん。
 真っ赤になった先生。僕の隣に屈み込んで、
 こんな事を訊いて来た。
 「なあ周吾君。君のお父さんってシングルファザーだよな。恋人っていない? いなかったらぜひ俺を―――」





ω     ω     ω     ω     ω






 この先生は、この後すぐクビになった。生徒に手を出す変態教師として訴えられたからだ。
 「周!! どうしたんだよお前その格好!?」
 「お父さん・・・。怖かったよ〜〜〜〜〜〜!! 先生が〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 「アイツが・・・!? あのヤロ、許せねえ・・・・・・!!」
 ついでに先生の恋物語は始まってすぐ消え去った。恋した相手に変態扱いされて訴えられたら当然だろうけどね。
 かくて・・・





 「周、危ねえヤツには気ぃつけるんだぞ。何かあったらすぐ言えよ? すぐ駆けつけるからな」
 「うんわかってる。大丈夫だよお父さん。じゃ、行ってくるねv」
 「おう」
 ちゅv
 今日もまた、僕とお父さんは他人の多大な犠牲の上で実に幸せな生活を築いていってますv ちゃんちゃん♪



―――Fin







 ―――周吾の夢、テニスではなくバスケ
verでした。うみゅ。何か関係ない人(爆)出てきて長くなりましたが、周吾の制裁に遭い名前すらないまま一発使い捨てキャラとして決定づけられました。そして跡部の変則ダンク『破滅への輪舞曲バスケver』。さりげにコレ、バスケではごく普通の打ち方だったりします? テニスと並んでバスケもド素人なのでかなり適当に書いていたりするのですが(再爆)、確かスラムダンクのアニメOPではゴール板に当てたボールを次の人が取ってまた当てて・・・といった行為を普通にやってたりしましたし。なおリングの高さは一応サイトで調べたりもしたのですが、今のゴールって進化してますねえ。高さ調節大抵出来るんですね。おかげで何cmなんだかわかんない・・・(泣)!! ちなみに畳めるようスライド式は私の元いた小学校の形式です。上まで上げると相当高くなるんじゃないかな〜・・・と。
 そうそう跡部の「俺様だけに見惚れてんじゃねえよ」。どっかで聞いた台詞に似てるな〜と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ラブプリ
bitterの《罠〜ワナ〜》歌った後ランダムで出る台詞の1つ「俺様に見惚れてんのか?」が元です。むしろこの歌の後にこそ「俺様の美技に酔いな」が合うような気もしますが、こっちもいいですよ。「当たり前じゃんvv」とすぐに返しますよ。
 あとラストシーン、学校に出かける周吾を跡部が見送ってますが、別に跡部はプーなのではありません。封筒張りとかバラの造花造りとかの内職でもありません。家をそう規則正しく出ずとも済む、株取引とかで儲けてて欲しいな〜・・・・・・。

2005.3.33.31