通りすがりの女子高生(烈・不来・せなに遭遇)
それはたまたま乗り合わせた電車での事。後ろから、こんな話が聞こえてきた。
「こない感じでな、俺はいろいろしとるんよ。なのに振り向いてくれへんの。落ち込むわ〜」
「やり方がマズいんだろ」
「うわダメージ3倍増やで」
「まあ、確かにそれだとねえ・・・」
「お前まで言いおるん!?」
ちらりと振り向く。中学生くらいの男の子2人と女の子1人の会話。関西弁でしゃべる青髪の少年(だろう)に、赤髪のこちらも少年(推測)が冷めた突っ込みを入れ、こちらは緑のロングヘアの少女(多分)が苦笑して続けていた。こういう半端な断定をするのは、全員が中性的な顔立ちな上声変わりもしていない高音で話すからなのだが、
(今時の中学生も進んでるモンねえ・・・)
時代を痛感するいや私もまだ高校生だが。会話の内容から予測するに、関西弁の少年が好きな子にアタックかけて失敗しているのを友人2人にグチっているらしい。少女は普通の鞄だったが、少年2人がテニスバッグを肩から下げているところからすると、さしずめ部活仲間とマネージャーといったところか。
駅に着くまでヒマだったので、私は彼らの会話を聞いている事にした。自分の恋愛経験は0だが、人の話を聞くのは面白い。それも彼氏側の意見などなかなか聞けるものではない。
「そない言うならお前らどーしたらええと思うん? 烈、せな」
「え・・・? 僕が・・・?」
「そう訊かれても・・・・・・」
「ていうかお前の問題だろ? お前が考えろよ不来」
「考えて考えて考えに考えたモンがこと・ごと・く! 失敗しとるからこうして相談しとるんやないか恥も外聞も捨てて」
「確かに捨ててるな」
「お前が答えへんからやろ!?」
「まあまあ不来君も烈君も。あまり騒いじゃ迷惑よ?」
苦悩する青髪の不来君。ひたすら冷めきった赤髪の烈君に、無難に人生渡っているらしいロングヘアのせなさん。とりあえず2人ともそんな相談を持ちかけられても迷惑なようだ。興味のない人にはそうかもしれない。
(じゃあ男の子ってこういう話どこに持っていってるのかしらね?)
ふいに疑問に思う事。確かに女子でもせなさんのように興味のない人もいる。でも大体の場合は興味アリだ私も含め。人の話ほど面白いものはない。
しかしながら男子の場合・・・・・・。
考えている間に話が進んだ。烈君が言う。
「とりあえず、そんな話をこんなところでしてる時点でアウト決定だな」
「・・・・・・・・・・・・」
・・・あ、不来君ダメージMax。せなさんここはフォローしてあげなきゃ。
「まあ・・・不来君も『考えて考えて考えに考えた』結果が『ことごとく失敗した』んだから人に訊いても仕方ないんじゃないかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いったあー!! この子カワイイ顔してとどめ刺したよ!! 不来君再起不能決定!!
(彼もかわいそうに・・・。とことん相談持っていく相手間違えたわね・・・・・・)
先程の答えが出てくる。男の子はここまで話をする相手が不足しているらしい。わらに縋ったら何か付着してて全身かぶれました並の不幸なメに遭っている少年に、陰で合掌を送る。
「よしわかった」
あら? 今まで完全に引いていた烈君が手なんか打ち出したわ。
笑顔で彼は言った。
「諦めろ」
「っえええええええええ!!!???」
思わず叫んだのは他の誰でもない私。何か違わない? 根本から間違ってない? 相談全部無意味にしてない?
「何でしょう?」
(げ・・・。しまった・・・・・・)
盗み聞きが思いっきりバレた。焦りまくる私を、烈君がじっと見上げていた(私が履いてるローファー、かかとが高いため偶然そうなっていたり)。
にっこりと微笑まれ、黙秘権は認められそうにない事を悟る。
私もまあ、一応の愛想笑いなど浮かべてみて、
「えっと・・・、今ちょっとあなたたちの話が聞こえちゃってたんだけど・・・・・・」
「それで?」
「それで〜・・・・・・
――――――恋愛ごとの話、してたのよね?」
一応確認。彼は「ええ」と頷いてくれた。
続ける。
「でも・・・いきなり『諦めろ』なんてそんな後ろ向きな。当たって砕けろというか清水の舞台から飛び下りるつもりでというか、せっかく好きなんだから簡単に終わらせるのはどうかな〜・・・と思うんだけど」
私の言葉に不来君が反応した。ぱっと顔を上げ、
「でも砕けたらお終いですし飛び下りで死んでも仕方ないでしょう? 人生まだ長いんですし、当たらないよう迂回したり引き返したり他にもいろいろ手はあるんじゃないんですか?」
―――烈君の言葉で再び撃沈された。
(あ〜きっとこの子は恋とかした事ないのね・・・)
聞きながら感じる事―――いや私だってそんな語れるほどした事ないけど。
ないから、辛い恋ならしなくていいと思っている。それこそが大事だというのに!! きっと結ばれた時不来君は本当の幸せを手にするだろうというのに!!
・・・危うく浪花節でもやりそうなノリになり、私はこほんと咳払いをした。
「でもホラ、それもまた人生よ。あなたの言い分を借りるなら、それこそ人生はまだ長いんだから。砕けたってまた破片掻き集めればいいし、落ちたら這い上がるか拾ってもらうかすればいいし〜・・・・・・・・・・・・」
(・・・・・・って、何かものすっごくグロい方向に話進んでる・・・?)
いやこれは精神論だ。肉体で考えてはいけない。
必死に頭を切り替えていると、なぜかせなさんは私の方に助け舟を出してみた。
「そうですね。
不来君、シンプルな手だけれど真正面からいってみたらどうかしら?」
「『真正面』・・・・・・?」
「例えば告白をしてみるとか」
彼女の言葉に―――
なぜか周り(2人だけど)が静まり返った。
(あら・・・・・・?)
ついていけない間にも事態は進んでいく。不来君は彼女に実に情けない眼を向け、ぽつりと呟いた。
「告白な・・・・・・
・・・・・・・・・・・・とっくにしとるんよ」
(こ、この展開はもしや・・・・・・!!)
ここにきて、私はようやっとその可能性に思い至った。男子2人に女子1人。普通こういう話をするなら同姓同士でしないか? 相手に洩らされる危険性は考えないのか?
男子2人に女子1人。一番わかりやすい図式を描くなら三角関係。ただし不来君がこういう話をライバル烈君の前で平然としているところからすると、牽制のつもりかそれともそういう関係ではないか。
2つ目に考えられるのが、不来君とせなさんが恋人同士あるいは不来君の片想い。烈君は2人の間に立つ『いいお友達』だろう。もしかしたら今日のコレも、男子2人による作戦なのかもしれない。そう考えると烈君が冷たく切っている理由がよくわかる。ここでせなさんが慰め、2人の関係が進展する・・・という筋書きだったのだろう。こんな風にこてんぱんにやられる不来君には同情を禁じえない。人によっては母性が目覚めるかもしれない。特にせなさん、世話好きそうだし。
ところが全く何も進まない。その上余計なモン(もちろん私)まで乱入してき、挙句決定的な台詞まで言われた。しているのにそう思われず、なのに「告白したら?」とまで言われる。踏んだり蹴ったりだ。
が―――
あまりの扱いに、不来君の中で何かが固まったらしい。あるいは切れたか。
「せやな。そないするか」
おお!? ついに覚悟が決まったようだ!!
不来君はせなさんの手を取り、
「お前が好きなんや。付き合うてくれへんか?」
言いました告りました不来選手ついにやりました!!
―――ついつい実況中継などしてみたり。
一方されたせなさんはきょとんとし、
「私に言われても・・・・・・」
(っえええええええええ!!!???)
今度の悲鳴は口の中に留めた。というか、予想外過ぎる展開に声にもならなかった。
せなさんニブいにも程がある!! 真正面から言われてなぜ他人だと思える!? ていうか告白他人にする人いないって!!
などと思っていたのだが・・・
「わかっとる。こら予行練習や。こないな感じでどや?」
「そうね。それならちゃんと伝わると思うわ」
「さよか」
「ええ。本番も頑張ってね」
「おおきに」
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ?
(アリ? 告白の予行練習なんて可!? それともこれも年齢の差!? じぇねれーしょんぎゃっぷ!?)
混乱につきちょっと思考回路がおかしくなる。が、
真の混乱はこの後に来た。
不来君が手を取る。今度は烈君の。
じっと見つめ合う。なんだか感じるデジャ・ビュ。これと同じ光景を10秒ほど前に見たような気がする。
(これは・・・・・・まさか・・・・・・・・・・・・)
考える。先程は『予行練習』だった。別に何度やろうが構わないだろうが、運動会にしろ発表会にしろ『予行練習』は大抵1回だ。
思う。彼はなぜ、ここまで相談相手に向かない相手に相談をしている? ただの相談なら多分、せなさんだけにすれば十分だろう。同じ男として烈君の意見も聞きたかったのか? おかげで余計追い詰められているようにしか見えないのだが。
さらに思う。先程不来君とせなさんの関係で考えた事。同じことが烈君との間ででも言えないか?
全ての答えが繋がる。つまり彼らの関係は・・・・・・
結論付ける前に、不来君が答えを発表してくれた。
「烈! 俺お前が好きなんや。付き合うてくれへんか?」
「帰れ」
ひゅるるるるるるるる・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
△ ▽ △ ▽ △
下りていった彼らを、私は無言で見送った。完全に没した不来君。肩を叩いて「次頑張って」と慰めるせなさん。そして、
―――何事もなかったかのように普通な烈君。
がたんごとん走る電車の中で思い出す。彼らの会話を。最初からあれだけ冷たくあしらわれていたのだから、ああ返答される事も考えてはおくべきで。ちょっと前に流行った言葉を使えば、想定の範囲内といえば範囲内。
「まあ・・・」
私は最後にぼそりと呟いた。『彼』の言葉を考えつつ。
「諦めた方が良さそうね、確かに」
―――Fin
―――今回初のレツゴ『M.Es』編。「この2人、まだ付き合ってないんですか?」と問われそうですがさあ思い出してみましょう。かつて不来が告ったのは1度きり。その時一応烈も答えはしたがそれは彼を利用するため。
そう! 実はこの2人、いまだに告白の1つもしていないのです!! どうやら現在もう少し関係が発展して、するにはするようになったようですが・・・・・・。
・・・しっかし先は長そうですね〜この2人。これだけアプローチかけてあっさり切られる不来って一体・・・。
2005.5.20〜28