誘拐犯(星馬兄弟に遭遇?)
現在私は金に困っている。これだけは強調させてもらう。
1週間以内に金が用意できなければ、私は間違いなく死体となって東京湾に沈むだろう。
だからこそ、私は最後の手段に出る事にした。そう―――
――――――誘拐へと。
△ ▽ △ ▽ △
「てめーこれ放せよな!!」
東京でもトップクラスの高校に通う、極めて元気そうな少年をターゲットに選んだ。少女だとその後暴行に働いたか云々で問題になりやすい。不健康な子を選びショックで発作など起こされてもどうしようもない。そして何より―――頭のいい子はいけない。少なくとも私のレベルよりは下にしなければ。
そんなワケで選んだのがこの少年だった。生徒手帳によると名前は『星馬豪』。今時の男子高校生というと姿だけに気を使ったひょろひょろばかりかと思っていたが、発育は実に良好。申し分なく筋肉もついており、おかげで最初に縛っていた木のイスは壊された。青い髪を後ろで束ねているが、だからといって決して芸術肌ではない(仮にそうだとしたら、きっと「芸術は爆発だ!」とでも言うタイプだろういや私にもよくわからないが)。
とりあえず、この豪少年を誘拐した一番の理由は、親近感を持ったからかもしれない。お互いさして嫌な思いはしないよう、食事に誘い睡眠薬で眠らせ・・・と考えたのはいいが、今時の少年は何と豪勢な生活を送っている事か!! 「奢ってくれるんですか? ならフグちりを」「フランス料理フルコースを」「向こうに高級寿司店ありますから」。この辺りで言われるならまだ可愛い。途中で声をかけた赤毛の少年など、私の身なりを上から下まで見回し「・・・・・・大丈夫ですか? あ、ならそこのファミレスなどどうでしょう? 500円あれば十分食べられますから」とさぞ気の毒そうに言って来た!! 私はもちろんその場でこの少年をターゲットから外した! 確かに金持ちそうではあるが、「なん・・・なら、僕が奢りましょうか? 1万円くらいなら何とかなりますから、その辺りのホテルで生活に必要な道具揃えてください。無責任な言い方かもしれませんが、人生まだ長いんですからいくらでもやり直し効きますよ。諦めないで頑張って下さい」などと言ってくる少年と一緒にいれるか!! よく知り合いからも「一歩間違えると浮浪者」と言われるが、これでも私はまだ普通のサラリーマンだ!! 放っておいてくれ!!
そんなワケで、直後に出てきて「マジ!? だったら俺焼肉食いてえ!!」と言ってくれるこの少年がどんなに可愛く見えたか・・・・・・あえて記すまでもないだろう。
「こらー!! そこのてめー!! 俺をどーする気だ!?」
そう。この場になって―――知らない場所に連れてこられ縄で縛られしているこの状態で、なおこれが誘拐だと気付かないこの少年。
・・・・・・今時の高校生も捨てたモンではないなあ。
ちょっとした感動を覚える。
が、身代金の電話をかける際、後ろでここまでうるさくされていては雰囲気ぶち壊しだろう。私は少年に近付き、
「ちょっと悪いけど、これあげるから黙っててくれ。はいあーん」
「あーん・・・・・・むぐっ!?」
特大の牛肉(ただしスジ肉)を大口で咥え込む少年。噛み切ろうと頑張っている後ろから口をタオルで縛る。やれやれ。実に可愛いものだ。
「ふむー!! むー!!」
部屋には少年のくぐもった声が広がる。よし。音量低下成功。これで電話越しには聞こえないだろう。
改めて、私は受話器を取り上げ、少年の自宅へと電話をかけた。ところでここで疑問に思うかもしれない。何故私が突発的にさらった少年の自宅の電話番号など知っているのか。
実は先ほど見た生徒手帳に書いてあったのだ。メモのページにわざわざご丁寧に、≪迷子発見の際はこちらにお電話ください。馬鹿がご迷惑をおかけします≫などというメッセージ付きで。
(そんなにこの子は迷子になりやすいのか? なら誘拐として認識されにくいか?)
不安要素が増えていく。しかしながらここで止めるわけにはいかない。私は震える手でそのとおりの番号を押していった。
長い呼び出し音の後・・・
《はい。星馬です》
「お前の息子は預かっている。返して欲しければ―――」
《ただ今留守にしております。ご用件の方は―――》
「留守電かよ!?」
声をわざわざ作ってしゃべった私の努力は・・・・・・。
だが相手が聞いていないのでは仕方がない。発信音までじっと耐えぬき、私は同じ要領で練り上げた文章を読み上げた。
「『お前の息子は預かっている。返して欲しければ2日後、2000万円を持って高架橋まで来い』」
《お断りします》
「はい!?」
今時の留守電メッセージは録音だけでなく返事まで可能なのか!? 最初は驚いたが―――
(・・・待てよ?)
いくら何でもそんな馬鹿な。確かに世の中人工知能を持ったロボットだのなんだのが出てきて話題になっているが、ここまでなめらかに、しかも明らかにマニュアルの範囲には入っていないだろうこんな事態にまで対応できるのか!? というか機械が独断で断ったら大問題だろう?
「お前、家の者か?」
《息子です》
「は? え・・・?」
思わず後ろを見る。かの少年は今だスジ肉相手に頑張っている。声だって普通の男性らしくバスかテノール(そりゃどっちかだろう)のかの豪少年に比べ、電話の声は女性かと思いそうなほど高い。作っているにしては自然すぎる。
「そ、そんなワケないだろう!? コイツはここにいるんだぞ!?」
《『兄弟』という言葉をご存知で? 僕はそこにいる馬鹿の兄です》
「あ、そ、そうか・・・・・・」
《納得していただければ幸いです。次からは僕とその馬鹿を同一視しないでください。それでは》
「ああ。じゃあ」
ぶつり。
電話を切った。清々しい気分で天を仰ぎ―――
「そうじゃないだろ!?」
新たな気分で私はテイク2へと挑んだ。
《・・・・・・もしもし》
先ほどとは打って変わって心底迷惑そうな声。別人かとも思ったが、別人なら迷惑そうにはしないだろう。でもって向こうはこちらが誰だか(少なくとも何の用件でかけている相手なのか)わかっているらしい。やはり頭のいい少年は厄介だ。
―――そんな事を思う私の電話には、もちろんナンバーディスプレイなどという洒落たサービスはついていなかった。
「もう一度だけ言う。『お前の息子は預かった。返して欲しければ2日後、2000万円を持って高架橋まで来い』」
《だからお断りしますって》
「なぜだ!? 確かにお前は弟などどうでもいいかもしれないがご両親にとっては大切な息子なんだぞ!? それをあっさり見捨てていいと言うのか!? お前はそれでも血の通った人間か!?」
《お言葉を返させて頂きますが、別に僕は弟をどうでもよく思っていませんし父や母にとっては確かに大切な息子でしょう。あっさり見捨てるなど一言も申しておりません。そして僕にも血は通っています。
道徳的な説教をするために電話したのですか? 違うでしょう? 僕はもう少し『現実を見ろ』と言いたかったのですが》
「そ、そうですか・・・。すみません」
それこそ説教をされてしまったような気がして、私は電話に向かってぺこぺこお辞儀をした。
「で、現実というと・・・・・・」
お伺いを立てるように尋ねる。電話の向こうでは、長々と、腹の底からこちらを馬鹿にするため息が続いた。
《まず、『2日後』。2日後のいつですか? 朝ですか? 昼ですか? 夜ですか?》
「それは〜・・・・・・。
そんな細かい事別にいいだろ?」
《よくありませんよ。朝だとしたら、お金が用意できるのは実質明日1日きり。その間に2000万円。一体どうやって用意すればいいんですか?》
「そ、そんなのそっちが考えて―――!!」
《考えた結果不可能と判断しました》
「息子はどうでもいいのか!? 大事ならその位出るだろ!?」
《出ません》
即答!? ダメじゃんこの息子!!
・・・・・・少々混乱して謎の台詞を吐いてみる。その間にも少年の言葉は続いた。
《あのですねえ、我が家はごく普通の家なんですよ。お金を湯水のように使ったりする大金持ちと違う、いわゆる『一般市民』。別名『庶民』です》
「・・・・・・だろうなあ」
大金持ちのボンボンが焼肉につられスジ肉でもオッケー! だったりしたらそれは嫌だ。
《言いましたよね現実を見ろと。
どうやったらその庶民の家で、1日2日でそんな大金が捻り出せるんですか? 親戚駆け回りますか? 家担保に借りますか? いずれにせよそんな短期間で済むと思ってるんですか? 小説の読み過ぎじゃないですか?
あるいは端除いて新聞紙の束にしますか? いっそ子ども銀行のお札でいきますか?》
「うるさいな!! 息子のために身ぃ犠牲にする根性はないのか!? 保険位は入ってんだろ!?」
《なるほど。
ではそこにいる弟を殺してください。普段から無茶をすると心配され、多額の保険金がかけられていますから》
「は・・・・・・?」
《ああ、ただし殺人の場合までは範囲に含まれていませんでしたので、殺す際は事故にみせかけ殺してください。自殺は駄目ですよ。最高額入るのは事故による死亡ですから。
殺したならご連絡を。保険会社に報告しておきます》
「ちょちょちょーっと待て!! お前いいのかそれで!?」
《良いか悪いか僕に問われましても。この場で主導権をお持ちなのは貴方の方ですから。貴方が選ぶんですよ?》
妙にドスの聞いた声で言われる。どこをどう聞いても、主導権を握っているのはこの相手の方のほうな気がするが・・・・・・。
「だ、だが身代金のために人質殺すって!! 何か手段と目的間違ってないか!?」
《ですが我が家の家訓は『自己責任』。誘拐されたのは一重にソイツの責任ですので、お金もしっかり本人が払うのが道理かと》
「意味違う!! 家族なら助け合え!!」
《また道徳の時間ですか? 現実はそんなに甘くないんですよ。夢は見ないで下さいね》
・・・なぜかまたも私が説教されてしまった。悪いのは私なのか? 問題があるのは私なのか? 誰か答えてくれ!!
私は、ようやく食べ終えた・・・というかあのスジ肉をよく噛み切れたものだ・・・らしい豪少年のタオルを外し、受話器を押さえ小声で状況を説明した。
そして、
「再び悪いんだけど、君からお兄さんに訴えてくれないか? どうも冗談だと思われてるんじゃないかと・・・」
「いや。烈兄貴なら完璧全部本気で捉えてますんで・・・・・・」
「そうか・・・。
・・・・・・君も大変なお兄さん持ったね。無責任な言い方だろうが、人生まだ長い。いくらでもやり直しは出来る。諦めずに頑張ってくれよ」
「わざわざすんません。けど多分、人生どんなにかけようがあの兄貴の性格は変わらないと思います」
「そうか・・・・・・・・・・・・」
ため息をつき、結局私が話を続ける事にした。実の兄に直に「思い切って死んで来い。保険金は有効活用するぞお前のために」と言われるのは、いくら何でも可哀想だ。
「じゃ、じゃあ2日で用意できる金はいくらなんだ?」
《そうですねえ。預金を下ろして―――ざっと5000万円くらい》
「高あっ!! 家に金ないんじゃなかったのか!?」
《僕の口座でですからね》
「え!? お前ちょっと待て!! 若きディーラーか!? 逆玉か!?」
《全て違います。僕はただの高校生です。ソイツとは1歳違いです》
「なら尚更なんでそんな高校生が!?」
《まあちょっと・・・・・・。シマからお絞り代受け取ったり、ヤクやチャカ売りさばいたり》
「すみませんでした組の坊ちゃまとは露知らず!!
確かにそう考えれば肝も随分据わっておられる!! きっと相当いい親父さんなんでしょうねえ!!」
必死こいてコビを売る。ヤバい。とんでもなさ過ぎる相手を誘拐してしまった。東京湾沈没は1週間後と言わず明日に早まったかもしれない。
先ほど以上にぺこぺこ真剣に頭を下げる私に、
電話の向こうで烈少年はくすくす笑ってきた。
《冗談ですって。実際のところはせいぜい50万円です。残念ながら僕では家の資財は自由に出来ません》
「な、なんだよ驚かせんなよな!! 両親いるんだったらさっさと変われよ!!」
《それは出来ません。両親は今、とても遠くに行っておりまして》
「なら、電話はいいとして金は家族でしっかり用意しろよ?」
《出来るといいですねえ》
「やれよちゃんと」
《ですが・・・・・・。
――――――2日以内に戻りますか不明ですから。意識が》
「は・・・・・・?」
『遠く』って・・・・・・。まさか・・・・・・・・・・・・。
やはりとんでもないところを標的にしてしまったらしい。両親揃って意識不明の重体とは! となると金など治療費だけで精一杯だろう!!
慌てて私は今までの話をなかった事にしようとして―――
《あ、すみません。少々お待ちください。
え・・・? いいの・・・・・・? 悪くない・・・? じゃあ・・・・・・》
遠くで暫く声が聞こえる。どうやら誰かと話しているらしい。
《お待たせ致しました。額を変更します。
2日で用意できるお金は1億ほどだそうです》
「1億円? まさかそんな」
鼻で笑う。それらしく相談しているかと思いきやまたもからかいらしい。実際電話越しの少年の声を笑いを含んで、
《『円』? 誰が円などと言いましたか? 1億ユーロですが》
「待て!! ユーロ!? 1ユーロ今いくらだ!?」
少なくとも100円は越すはずだ。となると勘定して、100億円以上・・・・・・・・・・・・。
私の目の前に、幻の札束が飛び交った。それらに連れられ夢の世界に―――
―――旅立つには、この少年は少々捻くれ(?)過ぎていた。
「なんでいきなりそんなに増える?」
《お金持ちかつ博愛主義らしい友人がいるもので。なんでしたらそこにいる弟に尋ねてください。こんな事に好き好んで首突っ込んで金払ってくれる物好きも最低1名位は浮かぶでしょうから》
《あ、浮かばなかったらお金出さないよ、豪クンv》
「ミハエル!!」
《正解〜♪》
豪少年は、今一緒に会話を聞いている。正解が思いついたからには、つまり実際そういう知り合いがいるらしい。
豪少年に目線で確認を取る。頷いてきた。兄の方ならともかく、この弟の方が認めるなら間違いはないだろう。嘘をついているようには見えない。
(だが・・・)
私はふと考え込んだ。ここで「なら1億ユーロ」と言うのが本当に正しいのか。『小説の読みすぎ』ではないが(そんな金はどこにもない)、ここで欲張って失敗するのは現実でもお決まりパターンだろう。「現実を見ろ」。実に良い格言だ。
仮に1億ユーロ手に入ったとする。さてどうする? いきなりそんなもの銀行に持っていったら目立ってたまらない。円でない分尚更目につくだろう。すぐに警察に通報されるのがオチだ。
金持ちなら警察には訴えない? いやいや。金持ちは得てしてケチだ。ただの友人のためにそれだけ出すにはそれ相応の罠が用意されていると考えるべきだろう。例えば―――それだけの大金だからこそアシがつきやすい、などと。
「わかった。金は最初の通り2000万円だ。明日両替して来い」
《よろしいんですか?》
「多く望んで失敗したくはない」
《なるほど》
烈少年の感嘆の声が電話越しに届けられた。私は少し良い気分になった。
「じゃあそういう事だからな」
《ああ待ってくださいよ》
「ん? まだ何かあったか?」
《ありますよ。時間どうするんですか?》
「ああそうか。じゃあ―――
―――正午ぴったりと行こうか」
《それで場所は?》
「高架橋だろ? 近くにあるんだろ?」
《そこのどこですか?》
「はあ? 高架橋は高架橋だろ?」
《だからその高架橋のどこですか?》
「あのなあ・・・」
苛々する。高架橋と言ったら高架橋だろう? そんな事も理解できないのか?
怒鳴りつけようとして・・・
《高架橋の右端ですか? 左端ですか? 中央ですか? どちらから何メートルのところでですか?》
「はあ!?」
《『はあ?』じゃないですよ。高速道路にも繋がってるその高架橋、日中利用する人がどれだけいると思ってるんですか? 正確な待ち合わせ場所、また互いの特徴など伝えておかないとお互いどれが誰だかわかりませんよ? 間違って違う人に渡してしまったらどうするんですか?》
「ンなの、こっちが見つけりゃいいだけだろ? 弟の顔参考に探すからよ」
《すみませんね。僕ら兄弟、似てない事で有名なんです》
「・・・・・・そりゃ顔がか? 性格がか?」
《なかなか鋭い着眼点で。正解は『どちらも』です。恐らく僕に会ってもわからないのでは》
「じゃあわかった。高架橋中央だ」
《右と左、どちらに寄っていましょうか》
「中央って言ってんだろ?」
《では中央分離帯の上に立ってお待ちしております》
「・・・・・・。悪かった。中央の端っこに寄ってくれ。高速に入る向きで右側に」
《わかりました。ですが―――》
「ですが?」
《そもそも僕免許持ってませんので。高架橋には入れません》
「金持ちの友達いんだろ!? ハイヤーで送ってもらえよ!!」
《わかりました。では黒塗りの大型ベンツで行かせて頂きます。さぞかし目立つでしょうねえ。近付く人はみんなジロジロ見られますよ?》
「わかった・・・・・・。確か隣の端は歩行者でも行けるんだよな? そっちにする」
《随分お詳しいですねえ。
それで、その他注意などはありませんか?》
「ああ、もうない・・・・・・」
疲れた・・・。早く切りたい・・・・・・。
心から願うが、
《そうですか。では通し番号の新札を番号控えた上で、発信機とセットにし透明なビニール袋に入れてお持ちしますね》
「するな!!」
《ですがこれらについての指示はなかったのでは?》
「一般常識としてその辺りは外せ!!」
《すみませんねえ理解が悪くて。誘拐事件巻き込まれ歴はまだ浅いもので》
「いや・・・。ンなモン人生で1回ありゃ充分だろ・・・・・・」
《そうですか? これで15回目なんですが、周りからは僕の対応の仕方はまだまだだと批判をされるもので、てっきり50回くらいは経験しないと大人にはなれないのかと思いました》
「15回・・・・・・?」
いくら何でもそこまで多くなるか?
(待て。『巻き込まれ歴』? 自分がされる・・・だけじゃないんだよな?)
あるとすれば・・・・・・
私の背中に戦慄が走った。まさか、この少年は―――
「実はお前警察官だ、とかいう事は・・・・・・!!」
《あるワケないじゃないですか。まだ高校生ですよ?》
「特別顧問とか! あるいは秘密探偵社の助手とか!?」
《すみませんね。高校生として勉学に励むため一切アルバイトの類はしていません》
「そ、そう・・・だよ、な」
《ただ自画自賛で周りからよく頼りにされまして。何かあると警察より頼りになる、と専らの評判です》
「・・・・・・それは納得だ。
なら通しじゃない番号の使ってある〜・・・・・・千円札だな。それスポーツバッグに入れて持って来い」
《千円札ではかなりかさばる事になりますが》
「万札はアシがつきやすいっていうからな。かさばっても構わない」
《ちなみにスポーツバッグは経費で落として構いませんか?》
「経費・・・?
・・・お前も相当がめついな」
《恐れ入ります。何分学生は貧しいもので》
「あーわかった。認める。身代金から必要分は引いてくれ」
《ありがとうございます。後は何かありますか?》
「いや。もう・・・ないか?」
《僕に問われましても》
「いや、お前に聞いた方がいろいろ気付いていいかと思ってな」
《そうですか。では・・・》
電話から声が聞こえなくなった。向こうで考えているのだろう。
5秒ほどして、再び声が聞こえてきた。
《脅迫電話はあまり長時間おかけにならない事をお勧めします。30秒以上で逆探知は可能だそうです》
「お、お前まさか―――!!」
《最初に留守電の真似をしましたよね? 警告だったんですよ? 留守電なら当然録音機能がありますからね。電話を切ってすぐ警察へ連絡させていただきました》
「そんな!! こっちはすぐかけなおしただろ!?」
《幸い現代には携帯電話というものがあります。僕以外にもう一人いたでしょう? 途中まで出てこなかったのは、警察とやりとりをしていたからですよ》
「じゃあ・・・!!」
《現在そちらに警察の方々が向かっておられます。近くに住んでいらっしゃるようで。どうりで詳しいワケだ。
では、誘拐・脅迫の現行犯で捕まってください》
それを合図としたかのように、
「警察だ!! 大人しく人質を渡せ!!」
どたばたと、土足の警官らが部屋に雪崩れ込んできた。
押さえ込まれ、床にねじ伏せられ。
隣に転がった受話器から、最後までかの少年の声がしていた。
《なお、これらの費用に2000万円は使わせてもらいました。領収書がなくて申し訳ありません。
それでは、弟は返して頂きます》
△ ▽ △ ▽ △
朝になり。
「ああ、おはよう父さん母さん」
「父ちゃん母ちゃんハヨー!」
「ああ、烈、豪。おはよう」
「烈はともかく、アンタは珍しいねえ豪。こんなに早く」
「昨日ちっと帰りが遅くなっちまってな・・・」
「連絡もなく朝帰りかい!? まったくアンタは何やってるんだか!!」
「悪かったって母ちゃん!! これには深〜い事情があってよー!!
な〜烈兄貴〜!! 兄貴も言ってくれよ〜!!」
「ああ母さん、コイツは親切な人に届け出てもらって警察に保護されてたから心配ないよ」
「警察に保護!? 母ちゃん達が寝てる間に何やってたんだい豪!!」
「ちょっと待て母ちゃん!!」
「問答無用!! 今日こそ許さないよ!?」
「ご〜か〜い〜だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」
―――Fin
―――アンケートに、新たな項目として豪が加わりましたv というか加わっていました。いくらオリキャラが多すぎようと、やっぱレツゴでもう1人の主役を忘れてはいけないようです。
というワケで今回は豪と烈兄貴の話。テレビで丁度誘拐の再現VTRをやっていたのですが、そこがメインではないとはいえ脅迫から身代金受け渡しの場面でいろいろ疑問でたまらなくて。ではその辺りを深く突っ込みそうな人にやらせたらどうなるか。答えがこんな感じでした。直接会わせて「あ! お前は!!」という展開も良かったのですが、なんかもー、兄貴会話引き伸ばしすぎ。30秒どころか裕に30分はかかったんじゃ・・・。
そして誘拐犯。男女差別と怒られそうですが、職業(?)イメージで男っぽいです。実のところどちらとでも取れるようやろうとしたはずだったのですが・・・。おかげでちょっと異色のブツと化しました。
2005.6.15〜16