高級宝石店アルバイト(リョガ跡サエに遭遇)


 現在私がバイトしているここは高級宝石店。どの位『高級』かというと・・・最低ラインが数万円。千万単位の物もあったり。さすがに億単位は直に見た事はないけどね。
 なので買いに来る『お客様』も割と高級な感じで。もちろん最低ラインクラスだったら彼女におねだりされた学生カップルも来れるけど、もうちょっと高くなるといわゆるセレブ、あるいは給料3か月分かけての婚約指輪。もっと上だと・・・・・・何して稼いでんのかしらね。世の中不公平なモンよ。
 さて今日は、ちょっと変わったお客様らが来た。





△     ▽     △     ▽     △






 ガ―――・・・
 「いらっしゃいませーv」
 良い店への第一歩は明るい挨拶から。今まで様々なバイト生活を経て得た私のバイト哲学。ただし店長からは「店のイメージが崩れるから止めろ」って怒られてるけどね。
 とりあえず、入ってきたお客様の内片方のウケは良かったみたい。笑顔でひらひら〜っと手を振られる。
 お客様は2人の少年だった。高校生くらいかな? 灰色の髪に紺色の目をした子と、濃い緑色の髪に赤茶色の目をした子。共通して顔の作りはキツ目だけど綺麗。すれ違って女子がきゃーきゃー騒ぐ典型ってところかしら? あ、私? この子らが千万単位の品物指差して「コレくれ」とか言ったらきゃーきゃー騒いであげるvv
 (あ〜りえね〜)
 ―――なんて心の中で自己突っ込み入れてみたり。彼らの服装は至って普通。そのままゲーセンだろうがデパートだろうがうろつける感じ。これは間違いなく彼女にねだられて必死こいてバイトした組ね。ただしだとするとこの、妙に落ち着き払った雰囲気が納得しにくいけど。こういう店に来慣れてない人はほぼ確実にオドオドする。ぱっと見下ろしたケースに並んだ値札が値札だからね。「いちじゅーひゃくせんまん・・・」って指差して確認するのが通例。
 なのにこの少年らはそれこそ服装そのままに適当にうろついてますといった様子だった。冷やかし―――だったら拍手もの。店全体の雰囲気が高級すぎてその手の客はまず来ない。あるとしたら金と暇持て余した人位。一般ピープルは来てくれない。さみしー・・・(泣)。
 話を戻して入ってきた少年ら。このまま続けるとややこしいので仮に灰色の髪の方をA君、緑色の髪の方をE君とするとして―――実はI様、U様は既にいらっしゃったりするのよお客様の中に。なのでちょっと飛び飛びだけどそう呼ぶとして―――、ちょっと耳を研ぎ澄ませてみる。
 と・・・、
 E君:「にしても・・・来たはいいけどよ、何選ぶ?」
 A君:「ンなモンこれから見て考えるんだろーよ」
 ふむふむ。やっぱこれは彼女に買ってあげる系ね。不意打ちプレゼントを決めたはいいけど何を選べばいいのかわからない、と。
 よしよしここは私の出番よ。
 「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
 笑顔で近付く。2人はちらっとお互いを見て―――E君が肩を竦めA君がため息をついた。『自分たちで決めたいが何を選んでいいのかわかりませんギブアップ』。とってもわかりやすいジェスチャーありがとう。
 私に話しかけてきたのはE君の方だった。入ってきた時の様子といい、対外交渉(っていう言い方もどうかと思うけど)はE君の役割らしい。
 「俺たち恋人へのプレゼント用に買いに来たんですけど、何かいいのあります?」
 「どんなものにしようか、は・・・」
 「いやー。まだ全然決めてなくって」
 ぱたぱた手を振って笑うE君。会話と様子でわかってはいたけど一応ちゃんと確認。盗み見聞きしてたなんて知ったら怒りそうだからねA君の方。
 「ではまず、彼女は普段どのようなアクセサリーを身に付ける事が多いですか?」
 ここを訊くのは当たり前。穴ない人にピアス買ったり首回りダメな人にネックレス買ったりする失敗はつきものだからね。最悪金属アレルギーで特殊なものしか付けられない、なんて人もいるし。
 「え、っと・・・・・・」
 2人の間に広がる微妙な空気。もしや成り立てにつきロクに知らずに来た?
 (買うのも初めてみたいだし、彼女本人も連れてきてないから十分ありえるわね)
 と思ったんだけど・・・。
 「・・・とりあえずネックレス類は却下だろ。アイツ首回りいつもかなりゆるくしてるしな」
 「ピアスは無理としてイヤリング―――落とすか」
 「実用性考えりゃ時計か?」
 「イヤそれも無理だろ。『ウザい』『見難い』『重い』『使えない』『邪魔』であっさり切られそうじゃねえ?」
 「つーかよくよく考えたんだけどよ、
  ―――最悪やった途端質入れられねえか?」
 「質には入んねーだろ。即行売られるだけで」
 「・・・・・・・・・・・・やっぱ止めるか」
 「だからそれじゃ意味ねーじゃねえか!!」
 何しに来たのか帰ろうとするA君をE君が体を張って止める。どうやら心配は杞憂に終わり、彼らは相手の事をよく知っていたようだ。そう、とてもよく・・・・・・
 (・・・・・・・・・・・・あれ?)
 首を傾げる。今の会話、どっかおかしかったような・・・・・・
 (というか、同じ相手にあげるの・・・・・・?)
 会話の流れからすると、2人が思い浮かべていたのは同じ対象者だろう。別に2人がかりで物を贈るのは不思議な事ではない。例えば弟2人が姉の結婚式などのお祝いにあげる、バレンタインに同じ上司に義理チョコをもらった部下が軽い財布をまとめて少しでもいいものを返すなど。ただしこの2人は似ても似つかないし、それに上司にそこまで気を使う年齢でも性格でもないだろう。だとすると後は普通に彼女に・・・・・・
 (元彼と今彼が!? それとも彼女二股!? うっわどっちにせよこんないい男連打で
Getするなんて凄い彼女ね〜)
 いろいろめくるめく妄想の渦は奥に引っ込め、
 「付けていて最も邪魔にならないものとしては、指輪などどうでしょう?」
 こんな提案をしてみる。誤解されやすい贈り物
No.1の指輪を。ただし―――
 ―――いくらいい男だろうが2人がかりで送られそれを婚約指輪だと思える女はそうそういないだろう。
 (私なら即行で投げ返すわね)
 「指輪か。それもいいな」
 「んじゃその線で」
 「では―――ああそうそう。指のサイズなどわかります? わからなければフリーサイズのものもありますし、また購入後直す事も出来ますよ?」
 わからない事を前提に違う案も出してみる。実際A君は顎に手を当て俯いた。
 「指・・・? いくつだ・・・・・・?」
 「ああ俺わかるぜ?」
 「・・・・・・。よく知ってんな」
 「こないだ宝石店の広告が入ってよ。そこにあったんだよな。何々号はこのサイズって。試すだけならタダだし、広告くり貫いていろいろやってみた」
 「やっぱそういうのは同居が有利か」
 「『同棲』って言えよな」
 「どこがだ居候が」
 「一つ屋根の下には変わりはねえじゃねえか。君だって昔はそうだったんだろ? ん?」
 「違げえよ。隣だっただけだ」
 おおお!? 今のは重大発言! なんとE君は現在彼女と同居だか同棲だかとりあえず同じ屋根の下にいるらしい。これでいるのがマンションとかだったりしたら大爆笑だけど。そしてA君はかつてのお隣さん。年齢考えるとありがちパターンで幼馴染? やっぱE君が今彼でA君が元彼!? 3人で仲良くしようって証!?
 「では、彼女の指のサイズは―――」
 表面上は落ち着き払って尋ねる。E君がサイズを言って・・・
 「・・・・・・親指ですか?」
 「いんや薬指。元々手ぇ大きいしいろいろ使ってる間に節太くなったみたいでな。はめるとゆるゆるなんだけど節通らねえとどうしよーもねえだろ?」
 「・・・フリーサイズにします? それならはめてから締める事も出来ますし」
 「そうすっか」
 問題1つ解決。にしてもこの2人の彼女となったら手も小さくて細い子想像してたのになあ・・・・・・。
 「では指輪をお見せしますが―――
  ―――ご予算はどの位で?」
 案内しながら尋ねる。もちろん連れて行く先は格安コーナー。あんまり高いもの見せてショック受けられても仕方ないし、ここは分相応にね。
 E君とA君はまた顔を見合わせ、
 「いくらでもいいぜ?」
 「ま、指輪程度ならな」
 うわー! うわー! 出ました『
い・く・ら・で・も』!! 金持ちのボンボン坊ちゃん決定!! どーせそれでお会計の時はゴールドカードとか出して親のサインとかしちゃうワケでしょ!?
 この瞬間、私の中に芽生えていた彼らへの親しさとか親近感とかその辺りはあっさり崩れ去った。店員としてはこの上なくいいカモ。私個人としては単純に嫌悪感。自分で稼いだワケでもないクセに自慢げに見せびらかして鼻高々なクソガキは大っ嫌いだ!!
 「じゃあこちらなどいかがでしょ〜vv」
 棒読み貼り付け笑顔で取り出す、展示品では一番高いもの。
5000万円は越している物件。少しはこれで頭冷やせ身分わきまえろ。
 はっきり言ってでっかい宝石ごてごてくっつけただけの趣味サイアク物を見せつけ、
 「うあ趣味悪・・・・・・」
 (うあ腹立つ・・・・・・!!)
 「ンなモン付けんの成金馬鹿だけじゃねえのか?」
 (お・ま・え・ら・だろーがあああああ!!!!!!!!)
 鉄皮面な笑顔の裏、心の中で思う存分叫ぶ。
 「ああ? 二昔は前のギャングじゃあるまいしンなヤツいるか?」
 「いるぜ意外と? どーも全財産見せ付けないと気が済まねえみてえでよ。時々まんまくれたりするから即売ってるぜ。手元に置いとくと俺の趣味まで疑われるからな。
  君やんねーの?」
 「生憎とな。金ばらまいて着飾りゃ自分の格が上がるワケでもねーだろ」
 「純粋お金持ちのお坊ちゃまはそう考えます、ってか」
 「『庶民』だから考えんだろ。これだけ貯めんのにどれだけ親父の仕事肩代わりしたと思ってんだよ。むしろてめぇがやれよ成金野郎」
 「俺はわざわざ着飾んなくても最高ランクだし?」
 「それよりはこっちの方が―――」
 「・・・って無視すんなよなサミシーじゃねえか」
 わいわいやる2人にとりあえず評価変更。A君は本当にお坊ちゃんらしいけど親に甘えるクソガキではないらしい。初っ端の『必死こいてバイトした組』もあながち間違いではなかったみたいで。でもってE君は見た目と言動と度胸からするとホストでもやってるのかしら? 2人が(勝手に)選んでいるのは額こそグン!!と下がるけどセンスは良い物ばかり。これは相当アクセサリー見慣れてるわね。
 それならこっちもそれ相応に出るべきだろう。なにせこのままだと私はロクに見る目のない趣味サイアクの店員扱いで終わってしまう!!
 「あ、そのようなタイプでしたらこちらもありますよ」
 私的秘蔵コレクション(微妙な額と比べ『高級』感がイマイチなため見向きはされにくいけどデザインや指とのバランスを考えたらかなりの上物)とかも出して応じる。
 1時間くらいああでもないこうでもないと粘り、さらに1時間くらい値引き合戦をやり・・・、
 彼らが選んだのはシルバーアクセに小さな宝石をつけたようなものだった。見た目に反して値段は十数万。よくよく見るとわかる緻密な銀細工と、希少価値の高いブルーダイヤが使われてるからなんだけど・・・
 「これなら丁度色も合うしな」
 「え? 色?」
 「ソイツ銀髪に青灰色の目だから」
 「それを最初に言えええええええええ!!!!!!」





△     ▽     △     ▽     △






 まあ何にせよ彼らの買い物は終わった。彼らがどんな関係でその後どうなったかはわからず終いだけどそれはしょうがない。
 そして1週間後・・・





△     ▽     △     ▽     △






 現在私がバイトしているここは高級宝石店改めブランド物リサイクルショップ。結局基本理念が店長と合わなかったためあの後すぐ物別れに終わった・・・・・・『クビになった』とは言わないよーに!!
 さて今日は、ごく普通の客が来た。何も知らなければごく普通の。





△     ▽     △     ▽     △






 ガ―――・・・
 「いらっしゃいませーv」
 良い店への第一歩は明るい挨拶から。今回もそれを実践する私の前に、入ってきたお客様は小さな箱を置いた。
 「すみません。コレ売りたいんですけど」
 「はいはいコレですね?」
 笑顔で開ける。リングケースを。
 出てきたのは、





 ―――1週間前彼らに売った指輪だった。





 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 そろそろと顔を上げる。そこにいたのはこれまた高校生位の美形の少年だった。銀髪で青灰色の目をした。
 顔を下ろす。カウンターに乗せられた彼の手。細長くて綺麗だが大きくて節が太い。ついでに首回りは確かに緩めだし耳に穴も開いていない。時計は無骨だが様々な機能を持ち見やすかった。
 思い出す。彼らの会話。



 ―――『―――最悪やった途端質入れられねえか?』
    『質には入んねーだろ。即行売られるだけで』



 確認するが、ここはリサイクルショップであり彼はコレを差し出し「売りたい」とはっきり言った。買われてから今日で1週間だ。
 さらに思い出す。「彼女は以下略」と尋ね広がった微妙な空気。そういえば2人は『恋人』とは言ったがそれが『彼女』だとは1度たりとも言わなかった。『アイツ』で指されるのは男女両方だ。
 偶然の一致だろうか。それにしては一致するものが多すぎるような・・・・・・。
 「? あの・・・」
 「い、いえいえいえ何でもないですよハイ!」
 さすがにじっと考えていたのはマズかった。声をかけられ、慌てて対応する。
 ルーペで宝石や傷の有無を確認し、ケースでブランドを割り出し。
 しながら、私はどうしても好奇心に勝てずに尋ねた。
 「あの、ところでコレどうされたんですか?」
 「え? 何か問題が?」
 「あ、いえそういう事ではなく。ただ男性が宝石類を持ち込まれるのは珍しいなあ・・・と。
  すみません。ただの興味本意です」
 引く時はあっさりと。ここで悪印象を与えると売ってもらえなくなる。間違いなく彼はコレを付けてすらいない。新品同然どころか新品そのもの。箱まで綺麗なままなのにそれを買い取り損ねるような真似はしたくない。
 こっそり見上げる。彼は小さく笑っていた。特に悪くは思われなかったらしい。
 「知り合いにもらったんですよ」
 ・・・『恋人』ではないらしい。何となくプレゼントをあげようとした理由がわかったような気がした。
 「物で釣ろうとしたらしくて。『俺はそんな安いヤツじゃない』と断ったところ『じゃあ好きにしてくれ』と押し付けられたので好きにしに来ました」
 「いいんですかそれで?」
 「いいですよ。どうせアイツらもハナからその程度覚悟してたでしょうし」
 ・・・・・・アイツ『ら』。複数形。しかもこの言い振りは絶対男相手だ。
 「まあ・・・・・・考え方は人それぞれですしね」
 他に言う事もなかったので無難に返した。それを選ぶまでの苦労の道のりを語ってもいいが、この様子では多分全て知っての上だろう。それに・・・
 (確かに物で釣るのはね・・・・・・)
 いろいろ通常の関係とは違うようだが、何にせよそれは感心できたものではないだろう。むしろしっかり突っぱねた彼に一票だ。
 「―――じゃあこの位でいいですか?」
 「そんなに、ですか?」
 「ええ」
 言った額は、売った額そのまま。驚く彼に有無を言わさず現金を押し付ける。これが彼らに返れば少しは反省するだろう。店側は大損だが、私の金ではないので気にはならない。
 「じゃあ・・・」
 お札を手に会釈する彼。後姿にやはり明るく「ありがとうございましたーv」と挨拶し・・・・・・、







 「
よしよしやっぱ結構高かったな。これで安物だったらコンクリ詰め決定だったけどな。
  さって何に使おっかな〜♪








 ・・・・・・今、何かとても不思議な言葉が聞こえたような。





△     ▽     △     ▽     △






 なお、その後ここのバイトも即クビになった。鑑定力がないという理由で。
 「・・・・・・・・・・・・」
 なぜかしら。ものすっごく釈然としないものがあるのは。ちゃんと自分で納得して決めた筈なのに。
 とりあえず、次のバイトを探しながらひたすら祈る。





 二度と美形の問題児とは関わり合いになりませんよーに!!!!!!



―――Fin







 ―――リクエストは開始3日目にして跡部とリョーガがかなり上位というかダントツトップと2位。そんなワケで入れてみましたこの2人・・・とあと1人。なんっか報われませんねー彼ら。なおリョーガはアヤシイ『仕事』は一切やってません。宝石類直にもらっちゃったりするのはそれこそホストと同じノリで彼のファンというか彼に賭ける人に。躰とか要求されても全部突っぱねたと思います。お初はやっぱサエ相手!? それともからかいついでに弟にでもヤっちゃった!?
 そういえば最近気付いたどうでもいい話。プライズグッズに、かつて1度だけサエが出てきた事があります。茜色というか小豆色というかの彼のフィンガーバンドを、リョーガのぬいぐるみの腕につけるとわおぴったり♪ 丁度同じような色のリストバンドつけてますしね。わ〜ありえねえ感じで六角リョーガ!! さらにコレは2個セット。もう1つを跡部につけると2人でサエを奪い合ってるみたいでいいですよvv

2005.5.34