立海大付属中女子テニス部2年部員(幸村・切原・千石・真田・千歳・仁王に遭遇)
こんにちは。ただ今午後2時45分。ここは立海大付属中校門前です。
―――なんでこんな、潜入リポーターみたいな事になっているのか。実は今ホントにそれに挑戦中だからです! しかも相手はあの男テニ部長の幸村先輩!! 今日はコート整備で部活がなかったんですけど、それで普通に帰ろうとしたらなんとここで幸村部長に遭遇。普段何かをやっているイメージがない・・・っていうとおかしいけど、私生活のイメージが沸かない(一番沸かないのはテニスをしているイメージだなんて言っちゃダメだよ)幸村部長、果てさて部活外ではどんな感じなのか。興味持って当然でしょう!?
そんなワケで、さっそく幸村部長を追跡追跡♪
△ ▽ △ ▽ △
まずは普通に学校帰り。発展した駅前を通り・・・・・・え?
「―――あのすみません。アンケートにご協力いただけませんか?」
「え? 俺がかい?」
「はい」
「じゃあ―――」
あっさり協力ですか幸村部長!? ここから次は事務所に連れ込まれて高級超音波皺取り機買わされるんじゃないんですか!?
偏った先入観によりよっぽど助け出そうかと思った私。ただし、同じ事を考えたのは私だけではなかったらしい。
「幸村ぶちょーーー!!」
「ああ、赤也か」
「もー幸村部長何やってんスか! 俺ずっと待ってたんスよ?」
「え? 別にお前と何か―――」
「ホラホラ早く!!」
「ああ・・・。
じゃあ悪いけど・・・」
「あ、は、はい。ありがとうございました」
どこからともなく現れた、クラスメイトの切原君。幸村部長の腕を引っ張り、さっさとその場を離れていった。もちろん私もついていく。
50mくらい進んで・・・。
「・・・何やってんスか幸村部長?」
振り返った切原君の引きつり笑いには、少なく見積もっても10本ほど青筋が立っていた。
それでも抑えた口調で問う切原君に、
「ああ、アンケート頼まれて」
「前、真田副部長も注意してませんでしたっけ・・・? そういうのは危ないから近付くな、って。特に幸村部長に」
「そうだよな。何でか俺にばっかり注意するんだよな真田は」
「・・・・・・。わかっててなお答えてたんスか?」
「答えるだけだし別にいいんじゃないのか?」
「よくないスよ!! あの後次は事務所に連れ込まれて高級超音波皺取り機買わされるんですよ!?」
・・・・・・切原君と私の思考回路はぴったり一致するようだ。
「そうなのか・・・」
「そーっス!!」
「じゃあ次からはちゃんと気をつけるよ」
「ほんっとーに!! ちゃんと気をつけてくださいね!!」
「ああ、わかった。それと切原、
―――ありがとうな」
「え・・・? い、いやあのその・・・・・・」
「じゃあな」
「ってそれだけっスかあ〜〜〜!!!???」
手を伸ばし見送る切原君。いつまでそれを続けるのか興味深げに振り向いた私と―――彼の視線がぴたりと合った!
「あーーーお前!!」
「しーしーしー!!!」
伸ばした手でそのままこちらを指してくる切原君に、黙れ今すぐその口閉じろと合図を送る。ここで騒がれたら幸村部長に気付かれる!!
切原君も察してくれたのか、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「お前今の見てたか!? 幸村部長ひでーと思わねえか!?」
「あ、あーそーそーね。そー思うわじゃあそういう事で」
「だって俺は幸村部長助けたんだぜ? 第三者視点で俺は白馬に乗った王子様状態!!」
「・・・幸村部長は姫ではないデス」
「となりゃここはお礼っつー事でお茶の1杯くらいよお!!」
「どこの世界に見返り求めて頑張る王子がいるのよ」
「みんな見返りもらってるじゃねーか『結婚』っつー―――!!」
「アンタらはすんな!!」
ごがん!!
都合よくそこらに転がっていた一斗缶を両手で振り下ろし、ようやく切原君を黙らせる事に成功した。
口も体も動かなくなった切原君と別れ、再び幸村部長は1人になった。と、
ぴたりと止まる。私が。つまりは幸村部長が。
目の前にはのんびり流れる人ごみ。それだけをじっと見ていると、むしろ止まっているはずの自分が動いているような気がする。・・・続けると人酔いするから止めるけど。
止まったままの幸村部長で平衡感覚を元に戻す。戻そうとして失敗した。いきなり幸村部長が動き出して。
ゆっくり人ごみを掻き分け・・・
「ねえ君、今1人かな?」
・・・・・・適当にカワイイ女の子をいきなりナンパし出した。
(え〜〜〜〜〜っと・・・・・・)
コメント不能の事態。いっそ冷静に見ていたりすると、再び制止がかかった。
「ちょーっと幸村くん!!」
制服姿でいきなり登場したのは確か、山吹中テニス部の千石さん。・・・・・・山吹って、東京じゃなかったっけ?
「やあ千石。珍しいなこんなところで」
「なんか今日のラッキーな方角がこっちっぽくってさ、ラッキーが起こるまで歩いてたらここまで来ちゃった」
「来ちゃった、って・・・。都道府県越えてるぞ?」
「あれ? やっぱここもー神奈川? いっやー失敗失敗☆ 標識あんまなくってさ」
「見なかった、の間違いだろ?」
「ハハッ。言うねー」
超えたんだ。本当に超えたんだ。しかもこのノリだと徒歩でですか・・・? 標識ないって、異空間ワープしてきましたかアナタ・・・・・・?
突っ込みたいのを必死で堪える間にも話題は進んでいった。
「それはともかく幸村くん! 君な〜んで俺が目ぇ付けてたコ先ナンパしちゃうワケ?」
「もちろんその方が面白いからだろ?」
「うっわー出ました確信犯! 君いー性格してんねー」
「ありがとうな」
「ちなみにその子に興味は?」
「あるワケないだろ?」
「ひどい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
ああ・・・。勝手にナンパされて争いに巻き込まれて無視され挙句けなされて。あの子もまた可愛そうに・・・・・・って私より年上そうだけど。
走り去っていく少女を3人・・・もとい幸村部長と千石さんは2人で見送り、
「追いかけたら? 傷心中の子はすぐかかるよ?」
「ん〜。去り際ハンカチ噛み締めた顔が汚かったから却下」
「意外と細かいな」
「そりゃ観賞用だもん。汚かったら見る気失せるじゃん」
「ならもっと極上の相手狙ったらどうだ?」
「極上な相手は比例して落とすのも難しくってね。今のはただのつまみ。けど―――
―――ならそう言う君がどう? 君なら十分合格ラインだよ?」
をを!? 告りながら千石さん、幸村部長の顎に手当ててます! ここは一気に勝負つける気か!? ていうか2人ともここ人ごみの中だって憶えてます?
ぱしり―――!!
と音が響いた。手を振り上げた幸村部長に、赤くなった手を擦り笑う千石さん。
「裏拳は、真田くんだけの得意技にして欲しいな」
「お前なら避けられただろ?」
「いや今のはムリ。なんで裏拳が跡部くんのパンチより速いワケ?」
「まさかそんな事はないだろ? たまたま死角から来たからそう見えただけだろ」
「・・・だと良かったな」
ああなるほど。振り上げたからてっきりこれから殴るのかと思ったら、もう殴り終わってたんだ。
「で、コレが返事?」
「俺は妥協されたくはないからな」
「そんなどこぞの帝王様じゃあるまいし」
「だからお前も妥協はしないんだろ? 本気で俺狙いならもっとマシに誘ってる」
「・・・・・・ははっ。わりかし本気だったんだけどね。君とならそれも面白そうだ」
「それを『妥協』って言うんだよ。じゃあな」
「ばいば〜い」
それきり別れる2人。幸村部長も振り返りもしないし、千石さんも見送りもしない。代わりに壁にもたれ、もう一度手を擦っていた。
「だから言ったじゃん。『極上な相手は比例して落とすのも難しい』って」
横を(千石さんから見れば前かな?)すり抜ける時、そんな呟きが聞こえた。何か・・・・・・今までのへらへらさと違って、凄く寂しそうな・・・・・・。
・・・なんて思いながら通り抜けようとして―――
「ねえねえ君カワイーねv どう? 俺とお茶でもvv」
どんがらがっしゃーん!!
私は、腕を捕まれたのとは決して違う意味でハデに転倒した。
しつこく絡む千石さんを何とか振り切り、再度幸村部長を追いかける。駅前を通り過ぎ、逆に人気のない川べりへとやってきた。
土で固められただけの道を歩く。夕日が水面に反射し綺麗だった。さらにそれが反射する幸村部長もまた。
幸村部長も気付いたか足を止め川に体を向け、
・・・・・・ポケットからタバコを取り出した。もうコメント避けていいですか?
「止めんか馬鹿者おおおおおお!!!!!!!」
ばしっ!
「痛たっ・・・!」
(はいいいい!!!???)
土手の上から飛んできた真田副部長。土手を下っては来なかった。本当に飛んできた。動体視力は一般人並しかないけれど、それでも飛んでくる真田副部長のお姿はしっかり拝見させて頂きました!!
「・・・ああ真田。奇遇だな」
飛んできた知り合いにいきなり殴り倒され、それでも平然と答える幸村部長。他に何か言い様はないんですか?
「幸村!! お前は今何をしようとした!?」
「何って・・・・・・特に何も」
「嘘をつくな!! 今お前は違法行為をしようとしていただろう!!」
「違法行為・・・?」
「左様!! 中学生でそれは違法だ!! テニス部部長が自ら何をそのような行為に走っている!?」
真田副部長のご尤もなご指摘に、幸村部長はなぜか不思議げに首を傾げた。
「・・・・・・ああ。コレか」
きっかり5秒して首を戻す。持っていた棒を掲げ、
「学校で丸井にもらってさ。お腹空いたら食べろよって言われて、歩きながらだけどこの位なら平気かなって思ったんだ」
「む・・・?」
今度首を傾げたのは真田副部長だった。まあ、せいぜい眉間の皺1本増やしたくらいだけど。
掲げられた棒をじっと見つめる。するすると銀紙が剥かれ、現れたのはチョコレートだった。
幸村部長はそれをはくりと咥え、
「シガレットチョコ。お前なら世代的に知ってると思ってたよ」
「・・・・・・念を押しておくが俺はお前と同じ世代だからな」
「当たり前じゃないか。丸井だって知ってたんだからって意味だよ。何だと思ってたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
うわ。幸村部長の痛すぎる攻撃炸裂。答えたら自ら認める事に何をとは言わないけど!!
「でも真田もやっぱ厳しいなあ。食べ歩きでも怒るんだ」
話しながら、もう1本剥いていく。
「いや、違・・・。俺はてっきりお前が喫―――」
はく。
真田副部長の言葉は途中で止まった。差し出されたチョコを、反射的に咥えて。
「はい、これで真田も共犯者」
「〜〜〜〜〜〜//」
真っ赤な真田副部長に、こちらは普通の幸村部長。いつもどおり薄く笑う幸村部長の顔をじっと凝視した後、
「ま、まあ立ち食い程度なら大目に見よう」
「ありがとう、真田」
「う、うむ・・・。それでは、気をつけて帰れよ」
「むしろ君がね」
ぎく・しゃく・ぎく・しゃくと方向転換する真田副部長を見れば確かにそんな声をかけたくなる。帰りは普通に川べりを歩くらしい。他人の振りをしてすれ違う。ちょっとは怪しまれるかと思ったけど、全くその心配はなかった。
幸村部長に視線を戻すと、薄く笑ったまま再び棒を取り出した。片手で摘み・・・・・・火を近づける。まあ、世の中には160度の高温にさらしても溶けないチョコもあるし・・・・・・。
当てた先端が、ちりちりと燃え出した。いい感じで一筋白い煙が出る。実に良く出来たシガレットチョコだ。
指で挟み、慣れた様子でタバ―――じゃなくて棒を吸う。とても慣れきった様子。さては幸村部長、マニアだな☆
口からすぱーっと吐き出される煙。見上げた視界の中で、天へと上りそこで霧散した。口にドライアイスまで仕込むとは本格的な! 単純にソレやると口内大火傷だけど!! ちなみにドライアイスの元CO2は空気より比重重いから下に垂れ下がるハズだけど!!
幸村部長の顔が下へと戻った。何処へと消えていった真田副部長を目だけで追いかけ、
「騙される方が悪いんだよ、真田」
・・・・・・・・・・・・ハイすみません。彼の吸っていたのは正真正銘タバコでした。
タバコをのんびり吸っていた幸村部長。ふいに川を見下ろし、
「・・・ん?」
そこを流される子犬を見つけた。
タバコを咥えたまま適当な棒を見つけそちらへ近付く。ああきっとそれで引き寄せ助けるんだろうな〜そうだといいな〜・・・・・・。
棒を持ち、川寸前でしゃがみ込み。
「―――ほ〜ら頑張れ」
きゃいんきゃいん!!
さっすが幸村部長! 動物虐待なんて朝飯前だ!! カッコいいぞ☆
・・・・・・いやもう良いんですけどね。大体予想してましたというか端から期待してませんでしたから。
せっかく岸にたどり着きそうなところを棒で突付かれ引き離されていく子犬。精根尽き果てたかぶくぶく沈んでいった。まあこういう人に当たってしまったのが不運だったという事で・・・。
ざばしゃっ!!
いつからそこにいたのか、いつの間にかそこにいた人が川へと手を突っ込んだ。その手に捕まれたのはもちろんかの子犬。おめでとう子犬! 人生谷があれば山もあるんだぞ! これで喰われたりしたら谷しかない証明になるけど!!
その人が、屈めていた腰を伸ばす。随分背が高い。
「何やっとるとね幸村」
「やあ千歳。見たままの事だけど?」
その人は千歳さんと言うらしい。ついでに幸村部長の知り合いらしい。
千歳さんは子犬を下ろし、濡れた手を軽く振った。
「ほお。つまり喫煙して動物虐待しちょるだけじゃと?」
「まあそう見えるんならそうだろうね」
「・・・他にどう見ろと言うんじゃ?」
ああ全くその通りだ。
「それで? そう言うお前はどうしたんだ?」
「俺も見たまんまばい」
「わざわざ関東まで来て子犬助けか? ご苦労な事だな」
「いんや。これはついでとね。お前に会いたかったんじゃ」
「いきなり告白かい? 今日は随分されるな」
「残念ながら違うとね」
「違うのか。それは残念だな」
「俺は自分が怪我する付き合いはせん」
「俺は刺だらけの薔薇だ、と?」
「むしろフグじゃろ。無くとも美味いが猛毒持っちょる部分が一番美味い」
「だから食べたがるヤツが後を絶たない、か・・・」
「ここらで無毒になるんも手ばい。最近は毒なしフグも出ちょるからの」
「断るよ。食べられないから食べたがるんだろ?
それで? まさかこんな愚にもつかない話しに来たワケじゃないんだろ?」
「そうじゃったな。今度のウチとお前んトコの練習試合の打ち合わせに来たんじゃが―――」
「わざわざお前が? 部長はどうしたんだい?」
「たまには関東見物もよか思てな。代わりに来たばい」
「へえ。で?」
「来たんじゃが――――――まあそれは後でにするとね」
「何でまた?」
「終わらせたらすぐ帰らんといけんからのう。日帰りは面倒とね」
「なるほど。じゃあ明日か。待ってるよ」
「そうじゃな。明日な」
おかしいの。さっさと終わらせて報告ではウソ言えばいいのに。それともそういうの嫌なのかな? でも会っておきながらあえて伸ばす方がよっぽど悪いと思うけどね。
疑問は解けないまま、千歳さんは幸村部長の元から去っていった。ああ子犬は自力で逃げていったみたい。
―――あ、こっち来た。犬じゃなくって千歳さんの方が。
適当にすれ違う。同じ学校の制服とはいえ、まさか私が1人幸村部長追跡隊などやっているとは思わないだろう。
すれ違い―――
「―――人には知らん方がいい一面もあるとね。これ以上の深追いは危険ばい」
(バレてーら☆)
それはいいとして、
「・・・・・・そうですね。そうします」
私は、追跡を断念する事にした。黄昏時を過ぎ最早夜。魔が枉駕した後来るのは何なのだろう? そんな疑問を―――
――――――解決させたいとは絶っ対! 思わなかった。
△ ▽ △ ▽ △
ぱたぱたと足音を響かせ去っていく少女。見送り、『幸村』はクッと笑った。
「あれじゃ、付けてましたって宣伝しているようなものじゃないか」
顔へと手をやる。千石に触れられた時、とっさに弾いてしまったのは失敗だった。多分賢い彼にはアレでバレただろう。だから避けなかった。はたかれるのが顔ではなく手だと確信していたから。
顔にやった手を外す。つけていた、仮面と共に。
幸村の仮面を脱ぎ現れたのは・・・
――――――――――――銀髪の詐欺師だった。
2本目のタバコに火をつけ、軽く吸う。煙を吐き出しながら、詐欺師こと仁王は薄く笑った。
「じゃから言ったじゃろ? 騙される方が悪いんじゃ」
―――Fin
―――これは・・・実は仁王には会ってない? というか・・・・・・むしろ幸村に会ってない!?
そんな微妙な話でしたがいやあ幸村。上位候補のリョーガと跡部がカウント0になったのもあり、ずっとTopでしたねえ。彼の出る話そんなに書いていないような気もしましたが意外な人気でした。まさにダークホース。さらに上位陣を十把一絡げに書いたような感じですが(しかも幸村総受的状況でしたが)、この『幸村』だとあと跡部を徹底的にからかうという展開も可だったか・・・。どうでもいいですが『銀髪の』と付けるとなんっかどうしても違う人が出てくる・・・。
なお、今回の展開、内喫煙と動物虐待はこのサイト名の元になっている漫画にもありましたね。アレは夢オチでしたが。
2005.5.10