海水浴デート中の女子高生(リョガサエ+千石に遭遇) <後編>
さらに10分ほど眺め、じたばたがぴた・・・ぱた・・・となってきた辺りで再びあの海の家に駆け込む。
「すみません! 彼が沖に流されちゃったんです!!」
「これ頼みました!」
「後よろしく!」
他のバイトに仕事を押し付け出てきてくれたのはサエ君とリョーガ君。申し訳ありません本当に。
「どっち!?」
「あっち!」
「よし!」
指し示した方に猛ダッシュする2人。私が追いついた時には、もう海ギリギリに立って何とか姿が見えないか確認をしていた。
「あれじゃねーか!?」
波間に頭が僅かに見える。さっそく服を脱ごうとしたサエ君を、リョーガ君が止めた。
「俺が行くわ。お前後の準備してろ」
「・・・大丈夫か?」
眉を寄せ不信げに見るサエ君に、リョーガ君はにっと笑って親指を立てた。
「アメリカいた時から海で毎日泳いでたからな。それに俺じゃ引っ張ってきた後何すりゃいいのかわかんねえ」
適当に蹴って追い返せばいいだけのような気もするけど・・・。
思う私を他所に、サエ君は一息吐くとリョーガ君の背中をぽんと叩いた。
「じゃあ、そっち任せる」
「オッケー。行ってくるぜ」
「気をつけていけよ」
見送られ、リョーガ君はサエ君以上のペースで遠ざかっていった。
確認し、去りかけたサエ君。いきなりくるりと振り向く。目が合った。
「?」
何か聞くヒマもなく、
「ちょっと悪いけどそのままそこにいてくれないかな?」
「え? あ、うん・・・もちろん」
「サンキュー」
言いたかったのはそういう事じゃないような・・・・・・と考える私を置いて、今度こそサエ君は去って行った。
△ ▽ △ ▽ △
戻ってきたリョーガ君。背中では、彼氏がぐったりとしていた。
横たえさせ、サエ君が動き出す。あお向けにし、呼びかけながらぴたぴた頬を叩き、
「意識なし」
・・・半眼でリョーガ君を見た。
「ははははは。悪りい悪りい。助けようとしたら暴れやがったからよ、一発ぶん殴ってきた」
荒い息を落ち着けながら、リョーガ君は明るくぱたぱた手を振っていた。
「いいけどな別に」
今度は鼻の上に手を翳し頬を翳し、
「呼吸なし」
「まあ不幸な事故だった」
「人工呼吸決定だな」
「っええええええええええ!!!!!!!!!!!?????????」
「アホかお前は」
文句を飛ばすリョーガ君を一蹴し、サエ君は気道を確保した後持っていたのか借りたのか彼氏の口に薄い紙を当て、そこから息を吹き込んでいく。
規則正しく何度か吹き込み、その度に彼氏の胸は上下して・・・、
「ぅ・・・げほ・・・、がほっ・・・!!」
水を吐きながら、彼氏が復活した。
「大丈夫!?」
『彼の無事を喜ぶ彼女』として、サエ君の邪魔にはならないよう逆側から覗き込む。
「う・・・あ・・・、俺―――げほっ」
「無理にしゃべらないで! まだ水残ってるから!」
「水・・・?」
「憶えてない? 一緒に泳ぎにいって、流されて・・・!!」
相手に疑われないコツは必要最低限の情報しか与えない事。問われ、それに答えていけば相手の中でそれは自然と『真実』として捉えられる・・・・・・らしい。
「そ・・・か・・・! そんで俺溺れて・・・!!」
だんだん意識がはっきりしてきたらしい。うやむやにすべく、私は起き上がる彼氏に抱きついた。
「よかった無事で!!」
泣きじゃくる私を暫くなだめ、
彼氏はふいに首を傾げた。
「でも俺、なんで助かって―――?」
「あのね、こっちの2人が助けてくれたの」
手振りで示す。彼氏はようやく周りを見回した。膝を突き横に座っていたサエ君と、こちらは立ちっ放しで見下ろしていたリョーガ君を。
「お前ら・・・・・・」
呆然とする彼氏に、
「リョーガ君がここまで泳ぎ連れてきてくれてね、それにサエ君が人工呼吸までやってくれたんだよ!」
自分がやった事とはいえ、私は彼ら2人には本当に感謝をしていた。まさかここまでしっかりやってくれるとは!
そしてそれを聞き、実際助けてもらった彼氏は―――
「人口こきゅ―――!!」
―――口を押さえ、何度もごしごし拭った。
「てめーよくもそーいうキタネー事やってくれたな!! ざけんな!! 気持ち悪りーんだよ!!」
「え・・・? あのちょっ・・・・・・」
「オラお前もこーいうケダモンのそばにいんじゃねーよ!! 行くぞ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
もーちょっとはマシになるかと思ったんですけどねえ。
「じゃ1人で行って」
「・・・ああ?」
眉を顰める彼ににっこりと笑ってやり、
「性格の不一致ってヤツね。合わないわ私たち」
「お、おいちょっと―――!!」
「せっかく来たんだし、私もうちょっと遊んでから帰る。あなたは自由にして」
「お前本気かよ!?」
「極めて本気よ?
それじゃここで。バイバイ」
「・・・・・・・・・・・・あーそーかよ!! 俺もテメーとなんぞ離れられてせーせーするよ!! 女はお前1人じゃねーしな!! あばよ!!」
そんな捨て台詞を残してずがずが去っていく彼。う〜みゅ。初恋は3ヶ月で終了、か。
あんまり悲しくないのは納得した上で別れたからか・・・・・・それともただ単にまだ実感できてないからだけなのか。
「いいんですか?」
「ええ」
応急処置箱を右手に下げ立ち上がったサエ君。後ろにはリョーガ君も。
2人と向き合い、私はやるべき最後の事をした。
深く頭を下げ、
「本当に、ありがとうございました」
「いや?」
下げていた頭を上げ―――
パ―――ン!!!
私はサエ君に頬を打たれた。
2・3歩よろけ、立て直す。顔を背けたままの私へ、見ずともわかる笑顔でサエ君は言った。
「何でやられたのか、もちろんわかってるよな?」
「・・・・・・・・・・・・」
わかったのは別の事。彼は何もかもお見通しだった。
『「禁止区域ぎりぎりのブイまで泳いでいった女の子がいる」。朝から3回もそれで呼び出されましたよ』
とっくに『4回目』は行っていたらしい。だから万端の準備をし、それでも彼は待っていた。私がちゃんと知らせに行く事を。
顔を背けたまま、私はパーカーのポケットに手をつっこんだ。ごそごそと漁る。確かちゃんとあったはずだ。
(あった・・・)
それを拳で握りこみ、俯き彼へと差し出した。
伸ばされた彼の手に、落とす。300円。
「これは?」
問う彼は見ないまま1枚1枚指差し、
「1つ、絡まれてる私を助けてくれた。
2つ、溺れた彼氏を救助してくれた。
3つ、馬鹿な真似をした私を止めてくれた」
顔を上げ、私は笑いを浮かべた。泣き顔に見えたかもしれないけど、それは私にとっては最高の笑顔だった。
「ありがとう。本当に感謝するわ。あと一歩で、あんな男に一生を捧げるところだった」
もし殺したとしたら、たとえ事故扱いされようがあるいは捕らえられ刑罰(って未成年でも言っていいのか?)に処されようが、私は『罪』を一生背負って生きる事になっただろう。
了解したらしく、サエ君も微笑み―――彼の笑顔を、この時初めて見たような気がした―――小銭を握り締めた。
作った拳を縦にして、
ピン―――!
1枚、弾き出した。
放物線を描き、私の元へ戻ってくる。
両手で受け取った私に、
「なら200円でいいよ。止まったのは君の意志だ」
「え・・・? でも・・・」
「本当は、殺す気なんてなかったんだろ始めから? たとえ俺たちが行かなかったとして、君は自分で助けに行くつもりだったんだろ? だからあそこを選んだんじゃないのか?」
「・・・・・・なんだ。全部お見通しか」
「そういうのを見るとね」
苦笑する私に、こちらも苦笑してサエ君が指を差す。腕に巻いてたリストバンドを。紐を引っ張ると空気が入る、簡易浮き袋を。パニくられて2人で沈まないための安全装備。いざとなっても、彼氏に抱きつかせておけば暫くもっただろう。でもって―――食事中には巻いてなかった。
彼が溺れていたのは、先月私が『救助』された場所。1回来て大体の潮の流れとか特性とか掴んでたし、あの辺りなら多分大丈夫だろうと思った。
もう背中を向けてしまったサエ君。去り際に、最後の言葉を残していった。
「もしその100円もくれる気ならもう一回店に食べに来てくれ。もう少しマシな彼氏と一緒にね」
「―――はい!」
元気よく手を上げる私に満足したらしく、サエ君も笑って頷くと―――
―――もう一度こっちを向いてきた。
左手を胸元に当て、お辞儀してくる。『海の家準店長』の顔に戻り、
「またのお越しをお待ちしております」
「んじゃな。今度は俺とデートしようぜ」
スカーン!
△ ▽ △ ▽ △
店に向かって歩いていく2人を見送る。
「にしてもよー。何でお前アイツにキスしたんだよ」
「だからキスじゃなくて人工呼吸だろうが。大体それ言うんだったら先やったのお前じゃないか」
「は〜ん。それで焼きもち妬いて浮気? カ〜ワイ〜イね〜―――vv」
どごっ!!
「言ってろ勝手に」
「―――って今のお前マジで入れてきただろ!?」
「さ〜何の事だか」
「・・・・・・・・・・・・。
あーあ。俺ってば不幸だな〜。もっと違う子選んでたら今頃あんな事やこんな事も―――」
「ああリョーガ」
「あ?」
ちゅv
「〜〜〜〜〜〜//!!??」
「やられたらやり返せ、だろ?」
「・・・んだよ」
「ん?」
「違げえっての。
――――――10倍返しだ」
「へえ」
抱き合ってマウストゥマウスただしこれだと窒息確実つまるところディープキスをする2人。とりあえず店こんなにほっぽっといていいのかしら特にリョーガ君・・・とか思うけど、それを口にするほど無粋じゃないので見なかった事にして逆を向いた。
何だかんだあるけど、ああいうのを『お似合いのカップル』と言うんだろう。
(私もいつか見つかるかな?)
海へ入る。もうひと泳ぎしてこよう。戻ってきたときにはきっと、今までの事は全部洗い流せているんだろう。
そして私は、海へと思い切りダイブした。
△ ▽ △ ▽ △
2時間後。
『いらっしゃ―――』
ぼたがしゃん。
入ってきた人らを前に、佐伯とリョーガは揃って布巾と器を落とした。
1人は先程の女性だった。
「今日は。さっそく来ましたv」
「あ、ああ・・・」
「いらっしゃい・・・・・・」
あっさり立ち直った彼女。そこは別にいい。問題は、彼女の連れだった。
ウキウキ彼女に腕を組まれ入ってきたのは・・・
「やっ♪ サエくん、リョーガくん」
「千石・・・・・・」
「何やってんだ、お前・・・?」
「いや〜彼女が海で溺れててさ、助けてあげたら『ぜひお礼させてください!!』って」
「『お礼』・・・?」
「つーかどー見ても・・・・・・」
いろいろ思うところはあった。が、とりあえず結論は1つだった。
「(彼女、とことん人見る目ないな・・・)」
「(まーそー言うなよ・・・。幸せならそれでいーんじゃねえのか・・・・・・?)」
「(まあ、な。ついでに俺の稼ぎ伸ばしてくれるんだったら)」
「(・・・・・・鬼かお前は)」
「まーそんなこんなだから」
「これからよろしくお願いしますvv」
「は、はは・・・」
「こちらこそ、よろしく・・・な・・・・・・」
こうして、今日もまた取り立てて大した事件もなく1日は終わりを告げた。
―――Fin
―――うお。この主人公の『私』楽しいわ・・・。やっぱこの位イっちゃってる人はいいなあ・・・(暴言)。そしてこれが本当にドリー夢だったら不評は凄まじいものになりそうだ・・・。自分はこんなキャラにはなりたくない、と・・・・・・・・・・・・。
そして後半はそれから一転。頬を叩くサエが書きたい一心でこんな話になりました。彼氏に絶望振り向けばリョガサエがいちゃいちゃ。当分彼はいらない・・・と人生を悟る(誤)展開にしようかと思ってたんですけどね。
では、長々と皆様ありがとうございましたv なぜかリョーガの話だと『私』がちゃんとメインになりやすいなあ・・・。他の人だとただの傍観者なのに・・・。
2005.6.1〜2