タイヤ交換中の女性(跡部・佐伯従兄・金太郎に遭遇)


 お母さん大変です! 現在私は、日曜お昼の番組にあるコーナーの1つに出演、いわゆる
TRY娘になりました! 街行く若者に様々な事をやらせ平成の非常識を嘆くこの番組、いつもの料理なら自信はまだあるのに、なぜか本日は異色の『タイヤ交換』がお題です。
 運転歴2年の私、教習所でやった事は覚えてますがやった内容は覚えてません! ・・・ああ石は投げないで! だって運転でいっぱいいっぱいだったんだもん!!
 車相手に
30分格闘し、ようやっと工具を探し当てる事に成功しました! 探す過程でボンネット開けた時点で、スタッフの方には見切りをつけられました。
 取り出した工具を見て、
 「・・・・・・で、見つかったけど」
 「どうやって使うんだろうね?」
 一緒に乗っていた友人と、心の底っから不思議そ〜に首を傾げる私。スタッフの方の目線が痛いです。
 絶対無理だと判断し、道行く人に尋ねる事に。何か企画の意義を完全に無視してるきらいにありますが、何の注意もされません。もうとりあえず交換してくれたらいいみたいです。
 そんなこんなで声をかけたのは、
 ―――3人の青少年でした。





△     ▽     △     ▽     △






 「―――で、タイヤ交換して欲しい、と?」
 「そうなんですよ。お願い出来ません?」
 たまたま通りかかった彼らに事情―――というかタイヤ交換してくれないか?と頼み込む。ここは駐車場なので、通りかかった人はみんなある程度は車に詳しいだろうと思い声をかけたのだが・・・・・・よくよく考えてみると、駐車場には車に乗るためだけに来た人もいるワケで。話しかけたはいいけれど、そんな彼らはどう見ても最高高校生。内1人は確実に小学生。一応免許は
18歳からとはいえ、知ってる可能性は少なさそうだ。
 次の人を探そうとして、
 「ええですよ?」
 「別にタイヤ交換だけならンなに手間もかかんねーしな」
 「あ、俺やんの初めてや! やりたいわ!!」
 順に黒髪の青年、珍しい灰色の髪の青年、ラストが赤みがかったこげ茶色の髪の少年。とりあえず小学生はさすがに知らないらしい事は判明したが、
 (マジで、経験あるんだ・・・・・・)
 前2人は普通にやり方を知っている口だ。でなければこんな台詞が出るワケはない。
 ちょっぴり哀しくなってくる。車の修理というと男性のイメージだが、それにしても明らかに年下の子たちに敵わない私達って・・・・・・。
 感慨にふけっている間に、彼らはさくさく交換を始めてくれた。
 「え〜っと、まずはネジ緩めて〜・・・」
 「―――する前にちゃんとタイヤ固定しろよ。危ねーだろーが」
 「お前めっちゃ心配性やなあ跡部」
 「常識だ! てめぇが迂闊過ぎんだよコータ!」
 「えーやん。そない事故起こるんごく稀や」
 「その『稀』がここで起こんねー保障はどこにあんだよ?」
 「保障はない。ただし起こったところで俺らの車やあらへんから弁償する義務もない。
  気楽に行こや。な?」
 「ただしそういう事故起こるとまず最初に怪我すんのはそこにいるお前だぞ。しかも自分の不注意が原因だから保険も下り難いだろ」
 「さー張り切って安全確保しよかー!!」
 跡部君というアッシュ・グレイの青年に促され、コータ君という黒髪の青年がサイドブレーキを引き対角線上のタイヤが動かないよう適当な石を噛ませた。
 その間に跡部君はネジを緩め、
 「んで、ジャッキで―――」
 「ああ待ちいよ跡部」
 「あん?」
 「そこに人間ジャッキおるからやらせとき」
 指差され、私もその『人間ジャッキ』とやらを見てみた。先程から何もしていない小学生。その子も何を言われたのかわからないからか、自分を指差して首を傾げていた。
 「佐伯
  何やのその『人間ジャッキ』って?」
 「タイヤ替える間車持ち上げるんよ。工具でやってもええけど、お前ヒマやろ? 金太郎」
 「おうヒマやヒマや。めっちゃヒマや。
  俺やってええの!?」
 「ええで。その方が手間省けるわ」
 「せやったらいくで〜」
 「ってちょっと待て金太郎!!
  最初に言っとくが車倒すんじゃねーぞ!? ちっと持ち上げるだけだからな!?」
 「・・・・・・そーなん?」
 「ったりめーだろーが!! 倒しちまったらまた起こすのに手間かかるわ擦れて車体傷つくわすんだろーが!!」
 『ああ』
 ぽん。
 「・・・・・・てめぇも倒すつもりだったのかコータ」
 「一番の安全対策やろ?」
 「それこそ弁償モンだろーよ・・・」
 「命で金は買えんからなあ。
  仕方あらへん。金太郎、ちこっとだけ上げるんやで?」
 「つまらんわ〜・・・」
 2人で落ち込む、コータ君改め佐伯君と、小学生金太郎君。目の前で繰り広げられたありえないトークに、私はただただ目を点にするしかなかった。
 (人力で車持ち上げるって・・・いや、無理だろ・・・・・・)
 心の中でささやかなツッコミ。大阪人っぽい彼ら2人はもしやそれを待っているのだろうか? だとしたら2枚目(予備生)の見た目とのギャップは完璧だ。
 (・・・・・・・・・・・・って)
 『ええええええええええええええええ!!!!!!!!!???????』
 私と友人、スタッフ一同の声が綺麗にハモった。
 「ぁせーのっ!」
 気合が入ってるのか抜けているのかいまいち謎な掛け声で、本当に金太郎君が車を持ち上げるのを見て。
 「おーさすがや金太郎。そのノリで押さえといてや」
 「つーかてめぇも拍手送ってねえで手伝えよ」
 そんな、人間外コンテスト
No.1的所業を見せ付けられ―――いやだって、筋肉ムキムキ男ならともかく小学生よ!? しかもめちゃくちゃ細身の!!―――、なぜかやたら冷静な佐伯君と跡部君。
 手早くタイヤを付け替えネジを仮止めし、
 「オーケー。もう下ろしてええで」
 「ふは〜」
 佐伯君の合図に、金太郎君は本当にエアジャッキの空気が抜けるような声をあげゆっくり車を下ろしていった。
 「ご苦労さん」
 「あ〜、めっちゃ手痛いわ〜。掴むトコあらへんかったで?」
 「・・・そりゃねーだろ」
 「手ぇ真っ赤やなあ。皮剥けとらん? 指折れとらん? 無理やったら無理せえへんで全国大会の切符俺に渡せばええよ?」
 「嫌や!! 俺かて全国出たいわ!!」
 「出れるで? 応援団で」
 「嫌や嫌や!! 俺は全国で戦いたいんや!!」
 「応援合戦で戦うっちゅー手も」
 「そないモンは望んどらん!! 俺はテニスで戦いたいんや!!」
 「そやったら俺がなんぼでも相手したるで?」
 「嫌や〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
 「・・・わがままやなあ金太郎は。跡部とええ勝負や」
 「そーいう意味でのわがままなら確かに俺もなるけどな。
  つーかコータ。お前全国出場禁止だろ?」
 「せやからレギュラー欠員にして俺が代わりに出たろいう魂胆やん!! こないして全国前に全員潰せば俺にも桧舞台が待っとるんや!!」
 「ねーだろぜってー」
 「あ〜! なして年齢誤魔化してホストのバイトやっただけでそこまで罰食らわなあかんのや!? 酒は一切飲まんかったし揉め事も起こしとらん優良学生やで俺は!?」
 「お前の場合『有料学生』だろ。なんでもっと健全に新聞配達とかやんなかったんだよ?」
 「それやったら足りひんからや!! 東京来んのに新幹線やで!? しかも指定席!!
  ありえへんやろ!! ンなモン夜行バスで十分やん! 善意に頼ってヒッチハイクでも!!
  あ〜なして全国西日本でやってくれへんのや? こない行き方しか考えん顧問アホやろ」
 「せやけど佐伯〜。東京やから出れるんやろ? コイツ」
 「せやなあ。コジコジがそない事も言っとったなあ。どこぞの氷帝帝王は散々偉ぶって挙句関東緒戦で敗退した名前通りのアホやったと」
 「あー悪かったな!! どーせ特例で繰り上がった組だよ俺は!! ってかあの野郎その話どこまで広げた!?」
 「全国規模で有名やで。お前と手塚の試合言うたら雑誌でも特集組まれおったしなあ」
 「あ〜俺も観に行きたかったわ〜」
 「俺もぜひ」
 「ンなに俺らが負ける姿が見たかったってか!? あ゙あ゙!?
  おらさっさとネジ締めろよ!! 締めなかったら俺がてめぇらシメんぞオラあ!!」
 「うわめっちゃドス入っとるで跡部。そこらのヤン以上や」
 「なしてこないヤツが平然とシャバ歩いて俺が怒られなあかんのや・・・・・・」
 ・・・いろいろと大変らしい彼らも。とりあえず、最後のネジ締めが終わり、無事タイヤ交換も完了した。
 「終わりましたで」
 「ありがとうございます」
 片付けた工具を差し出してくる佐伯君。爽やか好青年の笑顔に私も笑顔で工具を受け取り、
 「・・・・・・まだ何か?」
 差し出したまま引っ込められない手を見下ろし、私はぱちくりと瞬きした。
 佐伯君は見た者にやたらな爽やかさを植えつける笑顔のまま、
 言った。





 「礼」





 「え・・・?」
 どごっ!!
 再びぱちくり。している間に、佐伯君は後ろからぶん投げられたタイヤに打たれ倒れ込んだ。
 後ろから無言でタイヤ(交換した分)をぶん投げた跡部君。片手で佐伯君の襟を掴み上げ、引きつった笑顔で慈悲深く懺悔の機会を与えて下さった・・・らしい。
 「で?」
 「いきなり何すんのや!?」
 「そりゃこっちの台詞だ!! 何礼なんぞ請求してやがるてめぇは!!」
 「労働に対する正当な報酬やん!! 俺はコイツのために働いたったんやで!? それ相応のモン貰うんは当然の事やろ!? 
JFの代わりや!! 安くしとくで!?」
 「だったらせめて最初に言ってやれ!! いかにも親切ぶって後から請求すんじゃねえ!! 詐欺スレスレだろーがそりゃあ!!」
 「何言うとるん!! 物買う時やって値段言われんのはラストやろ!?」
 「最初に値段は表示されてんだろーが!! しかもそれだったらまだ買ってねーんだから断れんだろ!?
  てめぇのそりゃ何だ!! 親切の押し売りじゃねーか!!」
 「救急車かて同じやろ!? こないだ病院運ばれてこの世に舞い戻って来て、請求書見てもっかい地獄に送り返されたわ!!
  えーやんそこまで法外な額やなかったら!!」
 「額の問題じゃねーよ!! 善意ならタダでやれ!!」
 「嫌や!! せっかく楽して金毟り取れる機会やで!? コレ利用せんでいつ稼ぐんや!?」
 そんな魂の叫びを上げると、いきなり佐伯さんはこちらに顔を寄せてきた。
 爽やかな笑みはどこへやら、悪徳業者特有のちょっとコビ売るふてぶてしいような笑いを口だけに浮かべ(そしてそれも様になるのは2枚目の特権だろう)、
 「そーやろお姉さんがた? 見たトコ何か後ろにカメラだの何だのあるし、あのタイヤイカれてへんかったトコからするとこら、どー見ても何かのテスト、ちゅーんと違います?
  出来へんかった恥を、まあ―――
1000円程度で俺らが買い取りましょか? それとも、
  ―――ただ出来へんかったどアホう
VTR流して、家族だの友人だのに散々笑われるようにします?」
 「おー佐伯凄いわ!! 強請り屋顔負けやで!!」
 「つーか・・・今コイツがやってる事は完璧強請りだろ。とりあえず・・・」
 やけに落ち着き払って呟く跡部君。佐伯君の背後にそそそ・・・と回り込み、
 どごすっ!!
 ・・・今度は脚による直接攻撃を仕掛けた。
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!???????」
 佐伯君が頭を押さえ地面をごろごろのた打ち回る。どうやらそれほど痛かったらしい。
 さらに視界の端に蹴転がし、
 「何かいろいろ申し訳ありませんでした。お代は結構です」
 「あちょお待ちいよ跡部!! 何自分勝手に決めとるん!?」
 「たりめーだろーが!! そーいう事ばっかやってっから全国出場禁止になんだろ!?
  テレビに映る!? てめぇの悪逆非道振りよけー広めてどーする!! 四天宝寺そのものが出場停止処分受けんぞこーいう馬鹿放し飼いにしてるって!!」
 「はあ!? そら佐伯はともかく俺は困るわ!!」
 「だろ!? だったら今すぐコイツ引きずってでもどこまでも遠くに連れてけ!!」
 「ラジャー!!」
 「金太郎!! お前俺よりソイツの味方するんか!?」
 「当たり前やん!! 俺全国めっちゃ楽しみにしとるんよ!? 越前君見てみたいわ!!」
 「おんどれー!! 覚えとれよー!! 謝礼払わんかった礼はしっかりさせてもらうからな〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 ずりずりずりずりずりずりずりずり・・・・・・・・・・・・
 こうして、ドップラー効果を引き起こしつつ佐伯君と金太郎君はいずこへと消えていった。
 1人残された跡部君。スタッフの方に近付き、
 「すみません。そんなワケで、俺たちが出てる辺りの映像消させていただけないでしょうか。もちろんその分の代金は払います」
 「あ、いや、あの・・・・・・」
 なんだか大人なやり取りに、むしろスタッフの方がたじろいだ。よっぽど彼らは世の中に揉まれてるらしい。
 と・・・
 パン!!
 「へ・・・・・・?」
 車から前触れなくした音に、間抜けな声を上げ私は車を見てみた。
 何の変化もない。・・・・・・いや。
 逆側に回ってみる。丁度先程石を噛ませた対角線上のタイヤ。それが見事にパンクしていた。
 よく見る―――までもなく、ゴム部分にキリが刺さっている。柄には短冊の如く紙が垂れ下がっており、そこには一言。





 《次は容赦せんよ》





 「あの、コレ・・・・・・」
 何かを求めるように跡部君を見やる。跡部君はわなわな震えていた。
 「あのヤロいつの間に・・・・・・!!」
 わなわな震え・・・・・・
 ・・・・・・ため息をついた。
 「まあ、タイヤ交換の仕方はさっきの通りです。道具もタイヤも出てますのでそれでお願いします。
  それと、これがタイヤ代です」
 「は、はあ・・・・・・」
 渡された、タイヤ代にしては明らかに多い代金。口止め料―――もといキリの買取代金も含むらしい。
 キリを引き抜き、跡部君は再びスタッフの方へと近付いた。
 「やられた事に対して数倍返しは当たり前のヤツです。流されたらテレビ局へ殴り込みかけると思われますが、
  ―――いくら請求されます?」
 「い、いや・・・。お代は結構です・・・・・・」
 「絶対流しません。神に誓います」
 「そうですか。ご協力ありがとうございます。
  では」
 「こちらこそ・・・・・・」
 極めて紳士的な跡部君。呆気に取られるこちらを放って去っていき・・・・・・
 
どごしゃあぁっ!!
 「何でこの俺があいつら従兄弟の面倒見てやんなけりゃなんねーんだよざけんな!!!」
 ・・・・・・駐車場を出た辺りで堪忍袋の尾が切れたらしい。陰からこっそり伺い見ると、左拳を突き出す跡部君の足元に、粉砕したコンクリートがばらばら崩れ落ちていた。
 『・・・・・・・・・・・・』
 無言で笑み―――それ以外の何とも分類されない、恐怖を通り越した表情―――を浮かべる私らとスタッフ一同。殴り込みをかけるのはむしろ跡部君の方だろうという事で意見が一致し、





 ――――――後日流された放送では、私と友人が大恥を掻いて平和に終わっていた。



―――Fin







 ―――本日のその番組では本当にこんな事をやっていたのです。こんなヤツらが通りかかったらすっげー迷惑だろーなあ・・・。
 そんなワケで、禁断の?佐伯従兄のコータこと佐伯虎太郎です。彼については【佐伯家の人々】でどうぞ。金にはうるさいですが跡部からかい率が少ない事から、跡部にしてみればまだマシな相手でしょう。2人揃って跡部に迫るのもいいなあ・・・。髪色除き顔は実の双子以上にそっくりな2人。跡部ならどっちを取るのやら。
 なお、ここは一体どこなんだという問いは持たないでいただけると嬉しいです。番組では地名が千葉っぽかったです。ただしそれだとコータは一体どうやって来たんだろう・・・?

2005.6.26