2006年幕開けです!!








1.テニプリの場合 ―――虎跡

 






 
1231日、午後1158分。除夜の鐘も回数を数えれば何回目かは鳴っているであろうこの時刻、佐伯は跡部の寝室にいた。
 そう。外。彼が今いるのは、窓から少しだけ突き出た桟の上だ。気配を殺してそこに腰掛け、長い脚を揺らしながら静かに時を待つ。
 待つのはもちろん午前0時。
2006年幕開けの瞬間。誰よりも早く恋人と時を分かち合おう。
 凭れかからせた窓から、肩越しに中を覗き込む。
 ベッドにて、跡部はパジャマを羽織り眠っていた。大晦日といえば一年で唯一夜更かしを許された日だが、どうせまた大掃除と新年の準備で扱き使われたのだろう。いつもより早いくらいだ。
 (それとも、期待してる?)
 佐伯の形良い唇から、小さな笑みが洩れた。そんな願いなら、神に捧げる前に叶えてあげようじゃないか。
 腕にはめた時計を見る。
59分。そろそろ行動開始だ。
 リストバンドの下から取り出した小さな工具―――針金を、窓のカギへと差し込む。大丈夫。このカギならもう何度も開けたものだ。1分あれば十分開けられる。
 意外だろうか? 慎重かつ負けず嫌いの跡部ならば、1回でも開けられればすぐにカギを替えるのではないかと。
 替えては開け、開けては替える。イタチごっこを
10回ほど繰り返し、そろそろ跡部もその不毛さに気付いたようだ。今ではもう替えられない。
 代わりに警戒心は解いていない。だからこそこちらも隠密に事を進める必要がある。
 なるべく音を鳴らさないよう、最後の回しはゆっくり行う。努力の甲斐あって、カギは僅かな軋み音のみで開いた。
 ここからは時間勝負だ。窓が開けば風が流れる。暖房もかけず停滞した空気の中、あまりにそれは目立ちすぎる。跡部の絶対支配領域内となれば尚更だ。
 最低限だけ窓を開けそして閉め。乱れた空気をさらに引っ掻き回すよう、滑り込ませた体をベッドまで一気に持っていく。同じ混乱なら、静寂の中よりまだ混乱の中の方が目立たない。
 枕もとで、佐伯は膝をつきしゃがみ込んだ。今だ眠ったままの跡部の髪を梳く。
 戯言を思いついた。これではまるで、姫を目覚めさせる王子ではないか。
 唇が再び吊り上がる。そんな役目は真っ平御免だ。
 (寝てる姫とのキスなんてつまんないじゃん)
 布団を捲り、代わりに左鎖骨下にキス。吸い付くが、特に反応はなかった。
 佐伯の目が細まる。実に楽しそうに。
 間違いなく跡部は起きている。元来神経質な跡部。元々2人で寝ていたならともかく、不躾な訪問者にここまでやられて起きない筈がない。
 (残念景吾。お前の考えなんてお見通しだよ)
 なかなかに難しいヤツだ。欲しいクセに自分からは言えない。待っていたのにそんな素振りは見せられず。
 何とか考え出した妥協案がコレなのだろう。寝た振りをし待機。キスをされたら今ようやっと起きましたと演技する。これで自分のメンツというかプライドは保てる。
 だが。
 「生憎と、お前のシナリオ通り動いてやる義理はないんだよな。
  さってどこまで我慢してくれるやら。あ〜楽しみだな〜♪」
 「・・・・・・・・・・・・」
 耳元で囁いてやれば、跡部はぴくりとも震えないまま額から汗を流すという器用な芸を披露してくれた。
 それでも起きない。どうやら勝負は買ってくれるらしい。
 遠慮せず先に進める。さらに布団を捲りその上に跨り、ボタンを外し今度は右の胸元に。
 「んっ・・・・・・!」
 跡が付くまでやってやれば、呻き声を上げ躰をよじった。
 暫く観察。まだ起きない。
 「やれやれ。相変わらず頑固だなあ」
 降参するように息を吐く。見えてはいないだろうが両手を上げ首を振ると、振動でも伝わったのか跡部が実に嬉しそうな雰囲気を垂れ流した。
 (ホント、単純)
 悪い意味でではない。嫌味ではあるが。
 実のところ、これで跡部は駆け引きの類が巧い。目的のために手段は選ばないが、決して目的は忘れはしない。過程に惑わされず、結果だけをどこまでも追求出来る。
 今回のやり取り、起きるか起きないかなどというのはどうでもいいのだ。大事なのは跡部視点で『自分は決してこちらを待ってはいなかった』という事実を作り出す事。このまま進めてしまえば『こちらが自分を求めてきただけ』という事になる。
 (危ない危ないっと)
 おどけて笑う。残念ながら、こちらも雰囲気に流されて押し倒してしまうほど駆け引き下手ではない。もう
15年こんなやり取りを続けてきたのだから。
 乗せられた振りをし、佐伯は跡部の頬を撫でた。
 ぴくりと震える。初めての自主的な反応だ。
 中央に寄る眉も、むず痒そうに動く唇も。それはそれは官能的ではあるのだが。
 躰を落とす。顔に近付け―――





 がぷっ!
 「痛ってえ!!!」





 剥き出しにした肩に噛み付いてやれば、さすがに跡部も悲鳴を上げがばりと起きた。
 「てめぇ佐伯!! いきなり何しやがる!?」
 こちらの襟を掴み詰め寄ってくる跡部。それこそキスでもしそうな至近距離。
 それを前にし、
 佐伯は笑顔で自分の頭と背中を指差した。そこでぴよぴよぱたぱた揺れるものを。濃紺の付け耳と尻尾を。
 「ホラホラ、狼ちっくに」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 今年の干支は戌である。だから一歩捻った展開を用意し、狼として襲いにきたのだ。
 愕然とし―――いやもうあまりにしょうもなさすぎてくだらなさすぎて、どこから声を掛けていいのか完全に不明な状況に陥り―――、跡部の手がだらりと垂れ下がった。
 「と、いう事で」
 もちろんその気を逃がさず、佐伯は再び彼の躰を横たえさせた。大きなクッションにぼふりと沈み込む。
 改めて上に跨り、極上の笑みを浮かべ。
 「
HAPPY NEW YEAR景吾。新年を祝って大人しく襲われてくれvv」
 「嫌に決まってんだろーが!!」







●     ●     ●     ●     ●








 その後、
30分ほどのジェスチャー交じりの議論により何とかお祝いに成功。さらにその後大晦日名物の格闘競技以上のルール無用[バーリー・トゥード]を行い、ズタボロながら死者は出ずに朝日を拝んだ。
 全身打撲と切り傷その他でボロボロながら、なぜかオプションは外さず佐伯が爽やかに笑う。
 「明けましておめでとう、景吾。今年もよろしくな」
 「何をどう『よろしく』すんだ・・・・・・?」
 今年もまた、跡部にとって謎の1年が始まった・・・・・・・・・・・・。



―――Fin




 
















●     ●     ●     ●     ●

 皆様、新年明けましておめでとうございます。今年最初の話はテニプリの虎跡。まるでリョガサエを捨てたかのような仕打ちですが、きっとリョーガはOPで暫し再起不能になったんでしょう・・・。
 さて戌年です。妄想する上では寅年・酉年と並んでしやすい年が来ました。狼といえばやはりサエ! リョーガと千石さんだと単純に犬になりそうだ!!
 そして裏的展開で虎跡。以前跡虎の【
SEXの果てに】で少し触れましたが、この2人だとまともに事が進まなさそうだ! 『レイプ』という言葉は存在しないでしょうね。『レイプ=相手を征服する手段だ』といった観念は。終わった瞬間にやられた方がやった方をぶん殴って第2ラウンド(対決の方)突入。時間がかかる割に回数が少ないのは殴り合いに時間掛け過ぎだから。終わった際むやみやたらに疲れている理由はとても人に言えたモンじゃない。そんな2人が大好きです!!



 ―――以上、年明け一発目から壊れてみました。
 今年もまたこんなノリで進みますので(断言)、皆様よろしくお願いします(ぺこり)。

2006.1.45