あらすじ
これは、主人公が突然異世界へと召喚され、救世主だ何だともてはやされてついでに争いに巻き込まれる、というファンタジーの王道そのものといった話です。ただしここまでは。
さて、我らが主人公、火流もみじはごく普通の(と評すると周りから石が飛んで来そうな)中学生であった。強いて人と違う点を挙げるとすれば、小さい頃から同じ夢を何度も繰り返し見続けていたという・・・・・・。
日々その悪夢にうなされる彼女は、ある日その気晴らしにと親友の戸張美夕に誘われ、遊びに出かける事になった。ところがそこで突然地震が起こる。それと同時に聞こえる謎の声。
来なさい―― 私の元へ・・・・・・
誘われるまま、導かれるまま『そこ』へ行こうとし―――彼女は気を失った。
ふと目の覚めたもみじの見たもの・・・・・・それは、どう考えてもありえないもののオンパレードだった。しかもいきなり現れた人型獣に襲われたりする始末。不条理な現実かつ絶体絶命のピンチを「ざけんじゃないわよ!!」と逆ギレして難なくくぐりぬけた彼女は、助けてくれた男の人に事情を聞いた。男曰く、ここは『魔術世界[ソーサルワールド]』と呼ばれるところで、彼女は人間と魔族の対立の途絶えない、この混乱した世界を救う救世主『巫子[ルナー]』なのだそうだ。
ンな事言われても知らん、と逃げ出したい彼女ではあったが、なにせ帰り方がわからない。しかもそんな彼女の意志を無視して事件は次から次へと起こる。
世界を救う以前に自分の身を守るため、彼女は訓練に明け暮れた。
そして半年後、一人前の(上級)魔術士として旅に出ていたもみじだが、そんなある日、泊まっていた宿屋に火を放たれ殺されそうになる。それを事前に彼女に教え、密かに逃がしてくれたのが後の相棒、宝来みかどだった。
彼の話によると、どうやら原因は彼女がルナーである事らしい。だが襲ってきたのは本来ルナーの敵である魔族ではなく、味方の筈の人間だった。これは一体どういう事なのか。そもそも『ルナー』とは何なのか。
詰め寄るもみじだったが、みかどはそれらには一切答えなかった。代わりに、自分の母親もまたルナーであり、自分が5歳の時人間たちの手によって殺された事と、それを受け継いで自分がルナーになった事を告げる。そして・・・・・・
ルナーとは場合によっては全世界をも滅ぼす事もありうる、と。
かくして何をどう間違えたかなし崩しに共に旅をする事になった2人。旅はおおむね順調(?)で、魔族・人間問わずよく襲われたりもしたが、圧倒的な力で全てをねじ伏せてきた。おかげで妙な噂が立ち、気が付くと名前を言っただけで恐れられたりもするようにもなったが、それはさして大きな問題ではなかった(ただしもみじにとってのみ)。
そして約2年。事態は最悪の方向へと向かっていった。各地で魔族と人間の小競り合いが起こり始めたのだ。今まで散発的に起こっていたのとはどこか違う。誰が裏を引いているのか、明らかにそれは仕組まれた争いだった。が、それに気付けたのはほんの一握り。ほとんどの人間・魔族が煽られるまま争いを続けた。
このままでは全面戦争が起こるのも時間の問題。
だが元々この世界とは違う世界の住人であるもみじ。人間と魔族の間に生まれたみかど。どちらの味方につく事も出来ず苦悩する2人は、自分達に出来る事は戦争を食い止める事だ、と人間・魔族混合で作られた戦争反対派のグループへと加わり、どうにか首謀者の作戦を潰していった。
が、そんな抵抗も虚しく全面戦争が始まってしまった。
そんな中、もみじは魔術士では最高の位である宮廷魔術士に襲われた。なんとか撃退したが、その理由がわからない。だがみかどは言っていた。母親が殺された時、一般大衆に混じって宮廷魔術士らしき者がいた、と。
理由を訊くため、現在傭兵募集中の城へ傭兵候補として行き、宮廷魔術士長、通称『プリンセス』と呼ばれる女性に会った。
問い詰めるまでもなく、自ら全てを話したプリンセス。が、その内容はあまりにも衝撃的なものだった。もみじもみかどと同じく人間と魔族の間に生まれた、極めて特異な子であり、存在自体が世界の滅びのカギであると言う。
同じ頃、単独で行動していたみかどは高位魔族の罠に遭い、最上級の洗脳術『血の契約』によって、戦争に魔族の味方として参加する事になってしまった。
人間側の傭兵として、これから襲撃を受けることが予想される街へ向かうもみじたち。その途中で会ったのは、10歳ほどの男の子だった。
見た目とは裏腹な力に戸惑う一同。だがもみじが驚いたのは別の事だった。少年の後ろに、マントとフード姿で立っていたのは、数日前から別々に行動していたみかどだった。
洗脳によりあやつり人形と化していたみかどは、少年の命令に従いもみじを抹殺すべく襲い掛かってきた。その攻撃をかわし、標的が自分1人だけならば、と他の人たちを先に行かせるよう少年に掛け合う。だが彼女のその訴えは無視され、こちらも攻撃を受けてしまう。援護したいところだが、みかどの攻撃は止まず、防ぐだけで手一杯。そもそもパートナーとして共に旅をし、世間一般からは2人とも強いと思われているもみじとみかどだが、その実力にはかなりの差があり、本気で対戦をすれば万に一つの奇蹟が起ころうとも彼女に勝ち目はない。
数十分が過ぎ、元々の実力差に加え体力・持久力の差も響き、もみじは追い詰められていた。あと一振り。みかどが剣を下に落とすだけで彼女の死は確実、というところで―――
みかどが動きを止めた。
自我が戻りかけているのか? もみじが話し掛けようとした瞬間、嫌な予感に襲われる。
そんなもみじの様子に気付き、彼女のことを突き飛ばしたみかどは、同時に現れた人影によって胸に剣を突き刺された。
みかどを操っていた少年、彼が魔族側の最高支配者・魔王だったのだ。
血を流して倒れるみかど。ぴくりとも動かない。
目の前の現実に耐え切れなくなってしまったがもみじの魔力が、ついに暴走し始めた。世界の滅びへのカギが、今開かれてしまった。
力を暴走させたもみじは、自分の精神[こころ]の奥底へと入っていった。そこで出会ったのはもう一人の自分、魔族としての自分だった。このまま取り込まれてしまえば楽になれるという『彼女』の言葉に従おうとして・・・・・・。
一方ぎりぎりで防御兼治療の術をかけて何とか死は免れたみかど。その目の前には完全に力を暴走させてしまったもみじの姿。このままでは確実に彼女は世界を滅ぼす。しかし直接の呼びかけは最早届かない。届かせるためには精神を直接繋げるしかない。
そこでみかどは賭けに出た。方法はもみじと同じく。精神の奥底に入り、そこから呼びかける事だった。だが彼もまた、精神の奥底には『もう一人の自分』がいる。生まれると同時に封印された魔力の大部分―――スキあらば体を乗っ取ろうと暴れる、かろうじて鎖に繋がれた獣が。
みかどは『彼』に体を明渡すことを条件に、もみじの精神とリンクしてもらった。
『彼女』に全てを任せて眠りにつこうとするもみじ。その頭にいきなり飛んできた何かがぶつかった。前に交換でみかどにあげたペンダント。
怒りと共に正気を取り戻したもみじは、逆に今まで否定しつづけていた魔族としての自分を受け入れた。そして収まる魔力の暴走。
またもみじ同様体の支配を失って眠りにつこうとするみかど。だがこちらもまた、信じられないことが起こった。『彼』が体の支配権を放棄したのだ。
なぜ、と問うみかどに、体[うつわ]には興味がないからと答える『彼』。『彼』が望んでいたのは鎖からの解放ではなく、生まれてすぐ分かれてしまった片割れ、みかど自身と1つになる事だったのだ。
神の巫子『ルナー』としてのもみじに、そしてみかどに課せられていたもの、それは自分自身を認め、受け入れることだったのだ。
使命を果たし、もみじはこの世界に来る前の姿、14歳の頃に戻った。そして、みかどにまた会う事を約束して、元の世界に帰っていった。
再びもみじが目を覚ましたとき、それは自分が気を失った次の瞬間であり、そこは彼女の元いた世界だった。
地震も収まり、美夕と無事を確認するもみじ。その手には、みかどからもらったペンダントが握られていた・・・・・・。
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微妙にシリアスなのかギャグなのかわからないあらすじでした。なお設定と共に読まれますと、少しはよりわかりやすくなるかと思われます。
余力があったら第2部へと続きます。今度は3年後。2人が17歳になってからの話で、もみじのいた世界が主体になるかと。
ちなみに魔王様生きてます。茶々入れるだけいれてさっさと去りました。まあ詳細はおいおい明らかにしていくつもりですが。
なおこの世界、『絶対正義』や『絶対悪』は存在しません。みんな自分の主義主張を通すためだけに自分勝手に戦ってます。強いていえば一番視点として近い主人公らが正義か・・・・・・。とことんヤな『正義』だなあ・・・・・・。
2003.4.2