「なあ、なんでこんな事になってるんだ?」

「あたしに訊かないでよ。知るワケないでしょ?」

「『知るワケない』わけないだろ!? きっぱりとお前のせいでこんな事になってんだからな!!」

全力で走りながらなされる会話。追い詰められ、逃げ惑うこの状況下にて、みかどはすぐ隣で不満そうに口を尖らせた全ての元凶に向かって思いっきり怒鳴り飛ばした。

 

 

 

ESCAPE GAME!

 

 

 「じ〜んせ・い・ら・く・だ・ら・け〜♪」
 下を向く自分の前から聞こえてくる調子っぱずれの陰気な歌に、みかどは思い切り顔をしかめた。普段無表情がちと思われるその顔が、明らかに歪む。だが幸いな事に、目の前も見えない真っ暗闇のこの状況下ではそれを見る者はいない。
 (むしろ見て欲しいけどな。まあ見た所で指差して笑うだけか。あいつは)
 『あいつ』―――そのヘンな歌を今も口ずさむ主に、見えないとわかってはいても半眼で問う。
 「何だ? その歌」
 「あたしの住んでる国で有名な歌」
 「それが?」
 何か恐ろしく問題のある歌詞のような気が・・・・・・。
 「―――の替え歌。ちなみに元は『じ〜んせ・い・ら・く・あ・りゃ・く〜もあ・る・さ〜じゃじゃじゃじゃ・じゃ・じゃ・じゃ♪』って感じ」
 再び陰気に響く歌。だがとりあえず歌詞は普通になった。
 「そっか・・・。よかった・・・・・・」
 「何が?」
 声でもわかるほどにきょとんとするもみじに、安堵のため息を漏らしたみかどが答える。
 「お前の世界の住人がみんなお前と同じ思考の持ち主なのかと思った・・・・・・」
 「どーいう意味よ!?」
 「騒ぐな暴れるな! 状況わかってんのか!?」
 「あんたがさせてるんでしょーが!!!」
 狭苦しい空間にすし詰め状態でがたごとと争う2人。見えない中勘だけで上からもみじを押さえつけながら、みかどは深く深くため息をついた。わざわざ思い出すまでもない。何でこんな事になったのかについては・・・・・・。

 

 

 

 

 

ψ     ψ     ψ     ψ     ψ

 

 

 

 

 

 数日間歩き詰めて、ようやく次の街にたどり着いたもみじとみかど。魔術士協会に挨拶に行った途端、仕事を頼まれた。
 なんでもここハーミサン・シティには、古くからこの地に住む一族がいるらしい。古い金持ちの家柄ではあるが、特に権力を持つ貴族の家系ではなく―――云々。まあこの辺りは特に依頼には関係ないので省略する。
 問題は、この家系が代々多くの有名な魔術士を排出しつづけてきたにも関わらず、家そのものはどこの魔術士協会にも属していない事だった。おかげで彼らが家でどのような事をやっているのか、それが一切不明となっていた。
 いくら才能のある血筋だとしても、そんなに何人も超一流の魔術士を生み出せるものなのか。もしかしたら人道に反した事をやっているのではないだろうか。そんな懸念を協会側が持っても当然だろう。しかし協会員が直接尋ねるわけにはいかない。そんな事をすれば怪しんでいるのがバレ、最悪その一族を敵に回す事になる。
 そこで今回、この一族の屋敷に潜入し、それを調べるのが2人の仕事となった。旅の何でも屋なら、いざと言う時協会側は切り捨て、知らぬ存ぜぬで誤魔化す事ができる。
 その一見利己主義の考えにもみじは猛反対したが、別にこれは珍しいことではない。しかも今回はそれを含めて、前金で相場以上の額を払うと言った。むしろ誠実溢れる協会長のその態度に、みかどは彼女の反対を無視して仕事を引き受ける事にした。
 実のところもみじには言わなかったが、みかどが引き受けたのはこの建前のほかに本音があっての事だった。聞かされた一族の名前。確かに有名な一族だった。魔術についてある程度学んだことがあるなら確実に耳にしたことがある―――いや、今やその名は子どもに語り聞かせる御伽噺にすら出てくる、それほどに知れ渡った名前。まさかその一族がこんなところに住んでいたとは。ぜひ一度訪れてみたい。
 ―――が、言わなかったのがマズかった。潜入捜査の結果、とりあえずなにやら危ない事はしていないようだった。やはりこの一族の実力というのは、魔族との契約や他者の魔力の横取りなどという上辺だけのものではなく、素質と努力に裏付けられたものであった。
 ひととおり調べて、今度は改めて訪問しようと決意を固める彼の隣で、今まで屋敷にあったものを物珍しげに眺めていたもみじが―――突如大絶叫した。
 「すごーーーい!!! 何これ何これ!!!? 意識容量[キャパ]拡大用の魔珠[オーブ]!? え〜〜〜!!? ど〜やってこんなの作んの!!?」
 目を輝かせ、鼻息を荒くして部屋に置かれていた紫水晶の球体に駆け寄るもみじ。まるで新しいオモチャを見つけた子どものようなその微笑ましい姿に・・・・・・みかどは完全に硬直した。
 『何これ?』という割にはその正体を一発で見抜いた彼女の知識には賞賛を送るべきだろう。そして騒ぎたくなる彼女の気持ちが理解出来ないわけでもない。自分もまたこの家に置かれた高い技術力を誇る魔具[ブッズ]や協会ですらまだ知られていない術や薬草などの知識が書かれた書物などには感嘆の声をあげた。だが・・・・・・
 「大声出すなーーー!!! 今は潜入捜査の最中だぞ!!?」
 みかどの注意と、
 ウィーン!! ウィーン!!
 『侵入者だ! 警備員は2班に分かれ、そいつらの発見と各所の警備に当たれ!!』
 警報音、そして伝声管を伝って屋敷中に伝えられた声は同時に響き渡った。
 「え!? ちょ・・・!! これはマズ・・・・・・!!」
 「逃げるぞ!!」
 「ラジャー!!」
 ・・・・・・かくて、2人は全面的にバカ娘の失敗が原因で警備員に追われるハメとなった。

 

 

 

 

 

ψ     ψ     ψ     ψ     ψ

 

 

 

 

 

 「・・・・・・で、どーするワケ? これから」
 とりあえず落ち着いたところでもみじがみかどを見上げ、小声で尋ねた。目が慣れてきたらしく、何とか自分の上で(もちろん直接乗っている訳ではないが)息を潜めるみかどの輪郭くらいは見えるようになってきた。
 現在2人がいるのは、倉庫らしきところだった。とりあえず人のいなさそうなところに逃げる中、適当に見つけたこの部屋に入り、物陰に身を潜めているのだが。
 ―――ちなみに2人の体勢については、最初に入ったみかどがもみじの首根っこを掴んで無理矢理隙間に押し込み、そして自分も入ったためこういう状態になったのだ。
 「どーする・・・って、お前も考えろよ・・・・・・」
 「あたしが考えたらあんたいつも文句言うじゃない」
 「お前の意見が突飛過ぎるからだ。たまには実現可能かつ常識的な範囲で考えろ」
 「けど今はそんな事言ってる状況じゃないでしょ?」
 そのもみじの言葉に、返しかけたみかどの言葉がふと途切れた。確かに今は少々無茶なことをしようととりあえずこの場を脱しなければならない。だが・・・
 「・・・って言う事は、既にその案そのものはあるのか?」
 「もちろん」
 自信満々な声で―――今度はかろうじて見える輪郭がガッツポーズまで取って―――言うもみじ。
 さらに暫し悩んで。
 「―――わかった。とりあえず言ってみろ」
 「あー! 何その言い草!!」
 「わかった。悪かった。言ってくれ」
 「誠意が足りない」
 「言ってくださいお願いします」
 「結構v あ〜い〜気持ちvv」
 「さっさと言え」
 静かな声に込められた本気の殺気を感じ、もみじは慌てて上に向けてぶんぶんと手を振って『案』を言った。
 「オーソドックスには強行突破?」
 「アホか?」
 「何で!?」
 「むしろその質問は俺がしたい。『何で』いきなり最終選択が出てくる?」
 「何だやっぱ結局そうするつもりなの?」
 「最終選択っていうのは他にど〜〜〜〜〜〜〜しようもなくなった場合にのみやむを得ず選ぶ方法だ。誰がいきなり選ぶか」
 むしろそれを基本的戦法[オーソドックス]と言い切った彼女の頭の構造を一回徹底的に調べたい気分にもなってくるが・・・・・・。
 とりあえずその欲求を無視して、みかどは彼女に『現実』を叩き込む事にした。
 「その案は不可能に近い。まずここの警備員。今まで見てきたところどうやらそれ相応の訓練は積んでる」
 「まあそれは見てわかるわね。けど何か術使ったら?」
 「そっちに対しても何か訓練はしてあると思うけどな。とりあえずそれも1つの手だ」
 「でしょ?」
 「―――が、ここで術を使うと居場所がバレて一気に押し寄せられる」
 「何で?」
 「・・・・・・お前ちゃんと屋敷の中見てたのか?」
 「見てたわよ!」
 「だったらいろんな場所に仕掛けられてただろ? 侵入者感知用の魔具が」
 「何かそれっぽいのはあったけど・・・・・・。じゃあ隠れてんのも意味なくない?」
 「いや。何を感知するのかはさすがにわからなかったが・・・・・・多分体温や呼吸、総じて気配といった類のものじゃない」
 「理由は?」
 「だとしたら屋敷の住人やそれこそ警備員が通るたび反応するだろ? それじゃいくらなんでもややこしい。
  多分あれは魔力を感知するんだと思う。あるいは構成か。まあ魔力の場合既に手後れだが・・・・・・それはいいとして。
  どっちにしろ、だから術は使えない」
 そう結論づけて―――ふとこの理論はどちらもハズレだったと気付く。魔族と人間の子どもという特異な存在である自分は、常にあふれ出ようとする『魔力』を抑えるため、封印用の『構成』を編んでいる。それでありながら今だに発見されていないところからすると―――
 (一部の構成にのみ反応する、か? だとしても結局攻撃用の術を使った時点でアウト、か・・・・・・)
 黙り込むみかどを見上げ―――もみじは第2案を言った。
 「じゃあ正直に名乗り出る、って言うのは? 別に悪いことしてるわけじゃないし」
 それを聞き、みかどは肩を落とした。
 (こいつに訊いた俺が馬鹿だった・・・・・・)
 「挨拶もなしに侵入した時点で俺達は犯罪者だ。向こうは十分俺達を捕らえる理由があるし、たとえ役所に突き出されたとしても俺達には反抗できる権利はない」
 「そこは心を広くもって」
 「無理だから。それに第一なんて言うつもりだ? 『何かいいお屋敷があったので興味本位に入ってみました』とか言い訳するか?」
 「それならちゃんと理由があるじゃない!」
 「ほお・・・・・・。ちなみにどんな?」
 「あたしたちは魔術士協会に雇われてのことだから、それを言えば責任は協会側に渡るわけだし」
 「・・・・・・・・・・・・」
 ね? と笑うもみじを見下ろし―――みかどはその細い首に人差し指を当てた。
 「何?」
 そのまま、つーっと下へ下ろす。
 「何? 何? って、ちょっとくすぐったいんだけど!?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 構わず下へ下ろし・・・・・・おなかの上で止めた。
 手の平をそこにべたりとつけ、
 「踏んでいいか? ここ」
 「止めてくださいお願いします」
 「全体重掛けて。ぐりぐりと。かかとでやってもいいし。ああ、つま先一気にめり込ますのもいいか。その上でジャンプするとさらに衝撃はアップするな」
 「止めてって言ってんでしょ!?」
 「理由は?」
 「え、え〜っと・・・。
  あ、ホラ。あたしこれでも一応女の子だから。肉体保持者の女の子は種族存続っていう生命の第一欲求の中で子どもを産むっていう大事な役目をになう必要があるワケよ。もし今あんたに踏みつけられて子宮とか卵巣とかどっかそこらへん損傷してその大事な大事な役目が果たせなくなったとしたらこれはもう一大事よ」
 「そしたら俺はお前の子孫になるかもしれなかった子どもたちに感謝されるな。お前みたいなのの遺伝子を受け継がずに済んだ」
 「何それどーいう意味よ!?」
 「そのまんまの意味だ。それに心配するな。生殖器以前に内臓が幾つか破裂して死ねる」
 「いやあああ!!! 殺さないでええええええ!!!!!」
 「なんならそこらへんの荷物抱えてより重量を増やしてもいいしな」
 「お願い〜〜〜〜〜!!!!! 止めて〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 狭苦しい場所でじたばたと暴れるもみじ。それを見て、みかどはふっと笑った。
 彼女からは手をどけ、
 「あんまり騒ぐと気付かれるぞ?」
 「だからあんたが―――!!!
  ―――もーいい。なんかさっきっからおんなじ事ばっか繰り返してるみたいだし」
 「ようやく『現実』を悟ったか。
  ついでに言っておくと、協会との関係は秘密にしろ、って意味での依頼料だったんだからな?」
 「ああ、なんだ。どうりで相場より高いって思ってたら」
 「・・・・・・・・・・・・」
 冗談なのか皮肉なのかそれとも本気なのか。さっぱり判定のつけようのない彼女の言葉に、
 (・・・・・・・・・・・・まあいいか)
 そう結論づけて、みかどは肩を竦めた。常識知らずで困るのは彼女自身と雇った側だ。とりあえず自分は困らない。
 「まあそんな感じで―――そろそろいくか」
 「行く・・・って、外に!?」
 「他にどこがあるんだ?」
 「け、けどだって外は人がうじゃうじゃ・・・」
 「時間が経てば経つほど向こうの態勢が整う分こっちが不利になる。なら出るのは今しかないだろ? 情報が混乱してる間は隙が出来易い」
 「混乱・・・・・・してるかしら?」
 「させるのさ
 薄く笑みを浮かべるみかどを薄闇越しに見つめ―――
 「へえ。面白そう」
 もみじもまた、小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

ψ     ψ     ψ     ψ     ψ

 

 

 

 

 

 『反応があった! 侵入者は4階通路だ!』
 『いや! こっちにもあったぞ! 2階客間だ!!』
 『複数犯か!? 3階物置にもあった―――が!?』
 『お、おい! どうした!?』
 『わか・・・らない・・・。いきなり・・・・・・後ろから攻撃、が・・・・・・』
 伝声管を伝って乱れ飛ぶ情報。幾つかある警備小隊の1つをまとめる男が、仲間のくぐもった声を聞き伝声管の送信マイクを放り捨てて怒鳴った。
 「こっちは陽動か!!」
 「はいハズレ〜♪」
 「な・・・!?」
 いきなり後ろから響いた少女の高い声。振り向く彼が見たものは―――地に倒れ伏した部下たちの姿だった。
 辺りを漂う仄かな煙。
 「これは・・・睡眠誘発草[スリープグラス]!?」
 慌てて口と鼻を布で覆う男。一瞬できたその隙に―――
 ガスッ!
 後ろ首に肘を落とされ、部下同様床に倒れ伏した。
 「こっちが本命v」
 男の後ろに立っていたもみじがにっこりと笑った。手には今だ煙を出しつづける包みが。もちろん男の言っていた薬草ではない。ただの煙幕だ。
 自分が倒した男達を見下ろし、そして自分が現れた方向を見やる。
 「もういいわよ」
 「―――相変わらずすごいやり方だな」
 そこから現れるみかど。もみじは包みの口を縛って煙を止めつつ、尋ねた。
 「そっちはどう―――って訊くまでもない?」
 「おおむねうまくいってるな」
 各所で報告されている『反応』。彼女自身はどうやるのかさっぱりわからなかったが、なんでもみかどは自分とは離れた場所で構成を編めるらしい。なお3階物置にて攻撃を仕掛けたものは彼の持っていた剣である。ルナーのみその所持を認められるこの特殊な剣は、実態を持たず持ち主の意のままに操れるという性質をもつ。
 現在役目を終えたその剣は、元の剣の形に戻って彼の腰に収まっている。
 「じゃあ、出口まであとちょっと。さくさくいきますか!」
 「だな」
 倒れた男達の間をすり抜け、2人は廊下を疾走した。

 

 

 

 外まであと少し、屋敷を囲む城壁が目の前に迫ったところで―――
 「えええええ!!!? 何この城壁の紋様!!! すっごい細かい!!! しかも何年経ってんのよ作られてから!!!?」
 「おい!!!」
 「はっ!!」

 

 

 

 

ψ     ψ     ψ     ψ     ψ

 

 

 

 

 

 

 ―――結局犯行は『研究内容を狙った謎の魔術士グループ』の仕業という事にしておいて、魔術で城壁をぶち壊して逃げてきた。
 事件が明るみに出る前に協会へ報告を終え、そのまま街を出た。
 協会とその一族の関係がその後どうなったのか―――それについては知らない。
 街から遠く離れた小高い丘に、今2人はいる。

 

 

 

 

 

ψ     ψ     ψ     ψ     ψ

 

 

 

 

 

 「さ〜ってそろそろ昼か・・・・・・」
 集めた枯れ木を小山にして、その周りに串刺しにした魚数匹を突き立て、丁度いい石に腰をかけみかどはふ〜っと息を吐いた。
 魚を見て、枯れ木を見て、さらに視線を上げる。枯れ木の1.5mほど上には、両手両足を縛られ木から逆さ吊りにされたもみじがいた。

 「いやああああああ!!! 下ろしてえええええ!!!!!」
 空中でびたばたと暴れるもみじ。その姿は今釣ったばかりの魚を彷彿とさせる。
 「・・・・・・・・・・・・」
 暫くのんびりとそれを眺めてから、再び視線を下ろす。
 短い呪文を唱え、枯れ木に火をつけた。
 ぱちぱちと木のはぜる音がし、煙が上にたなびいていく。
 「あ゙あ゙あ゙〜〜〜!!! 何かケムい!!? 目がしみる!!! のどが痛い!!! 臭いが服に染み付く!!! ってゆうかこれは燻製!!??」
 そこそこに激しくなっていく煙。その上でより激しくもみじが暴れだした。
 「・・・・・・・・・・・・」
 魚が焼きあがるまで、それを暫く鑑賞する。

 「お願い〜〜〜〜〜〜!!!!! 助けて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 喉が痛いわりには大声で叫ぶ彼女に向かって、
 みかどはにっこりと笑った。
 「頑張れ」
 「い゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!」
 さらに暴れ方がアップする。だがその程度で逃れられるほど甘くはない。どうやら縄抜けの方法は知っているようで、手やら足やらをいろいろ動かしてはいたようだが、藻掻けば藻掻くほど結び目はより締まるようになっているし、抜けられる縛り方でもない。縄を断ち切って出ようとも考えたようだが、術で縄の強度は上げてある。彼女の腕で経ち切れはしない―――とは言わないが、一点集中という言葉を知らない彼女ならばこれだけのものを切ろうと思えば確実に自分ごと傷つける。水の系列の術を使って火を消そうともしたようだが、こちらの焚き火も火の系列の術。2人とも火との相性が最もいい以上この勝負の結果は目に見えて明らかだった。それならば、と風の結界で煙から身を守ろうともしたようだが、この辺り一帯の風は既にこちらが支配下においている。挙句にこちらに直接攻撃を仕掛けようともしたようだが―――まあそれは構成が完成する前にナイフを投げて牽制しておいた。掠めた頬から時折思い出したように血がポタポタ垂れている間は、無謀な攻撃をもう一度やろうとは思わないだろう。
 「さて・・・・・・。そろそろ魚が焼けたか」
 串を手にとり、焼け具合を確認する。程よく焼けたようだ。
 「あ゙あ゙!? 髪の毛に火がつく!!? 自慢の髪があああああああ!!!!!!」
 彼女の瞳同様燃え上がるように赤く長い髪。おさげにして垂らしたその先端が、燃え上がる炎に飲み込まれた。
 それは無視して荷物から塩を取り出し、その上に軽くかけるとみかどは太った腹にかじりついた。焼きたての身がほくほくしていて美味しい。
 「1人でズルイ〜〜〜〜〜!!! 食べさせてよ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 この状況下でも食べ物の請求が出来る彼女を尊敬しつつ、再びそれにかじりつく。
 それを食べながら、空を見上げた。空の碧さが目に心地良い。
 「次の街はどんなだろうな・・・・・・」
 「ケムい!! 本気で苦しい!!! そろそろ死ぬかも!!!」
 これから自分(たち)の進む方を見やり、みかどはのんびり呟いた。
 「た〜〜〜す〜〜〜け〜〜〜て〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」

―――旅は続くよどこまでも・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ

 さて始まりましたオリジナル。そんなこんなで完全に常識の欠如した爆裂少女の主人公と冷酷非情な苦労人の相方が旅をしていきます。
 そして冒頭にて彼女の歌っていた歌・・・。アレですな。某時代劇の。高校の頃、友達がこう歌ってたんですけど2日の夕食時、どんな話にしようと考えてる中ふと思い出して思い切り吹き出しました。家族はなんとかごまかしましたが。なつかし〜なあ。この歌・・・・・・。

2003.4.2〜3