「もらったああああ!」
 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!???」
 「へへん! ざまーみろ烈兄貴!! これで兄貴は俺のモンだ!!」
 「こ・の・・・・・・馬鹿豪――――――!!!!!!!!」
 どすごすごすがすごすごす!!!!!!





 色気完全0のやり取りにより行われた行為。没した豪を踏みつけ、烈は様々な意味を篭めた赤い顔で首を押さえた。キスマークのつけられた、首筋を。
 「どーすんだよ・・・。絶対この位置見えんじゃん・・・!」
 常になく焦る烈。焦る理由は実に簡単だ。明日は体育がある。制服なら学ランを着て誤魔化せばいいのだ。しかしながら体育でそれは難しい。ジャージのファスナーを閉め襟を立てる手もあるが、普段やらない自分がやれば『何かあります!』と堂々宣伝しているようなものだ。
 「それとこれというのも全部コイツが―――!!」
 言いかけて・・・・・・はたと止まる。
 あるじゃないか。いい方法が。
 キスマークを隠せ、尚且つ豪に復讐する手段。
 にんまりと笑う。
 「豪・・・・・・、この俺を敵に回した事、向こう軽く1週間は後悔してもらおうか・・・・・・」










秘密の上手な隠し方








 あくる日・・・・・・。
 「おはよう・・・」
 「おはよ―――ってどうしたんだ烈!?」
 「烈君! 何があったの!?」
 教室に入るなり、烈はクラス全員の混乱と心配の視線を浴びた。思惑通りに
 もちろんそれは微塵も出さず、
 問題の首筋をそっと撫でる。問題の・・・・・・・・・・・・包帯の巻かれた首筋を。
 「実はちょっと・・・、ね・・・・・・」
 曖昧な笑み。曖昧な物言い。如何にも何か隠していますという様。
 そして―――
 『首筋』・『傷(包帯)』・『事情を話したがらない』
 ――――――ここまでそろえば誰だって同じ考えに辿り着くだろう。即ち・・・・・・自殺未遂、と。
 クラス全員の額に汗が浮かぶ。気まずげにチラチラ送られる視線。
 彼ら彼女らの頭の中では今、この事態をどう対処するか必死に考えられていた。都内トップクラスの高校生らの頭脳明晰な頭で。
 が、
 それに太刀打ちするたった1人は、彼ら全員を束ねなおかつそれを軽く上回る頭脳の持ち主だった。
 哀しげに苦笑してみせる。
 「ごめんね、心配させちゃって。僕は大丈夫だから、気にしないで。ね?」
 「星馬・・・・・・」
 本当は辛くてたまらないんだけどみんなに迷惑を掛けたくないから頑張って微笑むよ僕・・・・・・と、彼を見た全員の頭をそんな言葉が駆け抜けていった。実際彼がそう言ったワケではないのに。
 いやだがしかし待て。本当にそう言っていないのか? そう言い切れるほど自分達は彼について理解しているのか?
 考えろ。自分達は彼について何を知っている? いつもいつも頭がよくって頼りになる、そんな強い彼だけではないか? 弱音を洩らす彼はありえないと無意識の内に抹消しようとしていないか?
 彼はサイボーグではないだろう? 彼は自分達と同じ人間だろう? ならば辛い時だって苦しい時だってあるものだろう? それを支えるのが『友人』だろう?
 「烈! 何かあるんだったら俺達に言え!」
 「そうよ! 1人で悩みこまないでよ!!」
 喚き立てる。少々強引なやり方。これでは言葉を促すどころかますます殻に閉じ込めさせるだろう。普通なら。
 烈は一筋縄ではいかない。それがここにいる全員の彼に対する共通認識だった。普通に聞き出そうとすればそれこそ殻に閉じ篭られるだろう。烈のプライドは半端でなく高い。同情は彼に対する最大の侮辱だ。
 だからこそ―――こうして脅迫じみたやり方で自白を促す。彼の自尊心を傷付けないよう。
 いきなり騒ぎ始めた周りに烈が焦った。笑みを消しパタパタ手を振って、
 「べ、別に本当に大した事じゃないんだ。別に僕は豪の事は―――っ!!」
 慌てて口を塞ぐ。しかしながら、彼に対して最大限の注意を払っていた一同。まさか今の台詞を聞き逃したワケはない。
 「『豪』・・・・・・が?」
 「お前の弟が・・・・・・どうしたって? ええ?」
 全員の肩から立ち上る怒りのオーラ。自分達の大切な友人を辛い目に遭わせたのだ。いくら彼の大事な弟だろうが決して許しはしない。
 烈もオーラを感じ取ったらしい。焦りが倍増された。
 「ち、違うよ・・・? 豪は関係ないんだ・・・ねえみんな・・・・・・!!」
 必死に弟を庇う烈。涙を誘う光景に、実際に涙を流す者もいてみたり。
 その中で、涙を流さなかった者はさらに烈へと詰め寄っていった。
 肩を掴み、
 じっと見つめ、
 ―――ふわりと優しく抱く。
 「え・・・・・・?」
 「そんなに思い詰めんな。大丈夫だから。
  お前に何があったのか、それはもう訊かない。けどこれだけは覚えててくれ。
  ―――俺たちはみんな、お前の『友人』だ」
 「佐久・・・・・・」
 抱き締める銀髪のクラスメイト。周りではみんな力強く頷いている。
 「みんな・・・・・・」
 烈の瞳に、涙が浮かぶ。震える烈の頭をぽんぽんと撫でるクラス代表ことかの少年。
 涙を零す代わりに、
 烈は今まで閉じ込めていた言葉を洩らした。
 「襲われたんだ・・・・・・」
 「え・・・?」
 「豪に・・・。
  僕は嫌がったんだけど、無理矢理キスしてきてそれで・・・・・・」
 言葉が消える。口の中でモゴモゴ続ける烈。みんなに勇気をもらったとしても、それでもこれ以上はとても言えないのだろう。
 話しながら思い出してしまったのだろうか。両腕で体を抱き締めている。無理矢理震えを抑えようとしているようだ。
 あまりに痛々しい姿。
 落ち着かせるように、烈を抱いていた少年が静かな声音で囁いた。
 「だったら、その首のもか?」
 「ううん・・・・・・」
 静かな声音にいざなわれたように、烈の硬直も解ける。
 「これは、僕がやったんだ・・・・・・。
  こんな事になっちゃって・・・どうしていいかわからなくって・・・・・・。誰にも打ち明けられないし、他にどうしようもないし・・・・・・」
 今度こそ言葉が消える。全て吐き終え、烈はようやく涙を流した。
 周りに溢れる怒気が、
 一気に爆発する。
 「許せねえぜ豪!!」
 「烈になんて事したのよ!!!」
 「烈の仇は俺達が討つ!!」
 「地獄の底に叩き込んであげるわ!!」
 ・・・・・・常々『都内トップクラス』という看板に相応しくない言動が問題視される生徒ら。現在の彼らは、見事なまでにそれを象徴していた。
 手に手にカッターをはさみをバッグをモップを長箒をイスを机を割ったガラスを挙句に教卓を持って出て行く一同。
30秒も待つことなく、1階上にある1年の教室から轟音と悲鳴と怒声とその他いろいろが伝わってきた・・・・・・。












































 「豪、死んだかもな」
 今だ抱き締めていた―――『仇討ち』に出なかった少年・佐久許が、顔を上げつつ呟いた。抱き締めていた手を外す。彼の腕の中で烈は―――
 ―――ひたすら大爆笑していた。
 「あ〜っはっはっはっはっは!! 面白い!! 特にお前の寒い演技が!!」
 「その台詞はそっくりそのままお前に返す。あまりに面白いから乗ってやったんだけどな」
 「―――それで、結局何だったの? その首のって」
 同じく『仇討ち』に出なかったせなが首を傾げる。
 「ああコレ?」
 笑って、
 烈が包帯を取っていった。もちろんその下にあるのはキスマーク。
 『・・・・・・・・・・・・』
 予想通りのそれに無言で固まる2人のそばで、
 「―――まあ、一応嘘は言ってなかったワケだね」
 「当り前じゃないか。僕嘘は嫌いなんだよ」
 「・・・・・・アンタ1回自分の言動振り返ってみた方がいいよ」
 こちらも『仇討ち』に行かなかったマリナが長々とため息をついた。





 ―――『襲われたんだ・・・・・・。豪に・・・。
     僕は嫌がったんだけど、無理矢理キスしてきてそれで・・・・・・』



 それがどういう状況だったかは不明だが、『それで』の先に入れる言葉は多分『だから殴り倒した』辺りだろう。



 ―――『これは、僕がやったんだ・・・・・・。
     こんな事になっちゃって・・・どうしていいかわからなくって・・・・・・。誰にも打ち明けられないし、他にどうしようもないし・・・・・・』



 確かにこんな事を考え包帯を巻いたのは烈だろう。
 確かにどうしたらいいかわからないだろう。1度ついてしまった鬱血痕。自然消滅を待つしか出来ない。
 確かに誰にも打ち明けられないだろう。一瞬の油断が死を招いたなどという烈にとってこの上なく屈辱であろう事など。
 確かに他にどうしようもないだろう。隠す以外は。





 「ウチのクラスって何でこうバカばっかなんだろうね?」
 「『友情』に熱いからだろ? まさか『友人』が騙すなんて微塵も思わないさ。普通は」
 「いい嫌味ありがとうv」
 「でも―――
  ―――豪君も随分思い切った事をしたものね。何もそんな焦って人生縮める必要はないと思うんだけれど・・・」
 「・・・・・・。アンタのもさりげに嫌味だよ、せな」
 「そう?」
 「とりあえず、俺達に出来る事は1つだな」





 そして、教室に残された4名(−1名)は葬儀で払う香典の値段について論じ合った・・・・・・。







†     †     †     †     †








 翌日。
 「聞いてくれーーー!!!」
 首といわずどこといわずどこもかしこも包帯だらけの豪が教室に入って来た。
 涙を流し訴える。
 「俺はただ烈兄貴にじゃれついただけなんだ!! なのにこの有様って何なんだよ!!??」
 訴える、彼に・・・・・・
 ―――返って来たのはクラスメイトの冷たい眼差しだった。
 「豪、アンタサイテー」
 「お前星馬先輩襲ったんだって?」
 「じゃれつきだとしても、物事には限度ってモンがあるでしょうが」
 「違――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――う!!!!!!!!!!」





 かくて、
 最初に烈が宣言した通り、豪は『軽く向こう一週間』をあっさり通り越しその後3ヶ月ほど後悔させられるハメとなった。



―――Fin!













†     †     †     †     †

 え〜っと、この度祝☆初レツゴというか豪烈つながりでリンクさせて頂きましたサイト様で、このような一節があったのです。『首筋にバンドエイド=キスマーク』と。おお! 改めて考えてみれば確かにその通りだ。(偏った)世の中にはそんなお約束があるぞ!?
 さて考えよう。ここに世のお約束は片っ端っから裏切らなければ気の済まないどこぞの烈兄貴(を日々妄想する管理人)がいる。彼なら一体どのように攻略するのか。
 ―――考えた結果がこの話でした。しっかし・・・『首筋に包帯=自殺未遂』って・・・・・・。兄貴・・・、そこまで豪にしてやられたのが悔しいのか・・・・・・!?
 そんなこんなでリンクしてもらいました記念? 勝手に書き上げた時点で全く感謝の意は表せていないような気もしますが、気に入って頂けたら嬉しいなあ・・・・・・。

2004.11.24