赤ずきん



〔赤ずきん=烈 オオカミ=豪 おばあさん=ミハエル〕



 「あー・・・。 腹へったー」 
 そのような事をぼやきつつ子オオカミ・豪は、山道沿いを歩いていました。青髪青目と珍しい容姿の持ち主であるこのオオカミは、幼くして親とはぐれ、以来ずっと一人で生活していました。
 するとー―ー
  「お?」
 豪の目に、山道を軽やかに歩く子供の姿が映りました。周りの緑とは決して相容れない赤のずきんを被った、それでいてなぜか自然の一部として観る者を錯覚させる、そんな子供でした。
 豪は幼い頃から独りだったため、狩りの基本は後ろから忍び寄ることであるなどとは知らず、素直にその子供に呼びかけました。
 「あーかーずーきーんーちゃん♪」
 「え?」
 それが本名ではあるまいに普段からそう呼ばれているのかその子供・赤ずきんはすぐ振り向きました。そのはずみでずきんが取れ、豪の目に素顔がさらされました。
 ずきんに負けない程きれいな赤い髪と目、長いまつげ、白くきめ細やかな肌、子供特有の艶やかな唇が開きー―ー
 「なんだ、オオカミの子供[ガキ]か・・・」
 「へ・・・?」
 あっけに取られ、硬直する豪をよそに、赤ずきん―――烈は軽くため息をつき半眼のまま言葉を続けました。
 「で? いったい何なんだよ?」
 「・・・ちょっと待て! オレのどこが子供なんだよ!?」
 日頃よほど大人びていると言われているのかはたまたその逆か、豪は頭に血を上らせ怒りました。しかし烈はひるむことなく豪に近づき、ぶつかる程に顔を接近させました。
 (え・・・?)
 豪は赤くなり、自分でも訳のわからないドキドキに襲われました。が、
 「やっぱガキじゃないか。歯だってロクに生えてないし」
 「ひでででででで!!!」
 片手で豪の口を開き、烈は呆れたように言いました。
 「で? だから何なんだよ?」
 「え・・・。えと、あの、その・・・」
 「何だよ? 早くしろよ」
 「あ・・・。ど、どこ行くんだ?」
 外見と言動のギャップに脳がなかなかついていけず、豪はバカ丸出しの質問をしてしまいました。当り前の話ですが、いくら子供とはいえオオカミに襲うチャンスを増やさせるような真似をする人はそういませんー―ーが、
 烈はにっこりと笑って言いました。
 「おばあさんのところ。この山奥に住んでるんだけど、なかなか外に出られないからお見舞にv」
 「へえ、山奥に? そりゃ珍しいな」
 (となればそのおばあさんってやつのとこ行って喰っちまえば、あとはコイツが来るのを待ってるだけでー―ー)
 豪にしては珍しい頭脳プレーなどを考えてみましたが、それにはまず赤ずきんを足止めする必要がありました。自分はオオカミとはいえまだ子供、赤ずきんも子供とはいえおばあさんの家を知っている以上まっすぐ向かわれてはヘタをすれば先に着かれてしまいます。
 「そ、そうだ赤ずきん。お見舞いっつったらやっぱ花の1つでも持ってなきゃな。オレいい所知ってるから案内するぜ!?」
 必死に足止めー―ーもとい道草をさせようとする豪でしたが、烈の反応はいたって冷たいものでした。
 「はあ? なに言ってんだお前。 お見舞いなら花と果物は常識だろ? 俺がそんな手抜かりすると思ってんのかよ?」
 烈は言葉と同時に持っていたカゴから見事な花を取り出しました。そのはずみにカゴを覆っていた布が落ち、中には烈の言葉通り果物、お菓子、それにー―ー
 「・・・なんで、酒?」
 「・・・え?」
 「なんで見舞品の中に酒なんて入れてんだよ!? んなモン飲ませたら良くなるどころか一気に悪化すんだろーが!!」
 「あ・・・」
 烈は口に手を当て、考え込むように黙ってしまいました。さすがに言い過ぎたと思ったのか、豪はそっぽを向き頬をかきました。
 「ま、まあ親から渡されたんだろーし、入っちまってたモンは仕方ねーよな」
 それを聞いて烈はきょとんとしましたが、すぐその可愛らしい笑顔を豪に向けました。
 「そうだね。ありがとう」
 そして、微かに頬を赤らめよりそっぽを向く豪の手にやさしく酒の入ったビンを握らせました。
 「教えてくれたお礼。僕は飲めないけど、とってもオイシイらしいよ」
 「へ? ああ、サンキュ」
 「それじゃね」
 手を振って去っていく烈を見送り、豪は酒ビンを持った手を見つめました。赤ずきんと触れ合った一瞬を思い出し、酔ってもいないのに赤くなった頬を手でグリグリとさすりへへっと笑いました。
 そしてオオカミはその場に座り、酒ビンを開けました。







♪   ♪   ♪   ♪   ♪








 オオカミと別れて少し歩き、烈は立ち止まると目を閉じました。全神経を嗅覚に集中していると、程なくして少し甘酸っぱい酒の香りがただよってきました。
 「さああああああって・・・」
 再びずきんをかぶっていた烈は、その下からのぞく小さな唇に薄い笑みを浮かべ、ずきんの裏側―――普段は目に付かない小さなポケットに手を入れました。
 手を出した時、烈の手には細くて丈夫なロープが握られていました。







 

♪   ♪   ♪   ♪   ♪








 「こんにちは、おばあさん」
 「やあ烈くん。よく来てくれたね」
 左手にズルズルと重いものを引きずり笑顔であいさつする烈に、あばあさんことミハエルもまたごく普通の笑みを返しました。ミハエルは、おばあさんといっても金髪で緑の目をした可愛らしい人です。
 「今日もお見舞に来たよ」
 「ありがとう。ボクは君が来るのをすっごく楽しみにしてるんだ」
 「その事なんだけど、ごめんなさい。おばあさんの好きなあのお酒、来る途中で
使っちゃって
 「えええ〜〜〜!? 楽しみにしてたのにー!」
 『飲んだ』でも『こぼした』でもないことにカケラも疑問を持たず、ミハエルは口を尖らせ烈に文句を言いました。
 「でも安心して。そのおかげでいいモノが手に入ったから」
 にっこり笑いロープをたぐりよせる烈。その先には先程の子オオカミがついていました。
 「へえ、青髪? めずらしいね」
 「でしょ? 僕もそう思って。肉もまだ軟らかそうだし」
 「じゃー今すぐ剥いで売らなきゃ。皮はともかく肉は硬くなっちゃうし」
 「え? 売っちゃうの? これから冬だし使えばあったかいのに」
 やはりずきんだけではそろそろさすがに寒いのか、不満げに言う烈に、ミハエルはちっちっちと指を振りました。
 「何言ってんの。こんな子供じゃ君の分だけしかなさそうじゃないか。それよりもこれだけ珍しいんだから高値で売れるよ? そのお金で改めて買えばいいじゃないか」
 「あ、なる程。さすがおばあさん」
 感心する赤ずきんに、笑いながらハサミと包丁を取りに行くおばあさん。幸い、眠ったままの子オオカミはこの話を聞く事はありませんでした。


――おしまひ。
















 いやあ、思いついて2時間で完成させた話。きっかけはテレビを見ていて赤ずきんをかぶった子がかわいーなーと思っての事。最初は赤ずきん=烈、オオカミ=ブレット、となるとおばあさんはエーリッヒか!? 喰われるのか? エーリッヒが? ブレットに!? ⇒ オオカミ=烈、ならば喰われるの(別名赤ずきん)は当然豪か、ハッ! ならばあばあさんは? やはりミハエルか? だがそれでは喰われるのはむしろ烈!? 危うし烈!?
 と、いうことでこのキャストとなりました。会話以外は童話風にほのぼのと読んでいただければ幸いです。
 ところでこの話、文章校正すると、特に豪君のセリフに指摘はいりまくります。見ててちょっと笑。