静かなる嵐の中で 〜Feel my Soul...〜
始まるお泊まり。料理は結局30分ほどの言い争いの後、2人で作ればいいじゃんということにようやく気付き一緒に作る事になった。その間にも押し付け合いとか押し付け合いとかいろいろあったが、まあそんなものは些細な事だ(多分)。
その他特に問題はなかった。両親は海外転勤が多いため実質不来の一人暮しなのだが、それでもマンションは元々不来家親子3人が住む予定であったためかなり広く、それなりの物は揃っている。片付けをし、風呂に入り(もちろん別々に)、いろいろとお互いの近況報告をし・・・・・・
問題は、この後起こった。
・ ・ ・ ・ ・
「え〜!? なんで〜!?」
「なんでもクソもあるか!! なんでもう中学生やっちゅーんに今更一緒のベッドで寝なあかんねん!! 他にもベッドあるんやからそっち行き!!」
「いいじゃないか!! 以前泊まりに来てた時は一緒に寝てたのになんで今回は駄目なんだよ!! ちなみに以前泊まりに来た時は中1の4月から8月だったと思うけど!?」
「何でもや!!」
「不来のケチ!!」
などなどと、レベルが高いのか低いのか明らかに低いであろう言い争いをする烈と不来。会話の内容からわかるであろう通り、揉めているのは寝床についてだった。一人息子としてわりと普通の事であろうが、不来の部屋は1人部屋である。当然ベッドも1つ。さすがに客間まどというものの存在しないこの家で、烈は彼の両親の寝るベッドで寝るか、さもなければリビングのソファを簡易ベッド代わりに寝るかの選択を迫られ―――どちらも拒否していた。
「何ンな俺の部屋こだわっとんねん」
「同じ部屋じゃなかったらお泊まりの意味がないじゃないか! お泊まりの醍醐味をまさか知らないとは言わせないよ!?」
「せやなあ・・・。夜中までだらだらくっちゃべるっちゅーんがセオリー―――」
「違うよ! 夜中油断して先に寝た相手の口と鼻塞ぐのが醍醐味なんじゃないか!! それでパニくる相手見るのが!! 同じ部屋じゃなかったら確認できないし、入った音とか気配とかで気付かれるじゃないか!」
「ちゃうわ!! お泊まりのたんびに殺人未遂やらかしてどないする!!
・・・・・・ちょい待ち。まさか思うけどな、
―――せなに同じ事吹き込まんかった?」
「ああ、そんな事で盛り上がったりもしたね」
「お前かい原因は!! 日中危うく殺されかけたで!!」
「わあおめでとうv じゃあぜひ1日に2回殺されかけてみるのも―――」
「やりたない!!」
「ケチケチ思いっきりケチ〜〜〜!!!」
「ケチで結構コケコッコーや!!」
久々の試合で存分に疲れていた2人。ある意味不来の集中力切れは現在起こっていた。ついでに烈の忍耐切れも。
なおも暫し5歳児以下のケンカをした後、その間何が起こったかボロボロのパジャマで荒い息をつきつつ不来がぽんと手を叩いた。
「せやったら布団持って来るさかい下で寝たらええやん」
「やだよ」
「・・・・・・? 何でや?」
「だって―――
不来に見下ろされて寝るなんてそんな屈辱この僕が受け入れられるワケないじゃない!」
「お前せやったら帰りーや!!」
三度始まる超低レベルゲンカ。試合の流れそのままに、最終的にそれを制したのは烈だった。
「と、いうワケで、
今日明日とよろしくね、不来vv」
「くっそ〜・・・!! なして今回3連休なんや・・・・・・!!!」
うつ伏せで寝転ぶ不来の上に跨り、関節を極めつつにっこりと微笑む烈。こうして、騒々しかった1日目が終わる・・・・・・
・・・・・・にはまだ少し早かった。
・ ・ ・ ・ ・
「寝られへん・・・・・・・・・・・・」
『先に寝たヤツ殺人未遂』発言をしていた割に、烈はベッドに入るや否やいきなりくこけっと寝こけてしまった。やはり今日の対戦は疲れていたのだろう。それは今呻く不来も同じく。
が、
くぴー、すこけー・・・と、そんな寝息を立てているワケはもちろんないがイメージ的にこんな感じで寝る烈。逆側を向いてはいるが、その分必然的に体全体はこちら寄りになる。まだまだ小さな体の2人とはいえ、シングルベッドで全く触れ合わず寝るのは至難の技。不来も逆を向けば絶対背中が接触する。
そんなワケで烈の方を向きかろうじて隙間を空けている不来だったが・・・・・・
烈に取られた枕の代わりに自分の腕を頭の下に敷く。ぶん取ったクセにあっさり枕から頭を落とした烈は、丁度見下ろすのにいい位置となっていた。
(あいっかわらず、変わっとらんなぁ・・・・・・)
小さな顔。滑らかな肌。長い睫毛。形のよい唇。
(ビミョ〜に半開きな辺り寝ててもコイツは嫌がらせしたいんかい・・・・・・)
まるで誘うように。もしも今、誘われるがまま身を少し起こし顔を近づけられたら。もしも今、隙間を0に出来たら。
(強姦やで、それは・・・・・・)
自己ツッコミを入れため息をつく。それがかかったのだろうか。烈が首を僅かに竦めた。
「ん・・・・・・」
「ゔ・・・・・・」
(しもた・・・。起こしてもうたか・・・・・・?)
思い、思う。起きるのと起きないの、どちらがまずいんだろう。彼が今起きて、こちらの顔を見たならきっと言うのだろう。「不来ってば顔やっらし〜v 何考えてたの?」などと。からかいのつもりで、全くからかいとなっていない言葉を。そして己の言葉をからかいだと思っている彼はまた眠るのだろう。自分の隣で、またも無防備に。
余計に悪化する状況。だがここでこちらも言ってしまえば事態は『好転』する。「だからここで寝るな」と。隣でさえなければこんな不埒なとしか言いようのない考えもすぐに消えるだろう。少なくとも表面的には。
(『内的コントロールの天才』なあ・・・。出来るんやったら身体[からだ]やのうて感情[こころ]のコントロールが出来たかったわ・・・・・・)
まずい。ちゃんと今日会う前にしっかり確認しておいた筈だ。親友として、好敵手として会うのだと。
離れている間に、けじめはつける筈だった。そのために、両親に付いてイギリスまで行ったというのに。
会った烈が、いつもどおりだったならば自分もそのままでいられたのだろう。あんな・・・・・・
(泣きそな顔、しとらんかったらな・・・・・・)
わかっている。その原因が、ただ『友達』とまた離れるのが嫌だというだけだと。
わかっている。一緒に寝ようと言ったのだって、前のように接したいというだけだと。
今こそ弟と一緒に住んでいるそうだが、中学に入ったばかりの頃は1人きりで家にいた。それまで家族と離れた事のない烈には、独りきりの家は慣れるものではなかったようだ。たった5ヶ月の間に、何度も泊まりに来ていた。
ただそれだけだ。烈にとって必要なのは、いつもぎゃーぎゃー遠慮なく言い争える友達であり、間違ってもこんな馬鹿な想いを抱えた存在ではなく。
「それになあ・・・・・・」
ほとんど吐息と区別がつかない程度の呟き。中身はそれ以上に意味のない呟き。
「こいつは―――」
と・・・・・・
「ん〜・・・・・・」
―――人間は寝ている間に32回寝返りを打つなどと言っていたのは誰だっただろう?
寝返りを打った烈が、隙間を完全に0にした。
「サイアクや・・・・・・」
まるでこちらの胸元に顔を埋めるようにして眠る烈。肩を竦め、両手でぎゅ〜っとパジャマを掴み。
何を夢見ているのか嬉しそうに笑う彼を見下ろし、
堪えきれずに、不来は軽く噴出した。
「なんや、ウワキ気分やな・・・・・・」
烈の頭を抱き寄せ、ぽんぽんと撫でる。この程度ならば許してもらえるだろう。明日怒るようなら言い返せばいい。「抱き枕と間違ごた」と。
いっそ開き直って面白げに口端を吊り上げる。やはり長い前髪で今回も隠された目元がどんな表情を湛えているのかはわからないままだった。
不来の腕の中で、こちらは布団に顔を隠した烈は、
「・・・・・・・・・・・・」
本当に薄くながら、やはり口端を吊り上げていた。
・ ・ ・ ・ ・
次の日、敗者復活戦[コンソレーション]に向け早くも練習を再開した千城、そしてとりあえずお疲れ兼関東出場おめでと記念で部活休みの風輪。
「終わらた連絡するからな、それまで適当に時間潰しといてや」
「頑張ってねv フザけて居残りとかなんないようにしてね。僕がヒマなんだから」
「おう! 頑張らいでか!!」
「方言違うそれは江戸っ子」
千城学園前で別れる2人。不来はこれから部活、烈は初めて来たこの辺りの探索である。当初部活は午前中で終わりのため午後から2人で見て回ろうという計画だったのだが、「不来に自慢タラタラ説明されるのがムカつく」というなかなかにわからない理屈により、烈はハンデとでもいうか午前中先行して見回ることになったのだ。
テニスバッグを肩から下げ、千城のジャージ姿で学校に入っていく不来。彼に借りたリュックを背負い、地図片手に来た道を引き返す烈。共に笑顔で―――なぜか不来の方は引きつっているようだが―――別れる2人には、
―――何も、不自然なところはなかった。
・ ・ ・ ・ ・
2日目の夜。
「なあ烈、お前家帰れや」
「え・・・・・・?」
目も合わせずいきなり言われた事に、烈はきょとんと首を傾げてみせた。
見られなくてよかった。聡い彼のこと、今目を見られていたら間違いなくバレるだろう。自分が混乱している事が。
「なんで? まだ休みは明日まであるじゃない」
別に休みの間ずっと泊まるなどという約束をしていたわけではないけれど。
それでも、この休みの間くらいは一緒にいたかった。
「ええから。帰れ」
構わず繰り返す不来。
(最低やな、俺・・・・・・)
中途半端な同情心で手を差し伸べて、向こうも伸ばしてくればその手を振り払い。
それでも、このまま今日もいると自分が抑えられる自信がなかった。より傷付けるのならばいっそ浅いうちに解放すべきだろう。
互いに引かず何分経ったか。無言のやり取りは、有言のそれより遥かに早くカタがついた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
「―――っ!?」
自分で言っておいてなんだが、あっさり引かれたのが嫌で。いつものように、暴れてごねて実力行使で言い聞かせられたらまだよかったのかもしれない。そしたらまだフザけで片付けられた。何も変わることはなかった。
自分が引いた線から烈が引き退き、結果としてそれは二度と埋められない隙間となった。
「じゃあ、今までありがとう。お世話しました」
無理した声で言う皮肉混じりの冗談。思わず顔を上げた不来に、烈は綺麗に微笑んだ。
(情けない姿で、別れたくはないからね)
泣いて縋れたり出来たらよかったのかもしれない。暴れたりごねたり実力行使に出たりするよりは効果があるだろう。恐らくもう1泊を許されて・・・・・・
・・・・・・埋められない隙間に底冷えした自分の体を自分で抱きしめつつ眠るのだろう。
精一杯の強がりで。いつもどおりのフリをして。
手早く荷物をまとめ玄関先にて、烈はもう一度だけ振り向いた。
「バイバイ、不来」
今生の別れの合図。次会う時、限りなく近い形は造り出せても今と同じ形は出来はしないだろう。
笑顔のままの烈。その目は―――昨日の対戦後見た、そのままだった。
泣きそうなのに、泣きたいのに、それでも笑う。
―――そんな姿が見たかったんじゃない。
「不来・・・・・・?」
ノブを開けようとした烈の肩を掴み、扉へと押し付ける。
「痛っ・・・!!」
がん、と響く鈍い音。顔をしかめる烈を無視し、
不来は一瞬だけ、2人の隙間を0とした。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」
離れた唇を埋めるように、烈が指で触る。その顔は真っ赤に染まっていた。多分自分の顔も似たようなものだろう。
それを見せないように、不来は烈の両肩に手を置いたまま顔を伏せさせた。
「これが・・・、俺の気持ちやから。
これ以上、お前とおると何するかわからへんから。
だから・・・・・・帰れ」
そして、嫌って欲しい。めちゃくちゃに怒り狂って、自分の顔など2度と見たくないと言って欲しい。
弱みを見せまいと必死に笑い顔を作ってまで『友達』だと言い張りたいのなら、いっそ絶交して。
暫く泣いて、大嫌いだあんなヤツなどとグチを零して―――そして自分の事を忘れて。
(苦しむだけの友情は、もういらへんのや・・・・・・)
そう、思う不来。
だが―――
烈はそれでも『苦しむだけの友情』を選んだ。
「うん。僕もだよ・・・・・・」
心にもない台詞。いや、不来の事は好きだ。友達の中では1番だろう―――あくまで『友達』の中では。
「ホンマ・・・・・・?」
「うん・・・。だから、大丈夫だから。だから・・・ね・・・・・・?」
例え何をされても、それでも一緒にいれられるのなら、構わないと思った。それが何よりも、誰よりも不来を傷付けていると、わかっていながらそれでも―――
―――この手の温もりを、離したくはなかった。
「ありがとな、嬉しいわ・・・・・・」
今にも泣きそうな顔で微笑む不来。罪悪感と安心感をその胸に抱えたまま、烈は優しく抱き締められた。
烈を抱き締め、肩に顔を埋めた不来は、
「・・・・・・・・・・・・」
そこから何も吐き出さないように、噛み切れるほどの力で唇を噛み締めていた。
―――『渇望』 終わり
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
さってサブタイというかタイトル隣の英語の訳がどんどんかけ離れていっています。ちなみに今回は『想いを感じて』と願っているという意味で『渇望』。どっちの、かは外しておきますが。
そして次もまたどうせ更新に長期間かかるので(って私が開き直ってどうする)、ひとつだけバラしておきます。何もやってませんこの2人はキス以上は。いきなりここで裏突入はどうしても嫌でした。やっぱ両想いになって初めてあんな事やこんな事はやってください!!
・・・って自分なに力説してるんでしょうねえ? でもやはりいくら据え膳とはいえ(爆)傷物烈兄貴をそうとわかっていながら何かやるようなそんな人として最低的行為は不来にはやって欲しくないなあ、と。それこそ彼曰くの『強姦やで、それは・・・・・・』になります。というかンな事出来るんだったら1日目にとっくに襲っているでしょうが。
はい、本編でもあとがきでも長く語ってきました序章。いよいよあと1話(もしかしたら前後編くらいになるかもしれませんが分類すればそれでも1話)になりました。ついに告った不来。自分を想ってくれる人と自分が想う人。どちらと一緒になった方が幸せになれるのか。このシリーズはそれが裏テーマ―――となる事もなさそうです。
では次はラスト、いよいよ今までめちゃくちゃないがしろにしてきた豪サイドも含めた話です。さて烈兄貴の『幸せ』は一体どこに?
2004.3.26
P.S.そういえばこの『歌』。元はテニプリ不二周助デビューアルバム<eyes>より。『feel my soul 〜闘いの中で〜』です。『CROSS WITH YOU』(こっちは跡部の1stシングル)とどっちにしようか悩んだのですが。そして『cross』の意味に『不正な・いかさま』などといった俗語的なものがあったのを知りますますこっちにしたかったのですが・・・・・・。
・・・・・・結局どちらであろうと歌とは全く以って何の関係、絡みもありません。