1031日。ハロウィン。

カトリック系の中学ではないここ千城学園中等部の学生寮でもまた、この日はちょっとした騒ぎが起こっていた。





           
ハロウィン受難 Right Selection




 「『TRICK and TREAT』!!」
 「帰れ」
 学生寮の一角、角っこにある一人部屋にて不来は目の前の存在に向かって即答していた。転校生で他に相方もいないという理由での一人部屋。厳密には自分より7ヶ月前に転校してきた者もいるのだが、いくら知り合いだろうとさすがに男女同室にするのは学校倫理に反するという事で一人になったのだが・・・・・・今はつくづくその事に感謝したい。
 ―――他に人がいなくてよかった・・・・・・。
 「え〜。何で〜!? せっかく会いに来たんだよ!?」
 「会いに・・・ってお前なあ・・・・・・・・・・・・」
 は〜〜〜〜〜〜っと、深いため息と共に話し相手―――烈を見やる。
 「そのアホな仮装は何やねんとかとっくに面会時間過ぎとるんにどーやって入ったんとか普通に学校いっとったら今この時間には間に合わへんやろとかいろいろ突っ込みだいトコあるっちゅーより突っ込まずに済むトコあらへんやんとか思うんやけどとりあえずな、
  ―――何やねん。『
TRICK <あんど> TREAT』っちゅーのは」
 「言葉そのままの意味だけど?」
 「招いたった上にイタズラされるんかい、俺は」
 「恩仇協議会会員
No.5としては当然の如く」
 「ちょい待ち」
 爽やかにめちゃくちゃな事を言い切る烈を、手を挙げて遮る。その頬には中途半端な笑みが浮かんでいた。
 「『恩仇協議会』はええ。どーせ『恩を仇で返しましょう協議会』の略やろ?」
 「まあそれ以外に解釈のしようはないだろうからね」
 「せやけどな―――
  『会員
No.5』ってなんや? 『No.5』って。
  つまり最低お前の前にあと4人は会員おるんかい」
 「いるよ?」
 さらっと言われた一言。それを聞いて―――不来の中での人生観がガラガラと音を立てて崩れ去った。
 「ンなヒマな協議会になんでそんなに会員おんねん・・・・・・・・・・・・?」
 「さあ。とりあえず入った順は瀬堂先輩・せなさん・加瀬部長・三村先輩、で僕だけど」
 「アイツ入っとるんか!?」
 驚きと共に、謎の1つはあっさり解けた。どうやら内通者は彼女らしい。彼女が協力していれば面接時間外にセキュリティー万全のこの寮に人一人忍び込ませておくことなど簡単であろう。主犯がどっちだかは不明だが。というよりどっちも首謀者だろうが。
 なんて不来の驚きは、烈にもちゃんと通じたらしい。むしろ予想していたか。
 「ちなみに会長は瀬堂先輩で副会長がせなさん。当初の目的は加瀬部長をからかう事だったらしいよ?」
 「まった無謀な案考えおったなあ・・・」
 というか肝心のからかい相手が会員になった時点で協議会存続の意味は全くないような気もするが・・・・・・。
 「まあ、面白ければいいんじゃない?」
 やはりこれまた予想していたか、今度は肩を竦めて答える烈。
 肩を竦め―――手を挙げる。
 両手を差し出し、にっこり笑って。
 「というわけで、『
TRICK and TREAT』v」
 「帰れ」
 と、冒頭に戻る会話。
 「え〜。何で〜!?」
 「当り前やろ? なんで俺がお前招かなあかんのや」
 「だって今ここ出ようとしたら不法侵入で捕まるじゃないか」
 「せなに入れてもろたんやろ? 帰りも頼んだらええやん」
 「だってせなさん、『今日はこれから用事あるから私の部屋来ないでねv 来たら後々不幸が訪れるからv』って言ってたんだよ?」
 「アイツ・・・・・・・・・・・・」
 いつも通りの笑顔で『災難』をこちらに送りつけたのであろう薄情な―――むしろ無情な友人を思い浮かべ、呪殺宣言とか脱力とかそういうものの前にひたすらにくじけたくなる。
 (なして俺の周りはこないなヤツばっかなんや・・・・・・?)
 などとボヤく彼はもちろん『五十歩百歩』という言葉は知っている。自分がその中に入っているとは考えていないだけで。
 くじけて・・・・・・不来は部屋の扉を大きく開いた。
 「ほら。入りい」
 「え? いいの?」
 「お前警備員に捕まったら絶対言うやろ、俺の事。呼び出し喰らうんやったら一晩泊めたほうがずっとええわ」
 ため息と一緒に吐かれた言葉。これに偽りはない。ただしこれが全てかというとどうかはわからないが。
 「わ〜いわ〜い。ありがと〜vv」
 杖を振り回して抱きついてくる烈。本当に嬉しそうなその笑顔を見ていると、
 (―――ま、ええか)
 なんて思ってしまう辺り本当に真実がどれだかはわからない。
 「じゃ、お邪魔しま〜す」
 「おう。入り――――――」
 言いかけて、ふと言葉が止まった。
 自分の横を通り過ぎる烈。抱きつかれた時は気付かなかったが、さらりと揺れる髪から合成香料の香りが漂ってくる。
 コロンか、汗の臭い消しか―――さもなければシャンプーか。
 「お前・・・・・・」
 「ん?」
 「端っから泊まるつもりで来たんかい・・・・・・」
 「あ、準備は完璧だよv」
 着替えでしょ、歯磨きでしょ、と背中に背負っていた鞄から次々『お泊まりセット』を取り出していく烈に、不来は今度こそ完全に脱力した。
 『
TRICK and TREAT』――――――招いた上にからかわれて。
 (よう考えんでも、コイツそのまんまやな・・・・・・)
 ハロウィンでこの文句を考えた者もよもや思わなかったであろう。まさかこんな使い方をされる日がくるなどとは。
 それをあっさりやってのけた目の前の存在。
 準備は終わったか、マントに帽子、杖を手にしたままウキウキとあちこち見回っていく烈をのんびりと見送り・・・・・・・・・・・・
 「―――ってちょい待ちい!! 何勝手にあちこち開けとんねん!!」
 「え〜? 何々? ここ何かマズいものとかあったりするの?
  ―――あ、もしかして浮気の証拠とか?」
 「あらへんわンなモン!!」
 「ひどーい不来ってば!! 僕ってものがありながら!!」
 「違うゆうとるやろ!? 聞きい人の話!!」
 「わ〜v つまりそれって僕以外興味なしって事?」
 「アホか! どこをどないしたらそーゆう解釈になんねん!!」
 「ひどいよ不来・・・。じゃあ僕との事は遊びだったんだね・・・・・・」
 「何ざーとらしくハンカチ噛み締めとんねん!!」
 「あんな事やこんなまでした仲だっていうのに・・・・・・」
 「止めい! そういう如何にも誤解誘発します的な発言は!!」
 「それなのに・・・、それなのに不来ってば・・・・・・・・・・・・!!」
 「その先の台詞言えるんやったら言うてみい!!!」
 などなど暫く繰り広げられた騒ぎは―――
 ―――不来が扉を閉め忘れたおかげで全て外に漏れ、結局2人して警備室に呼び出された挙句妙な噂が寮中を駆け巡るハメとなったのだった。
 警備室で口うるさいオヤジに怒られ項垂れながら、
 (クッソ〜。ホンマに『
TRICK and TREAT』やんか・・・・・・!!!)



 ちなみに烈が開けようとしたカギ付き引き出しの中には―――
 かつて不来が風輪中にいた頃、たまたま使い捨てカメラを持っていた瀬堂が撮った写真が入っていた。



 ―――初めてのランキング戦で、2人揃ってレギュラーに選ばれ喜び合っている不来と烈の姿が・・・・・・。





――――――――――――――――――『どっちか選べるの?』終わり




 序章も終わってないというのになぜかいきなり日常風景です。しかも今更ながらにハロウィンネタ。これ(TRICK and TREAT!)、実際にあったんですよ。それも公務員試験問題集英文穴埋めの選択枝に。見た瞬間笑いたくてたまらなかったです。「うっわ。烈兄貴だ・・・・・・」と。
 さて、この話。見事なまでに突発ネタのため設定無視してます(まあもしかしたら合うかもしれませんが)。これからも時折このような突発ネタが出るかもしれません。おかしいところはひたすら無視してください(無理だから)。
 では、こんなの書いてるヒマあるんだったら序章進めようよと自己突っ込みしつつこの辺りで。

2003.11.9

追記。烈兄貴の服装にひたすらセンスがありません。それはいいとして(いいのか?)、持ってる杖(の一部)はイメージ『月と太陽』という事で。ポルノグラフィティーのCDシングル『メリッサ』をずっと聴きながら書いていると、3曲とも月が出てくるので洗脳されました(笑)。
 それにしても・・・・・・烈兄貴の口調と性格が何故だかテニスの千石さんにかぶってきてるような気がする今日この頃・・・・・・。