4月10日土曜日。この日は僕の誕生日だ。
「急な事だが、今日は他校との練習試合になった。相手は千城だ」
『よろしくお願いします』
「・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか、ものすごく何かを仕組まれてるような気がするのは僕だけなんだろうか?
Happy×2 Maker!
ごく普通に(練習試合自体そうそう頻繁に行なわれるものでもないが、それでも今まで行われたものと比較すると普通だった)終わった部活。そして、
「烈、今日ウチ寄らへん?」
ごく普通に不来に誘われる。
「・・・・・・・・・・・・」
一瞬より長くためらい、
「―――まあ、いいよ」
烈は一応普通に見えるように承諾した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さて不来の家にて。
「あ、夕食の支度手伝うよ」
「まあええから。お前は座っとき」
いつもなら『むしろやれ』と言うのに。
「でも・・・・・・」
「ええからええから。な?」
「じゃあ・・・・・・」
優しい笑顔。そう言われれば引かざるを得ないじゃないか。
リビングに戻り、テレビを付けつつ視線はちらちら台所の方へ。不来は楽しそうに仕度をしている。いつになく手の込んだ料理らしく、あちらこちらへとかなり慌ただしい。
「・・・・・・・・・・・・//」
赤くなりかけた頬に手の甲を押し付ける。冷たい手はかなり気持ち良かった。
「出来たで! サルカルマンダ式デストステクロソースがけ不来スペサル!!」
「ちょっと待って! 突っ込み所多すぎる!! というか料理名もう一回!!」
「せやから、『サルカラマ式デスタルトニックソースがけ不来スペサル』やっちゅーとるやんか」
「言ってない! 料理名変わってるじゃないか!!」
「せやったか・・・? え〜っとな、ちょい待ち。今正式名称思い出すさかい」
「どこで決められた正式名称だそれは!! 『不来スペサル』とか言ってる時点であからさまにお前以外通じないだろうが!!」
「まあええやん。名前なんちゅーのはそれって通じればなんであろうと」
「全く以って通じてないから訊き返してるんだろ!? なんなんだその料理は!!」
「これか? まあ・・・・・・見たまんまやな」
そう言われ、見せられるものを見てみて・・・・・・。
「『・・・・・・』と愛想笑いの意味がよくわかるな」
「さよか。通じたか」
「とりあえず通じた。ワケがわからない料理だって事は」
作られたのは―――というか創られたのは、パスタっぽかった。薄く色づいた細くて長い麺の上にソースがかけられた物件。確かに条件はパスタだ。
「で、どの辺りがサルカルマンダだかサルカラマだかの式であってどの辺りがデストステクロかあるいはデスタルトニックソースなのかな?」
「お前よう覚えたな・・・・・・。
とりあえずこの辺りとこの辺りやな」
指されたのは、ちょっぴり太めで所々固まりの粒子がある橙色の麺と、上にかかった緑色のソース。
「もしかして・・・・・・人参添加の麺にほうれん草ベースのソースかけたパスタって事?」
「なんや。わかっとるやん」
「だったら最初っからそう言え!!」
何かと思った。実は本気で怖かった。不来の口から出る解明不能の料理名。
「本気で何食わされるかと思った・・・・・・・・・・・・」
「本気で何想像しとったん・・・?
俺の創作料理やで。それにせっかくの日やん。ちゃ〜んと、上手いモン作ったったで」
「え・・・・・・?」
「ほら、食うで」
「あ、うん・・・・・・」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さらに進んで夜。ちなみに戻ると某パスタ(名称未定)は本人の保障どおりおいしかった。それはいいとして。
「さ〜って、そろそろ寝よか」
「へ!?」
「・・・・・・? 何そないに驚いてんねん。明日も部活やろ? 早よ寝んといくらなんでも明日動けんやろ」
「あ、ああ・・・、まあ・・・・・・」
「せやったら、電気消すで」
「うん・・・・・・・・・・・・」
電気を消し、ベッドに寝転がる。肘を枕に、壁を向いて。逆側には不来がいて。
(・・・・・・・・・・・・眠れない)
10日が終わるまであとちょっと。今まで向こうからはほとんど何の素振りもなくて。
(そりゃ料理は作ってくれたけどね・・・・・・)
プレゼントどころか『おめでとう』の一言もない。
(別に何かして欲しいわけじゃないけどさ・・・・・・)
――――――だからこそ、期待してしまうのは自分だけだろうか。
最後の最後で何かやってくれるんじゃないだろうか。誕生日だとわかっていたワケだし。
(コイツまともな思考パターンじゃないし・・・・・・)
そんな事を考え、そわそわしながら一夜を過ご・・・・・・し・・・・・・・・・・・・
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
明けて、次の日。4月11日。
「ふあ〜あ。眠・・・・・・っておあ!?」
目覚めた不来は、隣で自分を見下ろす烈を見て思い切り飛び上がった。完全に据わった目の下にはクマを作り、悶々としたオーラを辺り構わず撒き散らす烈を見て。
「どないした―――」
「それはこっちの台詞だーーー!!」
何か言いかけた不来を遮り、烈がどばんと布団を叩く。2人の乗ったままのベッドながら、跳ね上がったんじゃないかと錯覚したくなるほどの一撃。
「何だよいきなり誘ってそれとなく仄めかしてそれでありながら何もしないってお前それまともな精神か!?」
「いや全然ワケわからんわ・・・。お前の方が神経大丈夫か?」
「むやみな期待してルンルンと来た僕が馬鹿みたいじゃないか!! これだったら家にいて豪に祝ってもらったほうがよっぽどよかったよ!!!」
「ルンルンって・・・まためっちゃ死語やん。しかも死ぬ程合わへんし・・・・・・
―――ってちょい待ち。祝う? 何の事や?」
「はあ!? 何今更しらばっくれてんだよ!! 昨日は僕の14歳の誕生日だったんだよ!!」
「誕生日!? ホンマか!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
ここに来て、ようやく互いに悟る。全く会話が噛み合っていない。
「えっと・・・・・・、昨日の4月10日は僕の誕生日だったんだけど・・・。まさか知らなかった、なんて事・・・・・・」
「知っとるワケあらへんやろ・・・? 初めて会うた時もー過ぎとったやん・・・・・・」
「だから今年こそ何かやろうとか・・・・・・」
「せやから知れんかったんやから思えるワケあらへんやろ・・・・・・? 学年始めの誕生日っちゅーんはえろう厄介なものなんやで・・・? 友達になりおった時はもーとっくに過ぎ去っとるっちゅーんが毎度のパターンやん・・・・・・。祝って、っちゅーか知って欲しかったら自分から言わなあかへんのやで・・・・・・?」
「でも・・・、お前昨日なんか特別な日っぽい言い方してたじゃないか・・・・・・。だから知っててくれたのか、って・・・・・・」
「あら、練習試合でお前から王座奪還したった、っちゅー意味での話や。負けたお前にせめてもの慰めっちゅー感じの意味で・・・・・・」
「だったら・・・・・・、昨日いきなり決まった練習試合、って・・・・・・」
「あ〜・・・、ホンマ急やったなあ・・・・・・。千城[ウチ]の先輩方も驚いたったわ・・・・・・。仕掛け人の先輩方やったら知っとったのかもなあ・・・・・・・・・・・・」
「そう・・・・・・・・・・・・なん、だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
虚しい時が流れる。互いに視線を下ろして―――
ぽたっ。ぱたっ・・・。
「ん・・・?」
シーツに水滴が落ちてくる。出所へとゆっくりと視線を上げると、
烈がきつい視線で横を向いて、唇を噛み締めていた。何かを堪え、堪えきれない分を涙として流し。
「そりゃ、誕生日なんて誰だって年に1度は迎えるわけだし、生涯ただ一度って事も―――まあある時はあるけど少なくとも僕に関しては14回目なんだしそこまで貴重なものでもないけどさ、
出会ってから、初めてだったんだし・・・・・・。
どんな風に祝ってくれるのかな、って・・・。本当に楽しみにしてたんですけどね・・・・・・」
「烈・・・・・・?」
顔へと伸ばしかけた不来の手を払い、その手を目元に当て烈が身を翻した。
「不来の馬鹿!!」
「烈!!」
制止も聞かず、玄関へと走り去っていく。追いかける自分の前で、靴も履かずにドアを開け放ち―――
「ちょい待ちい!! そら知らへんかったから昨日は祝えんかったけどな、今日やったら祝えるやろ!? 昨日出来へんかった分含めて、今日これから祝おやないか!! 今お前が泣いた分、3倍以上の笑顔にして返したる!! せやから戻ってご!!」
がん!!
―――追う自分が出かけたところで勢いよくドアを閉めた。
扉にもたれずるずると下がっていく不来。
再びドアを開き、
どすっ! ごすっ! がすがすがすっ!! ぶすっ!
ぷしゅぅぅぅぅ〜〜〜・・・・・・・・・・・・。
玄関脇から勝手に拝借したビニール傘で、崩れ落ちてきた不来を滅多打ちにしたところで烈が戻ってきた。
掻いた汗を拭きつつ実に爽やかな笑顔で。
「あ〜。やっぱり誕生日だろうがそうじゃなかろうがこういう事しないとなv」
わかった。何か昨日からおかしい自分の正体。
いつもと違うと思って、いつもと違う事をしようとするから歯車が狂うのだ。
「よくよく考えてみればさ、誕生日だろうがそうじゃなかろうが、13歳だろうが14歳だろうが・・・・・・別に何か変わるワケじゃないよな」
爽やかに。非常に爽やかな感じで―――鼻で笑う。
「やっぱいつも通りなのが一番だよ♪」
「・・・・・・・・・・・・。さよか・・・・・・」
よろよろと不来が起き上がる。ドア閉め不意打ちの後本格攻撃。安物ビニール傘ではなく普通の強度を誇る傘だったとしたらもう少し命が危うくなってたかもしれない。
「なら・・・、もうええな・・・・・・」
「あ、ダメだよ不来v」
烈を締め出し一人部屋へと戻ろうとしたところで、ぐわしっと腕を掴まれ強制的に止められる。
「今日これから祝うんでしょ? 今泣いた分、3倍以上にして返してくれるんでしょ?」
「充分お前笑ろとるやんか!!」
「そんな事はないさ。あ〜僕ってば誕生日知られてなくてショックー。これはもうこれから向こう1年お前に奴隷でもやってもらわないとこの心の傷は癒えないなあ」
「何やその理屈!? 誰がやるかいな!!」
「うっうっうっ・・・。誕生日知らなかったの不来のクセに・・・・・・」
「そ・・・! そら悪かったけどせやけどな―――!?」
「それでも追いかけてきてくれたしこれから祝ってくれるっていうから戻ってきたんだよ・・・?」
「ぐ・・・・・・。せ、せやけど奴隷1年っちゅーのはいくらなんでも―――!!」
「不来は僕が嫌いなんだ〜〜〜〜〜〜!!」
「どああああああ!!!! 扉開けっ放しでそないな事大声で喚くな!!」
「酷い酷い酷い〜〜〜〜〜〜!!!! 僕はずっと楽しみにしてたのに〜〜〜〜〜〜〜!!! なのに不来にとって僕なんてどうでもいいんだね〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」
「言うとらんわンな事!!!! 話発展させすぎや!!!
―――あ〜も〜わかったわ!! 奴隷でも何でもやったるさかい!! それでええんか!!??」
「へえええええええええええええええええ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
上を向きわんわん泣き喚いていたのはどこへやら。涙の後など欠片も見えない顔にしてやったりと笑みを張り付かせている。
「じゃあ不来。これから1年、よ・ろ・し・く・ねv」
「うあ寒ッ!!」
ごすっ!!
「ご主人様に向かってそんな台詞言っていいと思ってるのかな? 君は」
「あーあーすみませんなあご主人様。何分今までそないな高等教育受けとらん身でして口の聞き方なんちゅーのはさっぱり知らんもんで」
「仕方ないなあ。これから僕がたっっっっっぷり、教えてあげるよv」
「そらありがたき幸せで」
こうして、来年の烈の誕生日まで奴隷確定となった不来。彼が来年のその日を忘れる事はない。なにせその日晴れて奴隷から解放されるのだから。
だが、
結局それ以降誕生日の度にあらゆる方法により不来は1年間の奴隷契約を永久に継続させられ続けたのだが、それはまあまた別の話。
こうして、今年もまた一筋縄ではいかない烈の誕生日が過ぎ去っていった。―――Fin
はい。1日遅れの烈兄貴誕生日話です。1日遅れたのは内容を読まれたとおりです。この話は11日がメインです。
さて今年の烈兄貴's誕生日は現在進行中の『M.Es』シリーズより。せっかくシリーズ始めましたし(今だ序章ですが)、なかなかに好評も頂いておりますので―――と思ったのですが、
―――明らかにこの話おかしいです。時期的に。実は他ジャンルとしてテニプリでも悩んでいるのですが、中学のそれも部活という限られた時間。誕生日がその中にぴったり納まる人は極めて少ないです。3年にして引退するだろう9月以降の誕生日の方、そしてそもそも学校がほとんど始まらず知り合えない時期に誕生日の方。ちなみにそんなワケで現実問題として結構4月生まれの方はわりを喰らってるそうで。
というわけでそんな4月それも初っ端の方の烈兄貴の誕生日。この話の設定は中2なのですが!
このシリーズの設定といいますかおおまかな流れをご存知の方は首を傾げたでしょう。この時点でまだ不来は戻ってきて(対戦して)いない! 都大会がンな早くあったら大変です。
・・・・・・・・・・・・本当にすみません。しかし中1ではそれこそほとんどどころかまるっきり赤の他人。中3では現3年が卒業してしまう。という事情により凄まじくありまくる無理を通し道理を引っ込めてみました。一応イイワケとして、この時点でまだ2人は付き合って―――というか好き合っていません。ただの親友です。なのでごく普通に同じベッドで寝、普通に不来も『友達』と言い切ってます。烈が期待していたのは本当にごく普通の意味での『祝い』でした。
では、結局祝えてるのか否かもの凄く不明なこの話を終わりにさせて頂きます。工夫0の分にしてラストにやはり工夫0ながら毎度恒例の、
烈兄貴 お誕生日おめでとうございますv
2004.4.11