『かぐや姫』争奪戦!



おじいさん=烈   おばあさん=せな   かぐや姫(?)=豪
5人衆=ブレッド・カルロ・エーリッヒ・リョウ・J   天帝=ミハエル
月よりの使者=大神・土屋








 その日、
 「じゃあ山に行ってくるね」
 「あ、待って烈君。私も行くわ」
 「あれ? せなさんも? 洗濯は?」
 「2人暮らしでそうそう洗濯物はたまらないわよ」
 「そういえばそっか」
 というわけで、2人は山へ行く事となった。







‖     ‖     ‖     ‖     ‖








 山にて。
 「あ、見て。あの竹なんか光ってるよ」
 「あら、珍しい」
 「そうだね。じゃあさっそく斬って―――じゃなくて切ってみようか」
 「やめた方がいいんじゃないかしら」
 「え? 何で?」
 「烈君も小さい頃教わったでしょう? 『君子危うきに近寄らず、怪しいものは見なかった事にして行こう』って」
 後半が何か違ったような気もするが・・・・・・
 さらりと言い切るせなに、烈もさらりと言い切った。
 「でもウチ、『変わったものには手を出そう』が家訓だから」
 「いいけれどね。じゃあ頑張ってね」
 あっさりと彼女も引いた。実のところ彼女もこの中がどうなっているのか気になる―――わけではない。烈の背中に背負ったカゴから斧を取り出し笑顔で渡す様はそう・・・・・・『何があっても貴方の責任。さあ、張りきって行ってこよー!!』と雄弁に物語っていた。
 「じゃあ―――」
 斧を振り上げる烈。
 「せーのっ!!」
 スパ―――ン!!!
 斧というより日本刀並みの切れ味をもつそれが、僅か一太刀でぶっとい竹を輪切りにした。安全圏まで下がっていたせなが拍手する。
 「さってと、何が入ってるのかな?」
 それだけの膂力をみせたなど到底信じられない柔和な笑みを浮かべ、烈が竹を覗き込んだ。顔を左腕でガードして、もちろん斧は右手一本で構えたまま。
 「あれ?」
 呟き、
 「ねえねえ見て。面白いものが入ってたよ」
 「へえ? 何が?」
 ガードを解いて、後ろにいたせなに手招きをする。安全性は確保されたらしい。走り寄り、せなもまた後ろから竹を覗き込んだ。
 「あら、これはまた・・・・・・」
 「ね? 珍しいでしょ?」
 まるで動物園にて珍獣を見るかのような悪質な好奇心を漂わせ2人が見やる先、竹の中には―――
 ―――髪色以上に青褪めた少年が冷や汗をダラダラ垂らして着物の胸元をきつく握り締めていた。
 「(・・・・・・マジで殺されるかと思った・・・・・・)」







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 そんなこんなで子どもを拉致って―――ではなく拾って帰ってきた2人。
 「名前は―――」
 「〜〜〜」
 「―――そうだな。『豪』で行こう。お前ウチの弟にそっくりだ」
 「〜〜〜〜〜〜!!!」
 「ああ、確かに豪君によく似てるわね。
  ―――よろしくね、豪君」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 カゴの中にて何か言っているらしいが言葉はよく分からないのでとりあえず無視。ついでに暴れているようだがその程度で壊れるほどヤワな作りはしていない。
 こうして、若干1名の反対もあるようだが気になされずに3人の共同生活は始まったのだった。




 そして何年かが経ち、豪もすっかり成長してきた頃・・・・・・







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 「―――ごめんください」
 「またか・・・・・・」
 玄関からの声に、烈が珍しくあからさまなため息をついて腰を上げた。
 取り残された居間にて、豪が洗濯物をたたんでいたせなに尋ねた。
 「兄貴、何やんだ?」
 ちなみに『兄貴』はもちろん烈の事。『弟に似ている』ということでこの呼び方にしたのだ。ちなみにせなに対しては普通に呼び捨てにしている。
 「ああ、多分いつも通りのことでしょうね。
  ―――なんだったら聞いてみる?」
 笑顔で尋ね、どこからともなくここには似つかわしくない小型機械を取り出すせな。コードに繋がったヘッドホンを豪に手渡し、手動で周波数を合わせる。
 「・・・・・・なんなんだよ、それ」
 「盗聴器」
 「・・・・・・・・・・・・。なんでンなモンがウチに・・・?」
 「この間烈君と冗談で作ってたら思った以上に出来栄えが良かったから記念に」
 小学校の頃からこの辺りで盛んなオモチャ『ミニ四駆』で遊び、自ら設計・研究を行なっていた2人はかなり工学方面に強かった。
 とりあえずそれ以上突っ込むのは止めて、豪は渡されたヘッドホンを耳に当てた。
 多少のノイズ―――すらも入らずクリアに聞こえる声。
 『ですから、今日こそ返事をお聞かせ願えないでしょうか』
 『ですが・・・・・・まだ、結婚は・・・・・・』
 『考えていない、と?』
 『ええ・・・。すみません・・・・・・』
 『・・・・・・わかりました。では、考えてくださるまで何度でも伺います』
 『・・・・・・。本当に申し訳ありません』
 それきり、聞こえなくなる声。
 「あれって・・・・・・・・・・・・」
 「烈君の、結婚申し込み」
 ―――余談だが『客人』は男である。この国では結婚の際性別・年齢による制限は設けていない。
 「え? でもお前らって結婚してんじゃ・・・・・・」
 「私と烈君が?」
 突然の事態に、そして何より平然とそういうせなに驚く豪。だがそれに対するせなの答えは笑いだった。
 「それは面白い冗談ね。ただの同居人よ? 私たちは」
 「同居、人・・・・・・?」
 「烈君は―――私もだけど―――ずっと一人身よ? でなかったらわざわざ結婚申し込みなんてやるわけないでしょう? それもあんな位の高い方々が」
 「ンなエライやつなのか?」
 「まあ、今来てたのはせいぜい城下町の呉服屋2代目程度だったけれど、場合によっては大名様なんかも来られるし」
 敬語のようで馬鹿にするような言い方。総じて揶揄の混じった物言い。しかしながら、残念ながらこの時点でまだ豪は彼女のその台詞の意味を正確に察する事は出来なかった。
 「人の事は言えないけれど、まだまだ『適齢期』だものね、烈君は」
 くつくつと笑うせなを見て、ふと豪は思い出した。僅か数年でもう人間にして
167まで育った自分はまあここの人間とライフサイクルが異なるから。ではその数年で見た目167から変化しないこの2人は? 豪が彼らを『兄貴』だの呼び捨てだのにしているのは先程の理由の他にこれもあるからだ。
 「なあ・・・・・・、お前らいくつなんだ・・・・・・?」
 恐る恐る尋ねる。そういえば―――彼らは時々お互いを『おじいさん』『おばあさん』と呼び合っている。からかいかと思っていたのだが、普段の2人を見ていると村人の中でも長老たちとも仲がいいような・・・。しかも孫を可愛がる的な雰囲気ではなかった。まるで長年の友人と語らっているような、そんな雰囲気で・・・・・・・・・・・・。
 くすり、と目を細めてせなが笑う。決して笑みではない。『これ以上話題を進めるな』の意。
 「女性に年を聞くのは失礼よ」
 「・・・・・・。そうだな」
 冗談としか取れない口ぶりで言う彼女に合わせ、豪も視線を逸らして話題を切った。これがこの家で世話になる数年間で身につけた、最も実用的な処世術であった。







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 烈への結婚申し込みはまだまだ続く。
 「いい加減飽きてきたな・・・・・・」
 「人数もそろってきたし、そろそろいいんじゃないかしら?」
 「そうだね。じゃあさっそく準備して―――」







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 数日後、結婚を申し込んでいた中でも位の高い―――そしてお金持ちの―――5人が寄り合い3人の家に集められた。
 「てめえら何でいやがる!!」
 「それは俺の台詞だな。さっさと帰ってもらおうか」
 「ああ!? そりゃ俺の台詞だ!!」
 「まあまあ2人とも、ケンカはやめようよ・・・」
 「しかし不思議ですね。なぜ僕達5人を集めたのでしょう?」
 「わからん。烈は何か考えがあるのだろうが・・・・・・」
 襖で仕切られた家の1階部分を全てぶち抜き、広々と見せられた空間内でカルロ・ブレッド・
・エーリッヒ・リョウが落ち着きなく座っていた。
 と、
 廊下に面していた障子がすすっと小さな音を立てて開かれ、そこからしずしずと烈が入って来た。いつもの作業着姿ではなく、この家の稼ぎを想像すると(失礼)多分1枚しかないであろう一張羅。それだけに、いつもと違う雰囲気が流れる。
 5人の前で一礼をし、烈は己の気持ちをゆっくりと話し始めた。
 「本日はわざわざ僕のためにお集まりいただいてありがとうございます。貴方様方には前々から結婚の申し込みをされており、まだ僕には早いからと断りつづけていたのですが、皆様が本当に真剣に考えてくださっているとその気持ちは充分に伝わっております。
  なので、僕もそれに応え、結婚を考えようと思います」
 『―――っ!!』
 そう告げられた5人が、そして相変わらず盗聴気で話を聞いていた豪が息を呑んだ。今まで誰が相手であろうと絶対なかった事態に、誰も何も言う事が出来ない。
 固まる一同を見回し、烈が続けた。―――その『条件』を。
 「ですが、どの殿方を選べばいいのか、それがまだ分からない状態です。そこで―――大変申し訳ありません。ただの僕のわがままなのですが・・・
  ―――これはこの村に伝わる言い伝えなのですが、僕もいつも行く山に『聖樹』と呼ばれる木が存在するそうです。その木の幹にはこんこんとお酒が湧くといいます。そしてそれを交わした者同士は永遠に結ばれるという話です。お恥ずかしながら僕も小さい頃からその話に憧れていました。
  もしもこんなわがままを聞いてくださる方がいらっしゃるのなら・・・・・・その聖樹から湧き出たお酒を僕と交わして下さる方、その方と結婚しようと思います」
 深くお辞儀をする、その真摯な気持ちを今度は5人が受け取る。
 互いに目配せをし―――
 『わかりました。では「聖樹」から酒を取ってきます。貴方のために』
 異口同音にそう言った。







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 そしてさらに数日後。
 なぜかこの日、2人は出かけなかった。
 屋根に上がり、やはり手製双眼鏡を山のほうへと向けている。
 「―――何やってんだ?」
 屋根に上がった豪が尋ねる。
 「ああ、お前も見るか?」
 「なかなかに面白い展開ね」
 「?」
 指差されるまま、渡された双眼鏡をそこへと向ける―――までもなく。
 どか―――ん!!!
 山から爆発音が響き渡った。
 「あ、ブレット君脱落」
 「意外と早かったわねえ。彼は最後まで残るかと思ったんだけど・・・」
 「実力はあるけど運がない。彼にこのトライアルは不向きみたいだったね」
 「そうねえ。
  ―――あら。J君が罠B−
13にかかったわ」
 「Bっていう事は・・・トリモチトラップか」
 「行動不能。これじゃあもう無理ね」
 「後は・・・、リョウ君にエーリッヒ君か・・・」
 「リョウ君は山に慣れてるでしょうし、それにエーリッヒ君は爆発音でも聞いたのかしら? さっきまで以上に慎重に進んでるわね」
 「さっすが。でも・・・
  ―――『山に慣れてる』ことに関してはこっちも負けてはいないよ。『仕掛けに慣れてる』こともね・・・。
  さあ、どこまで楽しませてくれるかな・・・?」
 ふふふと黒い笑みを浮かべる2人を半眼で見やって、
 豪は結局ワケがわからず尋ねる事にした。
 「なあ・・・何やってんだ?」
 その言葉に、烈は今度は山と逆方向―――村のほうを指差した。よくよく見る。なぜか2人同様双眼鏡を手に山を見ている。笑顔で隣の者と話をしていたりもして、それはまるで花火大会の見物人のようだった。
 「からかい」
 豪が一通り見終わったのを確認し、一言でそう結論づける烈。隣でせなが口元を手で隠して微笑んだ。
 「烈君の結婚申し込みは随分と前からあったんだけど、ただ断るだけじゃつまらないっていう事で村ぐるみで一つのことを思いついたの」
 「それが―――」
 「そう。『サバイバル』。適当な話を提供してあの山へ行かせて、予め用意しておいた罠で迎え撃つ。今のところ成功者は0ね」
 「まあ、この村の人はみんなあの山には慣れてるしね。罠もほとんど見分けつけられないよ」
 「獣道まで全て知っているみんなだもの。山にそうそう詳しくない素人がどういうルートを辿るかくらい簡単にわかるわ」
 双眼鏡を置いて、にっこりと微笑む2人。脇に置かれていた瓶を手に持ち、黒塗りのお碗に何かを注ぎ入れた。
 辺りに漂う、アルコールの芳香。
 「それってまさか・・・・・・」
 呆然と呟く豪。瓶―――酒瓶を掲げ、烈がイタズラっぽい笑みを浮かべた。
 「言っただろ? 『いつも行く山』って。山のことなら大体知ってるさ。『聖樹』の位置もな」
 ぐびっと粗野に飲む烈。隣でせなもまた自分のお碗にとくとくと酒を注いでいった。
 「じゃあ『聖樹』って、マジであんの!?」
 さっきの暴露話を聞く限り、てっきり作り話だと思っていたのだが・・・・・・
 詰め寄る豪を無視して、烈はお碗を手に再び山へと目線を戻した。
 独り言のように、呟く。
 「この間した『聖樹』の話、実のところ『言い伝え』っていうほど信憑性のないものじゃないんだ。
  ―――この村にはこんな話がある。酒っていうのは酒蔵で酒職人たちが作るのの他に、山でサルが作るんだ」
 「はあ!? サルが!?」
 「そう。サルが皮ごと実を口の中で噛み、それを木の幹に入れておく。それが時間が経つと発酵して酒になるんだ」
 「ンなバカな・・・・・・」
 「特にウソとは言い切れないわよ。理屈の上では成り立つもの。それに―――
  ―――現物がここにあるのならなおさらね」
 「んじゃあ、『それを交わした者同士は永遠に結ばれる』ってのは?」
 「合ってるだろ?」
 いつの間に視線を戻していたか、烈が今度は村のほう―――同じように山を見ていた一同に向けて、お碗を軽く掲げた。
 それに応えるように、周りの皆も各々の器を掲げる。
 村一面に濃厚に広がる芳醇な香り。
 「―――な?」







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 またまた数日後。再び3人の家にて。
 怪我こそしていないものの、どことなくボロボロの風体を見せるブレッド・エーリッヒ・リョウ・Jの4人。対して無傷かつ自信満々のカルロ。
 「それで、お酒のほうは―――」
 「持ってきたぜ!」
 気まずげに顔を見合わせる4人を無視して、カルロが手を上げた。その手には酒瓶が握られている。
 『な・・・・・・!!』
 「では、1杯いただいてよろしいでしょうか?」
 「ああ。何杯でも飲みな。たっぷり取ってきたぜ」
 酒瓶を両手で受け取り、丁寧に杯へと注いでいく烈。
 辺りに漂う、アルコールの芳香。
 なみなみと入れられた日本酒をくぴりと上品に飲み―――
 「―――すみません。このお酒は『聖樹』より湧き出たものではありません」
 「何―――!?」
 今度驚いたのはカルロだった。
 「ンなワケねえだろ!? 俺は困難を乗り越えて―――!!」
 烈につかみかかろうと立ち上がるカルロ。その体が、他の4人によって拘束される。
 「どういうことだ? カルロ・・・・・・」
 「貴様、まさかイカサマをしたのか・・・・・・?」
 「これは、一度じっくり話し合う必要がありますね・・・・・・」
 「もちろんイマサマした時点で君は脱落決定だよ・・・・・・」
 黒い笑みを浮かべる4人に連れ去られ、カルロが退場していった。
 暫しそれを見送り―――
 「―――けどよくわかったな。ニセ物だって」
 「ああ、簡単な事だよ」
 不意に背後からかけられた声に、烈は全く笑みを崩さず、白い杯を掲げて見せた。まるであの日のように。ただし今度は烈が座っているため中がよく見える。
 何の変哲もない、透明な酒を見下ろし―――
 「これが―――?」
 何なのか、尋ねようとしたところにタイミングよくせなが入って来た。お盆の上には酒瓶が1つ、そしてやはり同じ白杯がいくつか。
 「よく見てみろよ」
 そう言い、杯に彼女の持ってきた酒―――『聖樹』より湧き出るとされる酒を注ぎいれた。
 なみなみと入れられた・・・・・・紅い液。
 「これ―――赤ワインじゃねえか!!」
 「まあ、山でサルが食べて作る、っていう時点で何かの木の実であることは間違いないものね。日本酒は造りようがないわ」
 「聖『樹』って聞いた時点で山葡萄の木であり造られるものはワインだって気付けないようじゃ、僕の相手はまだまだ務まらないよ」
 ようやく思い出した。なぜあの時2人は黒塗りの碗にこれを入れていたのか。色が分からないようにだ。
 くつくつと笑い、杯をグラスのようにちんと音を立てて触れ合わせる共犯者2名を見ながら、
 豪はただ今回の哀れ被害者一同にそっと手を合わせる事しか出来なかった。







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 さて、かぐや姫のラストといえば姫が月に帰るものであり―――
 「烈兄貴、せな、今まで言えなかったけど俺実は人間じゃなくって―――」
 「だろうな」
 「そうね」
 「は・・・・・・?」
 「竹に入ってた時点で違うって気付くだろ」
 「それに成長の仕方もおかしかったし」
 「・・・・・・なんっか最初のはともかく成長に関しては兄貴たちには言われたくねえな・・・」
 「で、何なんだ? 今更基本的事項の確認か?」
 「ああ、あれじゃないかしら? それでぜひ自分は何なのか知りたいから旅に出たい、っていうノリで」
 「よし。行って来い」
 「寂しくなるけれど」
 「食費が浮く事を考えたら些細な問題だな」
 「って、あ〜〜に〜〜き〜〜〜〜〜!!」
 「はいはいなんなんだよさっさと言えよ」
 「・・・・・・。だから、今度の十五夜に月から迎えが来て、それで俺は帰らねえといけねえからその・・・・・・」
 その先は言いにくく、口をモゴモゴとさせる。
 いつもはふざけた調子の豪のその様に『真実』を感じ取り―――
 2人の目から、からかいの色が消えた。
 「月から・・・・・・?」
 「本当に・・・・・・?」
 真剣に―――今まで1度たりとも見た事のない真剣な眼差しを向ける2人に、豪も真剣に頷いた。
 「――――――わかった」
 「兄貴!?」
 「月の使者は俺達が追い払おう」
 「え? でもどうやって・・・」
 「天帝に―――ミハエル君に頼もう。この事を言ったら武器を貸し出してくれるはずだ」
 「でも、天帝って一番偉いんだろ? こんな願いなんて聞いてくれんのか?」
 「ミハエル君なら大丈夫だよ。小さい頃一緒にミニ四駆やってた仲だし―――」
 「ってちょっと待て。って事はそいつ、やっぱめちゃめちゃ年寄りなのか!? ってかとっくに死んでんじゃ―――」
 「大丈夫だよ。ミハエル君も僕たちと代わらないから」
 「それってつまり・・・・・・・」
 「そんなのはいいとして、それに―――
  ―――まあそんな事情だから」
 「兄貴・・・・・・!!」




 そして、『約束の日』が訪れる・・・・・・。







‖     ‖     ‖     ‖     ‖








 「む・・・、無念・・・・・・」
 「何で迎えにきただけでこんなメに・・・・・・?」
 「た〜まや〜」
 「さすが烈君。ばっちり命中ね」
 「あはは。ありがとう。なにせ的が大きかったからね」
 『月よりの使者』とやらが乗ってきた乗り物をバズーカ砲で撃沈する烈。ミハエルが頭の上に手を翳して掛け声を上げ、せなはかつて豪を見つけたとき同様拍手をしていた。
 「さ、て・・・・・・」
 「むご〜!! むご〜!!」
 使い捨てのバズーカを放り捨て、代わりに足元に転がっていたものを蹴り出す。全身グルグル巻きに縛られ、猿轡までかまされた豪が、ボロボロになった彼らの元へと帰っていった。
 「そいつ、責任もって引き取ってね。乗り物本体は壊してないからまだ動くでしょ?
  ―――あと」
 にっこりと、極上の笑みを浮かべる。せな、そしてミハエルもまた然り。
 「そいつ面倒見てやったんだからその分の養育費はしっかりと頂戴ね。というわけで月へ帰るのに最低限必要なもの除いて置いてってもらおうか・・・・・・」
 『うぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・!!!』







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 異星人たちの置いて行った物を検証する3人。
 「へ〜。けっこー面白そうなもの多いね」
 「そうだよね。月からここまで普通に来ちゃうなんて、相当技術進んでる証拠だものね」
 「成長促進に間するデータなんてないかしら?」
 楽しげに微笑む少年少女―――にしか見えない3人の目が交わる。ミハエルが協力してくれた理由・・・烈が言葉を濁したのはこの辺りに関してだった。
 「じゃあさっそく持って帰って研究していい?」
 「あ、僕達も手伝うよ」
 「これからますます楽しみね」
 元ミニ四駆友達であり―――現研究仲間である彼ら3人。彼らにとって、異星の文明というのはただの研究対象に過ぎなかった・・・・・・。




―――はっぴーえんど(誰にとって?)











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 うむ。久し振りにおおむねレツゴキャラのみでの話でした。そして豪烈メインというよりオンリーのため、烈兄貴総受設定で相手って誰にすりゃい〜んだっけと悩みこみました。そして決まったのがあの5人衆。しかし天帝がミハエルならエリ公はそのお付きか・・・。ちなみに初期の設定ではミハ烈で終わるはずでした。「ミハエル君、あのバカ追い払ってくれてありがと〜vv」という感じで。なんでこんなマッドサイエンティスト一同にておとされてるんだろう・・・・・・。
 では、初登場者の多かった(ような気もする)この話、何かおかしいなあ、と思うところは山ほどあるでしょうが、気にしないで下さい(無理)。

2003.9.7