それは、二重の偶然がもたらした出会い。
 間者として働く中でのほんのひとときの休息と、
 助けた少年少女らを国まで送り、その帰りに「この祭りには多くのだんご屋が出店するそうだ」と言う相棒の脅しに負けての寄り道と。
 だが、そんな偶然により変わる歴史は、



 ―――必然だったのかもしれない。







まちがいだらけのふぁーすとあたっく!








 ローランドの魔法騎士団に追われ、逃げるノールズ3姉妹。
 「止まらないでキファ! ここは、私が食い止めるから・・・・・・」
 そう言い、長女のナイアはたったひとりで立ち向かった。ローランドの最強戦闘集団―――最高の、絶望へと。
 言った通り逃げてくれる、よく出来た自慢の妹たちを目の端に収め。
 魔法で加速した体。右手で新たな光の文字を描きつつ、牽制として左の拳を突き出す。牽制だけでもこれだけ加速されれば避けられない・・・・・・筈だった。
 「―――っ!?」
 あっさり避けられ、どころか腕を引く前に掴まれる。
 驚きを露にするナイアへと、その男はにやにやと笑いかける。
 「どうした驚いた顔して? まさか、この程度が俺達に通用するとでも思ってたのか?」
 「くっ・・・!!」
 無理矢理引き抜こうとし、
 「おおっと。この腕いらないらしいなあ。じゃあ望みどおりもらってやるよ」
 男の手が肩に当てられる。信じられない力で腕だけを引かれ―――
 「いっ―――!!」
 苦痛に悲鳴を上げかけたところで、
 ―――それが現れた。
 「何!?」
 後ろからの突然の攻撃。振り向きかけた男の頬に、血が一筋流れた。
 「くそっ!」
 身を捻りつつ、ナイアを攻撃手の方向へと突き飛ばし後退する。解放されたナイアが体勢を立て直しつつそちらを確認しようとするより早く、
 「・・・・・・っと」
 その者がナイアの細い体を受け止めていた。
 腕に抱かれる。自然とそいつの服が目に入り―――
 「魔法・・・騎士団・・・・・・!?」
 ナイアの、そしてキファの、レミルの目が完全な絶望に染まる。
 そんな彼女らの注目を浴び、
 ―――黒髪黒目の『魔法騎士団』は緊張感0であくびをした。







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ








 その少し前、こちらも祭り会場にいたライナとフェリスは、
 「なあ・・・お前さ、そうやってひたすらだんご食い続けてて飽きねえ?」
 「む・・・? 『栄養』・『運動』・『休養』・『だんご』は生物に必要な4要素だぞ? なぜ飽きる? だんごに飽きる事は即ちお前が寝る事に飽きるのと同じだぞ?」
 「う・・・。なるほど・・・。そう言われりゃそっか・・・・・・」
 いやその前に大きな突っ込みどころはあったような気もするのだが・・・・・・。
 あっさり納得し、ライナもフェリスからだんごを受け取る。
 「ん・・・? ここのだんご結構イケるな」
 「うむ。このだんごはクォルス地方のだんご粉を使っている。なかなかいい着眼点だ。ウィニットだんご店にはまだ及ばないが、これからが楽しみだ」
 「すげえなお前。完全に評論家じゃんかよ」
 「ふふ。だんごの道を歩んでいればこの程度造作もないことだ」
 そんなやり取りをしながら次のだんご屋へと向かう2人。人の流れに合わせのんびり歩いていた足が、
 同時に止まった。
 同じ方向を、フェリスはいつも通りの無表情で、ライナは緩んだ目を少しだけ開き、見やる。
 「この魔法・・・『稲光』じゃねえか。それも手加減0・・・・・・! 死ぬぞ・・・! ンなところで使ったら・・・・・・!!」
 「もう遅い」
 フェリスの呟きと同時、ライナの『瞳』は遠くで放たれた魔法を正確に見、そしてフェリスはそこから一直線に消えていく気配を感じ取った。
 「何、やってんだ・・・? 向こうで・・・・・・」
 「さあな。しかし―――まずいぞ」
 「ああ。このままじゃさらに何人殺されるか―――」
 そう危惧するライナだったが・・・・・・
 「向こうにはウィニットだんご店が出店されている。最後の楽しみにと取っておいたのに、このままでは途中で営業停止となりかねない」
 「そっちかよ!?」
 「そんなワケだ。さあ行け、ライナ。行ってだんご店を助けて来い」
 「てめえが行けよ!!」







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ








 いつ第2波が来るかわからなかったため大回りで現場へ行き、とりあえず見当付けた現場では今にも女性の腕がもぎとられそうな状況で。
 後ろから蹴りを入れとりあえず彼女を助け、ついでにウィニットだんご店が自分の斜め後ろにあること(さらについでに店主は震えてはいるがまだ休業にはしていないこと)を確認し、ライナはひとつあくびをした。
 「ふあ〜あ。やけに強そうとか思ったら魔法騎士団かよ。しかもアイツまじで来ねえ気か・・・?」
 半眼で後ろを見る。とっても見たくないものが見えた。
 「店主。だんごを2本くれ。代金はあそこにいる間抜けそうな男が払う」
 「え・・・? あ、はい。2本ですね」
 それらは見なかった事にして。
 「はぁ・・・。本気で俺一人にやらせるつもりかよ」
 ため息をついて視線を戻す。そこでは、少女を突き飛ばした魔法騎士団の男と、自分を突き飛ばした少女が同時に体勢を立て直していた。
 適当によろけるライナに、先に話し掛けたのは男の方だった。
 「貴様・・・、何者だ!?」
 敵意を露にするそいつを暫しぼへ〜っと見やり、
 ぽん、と手を叩き、ライナは瞳を輝かせて自分の胸元を叩いた。
 「え? 俺? 俺ってば魔法騎士団って感じ? ホラホラ、服いっしょ」
 これで余計な事に巻き込まれずにすむ! というライナのぬか喜びは、
 「・・・・・・・・・・・・って、やっぱダメ?」
 「駄目に決まってるだろうがああああ!!!」
 男の叫びと、それ以上に露になった少女の敵意を前にあっさりと潰え去った。
 なぜか争っていた2人両方の攻撃対象とされ、
 「ああ、最初っからムリだってわかってたけどさ・・・・・・」
 ため息を深くするライナへと攻撃の手が伸びる。直接接近戦を仕掛けてくる男。離れたまま魔法を使おうとする少女。
 そちらを見ることもなく適当に男の相手をしつつ、ライナの瞳は少女の魔法を捕らえていた。その瞳に浮かぶ、朱の五方星。
 「へ〜。エスタブールの魔法か。なかなか速いな。しかも上手いし。相当なやり手ってトコか?」
 「な・・・!? 貴様、その目、まさか・・・!!」
 驚く男の隙をつき、ライナは反魔法を半瞬で作り上げ放とうと・・・・・・
 ―――したところで後ろから殴り倒された。
 「ぐあっ・・・!?」
 伏兵も予想し、警戒していたライナですら避けきれなかったその一撃を放った者は、
 「ん。危なかったな少女。あと一歩でこの変態色情狂の男の毒牙にかけられるところだった」
 と、だんごをもぐもぐ食べつつ言ってきた。説得力のない事この上ない。
 「っておい! なんでそうなる!?」
 「言い逃れは見苦しいぞライナ。今お前はこの少女の品定めをしていただろう?」
 「してねえよ!」
 「嘘をつくな。私はしかとこの耳で聞いた。『なかなか速く、しかも上手い。相当なり手だ』と・・・・・・」
 言いながら、ライナを殴り倒した相手―――フェリスの顔が赤くなる。
 「・・・・・・とてもここから得られる結論は口には出せないな」
 「なんでそんな解釈になる!? 俺はあの子の使った魔法に対してそう言っただけだ!!」
 「む・・・! 魔法まで使ってヤって欲しいだと・・・!? やはりお前は正真正銘のマゾ・・・」
 「じゃねえ! っていうかいっそそれだったら楽だろうな・・・。お前の苛めに泣かずに済む・・・・・・」
 「な・・・!? 私の日々の攻撃も『愛のムチ』だと啼いていたというのか・・・!?」
 「だから違うっていってんだろ!? 人を正真正銘の変態扱いすんじゃねえ!!」
 「ふふ」
 「あ! 今てめえ笑ったな!? 笑っただろ!?」
 「それはさておき、だ」
 いきなり乱入、混乱する全員を放ってひとり結論へと辿り着いたフェリスは、
 「ぐはっ!?」
 再びライナを剣の腹で殴りつけた。
 「何をやっているライナ。計画通りさっさと終わらせないか」
 「ちょ、ちょっとたんま。
  計画? ンなモンあったか?」
 よろよろと起き上がりつつライナが問う。ここまでにしてきた話といえば・・・・・・
 「あっただろう。言ったではないか。『さあ行け、ライナ』と」
 「まさかそれってやっぱ・・・・・・俺一人で全部倒せって意味だった・・・?」
 「決まっているだろう? それをお前は命令も聞かず少女の品定めか? 仕方がないから私が出向いてやったが、おかげでだんごが2本しか買えなかったではないか。この責任はどう取ってくれる?」
 「・・・・・・・・・・・・俺に支払い押し付けた時点で既に責任の取り方は決まってるような気もするけどな。しかもそう言う割にお前俺しか攻撃してないし」
 などといつもの漫才をやっている間に向こうも立ち直ってきたらしい。男がライナを指差し、先ほど途切れた言葉を続けた。
 「貴様! あの『複写眼』保持の化物か!?」
 ライナはかつて軍のお偉いさんたちに飼われていた。そして、そのお偉方はライナと接する際護衛として魔法騎士団をつけていた。この男が彼の存在を知っていたところで不思議はない。
 「化物・・・って、まあいいけどさ、もう・・・・・・」
 ライナが瞳を細め呟き―――
 さらにフェリスも大きく頷き続ける。
 「その通り。この男は幼女誘拐婦女暴行から男色までこなすマスター変質者という化物だ。いやむしろこの変態色情狂と比べれば化物の方がまだマシといえる」
 「うわー俺ってば化物以上か〜。出世したな〜・・・・・・」
 最早完全に慣れきってむしろ感心するライナ。が、
 「よ、幼児誘拐婦女暴行・・・・・・?」
 「男色までこなす・・・・・・?」
 「え、えっとその〜・・・・・・」
 「危ない! キファ! レミル!」
 「やはり貴様は生かすべきではなかった!!」
 「だから待てい!! なんで信じられるんだよ!?」
 血の気を引かせ、ずざざっと身も引く少女と男に思い切り怒鳴り返す。それに合わせさらに下がられる。
 「・・・・・・もーやだよこの役。最近の俺、汚れまくり・・・・・・?」
 「自業自得だな」
 「お前のせいだ! 満足か!? 俺を汚して満足か!?」
 涙目のライナの訴えに、フェリスは俯いて黙り込み・・・・・・
 「――――――ってだんごから口離せええええええ!!!!!
  はぁ・・・。もうまともに話も聞いてもらえないし・・・・・・」
 最初からそうだったような気もするが・・・・・・。
 改めて2人と向かい合おうとしたところで、
 『―――きゃああああああ!!!』
 通りのすこし先から2つの悲鳴が聞こえてきた。
 「キファ! レミル!」
 少女の方が反応する。彼女の視線の先にいたのは、
 彼女によく似た感じの幼い少女―――キファとレミルと言うらしい―――と、それを後ろから羽交い絞めにした魔法騎士団3人だった。
 「おとなしくしろ。エスタブールの犬。逆らえば即座にこの女どもの首を刎ねる」
 「な、ナイル姉ちゃん・・・・・・」
 「キファ・・・! レミル・・・・・・!!」
 そんな、かなり緊迫した展開に・・・・・・
 「あ〜なんかさらに厄介な展開になってきたな〜・・・・・・」
 「ふむ。どうやら魔法騎士団というのは変態の集まりのようだな。お前にしろなんにしろ―――」
 「って俺別に魔法騎士団じゃないだろ? そりゃ服は借りてるけどさ」
 「違うのか? 王の戯れを建前に己の野望を果たす変態魔法使い。お前以上に魔法騎士団としての適正のある者がどこにいる?」
 「・・・・・・見事なまでに全国の魔法騎士団を敵に回す台詞だったな。とりあえずラスト以外は外してると思うぞ」
 「そうか?」
 本気の様子で聞き返してくるフェリスに、一応弁明しておこうかああでも俺もあんま魔法騎士団って知らないしなあさてどうするか・・・とライナが悩んでいたところで。
 「そこ2人! お前らもだ! ムダ口叩いてんじゃない!!」
 魔法騎士団からのクレームに、ぴたりとフェリスが黙り込む。
 じっと、じ〜っと、向こうが照れるほど一直線に見やり。
 「な、何だ・・・・・・?」
 尋ねる男は無視し、ため息をついた。
 斜め下
45度を見て、憂い溢れる表情で、
 「いつの時代も私のような人間はこのように迫害を受ける」
 「・・・・・・・・・・・・」
 わけがわからず沈黙する一同の中で、代表してライナが問いた。
 「ちなみにどんな人間?」
 「うむ。私のような美―――」
 「俺は突っ込まないからな」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 沈黙は、数倍に達した。
 無言でフェリスが腰の剣を引き―――
 「だから恥ずかしいからって俺を攻撃するのは止めなさい。それ以前にそもそも恥ずかしいならそういう事は言わない」
 「む・・・・・・」
 ライナの言葉に俯き暫し悩み(今度はだんごはかぶらずに)、
 フェリスは魔法騎士団と人質の方へ走っていった。
 「おいおい、人質見捨てる気かよ。間が埋まらないからってそんな暴挙に出られてもなあ・・・・・・」
 ボヤくライナ。だがいくら魔法騎士団といえど、人質完全無視の常識外れの行動に加えてフェリスの神速、対応できないうちに少女らに突きつけていたナイフを根元から断ち切られた。
 「くっ・・・!!」
 焦った男達が2人をフェリスに投げつけ、フェリスが避けている間に腰から下げていた剣を引き抜いた。
 2人が剣で攻撃し、1人が魔法で援護射撃。さすが最強戦闘集団たる魔法騎士団だけあって、戦法も完璧なら動きにも躊躇はない。
 「ほらほらどうした最初の勢いは!?」
 「このままじゃ死んじゃうぞ!?」
 「くっ・・・!!」
 数の優勢で押されるフェリス。さらに魔法を使えない彼女が魔法を警戒しながら戦うのだから余計に不利になる。
 (・・・・・・・・・・・・って)
 心配そうに見守る少女3人に余裕を取り戻す男。それらと一緒に見物しながら、ライナは半眼でため息をついた。
 (明らかに手、抜いてんじゃん・・・・・・)
 助ける気も失せどんよりとした目で見守る。わざわざ「くっ・・・!!」など微妙にホントっぽい呻き声を上げてまで彼女がやりたいのは―――。
 「やはりローランドの魔法騎士団は人をいたぶって悦ぶ変態集団なのか・・・!!」
 「はいはいそうですか。それが言いたかっただけかよお前」
 「・・・・・・・・・・・・つまらん」
 「いや、俺はお前の人生の賑やかしじゃねえし。大体今お前戦いながらだんご何口食ったよ? だんご食いながらの今の台詞じゃ全然説得力ねえだろ?」
 「だんごは買ってすぐ食べるのが礼儀だ」
 「はあ。そうですか・・・。
  毎度思うけどさ、お前それだけ動きながらだんご食っててよく喉に詰めないな」
 「これも一重にだんごを愛する私の心の勝利だな」
 「わけわかんねえし・・・・・・」
 そんなぼけぼけ会話を続ける間にも、やりたい事は終わったフェリスが元の神速に戻る。あまりの速さに2人掛りでも圧される魔法騎士団。
 そこへ、魔方陣を描き終えた残り1人が声を上げた。
 「女! 今すぐ止まらなければそこにいる2人に攻撃を当てる!!」
 「キファ! レミル!」
 「きゃあああああ!!!」
 緊迫した事態第2弾。今度はフェリスもちゃんと付き合う。
 「ライナ!」
 「はいはいっと。
  求めるは侵入>>>・蝕走」
 こちらも既に魔方陣を描き終えていたライナ。男の魔法を強制的にキャンセルさせる。
 「な・・・!? 反魔法・・・!?」
 「貴様まさか・・・!!」
 先程と同じノリで始まりかけた会話。今度はライナ自身が遮った。
 ナイアの方を見て、
 「そういやさっきあんた面白い魔法[モン]使ってたっけ。え〜っと・・・、
  我・契約文を捧げ・大地に眠る悪意の精獣を宿す」
 「え、エスタブールの魔法・・・・・・!?」
 少し前に魔方陣を描いていたのに今度は光の文字を描く。常識ならばありえない事。なおかつこの魔法はエスタブールの魔法の中でもかなり高位のものだ。エスタブールの民ですらそう易々とは使えない。
 「これが、『複写、眼』・・・・・・」
 呆然とナイアが呟く間にも、もう加速したライナは自分のそばにいた魔法騎士を殴り倒し向こうへと向かっている。同じ術を使っても自分では歯が立たなかった魔法騎士をたった一撃で倒した。一緒にいたフェリスというあの女性も魔法騎士2人相手に互角以上の戦いをしている。
 たとえそれが化物であろうとなんだかよくわからない存在であろうと、もう彼らを頼るしかなかった。妹を助けるためならば・・・・・・。
 「求めるは雷鳴>>>・稲光」
 ライナが魔法担当の男に向け、術を放つ。
 「こんなもの、だれが喰らうか」
 せせら笑う男。ひょいと横に避け、
 「―――な!?」
 自分の真横で方向転換してきた雷撃に目を見開く。いや、
 相手していた2人から標的を変えてきたフェリスが、逸れた雷撃を剣に絡め攻撃してきたのだ。
 飛ばされてきた雷をかろうじて完成した魔法で迎撃する。その時には背後まで回りこんでいたフェリスが首筋を剣の腹で殴り、気絶させていた。
 残る2人にライナが迫る。今度は複雑に手を動かし印を切り、
 「光の王が無数の時を編み―――」
 「それは・・・ネルファの魔法か!?」
 さすが魔法騎士団。詳しくはわからなくとも起動までの手順でどこの国のか程度はわかるか。
 「当たり。
  ライト・キャンサー」
 呪文と共に現れた光の網が、避けようとした男2人のかろうじて片手ずつを捕らえる。
 「これでどうにかしたつもりか!?」
 余裕の表情で、もう片手で魔方陣を描き始める男ら。だがライナも余裕のままで首を振った。
 「いんや。本番はこっから」
 宣言し、男達を遥かに上回るペースで魔方陣を描く。
 「求めるは雷鳴>>>・稲光」
 先程の魔法、『ライト・キャンサー』は2つの点で改良を施してある。1つは網の片方を自分の手に残した点。さらにもうひとつは―――
 稲光は男達ではなく網に向かって飛んでいく。そして・・・、
 網を伝い、直接男達へと届けられた。
 『がっ・・・!?』
 網を千切らず直接ライナを攻撃しようとしたのが仇となった。感電し、男達が倒れる。もちろん一方向にしか流れないようにしておいたためライナが感電する事はない。
 「よしっ、と」
 一応終わりっぽく手など叩いてみるライナ。見やればフェリスも剣を収め―――改めてだんごを食っている。
 「うむ。所詮魔法騎士団などこの程度のものだ。神をもひれ伏すほどの美しさをもったこの私に変態如きが手が出せるとでも思ったか?」
 「なんかまた・・・・・・突っ込みどころの多い台詞だなあ、それ。
  とりあえずお前、身の回り全部の価値観いっぺん見直した方がいいぞ」
 と、
 「あ、ありがとうございました」
 駆け寄ってきた少女・ナイアが頭を下げてくる。妹2人もそれに従い。
 「え? いやいや、俺達別にそんな大した事してないし。なあ? フェリス」
 「うむ。するのはここからだ。今ならば何でもかんでもやり放題だぞライナ、よかったな。しかも相手は3人。好きなのを選ぶもよし。3人まとめてもよし」
 「だからお前はそういう誤解を生む発言は止めろよな!!」
 「だが―――」
 怒鳴るライナと再び怯えるノールズ3姉妹を綺麗に無視し、フェリスがゆっくりと剣を引き抜いた。
 「私としてもそんなお前の暴走を見過ごすわけにはいかない。それに王も民が笑って暮らせる国を目指している。ならばエリス家の者として私もその障害排除のための手伝い程度はすべきだろう」
 「・・・・・・・・・・・・。ちなみに、その『民』の中に俺は入ってないワケ?」
 「当然だ。変態色情狂を民として受け入れる国などありはすまい」
 「ううう・・・。シオンの馬鹿野郎・・・・・・」
 話の途中で既に殴り倒されていたライナが、地べたにへたばりつつ呪詛を飛ばす。
 一方フェリスは、
 「礼は特にはいらない。ただしどうしてもと言うのであれば、そこにあるウィニットだんご店の出店でだんごを買ってきてもらおうか」
 などと剣の柄に手をかけたまま言ってのけた。
 それにもちろん、従わない理由はなかった。
 「は、はい! 今すぐ買って来ます!
  ―――行くわよ。キファ、レミル」
 「う、うん!」







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ








 紙に包まれた大量のだんごを手に、フェリスが頷く。
 「ふむ。これが本当の『情けは人のためならず』というものだな」
 「いやぜってー違うと思うぞ」
 一応否定し、ライナもまただんごの串を1本取った。



 去り行く2人を見送り、ナイアが首を傾げる。
 「結局なんだったのかしら・・・・・・?」
 「まあいいじゃんナイア姉ちゃん。せっかく助かったんだから」
 「そうそう。だから今日は楽しも? ね?」
 「・・・・・・そうね」
 今までの怖さを打ち消す分だろう、先ほどまで以上にはしゃぐキファとレミルの頭を撫で、3人は2人とは逆方向に歩き出した。







 これが、後に再びまみえるライナとキファのファーストコンタクト・・・・・・



 ・・・・・・なワケはもちろんない。



―――Fin













ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ     ψ

 さてもう設定めちゃくちゃです。最初はひたすら不幸なノールズ3姉妹に、「あーここでライナが助けてくれれば・・・!!」とありえない事を描き・・・・・・その結果、なぜかこんな話になってました。いや最初は年齢そのままに14歳のライナが(どうやったか)助けてくれる話にしようかと思ったのですが、これはこれで設定めちゃくちゃになるしだったらいっその事ライナとフェリスの戦闘シーン書いちゃえ☆ などという悪ノリの成果で出来ました。ノールズ3姉妹とライナらの間で綺麗なまでに時間食い違っています。なおライナらは長編5巻時点ですので実のところエスタブールの魔法もナイアが使うまでもなく習得済みだったり。しかし残念。長編5巻はまだ短編ではルーナ入りしたばっかの短編1巻せいぜい3話。エナ公主の首飾りすら奪えていません。せめて2巻までいっていたらフェリスが雷剣に絡ませたシーン、(墓から盗ってきた)金属製の串を投げつけるという展開にしたかったなあ・・・。

2004.4.26

 ―――なお冒頭、誰にとっての『必然』だったのか。そりゃ私にとってでしょうもちろん。