「今回の俺は、マジだぜ! さあ、王城にシオン殺しにいこうぜ!」







明朗暗殺逆転判決☆







 ・・・・・・と意気込んで王城に来たライナは、
 現在王の寝室にて、その『暗殺対象』と向き合っていた。それも寝転ぶ相手を見下ろした状態で。正に殺すには絶好の状態で。
 自分に投げ飛ばされ仰向けになったシオンを―――彼の目をじ〜っと覗き込み、
 「・・・・・・おまえ、疲れてんなぁ・・・・・・」
 そんな風に、判定する。
 「そうかな?」
 「ああ。疲れてるよ」
 繰り返させても変わらない断言に苦笑するシオン。細めた瞳に浮かぶものは、かつて自分に「俺といこう。ライナ」と言った時のような、全ての不可能を可能としそうな強い光はなく。
 哀しみ、怯え、迷い、焦り。それらを内包した上で怒りへと転化しなおも前へと進もうとする。そんなごちゃごちゃの感情。
 そんなものを見せ付けられて。
 (ほ〜らほら。だからコイツってば嫌味なヤツなんだよな〜!!)
 ライナが覚えたのは無性な怒りだった。
 いっつもなんかえばりくさってて。
 人の事『マダムキラー』だの『色情狂』だの好き勝手言って。
 挙句にはた迷惑極まりない相棒押し付けてきて。
 だからこそ今日ここへ来たのだ! 極悪非道帝王、シオン・アスタールを暗殺しに!!
 なのに・・・・・・!
 (これじゃ殺す気失せんじゃん・・・!!)
 あのふてぶてしい笑みで部屋入って来た途端トラップにかかったりして思いっきり焦っちゃったりする様を思い切り笑ってやろうとしていたのに・・・!!
 人には仕事やれやれ言っときながら自分はこの柔らかいベッドで寝てたりするんだろうからどーだ先寝てやったぞ涎垂らしてやったぞとか自慢して悔しがらせてやろうと思ってたのに・・・・・・!!!!
 ため息をつくライナの横で、
 「・・・・・・ああ、そうかも・・・・・・確かに、疲れてるかもな。でも、もう大丈夫だ」
 シオンは小さな声でそんな風に呟いていた。
 「へ? なんで?」
 訊き返しながら、
 そういえば以前もこんな事があったような気がした。



 ―――『ライナのこと、なんで私、好きになったのかわかった。警戒する必要がないくらいやる気がなかったから・・・・・・安らげるから・・・・・・そう思ってたけど違った。ほんとは優しいから。ほんとは強いから』

 ―――『だから俺はお前が欲しいのかもしれないな。「複写眼」なんか関係なく・・・・・・俺を見てもまったく反応をしない奴なんて、お前がはじめてだ』

 ―――『いいか? おまえは化物じゃない。
     おまえは、私の相方で、奴隷で、茶飲み友達だ』




 それは懐かしい記憶。『化物』と呼ばれ、忌み嫌われていた自分が、人に必要とされた瞬間。こんな自分でも、誰かのそばにいていいのだと、そう思えた瞬間。
 諦めから、解放された、瞬間。
 キファは言った。自分は優しいと。自分は強いと。
 シオンは言った。こんな自分が欲しいのだと。
 そしてフェリスは自分を化物以外の存在として認めてくれた。
 だが思う。
 そう言うキファの方が優しく強く、
 そう言うシオンの方を俺は欲しいのだろうと。
 そしてフェリスは自分の相方で茶飲み友達で・・・・・・間違ってもご主人様ではないが。
 だから願う。
 キファが、シオンが、フェリスが。
 誰もが幸せになれる世界を。
 だから誓う。
 そのために自分に出来ることを精一杯していこうと。
 ・・・・・・精一杯とかつけると何か面倒くさいけど。
 だから・・・・・・







¢     ¢     ¢     ¢     ¢








 自分の添い寝効果だかなんだかで元気になった(冗談抜きで)らしいシオンへと。
 「じゃあこれも効果のひとつな」
 にやりと笑い、
 ちょんと軽くキスをしてやった。
 「〜〜〜〜〜〜////!!!???」
 ずざざざざざざざぁっ!!!!!!
 真っ赤になり、口を押さえて後ろへ下がるシオン。下がって。下がりまくって―――
 ごんっ!!
 ばたっ!!
 ばささささっ!!!
 仮眠室を抜け隣の執務室まで全力で後退し、そこで本棚に頭を打って倒れた。さらに狙っていたかのように本棚から崩れ落ちた本がシオンを埋めていく。
 「や〜いや〜いば〜かば〜か♪」
 おかしいほどの慌てっぷりを、当初の計画通り思いっきり笑ってやって・・・・・・
 「・・・・・・・・・・・・って、あれ?」
 首を傾げる。おかしい。これだけ笑ってやればすぐに反論が返ってくるだろうと思っていたのに。
 「お〜いシオン〜?」
 仮眠室から呼びかける。反応なし。
 「お〜いシオン〜?」
 近寄って呼びかける。やはり反応なし。
 「お〜いってば〜」
 耳元で呼びかけ揺すってみる。これまた反応なし。
 「これってもしや〜・・・・・・」
 ライナの顔に、一筋の汗が流れていった。
 思い出す。自分が何の目的で今日ここに来たのか。
 思い出して―――
 「俺ってばマジで暗殺者?」
 ヤバい。非常にヤバい。
 わたわたするライナの耳に、
 『シオンさん〜? 今すごい音しましたけどどうかしましたか?』
 「うげっ・・・!!」
 外からの呼びかけが突き刺さった。
 マズさ当社比
120%。こんな様を見られたら否定のしようがない。というか事実そのまんまなんだから何も言いようはない。
 (王殺しってどのくらいの罪? やっぱ死刑確定? あ、でもシオンはなったばっかだし・・・・・・ってダメだ!! コイツ英雄王だのなんだの言って人望厚いじゃん!! 死刑だ! ぜってー死刑だ!! しかもそれだけじゃねえ!! 国中引きずり回されてその間にボコボコにされてさらし首になって「コイツが英雄王を殺したヤツだ!!」とか言ってずっと祭られて・・・・・・ってあれ? なんかけっこー待遇いい? いや、死んでんだから関係ないし!!)
 パニくる頭に、先ほどのシオンの言葉が蘇る。



 ―――『俺はこの王という権力を限界まで駆使しておまえの嫌がることをするつもりだ!!』




 「そうかこれもやっぱ罠か! あーもーだからシオンは嫌なヤツなんだよ!!」







¢     ¢     ¢     ¢     ¢








 『待てええええええ!!!』
 『陛下の仇〜〜〜〜〜〜!!!!!!!』
 『だあああかあああらあああ!!! 俺は無実だ潔白だ!!! 勝手にシオンが倒れただけだ!!!』
 『そんなイイワケが通用すると思ってるのかああああああ!!!!!!』
 『シオンのばかやろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!! 勝手に死ぬんじゃねえええええええ!!!!!!』



 扉の外でそんな怒号を聞きながら、
 「いや死んでないから俺」
 短い気絶から立ち直り、後ろ頭をさすりつつ身を起こしながら、シオンは1人静かに突っ込んでいた。
 「ウチの兵も困ったなあ。生死の確認くらいしてから行ってくれよ。にしても―――」
 にやりと笑う。
 「―――俺の暗殺、ねえ。すっかりしてやられたよ」
 そう呟く顔は実に楽しそうで。
 う〜んと伸びをし、
 「さて。もうひと仕事するか」







¢     ¢     ¢     ¢     ¢








 かろうじて何とか運の良い事に脱出成功。あの様子では捕まった途端文句なく殺されていた。
 「はあ・・・。はあ・・・。はあ・・・・・・。
  あーくっそ!! 国出りゃ意味破りだの変態色情狂だので追われるわ、挙句国じゃ王殺しで追われるわ。つくづくシオンのヤツ俺の疫病神じゃねえのか・・・?」
 荒い息の合間にボヤくライナ。そこへ―――
 「ん。よくやったぞライナ。変態色情狂の上王殺し。かつてない犯罪歴の持ち主となったな」
 「俺は何もやってねえ!! つーかてめフェリス!! 全っ部俺に任せて今までどこいやがった!!?」
 「ふむ。『俺はやっていない』と。さすがあまたる犯罪を網羅してきただけある。一挙手一投足全てにおいて完璧に犯罪者としての振る舞いを見せている」
 「だあああかあああらあああ!!! 俺は無実だ潔白だ!!! 勝手にシオンが倒れただけだ!!!」
 「犯罪者は皆そう言う。暴行を加えたとしても『そいつが勝手に出てきた』。殺したとしても『そこにいたそいつが悪い』」
 「うわ・・・。お前さりげにリアルな事を・・・・・・」
 「日々お前が言っているではないか。夜な夜なか弱き婦女に限定せず襲い、挙句『俺の前に現れたお前らの責任だ』などと。白々しい」
 「言ってねえよ!! ってか婦女『に限定せず』って何なんだよ!? 俺今どこまで範囲広げられてんだよお前の中で!!」
 「む・・・! そうして私の口から語らせる事で言葉による辱めを与えようと・・・!?」
 「いやお前の無表情で語られてもちっとも恥ずかしくないと思うぞ俺は」
 キュイン―――!
 「だからって無言で剣抜くなあ!! わかった!! 話せ!!」
 「なっ・・・! 話せだと!? やはりお前は人をいたぶり悦ぶ真性の変態だったか!
  ならばここで私が成敗―――」
 「どうしろってんだああああああ!!!???」
 「覚悟しろ犯罪者。今なら己の罪を全て吐き出せば、それを綴り全国でお前が裁かれる事を待つ者たちの元へと本にして送ってやろう。『月間・犯罪者』の売上から推測するにたちまちベストセラーだ。その印税で私は一生だんごを食って生きていける」
 「だんごのために俺は犠牲になるのか!!??」
 「違う。だんごとそして全国公称
250万人の読者のためだ」
 「
200万人じゃなかったのか!?」
 「あれからさらに増えた。この上ローランドの英雄王を暗殺したとなれば
500万人も夢ではないぞ。よかったな、ライナ」
 「味方はいねえのかああああああ!!!!!!」



 今宵もまた、哀れライナの悲鳴が木霊する・・・・・・。







¢     ¢     ¢     ¢     ¢








 俺も何か、誰かのために出来ることはあるんだろうか? 多分、いやきっとあるんだろう。
 だから俺は、



 ――――――俺が何か出来る誰かと共に、生きていこうと決めたんだ。





―――Fin


















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 シリアスとギャグ、どっちつかずな感じになったりしました。一応コンセプトはライナ×シオンというか伝勇伝初まともな
CP話のはずだったのですが・・・。ううむ。ギャグになる敗因はだんごではなかったらしい・・・・・・。今回ラストにしか登場してないしなあ、だんご(結局させました。イマイチ最初上げた際のラストが気に食わなかったもので)。
 というわけで今更ながらに伝勇伝6巻『シオン暗殺計画』より。あの問題のベッドシーン(言い方に間違いはない)を読み、ぜひともキスまでやらせたい!! と意気込んで作ったというのになぜか出来上がってみたらこんな事になっていました。ううむ。おっそろしいのう、根っからギャグ人間。
 まあそれはともかく、前々よりというか伝勇伝読み始めの頃からやってみたかった3大
CP、クラウ×シオン、ルシル×フェリス、そしてライナ×シオンの内ようやっと1つクリア。なんでここにライナ×フェリスが入っていないのか。正解は、この2人わざわざCPなんぞと頑張るまでもなく登場させるだけで勝手に絡みまくってくれるからです。それこそ今回の如く。そしてそれこそ実は某別ジャンルの幼馴染み苛めっ子と苛められっ子と同じコンセプトで(これでどれの誰だかわかられた方スゴすぎます)。決して嫌いなワケではないですよ。その証拠(?)に、ライナに絡もうとするミルクは嫌いだ・・・・・・(暴言)。
 では以上。ああ、そういえば余談。初っ端ではラストクラウが部屋に入ってくる予定でした(クラ×シオまだ推奨中ですか・・・?)。そして微妙に赤いシオンにクラウがむくれるといった感じで。・・・・・・しかしそういえばクラウってば今エスタブールじゃん。
 では今度こそ以上。伝勇伝はこんな感じで超不定期的に増殖していくかなあ・・・?

2004.9.1314