最強は誰だ!?

―――4.ヒカリ



 唐突な事で何なのだが、人質はヒカリで決定した。まあ女且つ子ども。この上なく好条件であろう。

 「わた・・・し・・・・・・?」

 さすがに声を震わすヒカリの元へ、下卑た笑みを浮かべた犯人の魔手が伸ばされる―――というのは太一視点での悲観的未来予想。実際には犯人がヒカリに近付こうとした次・・・すらも待たない瞬間には、思い切り殴り倒していた。

 ヒカリを背後に庇う形で、男共(最早断定)を睨んで牽制しつつ。
 「俺の妹に手ェ出そうなんて、いー度胸してんじゃねえか、てめーら」
 据わった眼差しに呑まれ、男らが一歩引く。が、



 「ありがとう、お兄ちゃんv」
 「凄い太一さん! それはまさしく花嫁の父親の台詞!!」
 「・・・・・・は?」



 守っていた後ろからの抱きつき攻撃。前につんのめりかけたところでの更なる言葉に、太一は思い切り顔をしかめた。
 その耳元へ、吐息がかかる。
 「やだ〜タケル君ってばv 『花嫁の父親』なんて・・・vv」
 視線を右斜め下
45度に落とし、、ヒカリが頬を赤らめた。
 タケルも手をぱたぱた振って笑い、
 「ははは、ゴメンゴメン。『花婿』だったね。訂正するよ」
 「はあ!?」

 理解不能な方向へ飛んでいた会話にようやく頭が追いつき、ヒカリが後ろに張り付いていた事も忘れ勢いよく振り向く。
 「何だって!?」
 だが・・・



 「・・・良かったな太一、可愛い花嫁で」
 返ってきたのは、この上なく冷たい『恋人』の一言だった。



 「ヤ〜マト〜!!」
 「おめでとう太一さん、ヒカリちゃん!」
 にっこりと笑い、タケルが腕を組む2人へどこから用意したのか紙吹雪を飛ばす―――端々に書いてある印字からすると、銀行の備え付けの紙というか各種請求書のようだ。暇つぶしに(それ以外だとは思いたくない)千切っていたのだろう。
 「ちなみに式はいつにする? メジャーは6月だけど、8月1日なんてこの上ない記念日だからオススメだよ」
 「けど、結婚届って私が
16になるまで出せないと思った思ったんだけど・・・」
 「大丈夫! なにせ兄妹の強みで君と対置さんの籍は既に同じだから、今更届けなんて出す必要ないよ。それに婚姻届なんて法的既成事実作成のためのものでしかないんだから、それより周りに認めさせて公的規制事実を作ったほうがいいよ」
 「な〜る程! タケル君も頭いいわね。だけどどっちにしろ来年ね。ならいっその事、来年の8月1日はWウエディングにしない? 私とお兄ちゃん、タケル君とヤマトさんで。どうせ呼ぶメンバーはほとんど同じなんだし、8月1日なら必然的にみんな集まるでしょ?」
 「ちょっと待て! 何でそこまで話が進む!? っていうかヤマト! 少しはお前も反対しろよ!!」
 「・・・・・・。別に。俺には関係ねえし」

 外方を向くヤマトはこの上なくわかりやすく拗ねていた。その事に太一が密かに感動している間にも話が続く・・・。

 「太一さん、そんなに照れないでよ。
  実はいいんだけどねえ、ヒカリちゃん。残念ながら僕とお兄ちゃんは、お父さんとお母さんが離婚したおかげで戸籍上は全くもって赤の他人なんだ。再婚してもらうかお兄ちゃんが
20歳になって戸籍自由に弄れるようになるか、どっちかを待たなきゃいけないから・・・・・・」
 「なら養子になったら? 『石田タケル』とか『高石ヤマト』とか」
 「それもいいんだけど、僕としては親に遠慮した状態っていうのは嫌なんだ。舅姑問題なんて以ての外ね。だからやっぱり親のわだかまりがなくなってからが理想だな」
 「ふーん、タケル君って優しいのね」
 「まあ本当は『ロミオとジュリエット』みたいな馬鹿な展開にはなって欲しくないってトコだけどね。特にお兄ちゃんはお父さんやお母さん不幸にしてまで結ばれたくないって思う人だし」
 「ああ確かに。それなら元凶断ち切りそうね」

 アハハウフフとほのぼの笑い合う2人。だが勝手に式の日取りまで決められかけている2人には、たまったものではなかった。



 「ヤマトどーすんだよ! マジで俺らやべーぞ!? ヒカリは一度決めたら絶対変えない奴だし」
 「ほお、誠実な子に育ってくれて良かったな。さすが情与えて育てただけある」
 殊更に『愛』に込められた力が、ヤマトの苛つきを示している。

 「誠実ってそりゃ丈の・・・。
  じゃなくてお前んトコもやべーんじゃねーのか? タケルすっげー乗り気だぞ!?」
 太一の言葉にヤマトはシニカルな笑みを浮かべた。

 「俺達の所は親の再婚が優先だそうだ。
  ―――ああそうだ太一」

 「・・・何だよ、改まって」



 「式の時は俺も呼べよ? 『親友』としてスピーチくらいはやってやる」



 「ンなの―――!」
 (俺が喜ぶ訳ねーだろ!?)
 だがそれを太一が言葉にするよりも早く―――
 救出部隊がやってきた。







*     *     *     *     *








 入り口のシャッターが轟音と共に崩れ落ち、濛々と立ち込める煙の奥から制服とは少々違う形の服を着た警官がなだれ込んできた。
 『警察だ! 犯人ども! 大人しく手を上げて―――!!』
 「よし! 逃げるぞヤマト!!」
 「え・・・! おいちょっと太一・・・!!」
 『君達・・・!?』

 座ったままの腕を掴むと、太一は警察たちとは逆に走り始めた。最初はヤマトも止めようとしていたようだが、やはり先程までの事が不満だったのか、銀行から出る頃にはむしろ先導する形にもなっていた。
 繋いだ手が温かい。まるでデジタルワールドで何度も固く繋ぎ合っていた頃のようだ。

 「で!?」
 走りながらなので少し大きめな声でヤマトは太一に訊いた。周りの人が高貴の目で見て、表に残っていた警察も声を掛けてきたりするが、全てを振り切り今も2人は走っている。
 「で、・・・って?」
 「だから! 逃げるぞって具体的にどこ行くつもりだよ!?」
 「ンなの・・・決めてねーよ! とりあえずどっか行くぞ!」
 「どっか、って・・・・・・」

 あまりに太一らしい発言に、思わずヤマトは噴き出した。

 「何だよ・・・?」
 「いや・・・。それでこそ太一だなってな!」
 「何だよそれ・・・?」







*     *     *     *     *








 一方銀行内では、犯人グループ(1名退場済)対警察隊による、映画並の銃撃戦が繰り広げられていた。
 ―――が、まあそれはそれとして。



 「ひっどーい! 何この『卒業』みたいなラストは!?」
 「あ、ヒカリちゃん喩え巧いねv」

 肩から提げていたショルダーを床に叩きつけ激怒するヒカリに、宥めるつもり0のタケル。彼は彼で既にキレている。
 『君達、危ないからどっか物陰にでも隠れてなさい!!』
 スピーカーで指示を出されるが、もちろんそんなもの聞く義理はない。

 「けどあくまで『卒業』では花嫁がわれるものであり、花婿が誰かを攫っていうのは違うんじゃないかなあ・・・」
 賢はとりあえず、遠くの(2〜3m程)銃撃戦よりも目の前のヒカリの怒りを何とかすべきだろうと踏み止まっているが、いまいち言葉が浮かばない。

 「ヒカリちゃん! けど代わりに俺がいるから!!」
 ここぞとばかりに自分をアピールする大輔。彼も周りの出来事はどうでもいいらしい。

 『君達、だから―――』
 「へえ、本宮そういえば八神さんの事好きだったんだっけ」
 「い、いや賢! 別に、その俺は別にそんなやましい気持ちじゃ―――!!」
 『ホント、危険だから―――!』
 「あーあ、カワイそーに。一乗寺君捨てられちゃったね」
 「た、高石君!? 僕別にそんなつもりで―――!!」
 「え? 賢? お前まさか俺の事・・・」
 『頼むから聞いて〜〜〜』
 「あーもー!!」



 ここで突如ヒカリが会話に戻ってきた・・・・・・かと思ったが。



 「こーなったら―――行くわよ大輔君!!」
 「え? 俺?」
 「『憧れの太一先輩』がこのままじゃヤマトさんなんかに取られるわよ!?」
 「ラジャー!!」
 「―――ヒカリちゃん。今の発言については、後でじっっっくり、話し合おうね?」
 『あの、君達・・・?』
 タケルの声を後押しに(警官は声も姿も無視)、ヒカリと大輔は銀行を後にした。







*     *     *     *     *








 ヒカリに手を引かれるままつんのめるように出て行った大輔を見送り、賢は静かに呟いた。

 「本宮って・・・、将来八神さんと結婚したら絶対尻に敷かれるだろうね―――あくまで『もしも』だけど」

 そつなくそう付け加えた賢に、タケルは感心した声を上げた。
 「へ〜。よくわかってるね、一乗寺君」
 「ああ、まあ・・・」
 (そりゃ、あれだけやられればイヤでもね・・・)
 そう思いつつも口にしない辺り、本当に彼は『よくわかってる』と思われる。



 「で、どうする?」
 タケルが極上の笑みで聞いてくる。



 「どうするって・・・・・・。僕たちも行くのかい? やっぱり」
 「もちろんv 式には参列者がいなきゃ、花嫁もブーケの投げようがないよ」
 「ブーケ、って・・・」
 あ、途中で買って行こうね、造花のヤツ。本物だと枯れるのが別れっぽいし」
 「わかったよ・・・」
 「じゃ、行こっか」



 言葉と共に差し出される手を、前の2人同様賢もまた取り。
 ラスト2人も銀行から出て行った。







*     *     *     *     *








 「まったく近頃の子ども達は・・・!」
 それが、銃撃戦の末犯人一味を逮捕した警官の最初の言葉だったらしい。だがそれを聞く者は、既にここにはいない・・・・・・。



―――4.ヒカリfin