最強は誰だ!?

―――5.大輔



 どういうあらすじを経たのか、犯人達の5分ほどに渡るミニ会議の結果人質は決まったらしい。

 「―――という訳でそこのゴーグル付けたガキ、お前が人質代表だ」
 『えええええええ!!!???』

 犯人その1の指差した先で2つの悲鳴が上がる。休日でもゴーグルを付け忘れない大輔と、もう1人―――。

 「太一、お前はもうゴーグル付けてねーだろ・・・」
 「あ、そうか。大輔にやったんだった」
 頭に手を当て、すっかり忘れてたと笑う太一。この時点で人質代表は大輔に確定した。

 「ホラさっさと来い!」
 「嘘だろ!? 俺かよ〜〜〜・・・」
 情けない声で脱力する大輔の腕を犯人が掴み、無理やり引っ張り起こした。
 「何で俺なんだよ! どーいう基準で決まったんだよ!?」
 犯人の肩に担ぎ上げられながらも、小柄な体でじたばた藻掻く大輔。恐らく破れかぶれに言ったであろうその言葉に、しかし担ぎ上げた犯人は律儀に答えてくれた。
 「イキのいい人質の方がいろいろやり甲斐があるからだよ」
 「な・・・! やり甲斐って・・・?」
 何を創造したかさらに激しく暴れる大輔を見て、ヤマトは口元に手を当てた。

 (活きのいい・・・・・・)
 何となくまな板の上に置かれた大輔などを思い浮かべてしまう。
 (確かにアイツなら捌きにくそうだな。むしろシメるか・・・)

 「―――ヤマトさん! 何笑ってるんすか!!」
 大輔の叫びにハッとして顔を逸らす。
 (やべ・・・。ツボ入った・・・・・・)
 涙が溢れる肩が震える息が吸えない。

 「フザけてる暇はねーんだ! さっさと行くぞ!!」
 「そんな〜!!」
 (助かった・・・)
 タイミング良く連れ出された大輔に、ヤマトは安堵の息をついた。まさか後輩の危機にそんな事を考え1人大爆笑しかけたなどとは言えない。
 と・・・



 2人(正確には1人を担いだ1人)が外に出る前に、妨害者が現れた。



 「放してやれよ。嫌がってんじゃねえか」
 「ああ?」
 「太一先輩!」
 嬉しそうな大輔の歓声通り、いつの間に立っていたのか両腕を組んだ太一が犯人を睨んでいた。

 「何だよこのガキ。ならテメーが身代わりになるか?」
 「いいぜ?」
 口の端に笑みを乗せ、太一が即答する。挑発にあっさり乗り、犯人は大輔を担いだまま太一の方へと戻ろうとした―――が。
 ズパン!
 反転した瞬間、2歩でそこまで詰め寄った太一に強力な足払いをかけられ、ロクに体勢を立て直せず転倒した。

 「よっ―――と」
 弾みで放り出された大輔を、倒れた犯人の背中の上で軽くキャッチし、太一はニカッと笑った。
 「大丈夫か?」
 「は、はい! 大丈夫です・・・」
 答える大輔の顔はなぜか赤い。



  ((((お・・・お姫様だっこ〜〜〜っ!?))))



 その場にいた4人が同時に心の中で叫び、大輔を除く3人は音が鳴りそうな程血の気を引かせた。
 それに唯一気付いたタケルが、お手上げといったようなジェスチャーでため息をつく。

 「そっか。じゃ、あっちでみんなと待ってろよ?」
 「え? あの・・・太一先輩は?」
 「俺か? ま、このままってのはさすがにマジーだろ」
 心配そうな大輔を下ろすと、太一はその頭をポンポンと叩いた。
 「ンな心配すんなって。大丈夫に決まってんだろ?」

 自信満々に親指を立てる太一に1つ頷くと、大輔は言われた通りみんなの下へと帰っていった。それを見送ってから、太一は改めて犯人達と対峙する・・・・・・。







*     *     *     *     *








 (太一先輩、頑張って下さい!)
 握り拳を作り真剣に応援する大輔の背後で―――



 ――――――温度が急激に下がった。



 『へええええええ・・・・・・』
 背後から聞こえてくる3和音。異様な迫力を感じ、大輔は恐る恐る振り向いた。

 「ヤマトさん? ヒカリちゃん? 賢?」
 完全に据わった目で口元だけに笑みを浮かべる3人。合わせる様に、大輔もまた引き攣った笑みを浮かべる。

 「よかったわねえ大輔君。お兄ちゃんに助けてもらって」
 「そうだなあ大輔。さすが後輩想いの先輩だ」
 「ぜひ後で太一さんにはお礼を言わなくちゃ」

 さすが電波少女に軽く闇の洞窟拵える人、そして元デジモンカイザーにして暗黒の種の持ち主。あははうふふと笑いながらも、その背後には世界そのものを呑み込めそうなほど強大な魔を漂わせている。

 「あ・・・あの、俺、何かしまし・・・た、か・・・・・・?」
 「え? 別に大輔君1人が悪い訳じゃないわよ」
 「そうだぞ。大輔1人に責任がある訳じゃないぞ?」
 「そうだよ。何も本宮1人が責任感じる事はないよ」
 「―――つまり、大輔君にも問題あり、という訳だね?」
 唯一本物の笑顔で放たれたタケルの言葉に、一瞬―――いやそれ以上の静寂が訪れる。



 『ははははははははは』
 響きようのない5人の乾いた笑い。



 「いやだタケル君ったら。私別に大輔君だけを責めてる訳じゃないわ?」
 「そうそうタケル。あんま深読みはしなくていいぞ?」
 「一蓮托生とか連帯責任とかいうアレだよ、つまりは」
 「―――要約するとどっちもどっち、と」



 『あはははははははははははは』



 再び笑い声。但し今度は4人で。大輔には最早、笑い(らしきもの)を浮かべる気力もなかった。
 ―――そうこうしている間に、戦いはあっさりと太一の圧勝で終わった。







*     *     *     *     *








 (何だ?)
 みんなの方へ戻ろうとして、太一はそこに流れる異様な―――むしろ異常な空気を本能から感じ取り足を止めた。が、それを尋ねるより速く―――
 ガシッ!
 両側から腕をつかまれ、太一の足は空を切った。反動で後ろに倒れそうになるが、それすら許されない程腕の拘束は強かった。

 「ヒカリ? ヤマト?」

 いつの間にここに来たのか、自分の腕をがっしり抱え込んだままこの上なくにこやかな笑みを浮かべる2人に首を傾げる。

 「お兄ちゃん。あっちでさっきの事について話し合いましょうか」
 にこにこと、ヒカリ。

 「そうそう。建設的に、じっくりと・・・な」
 ヤマトも綺麗な笑みで賛成する。



 「ど、どういう事なんだこりゃあ!?」
 助けを求めようと、引っ張られながらも首だけ後ろを向ける太一に帰ってきたものは・・・
 タケルの薄情な声だった。

 「太一さん。わからない、なんて言っても誰も納得しないよ? 自分の胸に手を当てて考えなよ」



 味方ゼロ。



 「って俺には何の事だか―――うわあああ!!!」
 ズルズルズル。バタン。



 なぜかシャッターの開いていた扉の向こうに消える3人。笑顔で手を振り見送っていたタケルは、彼らの姿が完全に見えなくなってから体半分だけを大輔に向けた。

 「―――という訳で大輔君。これからは闇夜と言わず背後と言わず真昼間から前後左右上下全方位に気をつけた方がいいよ」

 適切な一言を残し、タケルも3人の後を追った。



 残された形で大輔が呟く。
 「・・・・・・何なんだ、一体?」
 「それはね、つまり―――」
 ガシ!
 同じく残っていた賢に肩ごと腕をがっしり掴まれ、大輔は硬直した。今まで賢からこのような積極的なアプローチはなかった。それだけに、事の重大さが倍加する。

 「け、賢・・・?」
 「僕らも、じっくり話し合う必要があるっていう事だよ。本宮・・・」

 先程以上に凄絶な笑みを浮かべる賢に逆らえるまでもなく、大輔もまた促されるままに外に出て行った。







*     *     *     *     *








 その後中に入った警察らの見たものは、床に突っ伏し気絶する犯人・人質一同だった。犯人の方はともかく人質の気絶した理由は不明。恐らく恐怖によるショックが大きかったためという結論で片付けられた。その『恐怖』が何なのか―――



 ―――明確に答えられる者は1人もいなかった・・・・・・。



―――5.大輔fin