Always give me to you !!






 今日も毎週恒例のお泊り会の真っ最中。
 といってもいつもいつも2人で何かやっている訳ではなく、太一はリビングでサッカー雑誌を読みふけり、ヤマトは台所で昼食の支度をしていた。
 特に何か無理矢理話したりするのではないが、お互い好きな事をやる最中に一言二言言い、少し笑ったりする。ただそれだけで、お互いが今ここにいるのだと実感できる瞬間。
 と・・・・・・
 ラジカセから流れていた曲が変わった。
 さすがバンドマンヤマトの家と言うべきか、石田宅には音響関係が良く揃っていた.普段ほとんどわがままを言わないヤマトが調理器具(笑)以外で唯一父親にねだる―――それですらはっきりとは言わず、雑誌を見て「こんなのあったらいいな・・・」と呟く程度―――ため、感動した父・裕明があっさり買ってくれるためだったが。
 音のよさでは定評のあるメーカーのラジカセが少々気だるげな前奏を吐き出す。現在流れているのはヤマトの好きな男性2人組バンドのファーストアルバムだ。いつもの事だが、歌詞担当として参考にするためラジカセの上には歌詞カードが置かれている。
 好きなのだから聴くのであって、そこにそれ以上の意味は無い―――
 筈だった。





<しこたま飲んで騒いでみても 君はガードが堅い      勢い任せにぶっちゃければ 今すぐホテルに連れ込みたい

勿体ぶらずにさらけ出して 君のひ弱な心     そこらに落ちてるゴミのような 僕の心見せ合いましょう>

 






 ガタン!
 読んでいたサッカー雑誌を落とし、激しい物音と共に立ち上がった太一が勢いそのままに叫んだ。
 「誘ってんのかヤマト!?」
 「何の話だ!!」
 あまりの言い草に真っ赤になって怒鳴り返しながら、ヤマトはこの
CDを選んだことを心底後悔した。かける時はいつも飽きが来ないようにランダムを選んでいるのだから、このCDに入っている以上いつ流れても不思議はなかった。
 2人とも硬直している間も曲は続く。





<フラフラ街を歩き回れば 誰もが幸せに見えて     僕だけ弾かれてるみたい 優しく君が抱き締めてよ

こうなりゃトコトン追い詰めて 僕しか見えなくしてやる     気付けば随分来たもんだ そろそろ本気だしちゃうよ?>

 






 「ホラ、やっぱ誘ってんじゃん」
 「違うに決まってんだろ!?」
 「ま〜ったまたぁv」
 「だから! 違うっつってんだろ!!」
 数メートルの距離を置いて言い争う(?)2人をよそに、曲はサビへと入っていった。





<あぁもうじれったい ひとつになっちゃえ 僕の物になればいいのに

何が不満だ? この世界で たった2人きりになれば     否応無しでも僕が欲しくなる>

 






 「ンなつもりは全っ然! ねーからな!!」
 ピシャリと言い放ってヤマトは作業に戻った。そんなに気になるのなら止めるか次の曲へ飛ばすかすればいのだろうが、それをするといかにも意識してたっぽく感じるためそのまま流していたりする。
 太一から告白されたのは3年前。あのデジタルワールドでの冒険を終えてすぐだった。男が男に愛の告白というのも妙だと思ったが、不思議な体験だったら既にやり尽くしている。それに自分の中での気持ちの深さを順に知人・友人・恋人とランク付けするのなら、太一は既に『恋人』のランクにいるような気がする。まあそれを言うなら同ランクに弟のタケルもいるのだが―――最もタケルにはどう思われているのか知らないが。
 とまあそんなこんなで恋人になった。とはいっても今までの―――デジタルワールドでの関係とさして変わる事はなく、周りから見れば単に『仲のいい親友』だった。
 その事に不満がある訳ではなかった。恋人と友人にさほど大きな差があるとは思わなかったし、『友情の紋章』の持ち主である自分にはぴったりのものだろう。時折思春期にありがちな性欲―――肉欲に従いキス程度までならしてきたが、その程度だ。とりわけ先に進みたいとも思わない―――あくまでヤマトは。
 流石に常に先頭をズンズン歩いてきただけあって、太一は先へ先へ進もうとしている。何もそんなに焦る必要は無いと思うのだが、やはりそう思う自分と太一はどこまでも平行線だった・・・という事で落ち着いている。太一も最後の一線で理性が働くのか、無理矢理押し倒したりといった強硬手段には訴えないためそれに甘え、結局今現在は緩やかな均衡状態となっていた。
 ―――だがさすがにその『緩やかな均衡状態』が3年も続けば先へ進みたがる太一の気持ちも納得できるものだろう。むしろその状態で3年間根気良く耐えてきた彼に敬意を表してあげるべきかもしれない。
 そんな太一の言葉を代弁するかのように、曲は2番へと入って行った。





<そういやこの前ちょっとだけ 人に愚痴をこぼしました     「どんなに言葉で努力しても もてない奴はやっぱもてない」

ネチネチしてると嫌われる アドバイスをもらいました     地べたを這うような暮らしから いい加減もう抜け出したい



あぁもうじれったい 裸になっちゃえ 何もかもさらけ出せば

楽になれんだろ? ゼロになれんだろ? 愛をぼったくれホラホラ     いくら出してでも僕が買ってやる>

 






 「ヤ〜マトv」
 「・・・・・・。なんだ?」
 妙に明るい物言いに、不信げも露にヤマトは振り向いた。いつの間にか雑誌を机の上に置き立ち上がっていた太一がラジカセのそばにいた。その手には置いてあった歌詞カード。
 (・・・・・・・・・・・・?)
 眉を寄せ首をかしげていたヤマトだったが、ちょうど間奏に入ったこの曲の先の流れと、片手で開いた歌詞カードを口元に当てにやりと笑う太一にハッとし、急いで曲を消そうとした。
 ―――が、既に時遅し。ヤマトの手がリモコンに届いた時には間奏は終わっていた。
 この先はラストのサビに向けた語り―――というか呼びかけである。内容は・・・・・・





 「<頼むから一度 手合わせ願いたい

  がむしゃらでもいい? 本当ムチャクチャうま合うから

  やりたいように やらせて一度プリーーーズ!!>






 ごんっ!!




 「誰がヤらせるか馬鹿野郎!!」
 投げ放ったまな板(使用済)に打たれ見事沈没した太一の後ろで、なおも曲は残った1フレーズ <メチャクチャでもいい もうどうなったっていい・・・・・・> と歌い続けていた。
 「・・・・・・ったく」
 真っ赤な顔を鎮めるように長く息を吐き、ヤマトは切り終えた材料を一気にフライパンへと入れた。豪快にフライパンを操る彼の耳にはまだ残っていた局のサビ部分が流れ込んでくる。





あぁもうじれったい ひとつになっちゃえ 僕の物になればいいのに

何が不満だ? この世界で たった2人になれば僕が欲しくなる

あぁもうじれったい 裸になっちゃえ 何もかもさらけ出せば

楽になれんだろ? ゼロになれんだろ? 愛をぼったくれホラホラ     いくら出してでも僕が買ってやる>

 






 (<いくら出してでも僕が買ってやる>ねえ・・・・・・)
 コイツならマジでやりそうだと。
 気絶したままの太一をちらりと見て、赤くなった顔で思わず笑ってしまったヤマト、
14歳の冬だった。

砂吐きラスト・・・・・・
















                    

 太ヤマに本格的にハマってからSURFACEの『ひとつになっちゃえ』を聴いて思い浮かんだこと。ちなみにこれで本当にふっかけたらレツゴの烈兄貴になれます.SURFACE、いいなあ・・・・・・。レツゴの豪烈でもいいと思ったけれどデジでも十二分に良し。ただし私は最近の曲は知りませんので本文に出てきた通り1stアルバム『Phase』近辺のみを指してですが。これについては『とことん語り隊』ででも改めて語りましょうか にさっさと話にして書けよ自分・・・・・・。
―――ってか語る前

2002115write2002315